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「雅人はわたしがまもるから!」
それが小さい頃からの口癖だった。昔から周りの感情に振り回されていた雅人には自分が必要だとずっと思っていた。名前ちゃん、とひょこひょこ私の後ろを引っ付いていた雅人はそれはもう可愛くて。猫可愛がりしていたのだ。目に入れても痛くない。まさにこれ。例え見た目がどんどん悪人寄りに成長していったとしても雅人は可愛い弟分だ。……そう、可愛い弟分なのだ。
「“てめーは嫌な感覚はしねえが一緒にいて苛々する”って……ついに、ついに反抗期が……ッ! どうしよう加古ちゃん! 雅人の反抗期!!」
「とりあえずビール置かないとテーブルがびしょびしょになるわよ」
「でかい声を出すな」
頭に響く、といつもの横柄な態度が消えて何だか小さく見える二宮くん。おかしいな、まだジョッキ生を五杯呑んだだけなのに。風邪ひいてたのかな。でも風邪菌のほうが裸足で逃げていきそうだな。そう思いつつ加古ちゃんの助言通りにジョッキを置いた。気のせいか飲んでないのに少し量が減っていた。
「雅人の反抗期……つまり心の成長を喜んで少し様子を見るか、この寂しさを押し潰して今まで通りかまい倒すかどっちがいいと思う?」
「そもそも貴女が言っているのが反抗期だとしたらいつもの「チョロチビ引っ付くな死ねぇ!」は何なの?」
「“名前ちゃんおはよう、今日も元気だね”かな」
「あらそうなの。曲解すぎて私には分からなかったわ」
「雅人はコミュニケーション能力に問題があるからね、可愛いから気にしないけど」
「それをおまえが言うな」
「二宮くんそれはブーメランよ」
本当にそれだよね。でも加古ちゃんも十分我が強いと思うよ。あれ、ここにろくな人間がいないぞ? 来馬くんと堤くん連れてくれば良かったかな。太刀川くんは有り得ないけど。ちなみにチョロチビというのは、雅人の周りをチョロチョロしているチビの略らしい。あだ名の付け方が安直で可愛い。もう雅人可愛い。
雅人の可愛いさに悶えて隣の二宮くんの背中をバシバシ叩く。二宮くんは静かに口元を抑えて私の顔を空いている手で押してきた。これだからコミュニケーション能力不足の二宮くんは……女の子の扱いも知らないのか。犬飼くんにレクチャー受けたらどうだろう。
「名前ちゃん、それ以上二宮くん叩いちゃうと大惨事になってしまうわ」
「え? あ、うん分かった」
加古ちゃんが言うのならそうなのだろう。大親友の加古ちゃんが言うことは絶対なのだ。
「──おい、」
「ん? …………加古ちゃん、雅人の話し過ぎてついに幻覚が見える」
「幻覚じゃないわよ。良かったわね」
「………雅人!」
「引っ付くなチョロチビ!」
すぐさま引きはがされたけどこれは雅人だ間違いない。雅人歴18年の私が言うんだから間違いない。今日はもう会えないだろうと思っていたから嬉しい誤算だ。……え、でも何でいるの? ここ居酒屋……
「……あっこら! 何でこんなところにいるの。高校生が居酒屋に来るんじゃないの!」
「……………チッ」
「舌打ちしてもだめ! 加古ちゃん、私雅人送ってくるね。念のためお金置いていくから」
「……送る、ねえ」
「?」
「うるせえぞファントムばばあ」
「ふふっごめんなさい」
何も騒いでいない加古ちゃんに対してうるさいとは……しかも加古ちゃんは愉しそうに謝ってるし。疑問符を浮かべつつ居酒屋を後にした。二宮くんは雅人が来てもテーブルに頭をつけて動かなかった。カッコつけたがり屋の二宮くんが動けないなんて余程強い風邪菌をもらってきたらしい。勇気ある風邪菌もこの世には存在するもんだ。
「……」
そして雅人とふたりきりになって思い出した。今日の飲み会の主旨に。【雅人くんの反抗期をどうやって乗り切るか】の会。しまった、何の答えも出ずに終わってしまった。
チラリと雅人を伺うとあの感覚がしてしまったのか嫌な表情を浮かべて一瞬私を見た。……またしてもやってしまった。
雅人のサイドエフェクトは負の感情に反応しやすい。だからそういった感情を雅人に向けないようにして外で発散しようしてたのに。反抗期寂しいなとか悲しいなとかそんなのも雅人には伝わってしまうから。そしてこうやってウジウジ考えているのも雅人には筒抜けだ。だって雅人の事を考えているのだから。このままじゃいかん。
ばちん! と音を立てて自分のほっぺたを叩く。無心になれと念じながら。実際は無心どころか冬の冷気でほっぺたがもの凄く痛い。あ、でもこれはこれでありだ。もう一回! と手を振り上げようとしたが私の前に回った雅人に両手を掴まれて阻止された。
「ウジウジしてると思ったら突然何なんだてめーは!」
「無心になるんだ! 邪な気持ちを祓うのだぁあ!」
「うるせえ! 意味分かんねえしうるさいから止めろ!!」
真冬の寒空の下で向き合って騒ぐ男女はそれはもう目立つらしく「おーい痴話喧嘩はよそでやれ~」と酔っ払いのサラリーマン衆に注意された。いや、あれは冷やかされたのか……?
