「もう、ほんと、いい加減にしろよ朋也」

「なんだか中吉みたいな口調になってるよ名前」

そう言うと名前は目を二、三回瞬かせて「そうだねえ中吉とは同じ苦労を持つ仲間だからねえ」とにっこり笑った。迷子の子どもを見つけて、お母さんの元に連れて行くまでは色々我慢したのに、と思っていたらテッシュを鼻に突っ込まれた。

「制服汚れる」

「うん、ありがとう」

そう微笑みながら返すと名前は仕方ないなぁって顔でため息をついた。

中吉とは幼稚園からの仲で、俺とは小学校からの仲の名前。中吉とは家も近所だ。そのために中吉の弟の吉や末吉、妹の恭子ちゃんとも仲良しで、「名前ねーちゃんはいつでもうちに来ていいからな！」と可愛く声を揃えて誘われているのをよく見る。そのときに吉たちと目線を合わせるために屈んで「うん。お土産なにがいい？」と話している名前と、それに喜ぶ三人の姿はたまらなく可愛い。写真に収めたいほど可愛くて思わず連写してしまう。そして写真を撮っていることに気づいた名前がサッと三人を後ろに隠すのも、可愛い。

「出血多量でいつか本当に死ぬよ」

「それは困るな」

さすがに俺でもそんな死に方はしたくない。でも子どもを見ると自然と鼻血が出てしまうし、そうなってしまうほど子どもは可愛い。子どもはみんな可愛いからずっと見ていたい。だから鼻血は止まらない。困ったなぁ。本当に死んでしまうかもしれない。そんな事を思っているのが伝わったのか、名前は頭痛を抑えるように頭を抱えた。

「もういやだ…何でこんなの好きになったの……」

「あはは、俺も好きだよ」

割と本気で落ち込んでいる名前にそういうと「知ってる」とすぐに返ってきて、口元がいつもと違うかたちで緩んでしまう。子どもを見て、可愛いなぁ幸せだなぁと思う気持ちとは少し違うけど、幸福感は同じくらいたくさんくれる。「私の裸見ても鼻血なんか出さないくせに！」と少しずれた嫉妬も「お馬鹿！ばか朋也！こんなところで鼻血出したら死んじゃうでしょ！」と心配して怒ってくれるところも、全部幸せに変換してくれるから、名前はすごい。

隣を歩く名前の手をぎゅっと握ると一瞬びっくりした顔をして、そのあと控えめに握り返してくれたから俺の顔は更にだらしなくなってしまった。

「……鼻にテッシュ詰めたままにやにやしてたら怪しいよ」

「そうだね。でも名前と一緒だったらこうなっちゃうからなぁ」

そう言うと「……子ども見てもそうなるくせに」と怒ってるような声で呟いた。でも手はそのままだったから俺もそのままだらしない顔で一緒に家まで帰った。


20180107