番外編
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「田沼くんの霊媒体質の改善を考えています」
名前は本日の近侍である石切丸にはい、と手を挙げて訊ねた。石切丸は「宿題はいいのかい?」と朗らかに名前に言った。図星を刺されてむっ、と口を結んでヘナヘナと書斎机に頬をぺたっと引っ付けた。
「宿題難しいんだもん」
「主の為のものだよ。何事も一歩ずつ、だよ」
「分かってますぅ……でも息抜きも大事!」
「はは、そうだね。ではお茶の時間にしよう」
石切丸はゆったりと立ち上がって書斎室から出て行った。名前はペンをクルクル回しながら先ほど述べた田沼の体質について思い出していた。田沼は妖怪の妖気にあてられやすい。恐らく生まれ持ったものだろう。
子供のときから悩まされているもの。名前は子供のときから審神者をやっている。それは自分の使命だと徐々に受け入れた。自分の意識、決意で変わったそれとは違い、田沼のは意識どうこうといった問題ではない。田沼が妖怪を見ることが出来たら避けることも出来るだろうが、田沼は感じる力があるだけだ。
「むー」
「主、入るぞ」
「はいどうぞ」
入ってきたのは膝丸だった。膝丸は肘をついてペンを回す名前を見て眉を寄せた。
「行儀が悪いぞ、主」
「はーい」
「普段の行動は癖になってしまう。日々気をつけなければならない」
「はい」
「君は俺達の惣領なのだから」
「はい。ところで用事?」
ストップをかけないときっとまだ続いていた。膝丸はいつも礼儀正しくシャンとしている。名前に対しては刀剣の主人としての心構えを求めている。それは自分の刀としての誇り高い心からきているものだ。なら名前はそれを真正面から受け取る必要がある。……が、やはり人間なので怠惰になってしまうことがあるのはご愛嬌である。
名前の質問に膝丸は「そうだ。熟した柿を見つけたのだ。共に食べようと思って」と笑ってお盆の上の切られた柿を見せた。つられて名前も笑顔になる。真面目で礼節に厳しい、だけじゃないのが膝丸なのだ。何だったら兄の髭切に名を忘れられたら「泣いてはいないぞ」と強く主張して落ち込む可愛げのあるところもある。
「む? 近侍の石切丸はどうした?」
「ちょうどお茶を煎れてくれてるの。あっ、帰ってきた」
「おや膝丸さん。どうした……柿かい。熟れていて美味しそうだね」
「ああ。三人で食べよう」
横長のテーブルに座る。名前の真向かいに二振りが座った。ピックで柿を差して食べると瑞々しさと甘味が口に広がった。
「ん~美味しい」
「うん。美味しいね」
「俺の目利きが良かったのだな」
「ありがとう膝丸」
お礼を言うと膝丸は照れたように頬を緩めた。
柿を食べてお茶を飲んで一服。そういえば石切丸は神刀で、膝丸は主を熱で悩ました妖怪を斬ったことがある。田沼のことを相談するのはいいのではないかと思い「あのさ」と口を開く。
「田沼くんの妖力にあてられやすい体質ってどうにかならないかな?」
「田沼……主の級友か」
「確かに心配だね。あの少年は結構休んでいるのを見かける」
「そうなんだよね。守の陣を書いたらいいんだろうけど絶対無理だし」
田沼は名前の正体を知らないし、守の陣は心臓の上に書くのが一番効く。だがどうやって書けばいいんだ。裸になってなんて絶対に言えない。
「御守りを渡すのはどうかい?」
「うん。それもいいけど……定期的に交換する必要があるよね」
「そうだね。効力は永続しないからね」
「男子のクラスメートに定期的に御守りを渡す女子。……どう思う?」
「主が恋慕しているようだな」
「あ、そっち? なんか怪しいかなって思ったんだけど」
確かに部活をしている恋人に御守りを渡しているクラスの友達がいた。名前も田沼に同じ事をしたらそんな風に見えるかも知れない。別に構わないが、何度もあげる方がネックだと思った。
「匿名の御守り……」
「物凄く怪しいな。俺ならお炊き上げをする」
「燃やしちゃうかぁ」
「彼は寺の子供だからしないかもしれないよ?」
「どっちにしろ怪しいから持ち歩いてくれなさそう……」
八方塞がりだ。どうしたもんか。名前が頭をひねっていると膝丸が「簡単な方法がある」と言った。
「なに?」
「主と契ればいい。主は霊力の塊のような存在だからその伴侶なら縁が繋がり、その恩恵がもらえて妖力にあてられることがなくなるだろう」
「私の旦那さんってそんな恩恵あるの?」
「神格持ちの刀剣をこれだけ従えているからね。主は一種のパワースポットみたいなものだよ」
「動くパワースポットか…………いやいや、結婚って簡単な方法じゃないでしょ」
流すところだった。あまりにも膝丸が涼しい顔でいうものだから「あ、そうなんだ~」と名前もなっていた。石切丸もツッコミを入れないしどうなっている。そう聞くと「そろそろ旦那さんを見つける年頃になっただろう?」と朗らかな顔で言われて名前は渋い顔になった。
「あのね、現代では16で旦那さんを探さないの。滅多なことでは」
「でも君は恋仲の男もいないではないか」
「だって好きな人できたことないんだもん」
「結婚してから育む愛というものもあるだろう。結果的に仲つむまじくなれたらいいんじゃないか?」
「そりゃあお見合い結婚とかあるけどそれも何度か顔合わせしてから決めるものでしょう」
ダメだ。この話題を続けたら16にして「早く結婚しろ」と言われ続ける。平安時代の刀はこれだから。そう思い「宿題しよ~」とわざとらしく言うと膝丸はため息をついて、石切丸は苦笑した。
「田沼はどうするんだ」
「妖力にあてられてたら祓ってあげることにした」
「対症療法だね。まあそれがいいかもしれないね」
それから名前は田沼が体調を悪そうにしていたら拍手して祓って回った。それで田沼の早退などは減ったのだが「名字は虫を見つけるの得意だな」と田沼に言われて苦笑いすることになる。