春うららか
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「あいつの奥さんにもあいつの非道さ伝えてあげないと」
霧江はそう言って迷いない足取りでさくら診療所に向かった。なんでナマエの事を、居場所を知っているのか疑問に思った。復讐相手のことを調べ上げたのだろうか。ナマエは霧江を逆上させるようなことは言わないだろうが、念の為神楽もついていった。
さくら診療所のチャイムを鳴らして出てきたのはナマエだった。
「あれ神楽ちゃん。友達と遊びに来たの?」
霧江は驚いていた。沖田の奥さんの名前と職業と沖田と共に暮らす家は分かっていたが、顔までは知らなかったからだ。温厚そうな普通の人だ。あの殺人鬼の妻とは思えない。そう思った。
「名前教えてくれる?」
「ろ、六角霧江……」
「霧江ちゃんね。霧江ちゃん、神楽ちゃん。鼻がいいね。美味しいとこのバームクーヘンもらったんだよ」
一緒に食べよっか。沖田ナマエはそう言って笑った。
「紅茶凝り性の宵風いないから紅茶の味落ちてごめんねぇ」
「貧乏舌にはそんな違い分からねーって銀ちゃんいってたネ」
「悲しいことを子供の前で堂々と言うなよあの馬鹿兄貴。霧江ちゃん遠慮しないで食べてね」
霧江は返事をしてからバームクーヘンをフォークで刺して口に運ぶ。控えめな甘さが口に広がって少しだけ頬がほころんだ。
「うちジェンガと人生ゲームくらいしかないけど遊ぶ?」
「しょっぱい家アルな。お誕生日会に誘われたらハズレって言われるヨ」
「あらら。じゃあ子供出来たときはちゃんと遊び道具与えてあげないと」
「ナマエ、結婚だけじゃなくて子作りもする気か。とんでもないMだったアルね。あいつとの子供なんかろくでもないドS産まれるだけヨ」
「さっちゃんと一緒はやめてください。そうなんだよ、どうやってドSの遺伝子撲滅させるか悩んでるの」
子供。沖田総悟との子供。家族。
霧江は沖田によって家族を奪われたのに、沖田は自分の家族を持っている。未来の話が出来る。カッと頭に熱が上がって立ち上がった。
「そんなの絶対許さない!」
「霧江ちゃん?」
「私の家族を……父を殺しておいてあいつは幸せになるなんて許せるわけがない!」
沖田ナマエは霧江の言葉に眉を下げた。この人にこんな事を言うのは間違っている。でも口が止まらなかった。
「あいつ……沖田総悟は父の仇だ!!」
「……霧江ちゃんのお父さんは何故亡くなったの?」
霧江は語った。父は何の罪もない一般人だと。攘夷浪士と真選組との斬り合いに巻き込まれて死んだのだと。それなのに沖田は覚えてすらなかった。その上、戦場に巻き込まれたノロマな父が悪いと言い放った。
「あいつは……もう……」
沖田ナマエは言葉が出ないのか額に手を当てていた。でも落胆したとか軽蔑の色は見えない。なんで。霧江の問いが聞こえたかのように沖田ナマエは霧江と向き合った。
「総悟がそう言ったんだね?」
「そ……そうよ」
「じゃあそれが真実なんだよ。あなたはあいつを恨んでいい。恨んで当たり前」
「ナマエ!」
神楽の呼びかけにナマエはそっと微笑むだけだった。
「いくらでも復讐したらいい。その覚悟はあいつは持っている」
夫を斬り捨てるような言葉。沖田ナマエは霧江の味方をしているように聞こえる。霧江を労る目をしている。それなのにどうしてか沖田を信じてると言っているように見えた。
***
六角屋のガキにチャイナ娘と共に廃屋の柱に結ばれて身動きがとれない状態。敵は沖田のエサに真選組を釣ろうとしているのだろう。さてどうするか。うんこ漏らしたふりでもして脱出するかと沖田が考えていたときだった。
「スペシャルゲストの登場よ」
創界党の天堂蒼達がそう言って連れてきたのは……
「人殺しの夫を持つと苦労するのね」
「…………」
ナマエだった。
途端に瞳孔が開くのが分かった。
「ふふ、どうしてやりましょうかね。拷問してもいいし、まわしてもいいかもしれな「触るな」……は?」
「俺の女に触るんじゃねェ」
