シロツメクサ
夢小説設定
生まれが諜報を生業にした家だった。それに何をどう思ったかは一周回ったり二週回ったりと色々考えてまあ落ち着いた。南雲は幼少期から達観していた。南雲家。諜報の名家。
それに対して暗殺家業の名家である北条家とは相互利益、共存共栄、持ちつ持たれつ、ギブアンドテイク……いわゆるビジネスパートナーといった関係だった。それが古くから続いているのだからしがらみやら何やらが付随してくる。それに北条は基本的にイかれている。まず直系一族に生まれた者には名前がない。数字で呼ばれるのだ。牧場の羊のような扱いだが、その理由としてはそれはもう簡単に任務で死んでいく。ただそれだけ。子は7つまで神の子になぞらえたという昔の風習を自分勝手にねじまげて罰当たりな風習として扱う。いわゆる一人前にしか名前は与えられないのだ。
後に18番と呼ばれる少女と南雲は出会う。4歳くらいのときだった。彼女は池で釣りをしながら「いや~うちってポンポン死んでいくからさぁ」と軽い口調で言われた。ポンポンは生まれる方が効果音としてあってない? と感慨もなく言うとのん気に「確かに~」と言って彼女は「じゃんじゃか死んでいく」と言いかえた。ちょっと愉快に聞こえるのはどうかと思った。
その18番。何かと雑だった。よくいえば大ざっぱで気分屋。自分のきょうだい1~17番(穴ぬけあり)に絡まれて、それ自体はどうでもいいと思っているくせに「そういえば星座占いが11番目だった」という理由で軽くノして人間ジェンガをし始めた。星座占いは12番目はワンポイントアドバイスがあるのに11番目はそれがないのが許せないとのこと。「与市も抜いていいよ」と誘われて適当に身体の長い2番を引いたら人間ジェンガが一気に崩れて、泣かれた。
「なんで泣くの~? どうでもいいと思ってるくせに」
「積むという行為はときめきが生まれてしまうの。それは恋に似てるの。そっと重ねていくものなの。与市は恋泥棒」
「あらら奪っちゃった~」
ぐすりと鼻を鳴らしながら八つ当たりに2番をけり飛ばした彼女は「なんかあきた」そう言って山の方へくるりと回って歩いて行くので着いていく。
「ナマエは恋とかもう知ってるの?」
「ナマエってだれ」
「ん」
南雲が18番を指さすと18番もといナマエは口をポカンとした。
「私まだ一人前じゃないはず」
「別にいつかなるからよくないー?」
「たしかに。私は番号振られた中じゃ最強だからね」
平然とそう言って「ナマエ。ナマエかあ」と呟くナマエ。心なしか声色が明るい。それに心を弾ませながら「ナマエ」と呼ぶとナマエは「なに与市」と笑った。笑った顔が好きだなと思った。
「恋は分かる?」
「わからん。支障もない」
「えーずる」
「ずるいってなんで」
「僕ばっかりナマエのこと好きでずるい」
そう言うとナマエは「ああ?」と片眉を上げてからしばらくして首を傾げて考えて、「私も割と与市のこと好きくない?」と言った。
「割とってなに。ちゃんと愛情しめして~」
じゃれついてしれっと抱きつく。同い年だけどもう既に南雲の方が身体は大きい。それに少しの心地よさを感じながら頭に顔を寄せた。ふんわり柔らかい。
「南雲と北条の家から生まれた子なら最強だよ」
「たしかに?」
「うんうん。そしてとびきり仲良しの僕達がくっつけば両家は安泰」
「ふんふん」
「僕は入り婿でも気にしないよ」
「そうなんだ」
「そうなんだよ。だからナマエ、結婚しよ」
「おとといきやがれ」
その言葉に一瞬にしてショックを受けて固まっていると、ナマエは「あれ? 違うな。なんだっけ」とこめかみをマイペースにぽりぽりかいている。
「その日を待ってるわ~をなんかいい感じの言い換えて?」
「楽しみにお待ちしております?」
「それでした」
ナマエはへらへら笑って南雲の頭を触った。
「南雲ナマエか北条与市になるのを楽しみにお待ちしております」
片手で数えられる歳だった。それでもナマエの言葉で一生分の幸せを感じたのだ。
それが崩れたのは数年後。北条家が殺連の標的になり総攻撃を受けた。
ナマエと与市は北条の広大な屋敷が見える山の中で遊んでいたから燃えさかる屋敷が悠々と見えた。それを固まってみる南雲とは正反対にナマエはいつもの調子で「父さんなんかしくったかなぁ」とボヤいていた。そして武器の脇差しを抜いて歩き出した。
その腕を掴む。強い強い力で掴む。ナマエは止まってくれたけど、瞳はそうは言ってくれなかった。ナマエはくるりと体勢を崩して南雲の腕から離れてそのまま素早く南雲の首に何かを刺した。それが分かったときは南雲は地に伏せていた。
