鬼さんどちら
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不月神のお付きと対峙していたときだった。
「こんにちは名取さん」
「!?」
横からにょきっと鬼の面を被った者が乱入してきた。着物の裾に手を入れたまま気安く乱入してきた者はえいや、となにかを唱えて不月神のお付き達を一掃した。どこかに追い払ったらしい。
「…………名前ちゃんはここで何をやってるんだい?」
登場からあっという間にお付き達を追っ払った名前に何ともいえない気持ちを持ちながらそう訊ねると、肩をすくめて面を上にあげた。
「ある子と話し合いにきたんですけどちょっとタイミングが掴めなくて。名取さんがいたのでちょうどいいから相談を」
「私は忙しいのだけど」
「こっちもタイミングが悪かった……」
しょんぼり肩を落とす名前に若干の罪悪感が募るが忙しいのは事実。封印された豊月神を探さなくてはならないのだ。
「探し物があってね」
「それって何系です?」
「何系……封印された神格の妖だよ」
「うーん……じゃあこっちかな」
裾から出した式紙を出して呪を唱えるとピンと張って空に浮いた。
「案内してくれますよ」
「……なにか対価が必要かな?」
「結構ですよ。早く行ってあげてください」
手を振って動きを促す名前に礼を行って別れた。式紙は迷い無く飛んでいく。川の周辺まで飛んでいきひとつの大木までやってきた。大きな根っこの部分でくるくる回る。そこを覗くと手のひらに収まるくらいの石を発見した。これが封印された豊月神か。
「発見したか」
ニャンコ先生も合流し、手元の石を見つめる。
「間違いない。わずかに妖力を感じる。夏目なら封印がとけるだろう。いくぞ」
頷いて夏目の下へ走る。木々を抜けて宴会場になっている広場まで戻ると妖達が何かざわめいているのに気づく。その中心を見つめると不月神と夏目が向き合っているのが視界に入った。一瞬にして焦燥感が募る。ニャンコ先生が間に入ってるうちに夏目に石を渡す。夏目は手のひらに石を握りしめ力を加えた。その瞬間、石から光が漏れ始める。豊月神が復活した。
「夏目!」
夏目はその場から崩れ落ちる。抱えると顔が青白くなった夏目を地面に横たえた。息は問題なくしているようで安堵の息をついた。
「夏目くん大丈夫ですか?」
「名前ちゃん」
鬼の面をしたままの名前が夏目の顔を覗き込む。
「知り合いなのかい?」
「同級生です。こないだ初めて話しましたけど」
「……君のことは?」
「知りませんよ。教える気もないですし」
淡々と答える名前にそうだろうなと内心で同意する。彼女が背負うものはそれほどに重い。
「不月神達が騒がしいですね。豊月神が説得してるみたいですけど」
「説得できればいいが……」
「まあそのときは実力公使でさっさと逃げちゃいましょ。私の刀達もいますし」
軽い口調でそう言って夏目の頭を撫でる。
「祭りはこれで終わりですね」
その声はどこかもの寂しく聞こえた。
「主」
空に登っていく豊月神、不月神の一行を見ていると背後から声がかかった。よく知ったその声は気まずげな音をしている。
「不動」
どう伝えていこうか。名前は悩んだ。終わってしまった月分祭のように、力のなくなった豊月神のように、きっと自分もいつか生の終わりを迎えることになるだろう。ずっと一緒にと望んだことは嘘じゃない。しかしそのときが来たら嘘になってしまうかもしれない。不動はそれを恐れている。力無くして前の主君をなくしたことが根幹にある彼は失うことに敏感だ。
「話をしよう、不動。納得できるかは分からない。でも分かり合える機会を不意にしたくない」
それで少しでも君の心に寄り添えたら。そう願う心を諦めたくはない。
「……平行線になるかもしれない」
「それでも向き合い続けないといけない。私はあなたの主だから」
「ダメ刀でもか」
「私の刀にダメ刀はいないけど、それでもだよ」
「…………そうかよ」
泣き笑いのような笑みを浮かべ、不動は口を開いた。