好きを煮詰めた他人のぼくら
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調理実習の日がやってきた。メニューはお家の朝ご飯。塩鮭にお芋と玉ねぎのお味噌汁、白ご飯、だし巻き卵、ひじきの煮物。私が梨食べたい! といったから梨が追加された。メンバーは友達のよっちゃん、烏丸くん、奥寺くん、とっきーだ。いつものメンバー。烏丸くん争奪戦が起きないからこのメンバーになるというのもある。私は孝ちゃんいるし、よっちゃんは性格があっさりしてるからクラスの女の子達の嫉妬の対象にならないのだ。先生もそこで固まってくれと先に言うくらい烏丸くん人気はすごい。「面倒かけてすまん」と謝ってくる烏丸くん。いいんだよとみんなで返した。
「よっちゃん、私このメニュー練習してきたよ!」
「へえ。だったら名前が主力ね」
「一番上手になったのは梨の皮むきと片づけです!」
「烏丸が主力みたいよこの班」
「淀山は違うのか?」
「煮物は簡単だから私がやるわ」
「じゃあ先に米炊くかーオレがやるよ」
「じゃあおれがみそ汁の出汁とるよ」
「とっきー出汁とれるの!? うち顆粒だしだからどうしようかと思ってた!」
「うちは母さんが出汁とる派だから」
とっきーのお母さんすごい。教科書みながらと思ってたけどとっきーは見ないでテキパキやっている。にぼしって頭とお腹とるんだ……。なんで?
その出汁を使って烏丸くんがだし巻き卵をたん、たん、と卵を簡単に巻いて綺麗なだし巻き卵が出来た。ここまでぼーっと見ている私です。
「名前、暇なら煮物の人参切って。小さめの短冊切り」
「短冊切りはばっちりだよ!」
「はいはいよろしく」
「名字それ終わったらみそ汁の玉ねぎ切って。薄切りね」
「とっきー了解!」
「うち鮭焼くときグリル使わねーって言われたんだけど」
「クッキングシートで焼ける」
「まじ? オレなにしたらいい?」
「キッチンペーパーで鮭の水分とってくれ」
「おー了解」
烏丸くんの指示でどんどん料理が完成する。私は補助しかやってないけど。孝ちゃんに選んでもらったエプロンが泣いてる気がする。
「名字は全部終わったら梨むいてくれ」
「まかせて!」
「力まないでやってくれ。怪我したら隠岐先輩が心配する」
「り、了解!」
その姿が簡単に思い浮かんで慎重にやらねば……! と心に誓った。そしてそのときがきた。片手に梨。片手に包丁。
「名字が包丁を縦に持ってるのなんか怖いな……」
「奥寺くん大丈夫! 一番上手に出来たのが梨の皮むきだから!」
「それもそれでどうなんだ」
包丁を動かすんじゃなくて梨を動かすのがポイントだとお母さんに教えてもらった。するする剥いていく。皮が途中で千切れてないのがちょっとテンション上がる。
「梨って包丁じゃなくてピーラーでもむけるよね。自慢にもならない」
「えっ」
後ろからの声に集中を切らしてしまった。あっと思った瞬間ざくりと親指をやってしまった。すぐさま包丁と梨を置いて避難させる。
「梨に血付かなかった!? 大丈夫!?」
「そんなことより切ったところ洗うぞ」
烏丸くんに手を取られて水道に持って行かれる。傷口がびりびりする。痛い。痛いけどやらかしの方が心にきている。やってしまった。
「ごめんなさい~!」
「今のはあんたのせいじゃないでしょ」
「えっ? 私がミスしたんだよ?」
「ミスさせたのは別の人間」
よっちゃんが視線を私の後ろにやる。後ろからガタンと音がした。なんだなんだ。見たいけど烏丸くんが背後にいるから見えない。
「包丁洗っとくぞー」
