いろいろ
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休日の部活を終えて家に帰ると見慣れないようで見慣れた蛍光色の穴の空いたサンダルがあった。明るいピンク色で端っこに苺の装飾がついているそれは狼谷のものでも母親のものでもない。もちろん大きさ的に鷹のものでもない。つまりこの家のものじゃないのだが、狼谷は結構な頻度でこの蛍光色を目にする。
(あいつ来てんのか)
特に驚きもなくそう呟いて靴を脱ぐ。端っこに置かれた蛍光色の隣に並べて風呂場に向かった。部活帰りは先に足を洗わないと母親が口うるさいからだ。「ばっちぃよ隼人」と今は露骨な顔をするのもいる。二倍うるさいのを相手するのは面倒だった。そしてやけにリビング側が静かなことに気づいた。誰の声もしない。母親と鷹は今日は家にいるはずだ。買い物にでも行っているのか。適当に予想を立てて足を拭いてからリビングに行く。
静かな理由はすぐに分かった。カーペットの上で並んで横になる名前と鷹がいたからだ。二人とも穏やかな寝息を立てている。そして二人の上には見慣れた、というよりも毎日使っている狼谷の掛け布団があった。勝手に持ち出したのは母親か鷹か名前。名前だろ。数秒もかからない推理をして犯人(仮)の元まで歩く。どうしようか少しだけ悩んで呑気な鼻を摘まんだ。
「ふがっ…………はやほおかへり」
「ババアは」
「ひずかひゃんはおひごと」
「何言ってるか分からねえよ」
そう言って鼻から手を外す。
「隼人おかえり」
聞きたかったのはそれではない。そもそもそれはちゃんと通じていた。だがここで無視したら「帰ったらただいま!リピートアフタミー!た だ い ま !」とやかましくなるのは分かっていたので「ただいま」と小さく返す。ぶっきらぼうに聞こえただろうに名前はふにゃりと嬉しそうに顔を崩した。
「静ちゃんはね、残してた仕事の存在を思い出してしまったみたいで地獄の休日出勤に行ったよ」
「おまえいつからいたんだ」
「んー10時くらいからな。お昼ご飯とおやつの時間以外はぶっ続けで鷹と遊んでた。ぶっ続けすぎて疲れて寝てた」
隣の部屋に住んでいる名前や名前の家族に鷹の面倒を頼むのは少なくなかった。今回もそうだろうと母親の姿がないことで大体予想はついてはいたが、想像より長い。現在は夕方の5時。よくもまあそこまで鷹との遊びに熱中出来るものだ。
「奥の押し入れに布団あるの知ってるだろ」
「いやぁ私もそう思ったんだけどね。狼谷家の秘密があったら気まずいなーって思って隼人の盗んだ。ありがとうね」
「んなとこに秘密なんかあるか。堂々と盗み宣言してんじゃねえよ」
事後報告な上に未だに布団から出る気配がない。いつも使っているものに名前が寝ているだけなのに頭の奥がじり、と音がするのが分かって間を空けてから腕を掴んで布団から引っこ抜いた。
「寒っ!……大きなカブってこんな気持ちだったのかな」
「飯は」
「無視された…作れってか」
「ちげー。食っていくのか聞いてんだ」
「どうしようかなぁ。そもそも静ちゃんいつ頃帰ってくるの?」
「俺がしるか。家出るときに言ってなかったのか」
「言ってたけど忘れたよね」
「おい」
話を流す為に適当に訊ねただけだったのだが、名前の適当さ加減に先ほどの小さな焦燥は消え、呆れが生まれた。
「鷹の記憶力に期待しよう」
幼児に丸投げした名前は座ったままで「んー背中いたい」と腕を上に伸ばした。体のラインが分かるシャツを着ているせいで胸が強調される体勢になっている。狼谷は眉を寄せた。
「その服似合ってねえな」
「えーお気に入りなのに」
「ジャージでも着てろ」
「じゃあ貸して」
「家帰れ」
「やなこった」
そう言って上半身を前に倒して布団に顔を突っ込む名前に狼谷の眉はさらに厳しい形になる。
「おまえの匂いがつくだろ」
「今日は安眠確実だね」
その逆だ馬鹿
その言葉は口に出さずに飲み込んだ。
一、二年。たったそれだけの年数で狼谷と名前の間に性差が一気に広がった。狼谷は身長が伸びて骨格がしっかりとした体つきになり、名前は逆に丸びの帯びた柔らかい、所謂女らしい体つきになった。
それ以上の年数を共に過ごしてきたくせに見た目の変化だけで意識してしまうのが馬鹿らしくて仕方ない。中身は名前だというのに。
「おまえ、……」
「なに?」
「なんでもねえ」
「男が一度吐こうとした言葉を飲み込むんじゃないよ」
「うるせえよ」
言えるわけがない。おまえもう家に来るななんて自分勝手な言い分を。理由なんてもっと情けない。言えるわけがない。
とりあえず未だに布団に顔を突っ込んでいる名前の首根っこを掴んで起き上がらせる。手は直ぐに離した。
