好きを煮詰めた他人のぼくら
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両膝の間に名前を入れて肩にあごを置きお腹に手を回して密着している。癒される。体勢は癒されるのだが、名前のスマホ画面には癒されない。
「ビキニ可愛いよ?」
「ビキニはダメ」
「可愛いのに?」
「可愛いけどダメ。ビキニじゃなくてもかわええのあるやろ」
「ビキニが可愛いの多いんだもん」
むーっと少しすねたような口調の名前はビキニのチェック欄を外して再び検索を始めた。内心ほっと息をつく。ビキニなんて下着と変わらんやろ。女の子に聞かれたら怒られそうなことを思う。こんなの自分の彼女が着てるの容認しとる男すごいわ。隠岐は心から思った。
「うーんビキニなしならワンピースかタンキニかビスチェかなぁ。ショートパンツついてるのも可愛い」
違いが分からない。ワンピースは分かるが。ワンピースでいいんじゃないのか。肌面積が少なそうだ。でも名前はタンキニを見てる。お腹が出てる。ビキニより面積は多いが。
「タンキニもお腹出とるやん」
「これはちょっこっとだよ? レースのトップスとショートパンツ履いたら見えないよ。胸の下のフリル可愛いし。チェック柄好きだしこれ候補1」
「トップスとショートパンツ脱いだらあかんよ?」
「脱いでも可愛いのに?」
「脱がんでも可愛いから」
「たしかにー」
納得してもらえて何より。そしてすいすい操作して色々検索しているのを後ろから眺める。
肌面積が少ないものをお気に入りに入れようとして何とか話をそらしての繰り返しだった。そしていくつもの水着をみた隠岐の感想は。
「ワンピース型かわいいやん」
普通の服と変わらないものが多いワンピース型。圧倒的におすすめだった。まあ背中ががっつり開いていたりするので注意しなくちゃいけないが。
「うんー? なんか水着って感じしなくない?」
それがいいのだが。だからおすすめなんだが。
「孝ちゃん意外とこだわりあるね」
「こだわり言うか……」
ただ見せたくないだけである。これを言って心が狭いと思われても突き通すべきか。悩んで悩んで悩んで。言うことにした。このままでは名前は自分の好きなもの(肌面積大)を買いそうだ。
「名前の身体見せたくないねん。おれ以外に」
「っ」
「あんま口うるさく言いたくないけど嫉妬してまうから。そこは頭に入れとってほしい」
「はい……」
耳が赤くなっている。可愛い。少し身体を乗り出して頬をくっつけた。少しして名前も頬をくっつけてきた。可愛い。幸せだ。
「ワンピース型にする」
「ええの?」
「可愛いのいっぱいあるし孝ちゃんが安心する方が大事」
「ありがとう」
名前が振り返って膝の上に乗っかってぎゅっと抱きついてきた。腰に腕を回す。上から交わる視線。少し瞳が潤んでいる。自然と顔を寄せた。名前はぎゅっと目をつぶった。
柔らかい唇と自分の唇が重なる。ただ重ねただけ。それなのに多幸感がたまらない。少し離してまた重ねる。柔らかい。可愛い。好きや。想いが溢れてくる。ちゅ、ちゅ、としばらく口づけを続けた。終わりを告げたのは名前の隠岐の背中を叩いたのが合図となった。ゆっくり離すと潤んだ瞳と目が合った。またしたくなるような顔をしていて少し困った。
「息の仕方がわかんない……」
本当に悩んでいるような声でいうので笑いが漏れた。可愛いことを言う。キスは初めてだと知っている。知っているが無意識に男を喜ばせるのがうまい。
「これから覚えていこうな?」
「……うん。教えてね?」
「っ、」
本当に隠岐を喜ばせるのがうまい。おれ以外に発揮するのやめてな? そう思いながら再び唇を重ねた。
