この世界の端っこで
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ナマエを医者に診せた結果、身体の衰弱はないが記憶の方が飛んでいる。ポケモン事故の可能性大と診断された。ポケモンのことは頭からすっぽり抜けているが、幸いなことに日常生活(衣食住)のことは分かるらしい。会話していて思ったが会話はきちんと出来ていたのでその心配はしていなかった。そのままキバナが後見人の申し出をし、ナマエの面倒をみることにした。ナマエは記憶喪失じゃないと主張しているらしいからあまり刺激しないようにと医者から注意があった。
ナマエが検査をしている間にジムトレーナーのヒトミに連絡をとって女物の衣類や必需品を買ってきてもらって、キバナの家へ運んでもらっていた。つまりキバナは最初からナマエの面倒をみるつもりだったのだ。最初は政府の施設に預ける気満々だったのだが、空を飛んでいる最中の出来事で気が変わった。
『…………』
『なんだ海が怖いか?』
首を傾けて空を見上げるナマエにそう訊ねるとナマエは首を振って空に手を伸ばした。
『空が近い。すごいね。こんなに空が身近にいるのはじめて!』
振り返ったナマエは子どものように笑っていた。瞳と口を弧を描いてただ喜ぶ。空を飛ぶこと。それはアーマーガアタクシーがあるガラルでは普通のこと。それなのにあまりにナマエが楽しそうにするからキバナはもっとこの顔が見たいと思った。ポケモンを知らないナマエに、自分が教えてやりたいと思った。
ポケモン博士やブリーダーなんかはこんな気持ちになるのかと思いつつ、検査が終わってラッキーをガン見して「ピンクの悪魔に似てる……」と失礼なことをボヤいていたナマエを回収する。再び抱き上げるとナマエが「キバナ? キバナさん?」とキバナを見上げた。
「キバナでいいぜ。なんだ」
「じゃあキバナ。あのー必ずお金返しますので靴がほしいです」
「あ? ……ああそう言えば裸足か」
そういえばそうだったと自分で納得してそのままナマエを運ぶ。そしてふと思う。ナマエを運ぶのが普通になっている。この短時間で。なんでだ? そう不思議に思いながら病院を後にしてフライゴンを出した。
「フライモン!」
「フライゴンだ」
鎧の孤島から乗ってきただけあってフライゴンには慣れたらしい。空を飛べるのが楽しいのもあるだろう。乗せて乗せてと視線で訴えてくるナマエに笑いながら一緒に乗った。そして浮上する。
「わあっ」
前のめりになるナマエの腹に手を回してキバナと身体をくっつけさせる。特に抵抗なく……どころかナマエは背もたれにするようにキバナに身体を預けた。警戒心死んでるなコイツ。
「ナマエ、お前いくつだ」
「19。キバナは?」
「23だ」
「へー」
妙齢の女(記憶喪失)が初対面の男に対して全くの無警戒。記憶ごと警戒心落としてきたのか。そんなことを言うとナマエは失敬な! と声を上げた。
「あの野生動物島で拾ってくれて病院連れて行ってくれる相手に警戒しようがないでしょうが」
「あー……確かに?」
だけど小鳥の刷り込みみたいではある。
「ナマエはあの島にいつからいたんだ」
「一週間。死ぬかと思った」
「よく死ななかったよ」
「おやっさんとわんこがいてくれなかったら死んでた」
ガルーラは自分の子どもに対しては温厚だがそれ以外にはそうでもない。ナマエは本当に運がよかった。懐に入ったナマエの熱にふっと息を吐く。本当によかった。
ブティックについてナマエを抱き上げたまま入る。「どこのセレブだ?」というナマエの言葉に笑いながら「何にしますかお嬢様?」と言うとナマエは渋い顔をしたので余計に笑いに誘われる。
「キバナさんいらっしゃ……恋人?」
「訳あって世話してる」
「了解しました。その女性の服など見繕えばいいんですか?」
「服は用意してる。靴は履いてみないとな」
話が早い店員で助かる。余計なことを聞いてこないところも。
「え? 服? 服用意してくれたの?」
「ないと困るだろう。トレーナーにジャージしか着てないんだから」
「これ寝巻きなんだよね。ってえ? お金ないです……」
「お前には国から補助金出るから気にするな」
まだ住民カードも発行してないし、申請もしてないから完全にキバナのお金なのだが言う必要はないだろう。
「親切な国だね」
「国? どの地方でもお前みたいな境遇の奴は同じ対応されるぜ」
「優しい世界……だったら強制サバイバルしてないな」