「お母さん猫が子猫を退かす為にこんな事やってる動画を前にみたなぁ。可愛かった」
猫だったら触るのに一々躊躇しねえよ。再び心の中で呟いてそっとそのまま飲み込んだ。
190620
(あいつ来てんのか)
特に驚きもなくそう呟いて靴を脱ぐ。端っこに置かれた蛍光色の隣に並べて風呂場に向かった。部活帰りは先に足を洗わないと母親が口うるさいからだ。「ばっちぃよ隼人」と今は露骨な顔をするのもいる。二倍うるさいのを相手するのは面倒だった。そしてやけにリビング側が静かなことに気づいた。誰の声もしない。母親と鷹は今日は家にいるはずだ。買い物にでも行っているのか。適当に予想を立てて足を拭いてからリビングに行く。
静かな理由はすぐに分かった。カーペットの上で並んで横になる名前と鷹がいたからだ。二人とも穏やかな寝息を立てている。そして二人の上には見慣れた、というよりも毎日使っている狼谷の掛け布団があった。勝手に持ち出したのは母親か鷹か名前。名前だろ。数秒もかからない推理をして犯人(仮)の元まで歩く。どうしようか少しだけ悩んで呑気な鼻を摘まんだ。
「ふがっ…………はやほおかへり」
「ババアは」
「ひずかひゃんはおひごと」
「何言ってるか分からねえよ」
そう言って鼻から手を外す。
「隼人おかえり」
聞きたかったのはそれではない。そもそもそれはちゃんと通じていた。だがここで無視したら「帰ったらただいま!リピートアフタミー!た だ い ま !」とやかましくなるのは分かっていたので「ただいま」と小さく返す。ぶっきらぼうに聞こえただろうに名前はふにゃりと嬉しそうに顔を崩した。
「静ちゃんはね、残してた仕事の存在を思い出してしまったみたいで地獄の休日出勤に行ったよ」
「おまえいつからいたんだ」
「んー10時くらいからな。お昼ご飯とおやつの時間以外はぶっ続けで鷹と遊んでた。ぶっ続けすぎて疲れて寝てた」
隣の部屋に住んでいる名前や名前の家族に鷹の面倒を頼むのは少なくなかった。今回もそうだろうと母親の姿がないことで大体予想はついてはいたが、想像より長い。現在は夕方の5時。よくもまあそこまで鷹との遊びに熱中出来るものだ。
「奥の押し入れに布団あるの知ってるだろ」
「いやぁ私もそう思ったんだけどね。狼谷家の秘密があったら気まずいなーって思って隼人の盗んだ。ありがとうね」
「んなとこに秘密なんかあるか。堂々と盗み宣言してんじゃねえよ」
事後報告な上に未だに布団から出る気配がない。いつも使っているものに名前が寝ているだけなのに頭の奥がじり、と音がするのが分かって間を空けてから腕を掴んで布団から引っこ抜いた。
「寒っ!……大きなカブってこんな気持ちだったのかな」
「飯は」
「無視された…作れってか」
「ちげー。食っていくのか聞いてんだ」
「どうしようかなぁ。そもそも静ちゃんいつ頃帰ってくるの?」
「俺がしるか。家出るときに言ってなかったのか」
「言ってたけど忘れたよね」
「おい」
話を流す為に適当に訊ねただけだったのだが、名前の適当さ加減に先ほどの小さな焦燥は消え、呆れが生まれた。
「鷹の記憶力に期待しよう」
幼児に丸投げした名前は座ったままで「んー背中いたい」と腕を上に伸ばした。体のラインが分かるシャツを着ているせいで胸が強調される体勢になっている。狼谷は眉を寄せた。
「その服似合ってねえな」
「えーお気に入りなのに」
「ジャージでも着てろ」
「じゃあ貸して」
「家帰れ」
「やなこった」
そう言って上半身を前に倒して布団に顔を突っ込む名前に狼谷の眉はさらに厳しい形になる。
「おまえの匂いがつくだろ」
「今日は安眠確実だね」
その逆だ馬鹿
その言葉は口に出さずに飲み込んだ。
一、二年。たったそれだけの年数で狼谷と名前の間に性差が一気に広がった。狼谷は身長が伸びて骨格がしっかりとした体つきになり、名前は逆に丸びの帯びた柔らかい、所謂女らしい体つきになった。
それ以上の年数を共に過ごしてきたくせに見た目の変化だけで意識してしまうのが馬鹿らしくて仕方ない。中身は名前だというのに。
「おまえ、……」
「なに?」
「なんでもねえ」
「男が一度吐こうとした言葉を飲み込むんじゃないよ」
「うるせえよ」
言えるわけがない。おまえもう家に来るななんて自分勝手な言い分を。理由なんてもっと情けない。言えるわけがない。
とりあえず未だに布団に顔を突っ込んでいる名前の首根っこを掴んで起き上がらせる。手は直ぐに離した。
「お母さん猫が子猫を退かす為にこんな事やってる動画を前にみたなぁ。可愛かった」
猫だったら触るのに一々躊躇しねえよ。再び心の中で呟いてそっとそのまま飲み込んだ。
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