いとしさからくる病
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仲直りした日。あの時に想いも通じ合ったと馨は思っていた。海デート(その他大勢と共に)もしたしメールだって頻繁にしている。電話はナマエが緊張するからといって五回しかしたことないが、理由が理由なのでかわいいなぁと思いながら納得していて不満はなかった。
某般若先輩からは「恋人がいるとなると売上に影響が出るだろうな」と笑顔で牽制されたので学校内で二人きりで会うのは避けていた。光やハルヒと共に昼休みを過ごすのは不満など一切なかった。だって皆好きだし。そんな単純な理由だったが、ナマエもいつも楽しそうだった。かわいいなぁとそこでも馨は呑気な感想を浮かべて穏やかな日々を過ごしていた。
が、馨は最近ある疑念を抱いていた。
「光……」
「なぁに」
「ナマエって僕の彼女……だよね?」
「…………多分」
二人の視線の先には「ハルちゃん! ハルちゃん!」とハルヒの接客を受けているナマエ。顔を赤らめ喜色の笑みを全面に出していて何とも幸せそうだ。まるで恋をしているような、そんな顔だった。
「…………」
あれ、なんかおかしいぞ? と思い始めたのは三週間前。
『ナマエ、今度の日曜日にデートしようよ』
『!! で、っ、ぁ……』
顔を真っ赤にして口をパクパクさせるナマエ。ああもう、僕も緊張してるのにナマエはもう、と馨も内心ドキドキしていた。デートという言葉だけでこんなに照れて恥ずかしがる彼女。慣れてないんだ。それはそうだ。だってナマエの初恋は馨なのだから。馨の初恋もナマエ。これ運命じゃないの? と普段のリアリストぶりを引っ込め、顔がカッコ悪く緩みそうになるのをおさえて控えめな笑みをナマエに向ける。
『水族館行かない? ナマエ、動物好きでしょ?』
『好き! イルカショーにマンボウ!』
イルカショーの次に出てくるのがマンボウなのが割と意味が分からなかったが馨にとってはかわいい彼女の要望なので「マンボウも見ようね」と優しく言った。余談だが鏡夜や光から「ナマエは普通にアホ」と口を挟まれていたが、馨は一切気にしてなかった。愛すべき個性だと思っている。それにナマエは馨と同じクラスになるべく一生懸命勉強してると聞いて普通にときめいた。「家柄だったら100パーAクラスなのにナマエどんだけアホなの」と光が余計なことを言ったが後ろ手で尻をつねって黙らせた。
と、まあ馨はナマエと上手くいってると思っていたのだ。
『じゃあハルちゃんと光くんにも連絡しないとね!』
『ん?』
『ハルちゃんが水族館に行っても「魚美味しそう」とか言っちゃうかもだから楽しめるプラン考えておく!』
『う、うん?』
ハルヒのドライっぷりをよく分かってるなと思いつつ、あれ? デートなんだけどな? と同時に思ったがナマエがほこほこ嬉しそうな顔をするのでまあいいかと納得した。みんなで行くのも楽しいしね。そんなことを考えて。
後に遊園地も映画もショッピングも四人で行くことになるとはそのときの馨は知らなかった。
「…………」
「馨、馨。顔」
光に言われるが胡乱気な目は止まらない。視線の先はハルヒのテーブルについているナマエ。ニコニコニコニコと凄く楽しそうな、ナマエ。馨の彼女のはずの、ナマエ。
光と馨は双子でセットの接客するが、客からの要望があれば1対1の接客もする。ナマエにも言っておいた。ナマエも「そうなんだねぇ」と返してきたのでちゃんと理解しているはず。それなのにナマエが指名するのはハルヒ。馨はただの一度も指名されたことはなかった。
「名字さん、あんなに楽しそうになされて」
「ハルヒくんが大好きなのね。ふふっなんだか見ているとあたたかい気持ちになるわ」
「…………」
よそのテーブルから聞こえてくる客の声に口端がひきつった。その子、僕の彼女。客には言えないことを言いそうになった。
「……光」
「……なに」
「今日は先に帰ってて」
「……りょーかい」
ポンポンと肩を叩く片割れに察しが早くて助かると思いつつ、あと少しの部活の時間が過ぎるのを待った。
****
鏡夜にナマエへの伝言を頼み、音楽室で待っていてもらった。鏡夜とは幼なじみなのでそれはもう疑いもせずにナマエは音楽室のピアノを片手で軽くひきながらのんびりと待っていた。
「ナマエ」
「! 馨くん。部活お疲れさま」
ピアノをひくのを止めてバッと馨の方へ顔を向けるナマエ。頬が赤らんでいて、馨がいることにドキドキしているのが分かって、やっぱりかわいいと思った。……でも今日はそれだけではいけない。ハッキリさせなければ。
「ナマエ」
「はいっ」
「ナマエと僕はどんな関係?」
そう訊ねて数秒、ナマエは固まった。そしてボフンと音がするように顔全体が真っ赤になった。