そうぼんやり考えていると、サラリーマン衆の言葉に固まっていた雅人がはっとした顔をしてお決まりの舌打ちをかました。そして私の手首を掴んでズンズン歩く。
「文句あんなら口で言え、うっとうしい」
「……文句じゃなくて寂しいだけだよ」
「……………は?」
何言ってんだと足を止めて顔を私に向ける雅人。ああ、ちゃんと話聞いてくれる……反抗期でも優しい……と内心ホッとしつつ口を開いた。
「雅人が反抗期迎えて寂しいの」
「……………………」
私の言葉に返ってきたのはデコピンだった。
「いたあ!?」
「何がどうなってそうなった。全部話せ」
謎の威圧感を放つ雅人に背筋がぴんとなった。上からあの強い眼力で見下ろされる。ああ、こんなに目つき悪く成長して……と思いつつ一連の流れを説明する。というかそもそも雅人の「一緒にいると苛々する」発言から始まったんだけどな。
そして全て説明し終わると、雅人は目を吊り上げながら口を開いた。
「反抗期じゃねー!!」
「反抗期のときはみんなそう言うのよ……」
「このッ……花畑脳みそが! つーかおめーは俺の親でも兄でもねえだろうが! 何の心配してんだ馬鹿!」
「ええっ姉枠で心配してなにが悪いの!」
「姉……だと」
その瞬間、雅人の雰囲気が変わった。この雰囲気は凄く見覚えがある。
「ふざけんなよ。そういうところが苛々するって言ってんだ」
そう、戦うときの、相手を追い詰めるときの目だ。
「………っ、」
「………………」
がぶり。
そんな効果音を上げて雅人はあのガジガジの歯で私の唇に噛みついた。いつの間にマスク下ろしたのとか場違いなことを考えていたら雅人は顔を逆に傾けて唇同士を強く重ねた。その状態で何秒経ったのか。頭が上手く働かないうちに顔を離された。最後に下唇を軽く噛んで。
「はぁ……」
「!!」
雅人から零れたため息がいつになく色っぽく聞こえて、心臓が嫌な音を立てた。
「キスしにくい。背ぇ伸ばせチビ」
「……………ナンデ キス シタ」
「ロボットかてめーは。したいやつにして何が悪い」
「………ハツジョウキ デスカ」
「ちげー」
「え、雅人私のことすきなの」
「急に正気に戻んな!」
目をガッと開いてそう怒鳴る雅人。しかしじーっと見つめる私の視線に居心地が悪いのか柄にもなくそわそわしている。それでも反らさないでいると雅人から視線を外してポツリと呟いた。
「……………悪いのかよ」
雅人らしくない声の大きさのそれはばっちり私の耳に届いた。罰が悪そうな、自信なさげな声がいつもとは全く違っていて胸がきゅんと鳴るのがわかった。そして私が言葉を発する間もなく再び口が塞がれる。先ほどとは違って一秒ほどで離れた子どものようなキス。私と意地でも目を合わせたくないのか私の頭に顔を埋めてギュウギュウ引っ付いてきた。なんだこの可愛い子。そしてさっきから心臓がうるさくて仕方ない。ときめきで心臓がつぶれそう。
「雅人」
「……なんだチョロチビ」
「可愛いねぇ」
「殺すぞ」
「雅人」
「なんだ」
「私も雅人のこと好きみたい」
「…………みたいって止めろ」
「あはは」
「笑うな」
とりあえず加古ちゃんに連絡しよう。ときめきで早死にしそうだと。
それが小さい頃からの口癖だった。昔から周りの感情に振り回されていた雅人には自分が必要だとずっと思っていた。名前ちゃん、とひょこひょこ私の後ろを引っ付いていた雅人はそれはもう可愛くて。猫可愛がりしていたのだ。目に入れても痛くない。まさにこれ。例え見た目がどんどん悪人寄りに成長していったとしても雅人は可愛い弟分だ。……そう、可愛い弟分なのだ。
「“てめーは嫌な感覚はしねえが一緒にいて苛々する”って……ついに、ついに反抗期が……ッ! どうしよう加古ちゃん! 雅人の反抗期!!」
「とりあえずビール置かないとテーブルがびしょびしょになるわよ」
「でかい声を出すな」
頭に響く、といつもの横柄な態度が消えて何だか小さく見える二宮くん。おかしいな、まだジョッキ生を五杯呑んだだけなのに。風邪ひいてたのかな。でも風邪菌のほうが裸足で逃げていきそうだな。そう思いつつ加古ちゃんの助言通りにジョッキを置いた。気のせいか飲んでないのに少し量が減っていた。