「な、に刺したの……」
「一日は動けない薬。もうすぐ眠くなるよ」
「僕も、行く」
「南雲家も共倒れになるから無理」
「ナマエ、は別に北条に……執着も未練もない、でしょ」
「まあないけどさぁ最近弟と妹が生まれたらしいから。通算21人きょうだいだよ私。父さんは妾を作りすぎだね」
「僕と生きるより、顔も知らない、弟達を選ぶの」
「…………」
かすみ始めた視界。ナマエは口を閉じて何かうんうん考えている。それはいつもの光景なのに、背後の炎が安心させてはくれなかった。
「うーん? たしかに与市のが大事なんだよね。なんで行こうとしてるんだろ」
死地に向かう人間の言葉にしては軽々しくて南雲は舌を打った。僕の方が大事って分かってるくせに。じゃあなんで。そんな気持ちが激しく流れてくる。
「僕を選んで」
お願いだから。
その言葉は暗くなりかけた視界と共に消えていった。
「あーなるほどなるほど。分かったよ与市。なんで行こうとしてるか」
そんなナマエの能天気な声を最後に。
起きたときには炎はなく、北条の屋敷も黒く崩れ落ちていた。生存者はいなかった。
***
南雲は十四になってJCCに入学した。諜報課を専攻して無難に授業をこなす日々。それの繰り返し。ぼんやりと敷地内を歩いていたら水色の頭と白い頭に挟まれた小さいのが目に入った。その小さいのは水色に頭をグリグリされていて、それに逃れるように南雲の方を向いた。
「…………は?」
「あ、与市。久しぶり」
「………………」
成長しているけどそれはどこからどう見てもナマエで。そう認識した瞬間に腕が伸びていた。ナマエの首に。
「殺す」
「えっ」
「生きてたの黙ってたから殺す」
「感動の再会のはずだった」
坂本~リオン~お助け~とのん気に言うナマエにムカついて、頭に血が上って、イライラして、でも南雲はナマエに骨の髄まで心とか気持ちとか全部持っていかれているので、首に回ってた手を背中に持っていって、ぎゅううううと抱きしめた。
ナマエには揃いのタトゥーをいれることで一旦許した。ツバメのタトゥー。幸運、安全、愛、家庭の幸せ。諸々意味のこもったそれにナマエは「暗殺業で安全祈願するの?」と不思議そうな顔でタトゥーをいれられていた。
それに対して暗殺家業の名家である北条家とは相互利益、共存共栄、持ちつ持たれつ、ギブアンドテイク……いわゆるビジネスパートナーといった関係だった。それが古くから続いているのだからしがらみやら何やらが付随してくる。それに北条は基本的にイかれている。まず直系一族に生まれた者には名前がない。数字で呼ばれるのだ。牧場の羊のような扱いだが、その理由としてはそれはもう簡単に任務で死んでいく。ただそれだけ。子は7つまで神の子になぞらえたという昔の風習を自分勝手にねじまげて罰当たりな風習として扱う。いわゆる一人前にしか名前は与えられないのだ。
後に18番と呼ばれる少女と南雲は出会う。4歳くらいのときだった。彼女は池で釣りをしながら「いや~うちってポンポン死んでいくからさぁ」と軽い口調で言われた。ポンポンは生まれる方が効果音としてあってない? と感慨もなく言うとのん気に「確かに~」と言って彼女は「じゃんじゃか死んでいく」と言いかえた。ちょっと愉快に聞こえるのはどうかと思った。
その18番。何かと雑だった。よくいえば大ざっぱで気分屋。自分のきょうだい1~17番(穴ぬけあり)に絡まれて、それ自体はどうでもいいと思っているくせに「そういえば星座占いが11番目だった」という理由で軽くノして人間ジェンガをし始めた。星座占いは12番目はワンポイントアドバイスがあるのに11番目はそれがないのが許せないとのこと。「与市も抜いていいよ」と誘われて適当に身体の長い2番を引いたら人間ジェンガが一気に崩れて、泣かれた。
「なんで泣くの~? どうでもいいと思ってるくせに」
「積むという行為はときめきが生まれてしまうの。それは恋に似てるの。そっと重ねていくものなの。与市は恋泥棒」
「あらら奪っちゃった~」
ぐすりと鼻を鳴らしながら八つ当たりに2番をけり飛ばした彼女は「なんかあきた」そう言って山の方へくるりと回って歩いて行くので着いていく。
「ナマエは恋とかもう知ってるの?」
「ナマエってだれ」
「ん」
南雲が18番を指さすと18番もといナマエは口をポカンとした。
「私まだ一人前じゃないはず」