「ど、どんなって……!」
両手で頬を押さえるナマエ。心なしか目もうるうるなっていて、身長の差から上目遣いになっていて、反射的にかわいいと思ったが、グッとおさえた。ここでナマエかわいいを繰り返していたら先に進めない。
「ナマエ? 教えて?」
優しく聞こえるように言う。同時に願うように心で唱えた。恋人って言って、と。
「…………こ、恋人、です……」
ガッツポーズしそうになった。
ナマエは僕の恋人。確定した。喜びで全世界の人間に「名字ナマエは常陸院馨の彼女」って言いたくなったが我慢して次に進める。
「じゃあ何で二人きりでデートはなしなの? あと、指名もハルヒしかしないのは何で?」
「……私の独りよがりなのですが、」
「うん」
「もしも私と馨くんがつ、つき合っているって知られてしまったら、ホスト部に影響がでるかなって思ったの」
それは鏡夜からも言われている。だから馨はバレないように細心の注意を払うつもりだった。なんだ、そこを気にしてくれたのか。だったら大丈夫だよと伝えよう。心配させてごめんねと言おう。そう口を開こうとしたら先にナマエが口を開いた。
「ホスト部は馨くんにとって大事な場所だから、笑顔でいられる人達と一緒にいられる場所だから、」
「っ、」
「私も大事にしたいなって思ったの」
だから今まで通りがいいのかなって思って。そう微笑みながら続けるナマエに腕が勝手に伸びていた。すぽんと馨の腕の中におさまるナマエをギュッと抱きしめる。ナマエは「ひょ」と奇声を短く上げていたが知ったことではなかった。
「ナマエ」
「はいぃ!」
「ありがとう」
好きな子が馨の大切なものを大切だと分かってくれていた。一緒に守ろうとしてくれていた。なんだろうか。このこみ上げてくる気持ちは。今はまだ分からないけど凄く嬉しくてたまらなかった。
「ナマエ、ありがとう。でもね、僕もちゃんと考えてるから」
「…………」
「桜蘭生が行かないような場所でデートしよう。今度は二人きりで」
「…………」
「? ナマエ?」
返答がないのでナマエの顔をのぞき込んだら顔を真っ赤にして目をクルクル回して気絶していた。
「!? ナマエーッ!!」
音楽室に残っていた鏡夜に「こいつは恋愛初心者マークが三つはついている」と釘を刺され、別の日にハルヒを指名しまくっていた理由を後に聞くと、
「友だちとお話できるのが楽しくて」
照れ照れした顔でそう言われた。……ハルヒもライバルか? 一瞬その考えが頭によぎった。
某般若先輩からは「恋人がいるとなると売上に影響が出るだろうな」と笑顔で牽制されたので学校内で二人きりで会うのは避けていた。光やハルヒと共に昼休みを過ごすのは不満など一切なかった。だって皆好きだし。そんな単純な理由だったが、ナマエもいつも楽しそうだった。かわいいなぁとそこでも馨は呑気な感想を浮かべて穏やかな日々を過ごしていた。
が、馨は最近ある疑念を抱いていた。
「光……」
「なぁに」
「ナマエって僕の彼女……だよね?」
「…………多分」
二人の視線の先には「ハルちゃん! ハルちゃん!」とハルヒの接客を受けているナマエ。顔を赤らめ喜色の笑みを全面に出していて何とも幸せそうだ。まるで恋をしているような、そんな顔だった。
「…………」
あれ、なんかおかしいぞ? と思い始めたのは三週間前。
『ナマエ、今度の日曜日にデートしようよ』
『!! で、っ、ぁ……』
顔を真っ赤にして口をパクパクさせるナマエ。ああもう、僕も緊張してるのにナマエはもう、と馨も内心ドキドキしていた。デートという言葉だけでこんなに照れて恥ずかしがる彼女。慣れてないんだ。それはそうだ。だってナマエの初恋は馨なのだから。馨の初恋もナマエ。これ運命じゃないの? と普段のリアリストぶりを引っ込め、顔がカッコ悪く緩みそうになるのをおさえて控えめな笑みをナマエに向ける。
『水族館行かない? ナマエ、動物好きでしょ?』
『好き! イルカショーにマンボウ!』
イルカショーの次に出てくるのがマンボウなのが割と意味が分からなかったが馨にとってはかわいい彼女の要望なので「マンボウも見ようね」と優しく言った。余談だが鏡夜や光から「ナマエは普通にアホ」と口を挟まれていたが、馨は一切気にしてなかった。愛すべき個性だと思っている。それにナマエは馨と同じクラスになるべく一生懸命勉強してると聞いて普通にときめいた。「家柄だったら100パーAクラスなのにナマエどんだけアホなの」と光が余計なことを言ったが後ろ手で尻をつねって黙らせた。
と、まあ馨はナマエと上手くいってると思っていたのだ。
『じゃあハルちゃんと光くんにも連絡しないとね!』
『ん?』