蒼達はピキリと固まる。いや、蒼達だけじゃない。にやついていた周りの攘夷浪士達もだ。
「ナマエに危害を加えてみろ。地獄なんてもんじゃねェ。それすら生ぬりィ。生き地獄ってやつを教えてやるよ」
蒼達は震えていた。ピクリとも身体が動かない。殺気。相手は縄で動けないと分かっているのに、もしこの女に手を出したらどんな手を使っても沖田は自分たちを殺しにくる。それが身を持って知った。
「えいっ」
「あっ」
だから沖田の嫁が蒼達から刀を奪って沖田に投げるのを止められなかった。
「イイコだナマエ」
「犬みたいに言うな」
縄から抜け出した沖田が刀を向けてくる。動け。動かなければ蒼達は死ぬ。それなのに動けなかった。
「俺は貸しは返す主義でねィ」
沖田は笑った。ニッコリと。
「俺の女に手ェ出して楽に逝けると思うな」
****
「始末書の山で家に帰れない夫に妻からの差し入れですよー」
「……中身は」
ナマエはパカッと重箱の一番上を開けた。そこには色とりどりのおかずが入っている。
「……宵風のじゃねーな」
卵焼きの端っこが少し焦げている。
「私が作ったやつ。神山さんもよかったらどうぞ」
「ありがとうございます!」
「てめーにはやらねェ。全部俺のだ」
「お茶淹れてきますね! 奥様の分も!」
「おい聞けよ」
「沖田隊長! 久しぶりの奥さんだからって一発ハッスルしたら駄目ですよ~!」
「もうお前本当に黙ってくんない」
永遠に。
その願いは叶わず神山は「いってきます!」と軽い足取りで出て行った。
「ふっ、なんか総悟と神山さんいいよね。噛み合ってなくて」
「普通逆だろィ」
ナマエの膝に頭を置く。ずっとここにいてーな。そう思ってたら優しく頭を撫でられた。
「言う暇なかったから今になったけど、助けてくれてありがとうね」
「当たり前のことで礼なんざいらねェ」
「当たり前のことに礼を言わない不義理な女にさせないで」
てめーの惚れた女を守る。男ならどんなに遺伝子ねじ曲げようがやり遂げる当たり前のこと。やり方は人それぞれだろうが。今回の事で言えば巻き込んだのは沖田の方だ。ナマエの肝っ玉は太いが心の方は大丈夫だっただろうか。速攻で始末書の山に突っ込まれたのでそこのケアが出来ていなかった。
「ナマエ、寝れてるか」
「大丈夫。すぐに盛る夫が隣にいないから安眠よ」
「ぜってぇすぐに帰ってやらァ」
「あはは。……霧江ちゃんのお父さんの話、銀時から聞いた」
舌打ちしたくなった。表情に出ていたのだろう。ナマエが「巻き込まれたんだからって教えてくれたの。総悟は言わないだろうからって」と呆れたように言った。
「霧江ちゃんの心を守ろうとしたんだね。偉い偉い」
「ガキ扱いはやめなせェ」
「あえて誰も言わないだろうから妻が褒めてあげるの」
霧江の父親は一般人ではなく攘夷浪士の仲間だった。ただし、家族を人質にとられて仕方なく従うしかなかった男だった。仕方なく真選組に刀を向けて、殺されてしまった男だった。それを事故として隠蔽したのは沖田だ。ただの父親で逝かせてやりたかった。……結局明るみに出てこうして始末書を書いているのだが。
「あなたは自分のことを人殺しだって言うし、それを覆すことはないと思うけど」
「…………」
「女の子の心を守ろうとしたのも事実なんだからね。頑張ったね、おまわりさん」
ナマエの手が沖田の頬を撫でる。心地よくて眠気がくるくらいの優しい手。この手を守れてよかったと思う。
もし、自分が霧江の父親と同じ立場になったらどうしただろうか。家族の為に更に手を汚すのだろうか。
「どっちも守って」
「!」
「今、霧江ちゃんのお父さんの立場だったらって思ったでしょ」
「……嫁ってのはエスパー持ちになるのかねェ」
「歳を重ねるにつれて隠し事出来なくなる予定です」
「そりゃ怖ぇーな」
「ふふ。……どっちも守ってね。沖田ナマエの夫の立場も真選組の沖田総悟の立場も」
「……欲張りだねェ」
「やるでしょう? 沖田総悟だったら」
穏やかな目でとんだ無茶ぶりをしてくる嫁だ。これは一生尻にしかれるな。そう思いつつ「任せなせィ」とナマエに返して、ナマエの首裏に手を回し降りてきた唇と重ねる。柔らかくてあたたかくて愛おしいそれに頬がゆるんだ。