ふと我に返ったナマエに苦笑してブティック内の靴エリアに行く。そこのイスに座らせる。砂埃まみれだったので病院で軽くシャワーを浴びていた為にナマエは服以外はさっぱりしている。とりあえずスニーカーとヒールのあるサンダルでいいか。靴のサイズを聞いて合わせやすいものを選ぶ。ついでに服も。ノースリーブのニットに細身の黒のパンツを渡して着替えさせた。うん。似合っている。
「女の服選ぶのに慣れておる……」
「イイ男の嗜みだろう?」
ウインクして言うと「私もウインクしたほうがいい?」とどういう気の回し方か両目をつむりながら言われて笑ってしまう。ウインク出来ていない。
「キバナ、ありがとう」
「おう」
紙袋を持ってお礼を言ってくれるナマエの頭を撫でてフライゴンを出そうとするが、ナマエが道を覚えるなら空を飛ぶより歩いた方がいいと考え直した。
「オレの家行くぞ。落ちつくまではオレの家だ」
「助かるけど恋人とかいないの?」
「いたら引き受けてねーよ」
「そりゃそうか。うーん、住み込みの仕事探さないと」
家に着いてもいないのに既に出て行く話をしているナマエに何故かムッとなり「お前、ポケモンの事も字も読めないから就職絶望的だぞ」と言う。
「まじか」
「まじだ。だから最初は字覚えてからじゃねーとな。明日は役所で手続きだ」
「世界違ってもやっぱり役所で手続きなんだねぇ」
「おう。……世界違っても?」
「あ? あの医者言ってないの? 私、違う世界から来たんだよ」
「…………」
あまり刺激しないようにとは言われていたが、その割にはナマエの態度が錯乱しているようには見えなかった。
「……ポケモンのいない世界か?」
「うん。ワンコっぽい犬はいたけど岩投げたりしないし、完全に別物だね」
いやー困ったわーと緩く話すナマエの両肩を掴んで顔を寄せる。
「お前それ誰にも言うな」
「え? なんで?」
「別世界の存在は歴史上示唆されてきた。そういうポケモンもいる。伝説って呼ばれるポケモンだけどな。だけどその当事者が現代にいるってなると大騒ぎになる。大騒ぎだけならいい。悪辣な奴に知れたら浚われたり、下手したら研究材料になる」
だから絶対に言うな。
真剣な目で言うと伝わったらしい。ナマエは神妙な顔で頷いた。頷いて、笑った。
「第一村人がキバナでよかった」
「あ?」
「だってこんなに心配してくれる優しい人に出会えて私ラッキーだよ。ありがとキバナ」
へらりと笑うナマエにコイツのん気だな……会ったのがオレでよかったと心から思いながらも顔はゆるみ、「おう」と返した。
ナマエが検査をしている間にジムトレーナーのヒトミに連絡をとって女物の衣類や必需品を買ってきてもらって、キバナの家へ運んでもらっていた。つまりキバナは最初からナマエの面倒をみるつもりだったのだ。最初は政府の施設に預ける気満々だったのだが、空を飛んでいる最中の出来事で気が変わった。
『…………』
『なんだ海が怖いか?』
首を傾けて空を見上げるナマエにそう訊ねるとナマエは首を振って空に手を伸ばした。
『空が近い。すごいね。こんなに空が身近にいるのはじめて!』
振り返ったナマエは子どものように笑っていた。瞳と口を弧を描いてただ喜ぶ。空を飛ぶこと。それはアーマーガアタクシーがあるガラルでは普通のこと。それなのにあまりにナマエが楽しそうにするからキバナはもっとこの顔が見たいと思った。ポケモンを知らないナマエに、自分が教えてやりたいと思った。
ポケモン博士やブリーダーなんかはこんな気持ちになるのかと思いつつ、検査が終わってラッキーをガン見して「ピンクの悪魔に似てる……」と失礼なことをボヤいていたナマエを回収する。再び抱き上げるとナマエが「キバナ? キバナさん?」とキバナを見上げた。
「キバナでいいぜ。なんだ」
「じゃあキバナ。あのー必ずお金返しますので靴がほしいです」
「あ? ……ああそう言えば裸足か」
そういえばそうだったと自分で納得してそのままナマエを運ぶ。そしてふと思う。ナマエを運ぶのが普通になっている。この短時間で。なんでだ? そう不思議に思いながら病院を後にしてフライゴンを出した。
「フライモン!」
「フライゴンだ」
鎧の孤島から乗ってきただけあってフライゴンには慣れたらしい。空を飛べるのが楽しいのもあるだろう。乗せて乗せてと視線で訴えてくるナマエに笑いながら一緒に乗った。そして浮上する。
「わあっ」
