いろいろ
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審神者の傍らにはたいていへし切り長谷部がいる。主お世話係と自称するだけあって出陣、遠征、内番がないときはほぼ審神者の側にいる。好きなことをやっていいんだよ?という審神者の言葉にも「これが俺の好きなことですよ」と輝く笑顔を見せるのだから審神者も何も言うまいと口を出すことを止めた。審神者がだらけているときでさえ「もう主ったら!」と語尾を上げて何だか嬉しそうな声を出すのだ。楽しそうだからいいかな……と適度に休ませつつも好きにさせていたある日のこと。
「君はいつもあの刀を傍らに置いているよね」
晩方の酒の席。顔の赤らみを冷ますために縁側へ腰を下ろした審神者の元に髭切がやってきた。髭切の言葉にうん?と首を捻らす審神者を置いて「よっこいしょ」と審神者の隣に座る髭切。1000歳を越すのだからおかしくないはずなのだが、整い過ぎた見た目のせいで審神者の中の違和感が喧嘩を始めた。
「あの刀?」
「えーっと、腰折り長谷部だよ」
「へし切り長谷部です」
「ああ、それそれ」
なんてことない口調だが長谷部本人に聞かれたらあわや大惨事なので気をつけてほしい。弟刀のように間違われても健気に訂正を続けるモノばかりではないのだから。腰折りとはなんだ。茶坊主は長谷部で圧し切られたのではなく腰を折られたのか。ピンポイントで。
怒り狂った長谷部の姿の想像しながら髭切の言葉の意味を考える。あの刀、つまり長谷部をいつも側に置いているよね、と髭切は言っているのだ。……今さら?
審神者にはそんな感想しか出てこない。髭切が顕現をする大分前から長谷部は審神者の所に大体いる。だってお世話係りだもん。酔ってるせいか短絡的にしか思考が回らない。
「お世話係りだからね」
「それってずるいなあ」
思ったことを口にしたら即座にそう返ってきた。
「隊の頭領や内番とは別に君から任命されるなんてずるいよ」
いつものほわほわした雰囲気を潜め、拗ねているような、ただを捏ねているような……つまり小さな子どものような髭切に審神者は目を瞬かせる。お酒のせいで寂しくなったのかな、と思わず髭切の頭を撫でるとスリスリ寄ってきた。今度は猫のようだ。その仕草にきゅんとした審神者は特に深く考えることもせず、あることを口にした。余談だが審神者は子どもも猫も大好きだった。
「じゃあ髭切、私のお世話係りする?」
何も考えていなかった。それを聞いた髭切の反応も、長谷部の心境も。“主お世話係り”なんて少し間抜けな名前で実際なにするの?って言われそうなよく分からない役職が刀達の羨望の的なんだということも、審神者は知らなかった。
「それは聞き捨てならんなぁ大将」
****
「粟田口派全十六口、主お世話係りに立候補させていただきます」
粟田口は数でアピールをしてきた。起床から就寝まで絶やすことなく側に仕えることが出来ると。それはもう介護じゃないかな?と審神者がぼやくと「将来的にはその方向で」と爽やかな笑顔が返ってきた。老後のサポートまで完璧だねと審神者が棒読みで答えると粟田口一同は大きく頷いた。
「体調面から恋の相談まで、俺たちなら相談しやすいんじゃない?」
新撰組は親しみやすさでアピールしてきた。前半はともかく後半はどうなのだと長曽祢、和泉守に視線をやると「この二人の元の主を思い出してよ。何人囲ってたと思うの」と加州から付け加えられた。それは藪蛇だぞ加州…と長曽祢が呟き、一夫一妻で育ってきた審神者はそれに強く同意した。
「まあ自分はどうでもええんですけど、蛍丸と愛染がやりたい言うんでなあ」
