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「おいこら陽介」
その言葉に振り向く前に背中に走る衝撃。反射で地面に手をつく。足は衝撃が強すぎて踏ん張れなかった。それほどまでにオレに遠慮なくぶつかってくる(というか足蹴)のは一人しかいない。
「てめぇ俺の作ったプリンカスタードパン食っただろ死ね」
一言でそう言い切った目のつり上がった黒髪の男。銃型トリガーを起動させて迷わずオレに向ける。
「オレ、生身」
「綺麗に脳みそ撃ち抜いてやるから安心しろ」
「それ安心できないお兄ちゃん」
「お兄ちゃん言うな」
そう言って顔スレスレに撃ってきた。今本気でイラついていた声色だった。実の弟がお兄ちゃんって呼んだらキレるってどんな兄だよ。
「あれはなぁてめぇの命より大事な傑作品だったんだよ、えぇ? どうしてくれるんだァ?」
「もう兄ちゃんボーダー止めてパン屋継げよ」
「くそネイバーが消えたらな」
兄ちゃんは舌打ちし、オレの頭をグーで殴ってその場を去った。本気で殴ったな……。
痛む頭を涙目で押さえながら兄ちゃんの後ろ姿を見る。既に遠くにいるのに見える背中はやっぱデケェなぁ……とぼんやり思った。
四年前のネイバー侵攻のとき、家族全員が絶望し騒然とする中、兄ちゃんだけは違った。すっげえキレてた。「ぶっ殺すぞコラァ!!」と言いながらトリオン兵をちぎっては投げちぎっては投げ……元ヤンには逆らうなということを身にしみて感じた。新作のチョコレートデニッシュが無惨な姿になっていたのが兄ちゃんの逆鱗に触れたらしい。ちなみに兄ちゃんの大暴れのおかげでオレの地域は守られた。町内の奴らは感謝してたが原因がパンと知っているオレたち家族は微妙な心境だった。
そして一般人がなんて無茶を、とその後ムチャクチャ怒られたらしい。しかし兄ちゃんは「ああ!? こいつらの存在知っててよくもまぁこんだけ被害だしたなぶっ殺すぞッ!!」と逆に啖呵を切った。兄ちゃん強すぎる。そんな強烈かつ鬼のように強い人間の記憶処理など出来るはずもなくとんとん拍子で兄ちゃんのボーダー入隊が決まった。噂によると一週間ほどでA級に上がったらしい。兄ちゃんなにしたんだ。
今ではどの分野もやりこなすパーフェクトオールランダーになりボーダーの主力戦力として活躍している。
ネイバー侵攻が落ち着き、親父や母ちゃんがボーダーを辞めろと迫ったときがある。あんな危なっかしいことをするなと目の前で兄ちゃんの大暴れを見た上での言葉だった。そのときはオレも激しく同意した。パン作りをこの世で一番愛している兄ちゃんだったからすぐさまボーダーを抜けると思っていたのにいつまで経ってもその気配はない。家族会議にまで発展し、そのとき兄ちゃんがいった言葉はこうだった。
「あのくそ宇宙人どもを全部殺すまでパン屋は継がん。あの恨みは一生忘れない」
チョコレートデニッシュの恨みは深かった。どこまでも兄ちゃんは兄ちゃんだった。
兄ちゃんの言葉に呆れ果てた親父たちはいろいろ諦めた。オレがボーダーに入ると言ったときも「あぁ……好きにしなさい。でも兄ちゃんのようにはなるなよ」と言われただけで反対はされなかった。どうやったらパン一つであそこまで怒れる人間になれると思ってるんだ親父は。
といった感じで兄ちゃんはとんでもない人間だ。一にパン。二にプリン。三くらいに家族がくる。
…………と四年前までは思っていた。
「俺の弟になにしてくれとるんじゃァア!!!」
トリオン兵に襲われたオレにフライパン片手に助けに来た兄ちゃん。なにやってんだと思ったときにはトリオン兵が吹っ飛んでいた。兄ちゃんは持ってたフライパンをオレに渡し「父ちゃんたちと一緒にいろ。あのキモイやつ来たらこれで殴れ」と言ってその辺に落ちていたバットを拾い、トリオン兵へと向かって行った。フライパンは原型が留まっていなかった。そのときは動転していて気が付かなかったがフライパンの持ち手には少し血がついていて、兄ちゃんも必死だったということを後から知った。
「陽介、怪我ねえか?」
傷だらけで帰ってきた兄ちゃんは眉を潜めてそうオレに尋ねた。兄ちゃんが無事だったこととか今までの衝撃とかが一気にきた俺は少し泣いた。あの兄ちゃんがオロオロし出すくらいに少し泣いた。チョコレートデニッシュが潰れた姿を見て怒りだした兄ちゃんを見たらすぐに止まった。修羅のようになった兄ちゃんを見ていたらなんとなく大丈夫だと思った。
「………兄ちゃん」
「あ? なんだ」
家に帰ると居間でゴロゴロしていた兄ちゃん。持ってた袋を兄ちゃんの腹の上に置く。なんだこれ、といった顔をしつつ袋から物を出すと兄ちゃんは期間限定とかかれたプリンに目を輝かせながらオレを見た。
「おまえこれ限定物のプリンじゃねえか!!」
「兄ちゃんのパン食ったから。その代わり」
「まじか! ありがとう! 殴ってごめんな!」
現金な兄ちゃんは鼻歌交じりでスプーンを取りに台所へ行った。笑いながらスプーン入ってんだろと言おうとしたら兄ちゃんは二つスプーンを持って戻って来た。……あぁこの兄貴は。