***
「ひとつは黒ギンガムチェックのパフスリーブのこれね。腰から切り替わってる黒のスカートが可愛いの」
「かわいいなぁ」
「もう一個はピンクの花柄でチュールスリーブのワンピースでね、後ろがバックレースアップで可愛いの」
「かわいいなぁ」
「最後はスクエアネックの青色の花柄ワンピースでこれはショートパンツもついてて可愛いの」
「かわいいなぁ」
「どれも可愛いから悩む~」
どれも肌面積が平和的で隠岐にとっても可愛らしくていい。名前にもどれも似合うだろう。隠岐もにこにこである。
「ん~これはあみだくじにしよう。絶対ずっと悩んじゃう」
名前はスマホをすいすいぽちぽち操作して『あみだくじ動物くん』というアプリを起動させた。そんなのいれとるんかい。えらく可愛く平和的な名前のあみだくじである。
「孝ちゃん、ぞうと馬と猫どれがいい?」
「猫やなぁ」
「よしいけ! 猫ちゃん!」
すると牧歌的な音楽と共に自動で動物たちが動き出す。これは便利そうだ。そして猫がたどり着いたのはAだった。
「ギンガムチェックのやつにする!」
「おー了解。絶対似合うで」
ぽちぽち操作して買い物カゴにいれてそのまま購入画面に向かった。
「購入!」
「お~」
「一週間後だって」
「じゃあデートはそのあとやな」
「スケジュールアプリで合わせよ」
「せやな」
名前は隠岐の予定と同期させてあるスケジュールアプリを起動させる。学校の試験期間や防衛任務、訓練とお互いに重ならない日を探すと三週間後となった。
「楽しみ!」
「なー」
「…………そういえば孝ちゃんも水着だ」
「え? 今さら?」
「えっ、どうしよう。なんか恥ずかしい!」
本当に今さら意識し始めたらしい。顔が赤くなっている。この子はほんとに……と苦笑する。でも小学生のころは平気な顔をしていたのでそれを考えれば成長である。隠岐を男として意識しているという。
「孝ちゃんの水着って上着てない?」
「男のはそうやなぁ」
「…………」
「顔真っ赤やで。名前のえっち」
「!!?」
「うそうそ。逃げんといて」
「うーっ恥ずかしいぃ」
「おれもTシャツ着よか?」
「泳ぎにくくない?」
「別にかまわんで」
「……………お願いします」
「声が真剣すぎるやろ」
これはお互いに裸みせるのは大分あとになるやろうなぁ。名前の肩にあごを乗せながら隠岐はそう思った。
****
「名字ちゃんの水着カワイイな」
「イコさんも似合ってますよ!」
「これボーダーの借りもんやで」
「借り物でも似合う人と似合わない人いますよ!」
「俺はどうなん? 名字ちゃん」
「水上先輩も似合ってます!」
「おおきに」
地下のプールに行く途中でばったり生駒と水上に会ったのが運のつきだった。
「隠岐と名字ちゃんどこいくん?」
「地下のプールで遊ぶんです!」
「プールデートやんけ」
「はい!」
「うらやましい」
「えっ」
「水上、モテる男の観察しよ」
「むなしくなりますよ」
「あと普通に俺もプールで遊びたい」
そんな流れで共に来た。来てしまった。マイペースに押しきられて四人で遊ぶことになった。あとで海と真織もくるらしい。せっかくのデートが……と少し思ったが名前が楽しそうだからまあいいかとなった。でも少しだけ意地悪はすることにした。
「名前」
「うん? ……っ!?」
「水着かわええよ。似合っとる」
「こ、孝ちゃん、今はぎゅってしないで……」
「うん? なんで?」
「だって孝ちゃんTシャツきてない」
「それがなんで駄目なん?」
「~~~~っ!」
ゆでだこちゃんが生まれて満足の隠岐だった。
「だからむなしくなりますよって言ったんすよ」
「それでも遊びたかってん」
「でもむなしいでしょ?」
「むなしい……」