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「にのみっ、二宮くんのバカ……非道……ひとでなしぃ……」
「…………」
ああ面倒くさい。二宮の頭はその言葉で埋まっていた。視線を下げると地べたですすり泣くひとりの女がいる。見覚えのありすぎる光景である。こんな光景に慣れるのは心から嫌だったが。
不愉快な回想を思い出してからしばらく経った。過去に何があった、何を思ったからといって現在がどう変わるということはない。相変わらず名前とは腐れきった縁が続いている。「合コンに行っても友だち増えるだけなんだけど……でも二宮くんにはいいイベントだと思う。友だちつくろ?」と耳障りな報告と勧誘を受けるようにはなったが、名前との仲は変わらない。
「二宮くんには青い血が流れてると思うの」
「知るか」
「ほらそういうところ。たまには輸血とかして無償の愛を振りまいてみない?」
「青い血を振りまいていいのか」
「ああだめだ……ごめんね今のなし」
本当に変わらない。名前は馬鹿で言っていることの一貫性のなさは腹が立つ。「二宮くんの血が渡ったら世の中舌打ちでまみれそうだね」その上失礼極まりない。舌打ちさせているのはどこのどいつだ。そう思いつつ地べたに座っている名前に手を伸ばす。さっさと立て、と。
「えっ」
「…………ちっ」
「手を取ろうとしたら拒否するってひどくない……? そういうとこだよ二宮くん……」
「さっさと一人で立て」
そう言って踵を返す。着いてくるなと心の内で言ったが伝わるわけもなく「待って! おいてかないで!」とドタバタ足音が続いてきた。
「で、話は戻るんだけど」
「戻るな一人で行け」
「ペアチケットなのに一人で行けるわけないでしょ」
名前がすすり泣いていた事の発端。「あの温泉娯楽施設のペアチケットもらったの! しかもイブと続けて二日間のお泊まり! 二宮くん一緒にいこう!」「ふざけんな馬鹿」二宮は間髪入れずに返した。「親といけ」「片方は置いてきぼりじゃん」「友だち」「クリスマスって何の日か知ってる?」「ボーダーの適当なやつと行け」「いやそれはちょっと……遠慮しちゃうもん。二宮くんはその点平気だし」
何が平気だ。馬鹿女。少しは脳みそを使え、だから馬鹿なんだ。そのようなことを言った気がする。あまりにもあんまりな内容だったので多くの暴言を吐いた。吐きすぎて気づけば名前が泣いていた。ほんの少し良心が痛んだが驚くことにこの女、一切懲りていない。まだ誘ってくる。
「二宮くんその日と次の日は任務なくてお休みでしょ? 授業はさぼるけど。ねっいこうよ」
「休みは関係ない。授業は行け。ただおまえと行きたくないだけだ」
「簡潔に私の心をえぐってくる……友だちをなんだとおもってるの……」
それはこっちの台詞だ。
その言葉は出すことなく終わり、口の中に苦いものが広がった気分になった。舌打ちしたい気持ちを抑えて視線を名前に向ける。にべもなく断られてふてくされたように口を尖らせていた。
名前は全く変わらない。当たり前だ。こちらの心境の変化など察する能力などないし、二宮も表面上は何時も通りに接しているのだから。それでいいと思っているくせに、苛立つ気持ちが時折出てくるのがこの上なく厄介で気持ちが悪い。八年も放っておいた感情を思い出しただけで、ころりと影響された自分も腹立たしい。未だに間違いではないかと思うこともある。しかし先ほどの、名前に触ろうとして躊躇するなんて中学生のような反応をしておいてその言い分が通るわけもなく。二宮はこの感情を持て余していた。
「…………」