「雅人の反抗期……つまり心の成長を喜んで少し様子を見るか、この寂しさを押し潰して今まで通りかまい倒すかどっちがいいと思う?」
「そもそも貴女が言っているのが反抗期だとしたらいつもの「チョロチビ引っ付くな死ねぇ!」は何なの?」
「“名前ちゃんおはよう、今日も元気だね”かな」
「あらそうなの。曲解すぎて私には分からなかったわ」
「雅人はコミュニケーション能力に問題があるからね、可愛いから気にしないけど」
「それをおまえが言うな」
「二宮くんそれはブーメランよ」
本当にそれだよね。でも加古ちゃんも十分我が強いと思うよ。あれ、ここにろくな人間がいないぞ? 来馬くんと堤くん連れてくれば良かったかな。太刀川くんは有り得ないけど。ちなみにチョロチビというのは、雅人の周りをチョロチョロしているチビの略らしい。あだ名の付け方が安直で可愛い。もう雅人可愛い。
雅人の可愛いさに悶えて隣の二宮くんの背中をバシバシ叩く。二宮くんは静かに口元を抑えて私の顔を空いている手で押してきた。これだからコミュニケーション能力不足の二宮くんは……女の子の扱いも知らないのか。犬飼くんにレクチャー受けたらどうだろう。
「名前ちゃん、それ以上二宮くん叩いちゃうと大惨事になってしまうわ」
「え? あ、うん分かった」
加古ちゃんが言うのならそうなのだろう。大親友の加古ちゃんが言うことは絶対なのだ。
「──おい、」
「ん? …………加古ちゃん、雅人の話し過ぎてついに幻覚が見える」
「幻覚じゃないわよ。良かったわね」
「………雅人!」
「引っ付くなチョロチビ!」
すぐさま引きはがされたけどこれは雅人だ間違いない。雅人歴18年の私が言うんだから間違いない。今日はもう会えないだろうと思っていたから嬉しい誤算だ。……え、でも何でいるの? ここ居酒屋……
「……あっこら! 何でこんなところにいるの。高校生が居酒屋に来るんじゃないの!」
「……………チッ」
「舌打ちしてもだめ! 加古ちゃん、私雅人送ってくるね。念のためお金置いていくから」
「……送る、ねえ」
「?」
「うるせえぞファントムばばあ」
「ふふっごめんなさい」
何も騒いでいない加古ちゃんに対してうるさいとは……しかも加古ちゃんは愉しそうに謝ってるし。疑問符を浮かべつつ居酒屋を後にした。二宮くんは雅人が来てもテーブルに頭をつけて動かなかった。カッコつけたがり屋の二宮くんが動けないなんて余程強い風邪菌をもらってきたらしい。勇気ある風邪菌もこの世には存在するもんだ。
「……」
そして雅人とふたりきりになって思い出した。今日の飲み会の主旨に。【雅人くんの反抗期をどうやって乗り切るか】の会。しまった、何の答えも出ずに終わってしまった。
チラリと雅人を伺うとあの感覚がしてしまったのか嫌な表情を浮かべて一瞬私を見た。……またしてもやってしまった。
雅人のサイドエフェクトは負の感情に反応しやすい。だからそういった感情を雅人に向けないようにして外で発散しようしてたのに。反抗期寂しいなとか悲しいなとかそんなのも雅人には伝わってしまうから。そしてこうやってウジウジ考えているのも雅人には筒抜けだ。だって雅人の事を考えているのだから。このままじゃいかん。
ばちん! と音を立てて自分のほっぺたを叩く。無心になれと念じながら。実際は無心どころか冬の冷気でほっぺたがもの凄く痛い。あ、でもこれはこれでありだ。もう一回! と手を振り上げようとしたが私の前に回った雅人に両手を掴まれて阻止された。
「ウジウジしてると思ったら突然何なんだてめーは!」
「無心になるんだ! 邪な気持ちを祓うのだぁあ!」
「うるせえ! 意味分かんねえしうるさいから止めろ!!」
真冬の寒空の下で向き合って騒ぐ男女はそれはもう目立つらしく「おーい痴話喧嘩はよそでやれ~」と酔っ払いのサラリーマン衆に注意された。いや、あれは冷やかされたのか……?