「名字おれが残り剥いてもいい?」
「奥寺くんありがとうー! とっきーお願いしますー!」
「保健室いくか?」
「絆創膏もってるから大丈夫! でもありがとう烏丸くん!」
傷口をキッチンペーパーで拭いてよっちゃんに絆創膏を巻いてもらった。ちいかわの可愛いやつ。下がったテンションが少し上がる。
ハプニングもあったけどうちの班は出来上がりも早くて見た目もばっちりと花丸をもらった。私ほとんど何もしてないから片づけを頑張った。「確かに片づけ上手だわ」とよっちゃんからお墨付きをもらった。
「鮭ほくほくで美味しい~」
「グリルで焼かなくても美味しいのね」
「グリル洗わなくていいしね」
「面倒だしな。グリル洗うの」
「クッキングシートで焼くからフライパンも綺麗だったしな」
主婦のような会話を班のみんなでしながらご飯を食べた。とても美味でした。
「名前」
「んー?」
「隠岐先輩に怪我した理由ちゃんと言うのよ」
「……料理禁止令でるかな? 可愛いエプロン買ったから料理つくる欲増えてるのに」
「じゃあ私から言っておくわ」
「よっちゃんから?」
「名前から言ったら偏るだろうし」
「偏る?」
「名字、ごめんな」
「なんで烏丸くんが謝るの?」
「俺が原因でもあるから」
「私が怪我した理由に一切関係ないのでは……?」
「あるんだよ」
「全くないよ。私のうっかりだし」
どこに責任を感じているの? と首を傾げていると再び「あるんだよ」と烏丸くんは言った。な、なぜ……?
****
迎えに来てくれた孝ちゃんによっちゃんが怪我の経緯について説明してくれているみたい。みたいと言うのは孝ちゃんに両耳を塞がれているから。「隠岐先輩、名前の両耳塞いでください」と何故かよっちゃんが言ったから。孝ちゃんは迷うことなく私の耳を塞いだ。迷おうよそこは。よっちゃんは孝ちゃんから謎の信頼を得ている。
「なるほどなぁ」
「隠岐先輩すみません」
「烏丸くんのせいちゃうやろ~。気にしたらあかんよ」
「そうよ。つまらない嫉妬したほうの問題」
「せやな。あー名前が飽きてきとるわ。そろそろええやろ」
「そうですね」
「名前もうええで」
「ただいま帰りました?」
「おーおかえり。話はまとまったで」
「どうなりましたか」
「名前はケガ治ってから料理練習しような」
「やった!」
「かわええエプロン買うたしな?」
「そうなんです!」
さすが孝ちゃんわかってる!
せっかくだから孝ちゃんの好物を作りたいけど明石焼きとおでんだ。たこ焼き器がないしおでんは我が家はお家で作ったことがない。どっちもハードルが高い。どうしよう。
「孝ちゃんおでんの具は何が好きですか」
「んー? 大根とタコ」
「タコの扱いが分からない……やつはどうすればいいの……」
「練習してくれるんやろ?」
「うんがんばる!」
「ありがとぉな」
とりあえず帰ったらたこ焼き器ポチろう! ……でも孝ちゃんの方がくるくる回すの上手なんです問題がある。大阪人はたこ焼き作るのがみんな上手。だしで勝負しつつ練習するしかない。
「たこ焼き器買うたら練習付き合うで?」
「!? ばれるの早い!」
「顔が言うとったわぁ」
「内緒でしてびっくりさせたかったのに」
「一緒にやったほうが楽しいやろ」
「……確かに!」
「やろ? お家デートやな」
「お家デート楽しみ」
「なー」
「これ見てたら悩むのも馬鹿らしくなるでしょ烏丸」
「……まあそうだな」
よっちゃんと烏丸くんの話も耳に通らず孝ちゃんとお家デートの話をずっとしていた。可愛いエプロン見せれるし一緒に料理出来るしお家デート最強かもしれない!