霧江はそう言って迷いない足取りでさくら診療所に向かった。なんでナマエの事を、居場所を知っているのか疑問に思った。復讐相手のことを調べ上げたのだろうか。ナマエは霧江を逆上させるようなことは言わないだろうが、念の為神楽もついていった。
さくら診療所のチャイムを鳴らして出てきたのはナマエだった。
「あれ神楽ちゃん。友達と遊びに来たの?」
霧江は驚いていた。沖田の奥さんの名前と職業と沖田と共に暮らす家は分かっていたが、顔までは知らなかったからだ。温厚そうな普通の人だ。あの殺人鬼の妻とは思えない。そう思った。
「名前教えてくれる?」
「ろ、六角霧江……」
「霧江ちゃんね。霧江ちゃん、神楽ちゃん。鼻がいいね。美味しいとこのバームクーヘンもらったんだよ」
一緒に食べよっか。沖田ナマエはそう言って笑った。
「紅茶凝り性の宵風いないから紅茶の味落ちてごめんねぇ」
「貧乏舌にはそんな違い分からねーって銀ちゃんいってたネ」
「悲しいことを子供の前で堂々と言うなよあの馬鹿兄貴。霧江ちゃん遠慮しないで食べてね」
霧江は返事をしてからバームクーヘンをフォークで刺して口に運ぶ。控えめな甘さが口に広がって少しだけ頬がほころんだ。
「うちジェンガと人生ゲームくらいしかないけど遊ぶ?」
「しょっぱい家アルな。お誕生日会に誘われたらハズレって言われるヨ」
「あらら。じゃあ子供出来たときはちゃんと遊び道具与えてあげないと」
「ナマエ、結婚だけじゃなくて子作りもする気か。とんでもないMだったアルね。あいつとの子供なんかろくでもないドS産まれるだけヨ」
「さっちゃんと一緒はやめてください。そうなんだよ、どうやってドSの遺伝子撲滅させるか悩んでるの」
子供。沖田総悟との子供。家族。
霧江は沖田によって家族を奪われたのに、沖田は自分の家族を持っている。未来の話が出来る。カッと頭に熱が上がって立ち上がった。
「そんなの絶対許さない!」
「霧江ちゃん?」
「私の家族を……父を殺しておいてあいつは幸せになるなんて許せるわけがない!」
沖田ナマエは霧江の言葉に眉を下げた。この人にこんな事を言うのは間違っている。でも口が止まらなかった。
「あいつ……沖田総悟は父の仇だ!!」
「……霧江ちゃんのお父さんは何故亡くなったの?」
霧江は語った。父は何の罪もない一般人だと。攘夷浪士と真選組との斬り合いに巻き込まれて死んだのだと。それなのに沖田は覚えてすらなかった。その上、戦場に巻き込まれたノロマな父が悪いと言い放った。
「あいつは……もう……」
沖田ナマエは言葉が出ないのか額に手を当てていた。でも落胆したとか軽蔑の色は見えない。なんで。霧江の問いが聞こえたかのように沖田ナマエは霧江と向き合った。
「総悟がそう言ったんだね?」
「そ……そうよ」
「じゃあそれが真実なんだよ。あなたはあいつを恨んでいい。恨んで当たり前」
「ナマエ!」
神楽の呼びかけにナマエはそっと微笑むだけだった。
「いくらでも復讐したらいい。その覚悟はあいつは持っている」
夫を斬り捨てるような言葉。沖田ナマエは霧江の味方をしているように聞こえる。霧江を労る目をしている。それなのにどうしてか沖田を信じてると言っているように見えた。
***
六角屋のガキにチャイナ娘と共に廃屋の柱に結ばれて身動きがとれない状態。敵は沖田のエサに真選組を釣ろうとしているのだろう。さてどうするか。うんこ漏らしたふりでもして脱出するかと沖田が考えていたときだった。
「スペシャルゲストの登場よ」
創界党の天堂蒼達がそう言って連れてきたのは……
「人殺しの夫を持つと苦労するのね」
「…………」
ナマエだった。
途端に瞳孔が開くのが分かった。
「ふふ、どうしてやりましょうかね。拷問してもいいし、まわしてもいいかもしれな「触るな」……は?」
「俺の女に触るんじゃねェ」
蒼達はピキリと固まる。いや、蒼達だけじゃない。にやついていた周りの攘夷浪士達もだ。