来派は保護者のやる気のなさを全面に押してきた。何故立候補したという審神者の当然の疑問に「でもその分俺たちががんばるよ」「国行が頑張るようにオレたちも頑張って説得する!あっ仕事もがんばるぞ!」と健気に答える二振り。とりあえず審神者は蛍丸と愛染をぎゅっと抱きしめ、肘をついて横になる明石の背中に持っていた冊子を投げつけた。
***
【主お世話係りアピールポイントチェックシート】という手作り感満載の冊子をため息をつきながら閉じた。思っていた以上に分厚くなったそれを見ながら今日あったことを脳裏に浮かべる。
世話されるのが好きだと言っているのに立候補してきた刀は「世話されるのも好きだが主の世話ならやぶさかではない」とほんわり笑みを浮かべながら主張し、それに対抗するかのように刀剣の横綱と呼ばれた刀は「池田輝政に見いだされた俺こそが主お世話係りに相応しい!」と鼻息荒く主張した。ついでに言うと彼と同じ刀派の刀はその後ろで楽しげに笑みを浮かべながらそれらを観察していた。「大包平と共になら俺も立候補しよう」目的が一つしかなくていっそ清々しい。
ふぅ、と審神者は再び息を吐いた。
まさか主お世話係りがこんなにも人気だとは予想していなかった。他の刀達も俺だ僕だ私もと立候補してきたのだ。短刀や青江を除いた脇差達は想像がついていたが大きい刀達までくるとは思わなかった。興味ないだろうと思っていた太郎太刀までやってきたのだ。驚くに決まっている。
元祖お世話係り長谷部は震えながら「俺はもう解雇でしょうか」と言った。解雇ってなんだと思いつつ宥め、予想以上にやりたいと言ってくれる刀が多く、今の体制を変えるつもりである。でも長谷部を外すことは絶対にしないと強く宣言した。なんでこんなに必死になっているんだろう…と思ったがその気持ちは気づかなかったことにした。
「主、今いいかな」
障子の向こう側から声をかけられた。穏やかな声はこの訳の分からない騒動の発端となった人物のものだった。いや、髭切が悪いんじゃない。みんなの気持ちに気づかなかった自分が悪いんだと心に言い聞かせながら「どうぞ」と返した。そういえば髭切は何も言ってきていないな、とふと思った。
障子を開けて入ってきた髭切の顔は晴れやかだった。ご機嫌といってもいいくらいだ。こんな顔は初めてみるかもしれないと思っていると髭切は審神者の背後に回り、腰を落ち着けた。
「……うん?」
「うん?どうしたんだい」
そう言いつつも髭切は審神者の腹部辺りに腕を回してぎゅっと自分の腕の中にしまい込んだ。
「…………うん?」
審神者は同じ言葉を上擦りになりながら発し、なんとか顔を髭切の方へ向けた。髭切の顔は変わらずほころんでいる。その表情に思わず胸がぎゅっとなったのを自覚しつつ審神者は口を開く。
「な、にをやってるのかな」
「? 僕は君のお世話係りなんだろう?」
お世話係りの後ろにはーとの記号が見えてしまった審神者は「ちょっと待った!」と髭切の言葉を切る。
「いや、あのっあのね、主お世話係りって言うのは私の仕事のお手伝いをしてくれたり、時にはみんなへの指示の伝えてくれたり、部屋の片付けをしたりっていう何の色気もない仕事なんだよね!?」
「うん、知っているよ」
「知ってないよ!何でぎゅってしてくるの!!」
「だって僕は“君”のお世話係りだから」
は!?と反射的言いそうになり、審神者は口を噤んだ。髭切の目の色が深く甘いものに変わったからだ。
「君が言ったんだよ。私のお世話係りになる?って。審神者のお世話係りなんて僕は興味ないよ。君だから側にいたいと思ったんだ」
確かに言った。私のお世話係りになる?と。だがそれは私=審神者の意味だったのだ。それ以外の意味などあるわけがない。そしてその事に目の前の刀が気づかないわけがない。「確信犯…」と絶句する審神者に髭切はにんまりと笑みを浮かべた。