名前との今までの思い出を頭に浮かべる。「二宮くーん! ドジョウのつかみ取りだって! やろうよ!」「二宮くん……教科書に落書きしすぎて原形が分からない……この人だれ……」「二宮くん、本読みながら歩いたら危ないよ。……はっ! これが二宮金じ」驚くことに美しい思い出が一つも思い浮かばなかった。やはり気のせいではないか。何度思ったかもはや覚えていない言葉を心の中で口にする。
「二宮くんだから一緒に行きたいのにさ……八年間の私たちの絆を忘れちゃってさ……そんなんだからコミュニケーションツールが罵倒と舌打ちだけになっちゃうんだよ……」
ふてくされてぶつぶつ恨み言を呟く名前に文句を返そうとして、口を閉ざす。その代わり最初の言葉だけを鮮明に刻んだめでたい頭に息をついた。本当にどうかしている。
「……部屋に仕切りは」
「へっ?」
「部屋に仕切りはあるのか」
「えっえーっと待ってね。……うんきっと多分あるよ。襖で仕切れるっぽい多分」
「どっちだ貸せ」
チケットをもぎ取り携帯で確認する。確かに襖で部屋を仕切られるようだった。
「…………俺は一つ二つしか回らないからな」
「えええ」
「文句があるなら一人で行け」
「ないです! ……あれ? その口振りだとなんだか一緒に行ってくれるみたいな……? えっほんと? ほんと?」
「うるさい」
「やった!」
うるさいと返したのにきちんと肯定の意と察した名前は「ありがとう二宮くん!」と喜びを隠しきれないと言わんばかりに笑う。
「……今年も俺と過ごすことになって残念だな」
名前の笑顔に感じた感情とは逆の言葉を口にすると「そういえばクリスマスだったねこれ……」と目に見えて落ち込みだした。言わなければ良かったと思ったが名前も大概失礼だ。
「んーまあ二宮くんなら別にいいや」
「友だちとしか過ごせないなんて寂しいやつだな」
「いやいや友だちといっても二宮くんは異性だから。異性の友だちとクリスマスにわざわざ過ごすって………あれ?」
名前はそこで言葉を区切り、こちらを見上げた。
「二宮くんって友だちじゃない……?」
俺に聞くな。そう返そうとしてむせたのはこれから先のクリスマスで蒸し返される思い出のひとつとなった。
「…………」
ああ面倒くさい。二宮の頭はその言葉で埋まっていた。視線を下げると地べたですすり泣くひとりの女がいる。見覚えのありすぎる光景である。こんな光景に慣れるのは心から嫌だったが。
不愉快な回想を思い出してからしばらく経った。過去に何があった、何を思ったからといって現在がどう変わるということはない。相変わらず名前とは腐れきった縁が続いている。「合コンに行っても友だち増えるだけなんだけど……でも二宮くんにはいいイベントだと思う。友だちつくろ?」と耳障りな報告と勧誘を受けるようにはなったが、名前との仲は変わらない。
「二宮くんには青い血が流れてると思うの」
「知るか」
「ほらそういうところ。たまには輸血とかして無償の愛を振りまいてみない?」
「青い血を振りまいていいのか」
「ああだめだ……ごめんね今のなし」
本当に変わらない。名前は馬鹿で言っていることの一貫性のなさは腹が立つ。「二宮くんの血が渡ったら世の中舌打ちでまみれそうだね」その上失礼極まりない。舌打ちさせているのはどこのどいつだ。そう思いつつ地べたに座っている名前に手を伸ばす。さっさと立て、と。
「えっ」
「…………ちっ」
「手を取ろうとしたら拒否するってひどくない……? そういうとこだよ二宮くん……」
「さっさと一人で立て」
そう言って踵を返す。着いてくるなと心の内で言ったが伝わるわけもなく「待って! おいてかないで!」とドタバタ足音が続いてきた。
「で、話は戻るんだけど」
「戻るな一人で行け」
「ペアチケットなのに一人で行けるわけないでしょ」