思わず頭を抱えたオレに「早くしねーと全部食うぞ」と兄ちゃんは言った。
その言葉に振り向く前に背中に走る衝撃。反射で地面に手をつく。足は衝撃が強すぎて踏ん張れなかった。それほどまでにオレに遠慮なくぶつかってくる(というか足蹴)のは一人しかいない。
「てめぇ俺の作ったプリンカスタードパン食っただろ死ね」
一言でそう言い切った目のつり上がった黒髪の男。銃型トリガーを起動させて迷わずオレに向ける。
「オレ、生身」
「綺麗に脳みそ撃ち抜いてやるから安心しろ」
「それ安心できないお兄ちゃん」
「お兄ちゃん言うな」
そう言って顔スレスレに撃ってきた。今本気でイラついていた声色だった。実の弟がお兄ちゃんって呼んだらキレるってどんな兄だよ。
「あれはなぁてめぇの命より大事な傑作品だったんだよ、えぇ? どうしてくれるんだァ?」
「もう兄ちゃんボーダー止めてパン屋継げよ」
「くそネイバーが消えたらな」
兄ちゃんは舌打ちし、オレの頭をグーで殴ってその場を去った。本気で殴ったな……。
痛む頭を涙目で押さえながら兄ちゃんの後ろ姿を見る。既に遠くにいるのに見える背中はやっぱデケェなぁ……とぼんやり思った。
四年前のネイバー侵攻のとき、家族全員が絶望し騒然とする中、兄ちゃんだけは違った。すっげえキレてた。「ぶっ殺すぞコラァ!!」と言いながらトリオン兵をちぎっては投げちぎっては投げ……元ヤンには逆らうなということを身にしみて感じた。新作のチョコレートデニッシュが無惨な姿になっていたのが兄ちゃんの逆鱗に触れたらしい。ちなみに兄ちゃんの大暴れのおかげでオレの地域は守られた。町内の奴らは感謝してたが原因がパンと知っているオレたち家族は微妙な心境だった。
そして一般人がなんて無茶を、とその後ムチャクチャ怒られたらしい。しかし兄ちゃんは「ああ!? こいつらの存在知っててよくもまぁこんだけ被害だしたなぶっ殺すぞッ!!」と逆に啖呵を切った。兄ちゃん強すぎる。そんな強烈かつ鬼のように強い人間の記憶処理など出来るはずもなくとんとん拍子で兄ちゃんのボーダー入隊が決まった。噂によると一週間ほどでA級に上がったらしい。兄ちゃんなにしたんだ。
今ではどの分野もやりこなすパーフェクトオールランダーになりボーダーの主力戦力として活躍している。
ネイバー侵攻が落ち着き、親父や母ちゃんがボーダーを辞めろと迫ったときがある。あんな危なっかしいことをするなと目の前で兄ちゃんの大暴れを見た上での言葉だった。そのときはオレも激しく同意した。パン作りをこの世で一番愛している兄ちゃんだったからすぐさまボーダーを抜けると思っていたのにいつまで経ってもその気配はない。家族会議にまで発展し、そのとき兄ちゃんがいった言葉はこうだった。
「あのくそ宇宙人どもを全部殺すまでパン屋は継がん。あの恨みは一生忘れない」
チョコレートデニッシュの恨みは深かった。どこまでも兄ちゃんは兄ちゃんだった。
兄ちゃんの言葉に呆れ果てた親父たちはいろいろ諦めた。オレがボーダーに入ると言ったときも「あぁ……好きにしなさい。でも兄ちゃんのようにはなるなよ」と言われただけで反対はされなかった。どうやったらパン一つであそこまで怒れる人間になれると思ってるんだ親父は。
といった感じで兄ちゃんはとんでもない人間だ。一にパン。二にプリン。三くらいに家族がくる。
…………と四年前までは思っていた。
「俺の弟になにしてくれとるんじゃァア!!!」
トリオン兵に襲われたオレにフライパン片手に助けに来た兄ちゃん。なにやってんだと思ったときにはトリオン兵が吹っ飛んでいた。兄ちゃんは持ってたフライパンをオレに渡し「父ちゃんたちと一緒にいろ。あのキモイやつ来たらこれで殴れ」と言ってその辺に落ちていたバットを拾い、トリオン兵へと向かって行った。フライパンは原型が留まっていなかった。そのときは動転していて気が付かなかったがフライパンの持ち手には少し血がついていて、兄ちゃんも必死だったということを後から知った。
「陽介、怪我ねえか?」
傷だらけで帰ってきた兄ちゃんは眉を潜めてそうオレに尋ねた。兄ちゃんが無事だったこととか今までの衝撃とかが一気にきた俺は少し泣いた。あの兄ちゃんがオロオロし出すくらいに少し泣いた。チョコレートデニッシュが潰れた姿を見て怒りだした兄ちゃんを見たらすぐに止まった。修羅のようになった兄ちゃんを見ていたらなんとなく大丈夫だと思った。
「………兄ちゃん」
「あ? なんだ」
家に帰ると居間でゴロゴロしていた兄ちゃん。持ってた袋を兄ちゃんの腹の上に置く。なんだこれ、といった顔をしつつ袋から物を出すと兄ちゃんは期間限定とかかれたプリンに目を輝かせながらオレを見た。
「おまえこれ限定物のプリンじゃねえか!!」
「兄ちゃんのパン食ったから。その代わり」
「まじか! ありがとう! 殴ってごめんな!」
現金な兄ちゃんは鼻歌交じりでスプーンを取りに台所へ行った。笑いながらスプーン入ってんだろと言おうとしたら兄ちゃんは二つスプーンを持って戻って来た。……あぁこの兄貴は。
思わず頭を抱えたオレに「早くしねーと全部食うぞ」と兄ちゃんは言った。