鬼さんどちら
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退屈だ
主に頼まれ祟られた人の子の護衛をして五日。大和守と青江、鶴丸と同田貫のペアで護衛を回している。最初の交代で主自身も呪いに掛かったと聞いて頭が痛くなったが、主の側には厚がいる。それに適当な理由をつけて警備も厚くしていた。万が一の可能性もないだろう。そもそもそこいらの妖に後れを取る人間ではない。この心配も余計なものになるだろうと鶴丸は心でそう呟く。
「ああっくそ、何で俺がこんな事を……」
「そう嘆くな同田貫。主は俺たちだからこの任を命じたのだろう」
同田貫を宥めつつも内心は同意した。人の子は愛おしい。弱さも儚さも健気に生きる力強さも欲に溺れる姿さえも。それらは鶴丸の人生においての甘味だ。不可欠といっていいかもしれない。しかしそれでも愛の比重は自分を喚んだあの人間に大きく傾くのだ。心配はいらないと分かっていてもどうしても、頭にちらついてしまうのだ。それは隣の同田貫も同じだろう。戦事を求める同田貫だが人との関わりが深かった刀だったためか人の脆さをよく知っている。あの少女を見捨てることは出来ないだろう。そして同田貫自身が豪胆で真摯な刀だ。だからこそ、口では文句を述べながらも任務を全うしている。
「いつもは一振、稀に二振しか付けない主がどうやって護衛を増やしたか聞きたくはないか?」
「興味ねえ」
「らっきーあいてむだそうだ」
「…………」
「『今月の運勢は最悪! 一歩あるけば鳩の糞、二歩あるけば交通事故! 貴女の上だけ雨が振るかも! そんな貴女におすすめなラッキーアイテムは鉄製の棒! たくさん持ち歩くと運勢向上☆──らしいから今月は護衛増やすね』と皆の前で言ったらしい」
「………それを信じたヤツはいたのか」
「半数弱は信じたらしいぞ」
自分の主の適当さ加減かそれを信じた半数ほどの同朋にかは定かではないが同田貫にとてつもない疲労感が襲う。因みにこの話を青江から聞いた鶴丸は膝を叩いて笑い尽くしたのだが性格の違いだろう。そもそも刀が鉄製の棒扱いでいいのか。
「ああ……気ぃ抜ける」
「そのくらいが丁度いいさ」
くつくつと喉を鳴らす鶴丸に舌打ちを返す同田貫。ジジイが、と悪態まで返した。
その時だった。
「おまえたちか、あの小娘に付き回っているのは」
影から現れた額に四針の縫い目のある妖。鶴丸、同田貫よりも二回りは縦にも横にも大きい。真横に引かれたような目と歪に曲がる口元はどこか薄気味悪かった。
軸足を返しながら刀を抜き、背後に切りかかる鶴丸と同田貫。大きい身体と比例して動きは鈍い。二本の斬撃が妖に襲いかかった。
──しかし、
「………写し身か」
チッと舌打ちをして鶴丸と背中合わせに構える。斬撃で二つに切り裂かれた妖には感触がなく、妖の身体は霧のようにして消えていった。気配は感じるがどこにいるかは掴めない。青江を連れてくるべきだったかと少しの愚痴を漏らし、感覚を研ぎ澄ませる。背後の鶴丸よりかは、同田貫のほうが偵察は得意だ。
「分かるか同田貫」
「………いない」
「どういうことだ」
鶴丸が柳眉を潜め、短くそう訊ねる。それに答えたのは同田貫ではなく妖だった。
「ああそうだ。ここに居るのは私の影だ」
「……そう遠くに飛ばせるものではないだろう。元を絶てばこの退屈な護衛役も終えられる」
「あの小娘が名を呼んだ人間の式神か? これまた上等な霊力の持ち主のようだ」
──喰ったら旨いのだろうな、
下品な笑いと共に投げかけられた言葉は途中で区切られた。鶴丸が自分の影に刀を突き刺したからである。
「格の違いも分からないのかい?」
感情の色を全て切り落とした鶴丸の言葉に遠くに身を潜めていた妖は身体が切り刻まれているかのような感覚に陥った。そして理解した。まさしく格が違うのだと。
そしてやっと身に降りてきた恐怖。なんだこれは。何故こんなモノが人に従っている。
「主に仇なすモノを切るのが俺たちの役目でな」
何故こんなモノを従える。
「見逃す気はねえぞ。地獄まで逃げようが叩っ切る」
何故、物に宿った魂がここまで力を得ている。
「呪う相手を間違えたな」
何故、付喪神が神格を得ているのだ
「あいつの敵は俺たちの敵だ」
その瞬間、影と繋がっていた妖の意識が途絶えた。
「──あ、茶柱」
「良かったね主」
「よしよし、幸せのおすそ分けをしよう。はい半分こ」
「じゃあ僕のおやつも半分こ」
「大和守はいい子だねえ」