鬼さんどちら
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これは酷いねえ
にまりと笑った口元を押さえ、目を細める白装束を纏う男。その反応にうえ……とげんなりしながら襟を正す。そして左鎖骨の下を押さえ、息をついた。
桃の木の下で倒れていた女生徒と出会った翌日─その早朝。制服に着替えていると鏡越しに写った自分の胸元に【壱】の文字を発見した。途端に奇声を上げて家のモノを沸かせたのはとりあえず置いておき、今にも部屋に飛び込んで来そうな数振を宥めてこの白装束の男だけ入れたのだが、
「名封じの呪いだね。それも飛びっきり強いものだ。十単位で死ぬんじゃないかな」
「名封じ……あーそう言えば名前呼ばれたな」
「それだったら禁じられたのは他者の名だね。なかなかえげつないやり方だねぇ」
「昨日風呂に叩き投げられたのは無駄だったのか……」
「太郎くんそういうところ大ざっぱだからね」
禊ぎと称して家につくなり風呂場へ投げられた黒髪の女。数名湯に浸かっていたのにお構いなしの行動だった。
「昨日から和泉守が顔合わせてくれないんだけど。骨折り損にも程がある」
「若いねぇ。……まあそれはそうとして、僕も君にその印を見せてもらうまで気づかなかったくらいだからね。中々力のある妖だ」
「どうしたらいい」
「元を絶つのが合理的かな」
善は急げと腰を上げた黒髪の女。しかし「まだ無理だけどねぇ」という白装束の男の言葉にズルッと足を滑らせた。
「……なんで」
「それは花で云うとまだ芽が出ていない種が植え付けられた状態だよ。その状態で相手の妖力を追うのは至難の業だ。その癖、相手は主の力を察知出来るんだから延々といたちごっこをすることになってしまうよ」
「ええ……なに私しぬの……遺書かく……?」
「そんな事させるわけないだろう。その印は云わばマーキングだ。呪殺じゃなくて、獲物の位置を知らせるものだからそれ自体に効力はないよ」
だから太郎くんも気づかなかったんだろうね、と畳にへばった女の頭を撫でながら言葉を続ける白装束の男。
「主を食べにくる妖を叩けばいいんだ。簡単だよ」
「餌で釣ります作戦か」
「そういうこと」
ここに別のモノ、特に忠義に厚いモノがいたら「主をおとりにする策など認められるか!」と激怒するのだが幸い女の部屋にいるのは白装束の男と女の支度を手伝い、後ろに控えていた短髪の少年だけだ。
「それなら大将を守るのがオレたち守り刀の役目ってわけだな!」
「頼りにしとるよ厚」
「まあつまりいつも通りってことだよね」
厚、と呼ばれた少年は「任せとけ!」と張り切った様子でドンと胸を叩く。
「あ、でも昨日言ってた女の護衛はどうしたらいいんだ? 大将が狙われるならオレたちは大将を優先するぞ」
「うーん、ねえ青江。この件を昨日護衛を頼んだ君たちを含めた五振以外に伝えたらどうなるかな?」
「呪いは元を絶つのが手っ取り早いからねぇ。多分祟られたその女の子を殺した方がいいって言う刀も出てくるんじゃないかな」
「よし。主は呪われてなんかいません作戦でいこう。同田貫と鶴丸付けてるから大丈夫大丈夫。印さえ見られなかったら分からない分からない」
障害は全て叩き切る精神は刀として誉めるべきかどうか。いや、誉めたら色々終わるな、と遠い目をする黒髪の女。この件が終わったら小言どころじゃないだろうが自分の刀が異形のモノ以外を切るのはいただけない。出来れば早々に事を片付けたいのだが、
「さあて、何日かかるか」
かくれんぼの開始だ。
──果たしてどちらが鬼なのか、