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※嵐山家の犬(コロ)の話
この話では雄犬です
老人の朝は早いというが例に漏れずうちのばーちゃんの朝も早い。一階のリビングで寝るおれに「おはよう」と和やかな声をかけて音をなるべく立てないように朝の支度を始める。そんな風に気を使わなくてもばーちゃんがリビングに入ったときから起きているのだが、優しいばーちゃんの気づかいは黙って受け取るのが男というものだ。なのでクッションに顔を乗せてまだ寝ていますよ、という顔を作る。そんなことをしているうちに、若干まだ眠そうなママがリビングにやってくる。「お母さんゆっくりしててください」「いいのよ~」と毎日やっているやり取り。トントントン、と軽快な音がキッチンから聞こえる。フライパンのジュージュー焼く匂いもしてきた。ぐぅ、と腹が鳴ったので寝たふりを止めてぱちりと目を開いた。そしてグッと背を伸ばして欠伸をひとつ。ちょうどお皿をテーブルの上に広げていたばーちゃんと目が合う。目尻に優しい皺を作って「おはよう」と再び声をかけるばーちゃんに返事を一つ返して木のケージに前脚をかけた。
「はいはい、今開けますからね」
ばーちゃんによって開けられた扉を通ってケージの外に出る。やっぱりケージの外は開放的でいい。出してくれたばーちゃんにありがとうの意味を込めて足にすりすり。そしてタッタッタと軽い足取りでリビングから出て廊下を通って奥の部屋に進む。途中の階段にはおれが登れないように柵がしてある。そのせいで二階部屋の副と佐補の元には行けない。くんくん寂しげに鼻を鳴らせば抱っこして連れて行ってくれるが、早朝ではそうしてくれる人がいない。まぁ佐補はしっかり者だからもう少しで起きて支度を始めるだろう。副は佐補が起こすから問題ない。目的地に向かう途中で外の郵便受けから新聞を取ってきたらしい眠そうな顔のパパと会った。顎をわしゃわしゃ掻いてもらった。気持ちぃいいい。
パパと別れて直ぐに目的地に到着した。そこのドアはおれが通れるようにいつも少し開いている。今日もばっちり開いていたので遠慮なしに身体をするりと通らせた。カーテンがかかった暗い部屋に少しうぅとなったが足は迷わずベッドへ進める。黒い山の前まで来たら足を止めて力を加え、ぴょんと飛び乗った。
「うっ」
ちょっと苦しそうな声がしたが心を鬼にし、枕元まで行って鼻でツンツンする。眉間にシワが寄っておれがいる場所とは反対に寝返りを打たれた。めげずに後頭部に鼻を寄せる。しばらくしておれの吐息がくすぐったくなったのか頭がプルプル震えだした。そしてそのまま数秒。
「わかっわかった、分かった。起きるよ…」
少しかすれた声によろしいと満足げに一鳴きすると「コロは早起きだからなぁ…」と准はおれの方に顔を向けて呟いた。のろのろとした動作で耳のところを掻いてくれる。あ、そこだめだ。気持ちいいからだめだ。このやろう准。そんなことしても叩き起こすんだからな。おまえが一番の寝坊助なんだからな!
外ではキリリとした顔の准だが家族の中で寝起きは一番悪い。稼動するまでが長いのだ。今もおれが准の撫でテクに顔がほんのちょっとゆるゆるになりかけているのをいいことに再び枕に顔を埋めようとしている。ゆるさんぞ准!ばーちゃんとママが朝ご飯作ってくれてるんだぞ!副も朝は苦手だけど頑張って起きようとしてるんだぞ!そして何よりおまえが起きないとおれのご飯が出てこない!!!
おれを飼うにあたって朝ご飯は准があげること、というルールが出来た。昔から朝が弱かった准にはうってつけのルールだった。ちなみに准が仕事のときはパパがしてくれる。いっぱい入れすぎてたまにママに怒られているが、パパはおれがもりもり食べる姿が好きなのかやっぱり多く入れてしまう。おやつもねだったらすぐにくれる。「パパは家長なんだから甘やかしちゃだめ!しつけはちゃんとするの!」と佐補にも怒られている。おれは賢い犬だからパパが一番ってことも分かってるぞ。だからこれからもおやつはいっぱいくれ。
そんな経緯もあって准を起こすのはおれの役目となっている。ばーちゃんは「賢い子だねぇ」と目を細めて撫でてくれた。ぐへへ。そして准の友達の准に似てるやつは「食い意地はってるなぁ」と生温かい視線を向けてきたのでその日はずっとボールを持って突撃してやった。ぐへへ。
それにしても今日の准はしつこい。いつまで枕と友達してるつもりだ。枕の端っこを噛んでぐいっと動かす。枕はとったぞ、よし起きろ。
「…う、ん?まくら…ああ、あった」
「!?」
おれは枕じゃない!!
おれを抱きかかえて再び寝る体制に入った准の顔に爪を立てないようにして肉球を押し付ける。「うん、うん。散歩は行くからな」散歩より先にご飯だ!!でも散歩も行く!!
ふがー!としばらく格闘したが寝ぼけきった准には通じず「朝からコロと遊ぶなよにーちゃん」と呆れ顔の副がやってくるまでおれは解放されなかった。明日は一分で叩き起こしてやるからな!
20161023