「別にいつかなるからよくないー?」
「たしかに。私は番号振られた中じゃ最強だからね」
平然とそう言って「ナマエ。ナマエかあ」と呟くナマエ。心なしか声色が明るい。それに心を弾ませながら「ナマエ」と呼ぶとナマエは「なに与市」と笑った。笑った顔が好きだなと思った。
「恋は分かる?」
「わからん。支障もない」
「えーずる」
「ずるいってなんで」
「僕ばっかりナマエのこと好きでずるい」
そう言うとナマエは「ああ?」と片眉を上げてからしばらくして首を傾げて考えて、「私も割と与市のこと好きくない?」と言った。
「割とってなに。ちゃんと愛情しめして~」
じゃれついてしれっと抱きつく。同い年だけどもう既に南雲の方が身体は大きい。それに少しの心地よさを感じながら頭に顔を寄せた。ふんわり柔らかい。
「南雲と北条の家から生まれた子なら最強だよ」
「たしかに?」
「うんうん。そしてとびきり仲良しの僕達がくっつけば両家は安泰」
「ふんふん」
「僕は入り婿でも気にしないよ」
「そうなんだ」
「そうなんだよ。だからナマエ、結婚しよ」
「おとといきやがれ」
その言葉に一瞬にしてショックを受けて固まっていると、ナマエは「あれ? 違うな。なんだっけ」とこめかみをマイペースにぽりぽりかいている。
「その日を待ってるわ~をなんかいい感じの言い換えて?」
「楽しみにお待ちしております?」
「それでした」
ナマエはへらへら笑って南雲の頭を触った。
「南雲ナマエか北条与市になるのを楽しみにお待ちしております」
片手で数えられる歳だった。それでもナマエの言葉で一生分の幸せを感じたのだ。
それが崩れたのは数年後。北条家が殺連の標的になり総攻撃を受けた。
ナマエと与市は北条の広大な屋敷が見える山の中で遊んでいたから燃えさかる屋敷が悠々と見えた。それを固まってみる南雲とは正反対にナマエはいつもの調子で「父さんなんかしくったかなぁ」とボヤいていた。そして武器の脇差しを抜いて歩き出した。
その腕を掴む。強い強い力で掴む。ナマエは止まってくれたけど、瞳はそうは言ってくれなかった。ナマエはくるりと体勢を崩して南雲の腕から離れてそのまま素早く南雲の首に何かを刺した。それが分かったときは南雲は地に伏せていた。
「な、に刺したの……」
「一日は動けない薬。もうすぐ眠くなるよ」
「僕も、行く」
「南雲家も共倒れになるから無理」
「ナマエ、は別に北条に……執着も未練もない、でしょ」
「まあないけどさぁ最近弟と妹が生まれたらしいから。通算21人きょうだいだよ私。父さんは妾を作りすぎだね」
「僕と生きるより、顔も知らない、弟達を選ぶの」
「…………」
かすみ始めた視界。ナマエは口を閉じて何かうんうん考えている。それはいつもの光景なのに、背後の炎が安心させてはくれなかった。
「うーん? たしかに与市のが大事なんだよね。なんで行こうとしてるんだろ」
死地に向かう人間の言葉にしては軽々しくて南雲は舌を打った。僕の方が大事って分かってるくせに。じゃあなんで。そんな気持ちが激しく流れてくる。
「僕を選んで」
お願いだから。
その言葉は暗くなりかけた視界と共に消えていった。
「あーなるほどなるほど。分かったよ与市。なんで行こうとしてるか」
そんなナマエの能天気な声を最後に。
起きたときには炎はなく、北条の屋敷も黒く崩れ落ちていた。生存者はいなかった。
***
南雲は十四になってJCCに入学した。諜報課を専攻して無難に授業をこなす日々。それの繰り返し。ぼんやりと敷地内を歩いていたら水色の頭と白い頭に挟まれた小さいのが目に入った。その小さいのは水色に頭をグリグリされていて、それに逃れるように南雲の方を向いた。
「…………は?」
「あ、与市。久しぶり」
「………………」
成長しているけどそれはどこからどう見てもナマエで。そう認識した瞬間に腕が伸びていた。ナマエの首に。
「殺す」
「えっ」
「生きてたの黙ってたから殺す」
「感動の再会のはずだった」
坂本~リオン~お助け~とのん気に言うナマエにムカついて、頭に血が上って、イライラして、でも南雲はナマエに骨の髄まで心とか気持ちとか全部持っていかれているので、首に回ってた手を背中に持っていって、ぎゅううううと抱きしめた。
ナマエには揃いのタトゥーをいれることで一旦許した。ツバメのタトゥー。幸運、安全、愛、家庭の幸せ。諸々意味のこもったそれにナマエは「暗殺業で安全祈願するの?」と不思議そうな顔でタトゥーをいれられていた。