名前がすすり泣いていた事の発端。「あの温泉娯楽施設のペアチケットもらったの! しかもイブと続けて二日間のお泊まり! 二宮くん一緒にいこう!」「ふざけんな馬鹿」二宮は間髪入れずに返した。「親といけ」「片方は置いてきぼりじゃん」「友だち」「クリスマスって何の日か知ってる?」「ボーダーの適当なやつと行け」「いやそれはちょっと……遠慮しちゃうもん。二宮くんはその点平気だし」
何が平気だ。馬鹿女。少しは脳みそを使え、だから馬鹿なんだ。そのようなことを言った気がする。あまりにもあんまりな内容だったので多くの暴言を吐いた。吐きすぎて気づけば名前が泣いていた。ほんの少し良心が痛んだが驚くことにこの女、一切懲りていない。まだ誘ってくる。
「二宮くんその日と次の日は任務なくてお休みでしょ? 授業はさぼるけど。ねっいこうよ」
「休みは関係ない。授業は行け。ただおまえと行きたくないだけだ」
「簡潔に私の心をえぐってくる……友だちをなんだとおもってるの……」
それはこっちの台詞だ。
その言葉は出すことなく終わり、口の中に苦いものが広がった気分になった。舌打ちしたい気持ちを抑えて視線を名前に向ける。にべもなく断られてふてくされたように口を尖らせていた。
名前は全く変わらない。当たり前だ。こちらの心境の変化など察する能力などないし、二宮も表面上は何時も通りに接しているのだから。それでいいと思っているくせに、苛立つ気持ちが時折出てくるのがこの上なく厄介で気持ちが悪い。八年も放っておいた感情を思い出しただけで、ころりと影響された自分も腹立たしい。未だに間違いではないかと思うこともある。しかし先ほどの、名前に触ろうとして躊躇するなんて中学生のような反応をしておいてその言い分が通るわけもなく。二宮はこの感情を持て余していた。
「…………」
名前との今までの思い出を頭に浮かべる。「二宮くーん! ドジョウのつかみ取りだって! やろうよ!」「二宮くん……教科書に落書きしすぎて原形が分からない……この人だれ……」「二宮くん、本読みながら歩いたら危ないよ。……はっ! これが二宮金じ」驚くことに美しい思い出が一つも思い浮かばなかった。やはり気のせいではないか。何度思ったかもはや覚えていない言葉を心の中で口にする。
「二宮くんだから一緒に行きたいのにさ……八年間の私たちの絆を忘れちゃってさ……そんなんだからコミュニケーションツールが罵倒と舌打ちだけになっちゃうんだよ……」
ふてくされてぶつぶつ恨み言を呟く名前に文句を返そうとして、口を閉ざす。その代わり最初の言葉だけを鮮明に刻んだめでたい頭に息をついた。本当にどうかしている。
「……部屋に仕切りは」
「へっ?」
「部屋に仕切りはあるのか」
「えっえーっと待ってね。……うんきっと多分あるよ。襖で仕切れるっぽい多分」
「どっちだ貸せ」
チケットをもぎ取り携帯で確認する。確かに襖で部屋を仕切られるようだった。
「…………俺は一つ二つしか回らないからな」
「えええ」
「文句があるなら一人で行け」
「ないです! ……あれ? その口振りだとなんだか一緒に行ってくれるみたいな……? えっほんと? ほんと?」
「うるさい」
「やった!」
うるさいと返したのにきちんと肯定の意と察した名前は「ありがとう二宮くん!」と喜びを隠しきれないと言わんばかりに笑う。
「……今年も俺と過ごすことになって残念だな」
名前の笑顔に感じた感情とは逆の言葉を口にすると「そういえばクリスマスだったねこれ……」と目に見えて落ち込みだした。言わなければ良かったと思ったが名前も大概失礼だ。
「んーまあ二宮くんなら別にいいや」
「友だちとしか過ごせないなんて寂しいやつだな」
「いやいや友だちといっても二宮くんは異性だから。異性の友だちとクリスマスにわざわざ過ごすって………あれ?」
名前はそこで言葉を区切り、こちらを見上げた。
「二宮くんって友だちじゃない……?」
俺に聞くな。そう返そうとしてむせたのはこれから先のクリスマスで蒸し返される思い出のひとつとなった。