『ハルちゃんが水族館に行っても「魚美味しそう」とか言っちゃうかもだから楽しめるプラン考えておく!』
『う、うん?』
ハルヒのドライっぷりをよく分かってるなと思いつつ、あれ? デートなんだけどな? と同時に思ったがナマエがほこほこ嬉しそうな顔をするのでまあいいかと納得した。みんなで行くのも楽しいしね。そんなことを考えて。
後に遊園地も映画もショッピングも四人で行くことになるとはそのときの馨は知らなかった。
「…………」
「馨、馨。顔」
光に言われるが胡乱気な目は止まらない。視線の先はハルヒのテーブルについているナマエ。ニコニコニコニコと凄く楽しそうな、ナマエ。馨の彼女のはずの、ナマエ。
光と馨は双子でセットの接客するが、客からの要望があれば1対1の接客もする。ナマエにも言っておいた。ナマエも「そうなんだねぇ」と返してきたのでちゃんと理解しているはず。それなのにナマエが指名するのはハルヒ。馨はただの一度も指名されたことはなかった。
「名字さん、あんなに楽しそうになされて」
「ハルヒくんが大好きなのね。ふふっなんだか見ているとあたたかい気持ちになるわ」
「…………」
よそのテーブルから聞こえてくる客の声に口端がひきつった。その子、僕の彼女。客には言えないことを言いそうになった。
「……光」
「……なに」
「今日は先に帰ってて」
「……りょーかい」
ポンポンと肩を叩く片割れに察しが早くて助かると思いつつ、あと少しの部活の時間が過ぎるのを待った。
****
鏡夜にナマエへの伝言を頼み、音楽室で待っていてもらった。鏡夜とは幼なじみなのでそれはもう疑いもせずにナマエは音楽室のピアノを片手で軽くひきながらのんびりと待っていた。
「ナマエ」
「! 馨くん。部活お疲れさま」
ピアノをひくのを止めてバッと馨の方へ顔を向けるナマエ。頬が赤らんでいて、馨がいることにドキドキしているのが分かって、やっぱりかわいいと思った。……でも今日はそれだけではいけない。ハッキリさせなければ。
「ナマエ」
「はいっ」
「ナマエと僕はどんな関係?」
そう訊ねて数秒、ナマエは固まった。そしてボフンと音がするように顔全体が真っ赤になった。
「ど、どんなって……!」
両手で頬を押さえるナマエ。心なしか目もうるうるなっていて、身長の差から上目遣いになっていて、反射的にかわいいと思ったが、グッとおさえた。ここでナマエかわいいを繰り返していたら先に進めない。
「ナマエ? 教えて?」
優しく聞こえるように言う。同時に願うように心で唱えた。恋人って言って、と。
「…………こ、恋人、です……」
ガッツポーズしそうになった。
ナマエは僕の恋人。確定した。喜びで全世界の人間に「名字ナマエは常陸院馨の彼女」って言いたくなったが我慢して次に進める。
「じゃあ何で二人きりでデートはなしなの? あと、指名もハルヒしかしないのは何で?」
「……私の独りよがりなのですが、」
「うん」
「もしも私と馨くんがつ、つき合っているって知られてしまったら、ホスト部に影響がでるかなって思ったの」
それは鏡夜からも言われている。だから馨はバレないように細心の注意を払うつもりだった。なんだ、そこを気にしてくれたのか。だったら大丈夫だよと伝えよう。心配させてごめんねと言おう。そう口を開こうとしたら先にナマエが口を開いた。
「ホスト部は馨くんにとって大事な場所だから、笑顔でいられる人達と一緒にいられる場所だから、」
「っ、」
「私も大事にしたいなって思ったの」
だから今まで通りがいいのかなって思って。そう微笑みながら続けるナマエに腕が勝手に伸びていた。すぽんと馨の腕の中におさまるナマエをギュッと抱きしめる。ナマエは「ひょ」と奇声を短く上げていたが知ったことではなかった。
「ナマエ」
「はいぃ!」
「ありがとう」
好きな子が馨の大切なものを大切だと分かってくれていた。一緒に守ろうとしてくれていた。なんだろうか。このこみ上げてくる気持ちは。今はまだ分からないけど凄く嬉しくてたまらなかった。
「ナマエ、ありがとう。でもね、僕もちゃんと考えてるから」
「…………」
「桜蘭生が行かないような場所でデートしよう。今度は二人きりで」
「…………」
「? ナマエ?」
返答がないのでナマエの顔をのぞき込んだら顔を真っ赤にして目をクルクル回して気絶していた。
「!? ナマエーッ!!」
音楽室に残っていた鏡夜に「こいつは恋愛初心者マークが三つはついている」と釘を刺され、別の日にハルヒを指名しまくっていた理由を後に聞くと、
「友だちとお話できるのが楽しくて」
照れ照れした顔でそう言われた。……ハルヒもライバルか? 一瞬その考えが頭によぎった。
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