前のめりになるナマエの腹に手を回してキバナと身体をくっつけさせる。特に抵抗なく……どころかナマエは背もたれにするようにキバナに身体を預けた。警戒心死んでるなコイツ。
「ナマエ、お前いくつだ」
「19。キバナは?」
「23だ」
「へー」
妙齢の女(記憶喪失)が初対面の男に対して全くの無警戒。記憶ごと警戒心落としてきたのか。そんなことを言うとナマエは失敬な! と声を上げた。
「あの野生動物島で拾ってくれて病院連れて行ってくれる相手に警戒しようがないでしょうが」
「あー……確かに?」
だけど小鳥の刷り込みみたいではある。
「ナマエはあの島にいつからいたんだ」
「一週間。死ぬかと思った」
「よく死ななかったよ」
「おやっさんとわんこがいてくれなかったら死んでた」
ガルーラは自分の子どもに対しては温厚だがそれ以外にはそうでもない。ナマエは本当に運がよかった。懐に入ったナマエの熱にふっと息を吐く。本当によかった。
ブティックについてナマエを抱き上げたまま入る。「どこのセレブだ?」というナマエの言葉に笑いながら「何にしますかお嬢様?」と言うとナマエは渋い顔をしたので余計に笑いに誘われる。
「キバナさんいらっしゃ……恋人?」
「訳あって世話してる」
「了解しました。その女性の服など見繕えばいいんですか?」
「服は用意してる。靴は履いてみないとな」
話が早い店員で助かる。余計なことを聞いてこないところも。
「え? 服? 服用意してくれたの?」
「ないと困るだろう。トレーナーにジャージしか着てないんだから」
「これ寝巻きなんだよね。ってえ? お金ないです……」
「お前には国から補助金出るから気にするな」
まだ住民カードも発行してないし、申請もしてないから完全にキバナのお金なのだが言う必要はないだろう。
「親切な国だね」
「国? どの地方でもお前みたいな境遇の奴は同じ対応されるぜ」
「優しい世界……だったら強制サバイバルしてないな」
ふと我に返ったナマエに苦笑してブティック内の靴エリアに行く。そこのイスに座らせる。砂埃まみれだったので病院で軽くシャワーを浴びていた為にナマエは服以外はさっぱりしている。とりあえずスニーカーとヒールのあるサンダルでいいか。靴のサイズを聞いて合わせやすいものを選ぶ。ついでに服も。ノースリーブのニットに細身の黒のパンツを渡して着替えさせた。うん。似合っている。
「女の服選ぶのに慣れておる……」
「イイ男の嗜みだろう?」
ウインクして言うと「私もウインクしたほうがいい?」とどういう気の回し方か両目をつむりながら言われて笑ってしまう。ウインク出来ていない。
「キバナ、ありがとう」
「おう」
紙袋を持ってお礼を言ってくれるナマエの頭を撫でてフライゴンを出そうとするが、ナマエが道を覚えるなら空を飛ぶより歩いた方がいいと考え直した。
「オレの家行くぞ。落ちつくまではオレの家だ」
「助かるけど恋人とかいないの?」
「いたら引き受けてねーよ」
「そりゃそうか。うーん、住み込みの仕事探さないと」
家に着いてもいないのに既に出て行く話をしているナマエに何故かムッとなり「お前、ポケモンの事も字も読めないから就職絶望的だぞ」と言う。
「まじか」
「まじだ。だから最初は字覚えてからじゃねーとな。明日は役所で手続きだ」
「世界違ってもやっぱり役所で手続きなんだねぇ」
「おう。……世界違っても?」
「あ? あの医者言ってないの? 私、違う世界から来たんだよ」
「…………」
あまり刺激しないようにとは言われていたが、その割にはナマエの態度が錯乱しているようには見えなかった。
「……ポケモンのいない世界か?」
「うん。ワンコっぽい犬はいたけど岩投げたりしないし、完全に別物だね」
いやー困ったわーと緩く話すナマエの両肩を掴んで顔を寄せる。
「お前それ誰にも言うな」
「え? なんで?」
「別世界の存在は歴史上示唆されてきた。そういうポケモンもいる。伝説って呼ばれるポケモンだけどな。だけどその当事者が現代にいるってなると大騒ぎになる。大騒ぎだけならいい。悪辣な奴に知れたら浚われたり、下手したら研究材料になる」
だから絶対に言うな。
真剣な目で言うと伝わったらしい。ナマエは神妙な顔で頷いた。頷いて、笑った。
「第一村人がキバナでよかった」
「あ?」
「だってこんなに心配してくれる優しい人に出会えて私ラッキーだよ。ありがとキバナ」
へらりと笑うナマエにコイツのん気だな……会ったのがオレでよかったと心から思いながらも顔はゆるみ、「おう」と返した。