「ナマエに危害を加えてみろ。地獄なんてもんじゃねェ。それすら生ぬりィ。生き地獄ってやつを教えてやるよ」
蒼達は震えていた。ピクリとも身体が動かない。殺気。相手は縄で動けないと分かっているのに、もしこの女に手を出したらどんな手を使っても沖田は自分たちを殺しにくる。それが身を持って知った。
「えいっ」
「あっ」
だから沖田の嫁が蒼達から刀を奪って沖田に投げるのを止められなかった。
「イイコだナマエ」
「犬みたいに言うな」
縄から抜け出した沖田が刀を向けてくる。動け。動かなければ蒼達は死ぬ。それなのに動けなかった。
「俺は貸しは返す主義でねィ」
沖田は笑った。ニッコリと。
「俺の女に手ェ出して楽に逝けると思うな」
****
「始末書の山で家に帰れない夫に妻からの差し入れですよー」
「……中身は」
ナマエはパカッと重箱の一番上を開けた。そこには色とりどりのおかずが入っている。
「……宵風のじゃねーな」
卵焼きの端っこが少し焦げている。
「私が作ったやつ。神山さんもよかったらどうぞ」
「ありがとうございます!」
「てめーにはやらねェ。全部俺のだ」
「お茶淹れてきますね! 奥様の分も!」
「おい聞けよ」
「沖田隊長! 久しぶりの奥さんだからって一発ハッスルしたら駄目ですよ~!」
「もうお前本当に黙ってくんない」
永遠に。
その願いは叶わず神山は「いってきます!」と軽い足取りで出て行った。
「ふっ、なんか総悟と神山さんいいよね。噛み合ってなくて」
「普通逆だろィ」
ナマエの膝に頭を置く。ずっとここにいてーな。そう思ってたら優しく頭を撫でられた。
「言う暇なかったから今になったけど、助けてくれてありがとうね」
「当たり前のことで礼なんざいらねェ」
「当たり前のことに礼を言わない不義理な女にさせないで」
てめーの惚れた女を守る。男ならどんなに遺伝子ねじ曲げようがやり遂げる当たり前のこと。やり方は人それぞれだろうが。今回の事で言えば巻き込んだのは沖田の方だ。ナマエの肝っ玉は太いが心の方は大丈夫だっただろうか。速攻で始末書の山に突っ込まれたのでそこのケアが出来ていなかった。
「ナマエ、寝れてるか」
「大丈夫。すぐに盛る夫が隣にいないから安眠よ」
「ぜってぇすぐに帰ってやらァ」
「あはは。……霧江ちゃんのお父さんの話、銀時から聞いた」
舌打ちしたくなった。表情に出ていたのだろう。ナマエが「巻き込まれたんだからって教えてくれたの。総悟は言わないだろうからって」と呆れたように言った。
「霧江ちゃんの心を守ろうとしたんだね。偉い偉い」
「ガキ扱いはやめなせェ」
「あえて誰も言わないだろうから妻が褒めてあげるの」
霧江の父親は一般人ではなく攘夷浪士の仲間だった。ただし、家族を人質にとられて仕方なく従うしかなかった男だった。仕方なく真選組に刀を向けて、殺されてしまった男だった。それを事故として隠蔽したのは沖田だ。ただの父親で逝かせてやりたかった。……結局明るみに出てこうして始末書を書いているのだが。
「あなたは自分のことを人殺しだって言うし、それを覆すことはないと思うけど」
「…………」
「女の子の心を守ろうとしたのも事実なんだからね。頑張ったね、おまわりさん」
ナマエの手が沖田の頬を撫でる。心地よくて眠気がくるくらいの優しい手。この手を守れてよかったと思う。
もし、自分が霧江の父親と同じ立場になったらどうしただろうか。家族の為に更に手を汚すのだろうか。
「どっちも守って」
「!」
「今、霧江ちゃんのお父さんの立場だったらって思ったでしょ」
「……嫁ってのはエスパー持ちになるのかねェ」
「歳を重ねるにつれて隠し事出来なくなる予定です」
「そりゃ怖ぇーな」
「ふふ。……どっちも守ってね。沖田ナマエの夫の立場も真選組の沖田総悟の立場も」
「……欲張りだねェ」
「やるでしょう? 沖田総悟だったら」
穏やかな目でとんだ無茶ぶりをしてくる嫁だ。これは一生尻にしかれるな。そう思いつつ「任せなせィ」とナマエに返して、ナマエの首裏に手を回し降りてきた唇と重ねる。柔らかくてあたたかくて愛おしいそれに頬がゆるんだ。