鬼さんどちら
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大和守は血に染まった刀を振る。
ピッと音を立てて地面に散らばった鮮血を一瞥し、右の手のひらに刀の持ち手を置き、下から上へ視線を流して刀身を眺めた。─ああ、やっぱり手入れしてもらおう。あの妖怪は何だかいけ好かない。そんなモノを切ったせいか刀が淀んでいる。気持ちの問題と分かっていたが、気に入らないモノは気に入らないのだ。
大和守の前の主は結核で亡くなった。咳をし、血を吐く姿を刀の姿でよく見たものだ。豪胆に刀を奮う姿を知っているのに、記憶に強く残るのは床に伏せどんどん弱っていく姿。そのためか大和守にとって人間とは“弱い”生き物だという認識が残った。寿命も短く病に弱い。今代の主がくしゃみひとつしようものならすぐさま布団に押し込む。自分を世話好きだと称す刀もいるが全くの見当違いだ。人間は簡単に死ぬのだ。気にかけるのは当然だ。
「──行くよ、厚」
木の根元に例の少女を寝かせ、袖口で顔に付いた血を拭う厚に声をかける。もう大丈夫だろう。黒いモヤは消えた。少女をあの妖から救い、大和守が妖の足を切り落としたときに現れた狗のような狐のような姿の妖とそれに乗る少年。少女を反射的に厚が抱え、陣から退避した瞬間に妖は鏡に封じられた。よって主を害するモノは消えた。ここに止まる理由はない。
「あの子どもに任せよう。穢れもないしもう大丈夫だよ」
しかしここに放置したままだったら高い確率で風邪を引くだろう。という少しの不安を持ちつつもその場から離れることを優先する。自分達の姿を見られては主にどのような影響が及ぼすか分からない。只でさえ妖怪退治は畑違いだと嫌みを言ってくる者達もいるのだ。妖でも神の類でもない異形のモノだけを切っていればそれでいいと。それが審神者の役目だと。大和守にしてみれば主の任で異形のモノからその他の人間達を守っている形だが、本音を言えばそんな人間達はどうでもいい。弱い人間は守ろうと思える。だが汚い人間は別だ。勝手に野垂れ死にすればいい。
「………なんかこえー顔してっけど、」
「大丈夫だよ」
「……大将に心配かけるなよな」
「分かってる」
分かってるよ。
大和守はふう、とひとつ息を吐いて刀を収めた。木にもたれ掛かる少女に視線をやり、少し思案した後に首巻きを少女にかけて二振りは去っていった。
****
「あ、消えた」
「ん? 何がだ?」
「ううん、何でもない。あ! もっと右!」
「俺は刺すための道具なんだけどなぁ」
そう言って槍を握る手を伸ばして指示通り動かす。そして何かが引っかかった感触を確認してそれをゆっくり引っ張り上げた。人型に象られた半紙。梵字が入り混じった人型の半紙を槍を持った男には全てを読み取ることは出来なかったが、人の心臓に当たる場所に【返】の文字が大きく書かれていたことは分かった。
「なんだこれ」
「新しい術式。初めてだったけど上手くつくれたなぁ」
「へー。何に使う予定なんだ?」
「ううん。もうお役ごめんになっちゃったから燃やす。このまま飛んで行っちゃってたら面倒くさいことになってたよ。ありがとう御手杵」
「おー。燃やすなら焚き火焚くんだろ? 焼き芋食いたい」
「いいねぇ。台所から盗んできてよ」
「俺の図体じゃすぐ見つかるから主が行ってくれよ」
「主人をアゴで使うとは……」
そう言いつつもコソコソと身体を縮ませて台所の裏口へ歩いていった黒髪の女。長身で緑のジャージを着た男は持っててと頼まれた半紙をぼんやりと眺める。
「【返】すって。何をカエスつもりだったんだ?」
まあいいか。火の準備するか、と長身の男は足を動かした。わざわざ焚き火で焼いてこの世から消し去るくらいの強い術を作った事に少しの疑問を持ったが、主が心配ないと判断したのなら大丈夫なのだろう。今は焼き芋食いたい。腹減った。
「カエされた方はたまったもんじゃなかっただろうなぁ」
どうでもいいけど。