そうぼんやり考えていると、サラリーマン衆の言葉に固まっていた雅人がはっとした顔をしてお決まりの舌打ちをかました。そして私の手首を掴んでズンズン歩く。
「文句あんなら口で言え、うっとうしい」
「……文句じゃなくて寂しいだけだよ」
「……………は?」
何言ってんだと足を止めて顔を私に向ける雅人。ああ、ちゃんと話聞いてくれる……反抗期でも優しい……と内心ホッとしつつ口を開いた。
「雅人が反抗期迎えて寂しいの」
「……………………」
私の言葉に返ってきたのはデコピンだった。
「いたあ!?」
「何がどうなってそうなった。全部話せ」
謎の威圧感を放つ雅人に背筋がぴんとなった。上からあの強い眼力で見下ろされる。ああ、こんなに目つき悪く成長して……と思いつつ一連の流れを説明する。というかそもそも雅人の「一緒にいると苛々する」発言から始まったんだけどな。
そして全て説明し終わると、雅人は目を吊り上げながら口を開いた。
「反抗期じゃねー!!」
「反抗期のときはみんなそう言うのよ……」
「このッ……花畑脳みそが! つーかおめーは俺の親でも兄でもねえだろうが! 何の心配してんだ馬鹿!」
「ええっ姉枠で心配してなにが悪いの!」
「姉……だと」
その瞬間、雅人の雰囲気が変わった。この雰囲気は凄く見覚えがある。
「ふざけんなよ。そういうところが苛々するって言ってんだ」
そう、戦うときの、相手を追い詰めるときの目だ。
「………っ、」
「………………」
がぶり。
そんな効果音を上げて雅人はあのガジガジの歯で私の唇に噛みついた。いつの間にマスク下ろしたのとか場違いなことを考えていたら雅人は顔を逆に傾けて唇同士を強く重ねた。その状態で何秒経ったのか。頭が上手く働かないうちに顔を離された。最後に下唇を軽く噛んで。
「はぁ……」
「!!」
雅人から零れたため息がいつになく色っぽく聞こえて、心臓が嫌な音を立てた。
「キスしにくい。背ぇ伸ばせチビ」
「……………ナンデ キス シタ」
「ロボットかてめーは。したいやつにして何が悪い」
「………ハツジョウキ デスカ」
「ちげー」
「え、雅人私のことすきなの」
「急に正気に戻んな!」
目をガッと開いてそう怒鳴る雅人。しかしじーっと見つめる私の視線に居心地が悪いのか柄にもなくそわそわしている。それでも反らさないでいると雅人から視線を外してポツリと呟いた。
「……………悪いのかよ」
雅人らしくない声の大きさのそれはばっちり私の耳に届いた。罰が悪そうな、自信なさげな声がいつもとは全く違っていて胸がきゅんと鳴るのがわかった。そして私が言葉を発する間もなく再び口が塞がれる。先ほどとは違って一秒ほどで離れた子どものようなキス。私と意地でも目を合わせたくないのか私の頭に顔を埋めてギュウギュウ引っ付いてきた。なんだこの可愛い子。そしてさっきから心臓がうるさくて仕方ない。ときめきで心臓がつぶれそう。
「雅人」
「……なんだチョロチビ」
「可愛いねぇ」
「殺すぞ」
「雅人」
「なんだ」
「私も雅人のこと好きみたい」
「…………みたいって止めろ」
「あはは」
「笑うな」
とりあえず加古ちゃんに連絡しよう。ときめきで早死にしそうだと。