「ふふ、嬉しいなあ。これからずっと君の側に侍らせてもらえるなんて」
侍るといいつつ従うつもりのない髭切は審神者が声を上げる前に口を塞ぎ、甘く吸い上げた。
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「君はいつもあの刀を傍らに置いているよね」
晩方の酒の席。顔の赤らみを冷ますために縁側へ腰を下ろした審神者の元に髭切がやってきた。髭切の言葉にうん?と首を捻らす審神者を置いて「よっこいしょ」と審神者の隣に座る髭切。1000歳を越すのだからおかしくないはずなのだが、整い過ぎた見た目のせいで審神者の中の違和感が喧嘩を始めた。
「あの刀?」
「えーっと、腰折り長谷部だよ」
「へし切り長谷部です」
「ああ、それそれ」
なんてことない口調だが長谷部本人に聞かれたらあわや大惨事なので気をつけてほしい。弟刀のように間違われても健気に訂正を続けるモノばかりではないのだから。腰折りとはなんだ。茶坊主は長谷部で圧し切られたのではなく腰を折られたのか。ピンポイントで。
怒り狂った長谷部の姿の想像しながら髭切の言葉の意味を考える。あの刀、つまり長谷部をいつも側に置いているよね、と髭切は言っているのだ。……今さら?
審神者にはそんな感想しか出てこない。髭切が顕現をする大分前から長谷部は審神者の所に大体いる。だってお世話係りだもん。酔ってるせいか短絡的にしか思考が回らない。
「お世話係りだからね」
「それってずるいなあ」
思ったことを口にしたら即座にそう返ってきた。
「隊の頭領や内番とは別に君から任命されるなんてずるいよ」
いつものほわほわした雰囲気を潜め、拗ねているような、ただを捏ねているような……つまり小さな子どものような髭切に審神者は目を瞬かせる。お酒のせいで寂しくなったのかな、と思わず髭切の頭を撫でるとスリスリ寄ってきた。今度は猫のようだ。その仕草にきゅんとした審神者は特に深く考えることもせず、あることを口にした。余談だが審神者は子どもも猫も大好きだった。
「じゃあ髭切、私のお世話係りする?」
何も考えていなかった。それを聞いた髭切の反応も、長谷部の心境も。“主お世話係り”なんて少し間抜けな名前で実際なにするの?って言われそうなよく分からない役職が刀達の羨望の的なんだということも、審神者は知らなかった。
「それは聞き捨てならんなぁ大将」
****
「粟田口派全十六口、主お世話係りに立候補させていただきます」
粟田口は数でアピールをしてきた。起床から就寝まで絶やすことなく側に仕えることが出来ると。それはもう介護じゃないかな?と審神者がぼやくと「将来的にはその方向で」と爽やかな笑顔が返ってきた。老後のサポートまで完璧だねと審神者が棒読みで答えると粟田口一同は大きく頷いた。
「体調面から恋の相談まで、俺たちなら相談しやすいんじゃない?」
新撰組は親しみやすさでアピールしてきた。前半はともかく後半はどうなのだと長曽祢、和泉守に視線をやると「この二人の元の主を思い出してよ。何人囲ってたと思うの」と加州から付け加えられた。それは藪蛇だぞ加州…と長曽祢が呟き、一夫一妻で育ってきた審神者はそれに強く同意した。
「まあ自分はどうでもええんですけど、蛍丸と愛染がやりたい言うんでなあ」
来派は保護者のやる気のなさを全面に押してきた。何故立候補したという審神者の当然の疑問に「でもその分俺たちががんばるよ」「国行が頑張るようにオレたちも頑張って説得する!あっ仕事もがんばるぞ!」と健気に答える二振り。とりあえず審神者は蛍丸と愛染をぎゅっと抱きしめ、肘をついて横になる明石の背中に持っていた冊子を投げつけた。
***
【主お世話係りアピールポイントチェックシート】という手作り感満載の冊子をため息をつきながら閉じた。思っていた以上に分厚くなったそれを見ながら今日あったことを脳裏に浮かべる。
世話されるのが好きだと言っているのに立候補してきた刀は「世話されるのも好きだが主の世話ならやぶさかではない」とほんわり笑みを浮かべながら主張し、それに対抗するかのように刀剣の横綱と呼ばれた刀は「池田輝政に見いだされた俺こそが主お世話係りに相応しい!」と鼻息荒く主張した。ついでに言うと彼と同じ刀派の刀はその後ろで楽しげに笑みを浮かべながらそれらを観察していた。「大包平と共になら俺も立候補しよう」目的が一つしかなくていっそ清々しい。
ふぅ、と審神者は再び息を吐いた。
まさか主お世話係りがこんなにも人気だとは予想していなかった。他の刀達も俺だ僕だ私もと立候補してきたのだ。短刀や青江を除いた脇差達は想像がついていたが大きい刀達までくるとは思わなかった。興味ないだろうと思っていた太郎太刀までやってきたのだ。驚くに決まっている。
元祖お世話係り長谷部は震えながら「俺はもう解雇でしょうか」と言った。解雇ってなんだと思いつつ宥め、予想以上にやりたいと言ってくれる刀が多く、今の体制を変えるつもりである。でも長谷部を外すことは絶対にしないと強く宣言した。なんでこんなに必死になっているんだろう…と思ったがその気持ちは気づかなかったことにした。
「主、今いいかな」
障子の向こう側から声をかけられた。穏やかな声はこの訳の分からない騒動の発端となった人物のものだった。いや、髭切が悪いんじゃない。みんなの気持ちに気づかなかった自分が悪いんだと心に言い聞かせながら「どうぞ」と返した。そういえば髭切は何も言ってきていないな、とふと思った。
障子を開けて入ってきた髭切の顔は晴れやかだった。ご機嫌といってもいいくらいだ。こんな顔は初めてみるかもしれないと思っていると髭切は審神者の背後に回り、腰を落ち着けた。
「……うん?」
「うん?どうしたんだい」
そう言いつつも髭切は審神者の腹部辺りに腕を回してぎゅっと自分の腕の中にしまい込んだ。
「…………うん?」
審神者は同じ言葉を上擦りになりながら発し、なんとか顔を髭切の方へ向けた。髭切の顔は変わらずほころんでいる。その表情に思わず胸がぎゅっとなったのを自覚しつつ審神者は口を開く。
「な、にをやってるのかな」
「? 僕は君のお世話係りなんだろう?」
お世話係りの後ろにはーとの記号が見えてしまった審神者は「ちょっと待った!」と髭切の言葉を切る。
「いや、あのっあのね、主お世話係りって言うのは私の仕事のお手伝いをしてくれたり、時にはみんなへの指示の伝えてくれたり、部屋の片付けをしたりっていう何の色気もない仕事なんだよね!?」
「うん、知っているよ」
「知ってないよ!何でぎゅってしてくるの!!」
「だって僕は“君”のお世話係りだから」
は!?と反射的言いそうになり、審神者は口を噤んだ。髭切の目の色が深く甘いものに変わったからだ。
「君が言ったんだよ。私のお世話係りになる?って。審神者のお世話係りなんて僕は興味ないよ。君だから側にいたいと思ったんだ」
確かに言った。私のお世話係りになる?と。だがそれは私=審神者の意味だったのだ。それ以外の意味などあるわけがない。そしてその事に目の前の刀が気づかないわけがない。「確信犯…」と絶句する審神者に髭切はにんまりと笑みを浮かべた。
「ふふ、嬉しいなあ。これからずっと君の側に侍らせてもらえるなんて」
侍るといいつつ従うつもりのない髭切は審神者が声を上げる前に口を塞ぎ、甘く吸い上げた。
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