好きを煮詰めた他人のぼくら
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「孝ちゃんお土産買いすぎ!」
やっぱり言われた。私服姿の名前を家に招き入れて数秒のことだった。
「お父さん達一周まわって笑ってたよ! “孝二くんやるなぁ”って」
「それはよかったわ」
「よくなーい! 甘やかしすぎです!」
「なんか渡されて嫌なもんあった?」
「む、その言い方卑怯です。孝ちゃんのプレゼントが嫌なわけないの知ってるのに」
「ばれたかー」
ぎゅっと抱きしめてむむっとしてる頬に頬をくっつける。ぷにぷにすべすべで気持ちいい。
「むー。あっ! ペンケース可愛かった!」
「名前好きそうやなーっておもてん」
「好きっさすが孝ちゃん!」
ぎゅうぎゅう抱きついてきてくれた。そのまま抱っこして移動してベッドの上に座る。膝の上に名前を乗せたが普通ににこにこしている。ふたりっきりでベッドの上。意識して緊張した様子はない。まだまだ早いなぁと確認して可愛いほっぺにキスした。
「お菓子の入れ物も可愛くてうさぎの小物入れもすごく好き! 勉強机に置いたよ」
「割れてへんかった?」
「大丈夫だよ。お母さん達にもお土産ありがとう」
「普通の八つ橋やけどな」
「八つ橋好きだから喜んでたよ。ありがとうって言ってた。お返しにご飯のお供持ってきたよ。瓶詰めセットのやつ。すごく美味しい名字家のおすすめです」
「逆に気ぃ使わせてもうたなあ」
「息子にやるもんだからこじゃれたもんじゃなくていいでしょって言ってたから全然気使ってないと思う」
名前の言葉、というより名前の親の言葉に嬉しく思うしなんだかくすぐったい。好きな人の家族に息子と呼ばれるのは幸せなことだ。
「生駒隊のみんなには何買ったの?」
「んー? なんかデカい量のあるやつ」
「急になんか雑」
「どうせ気にせえへんよ。腹に入ったら」
「分かんないよ? “隠岐の気持ちはこんなもんか……”とか言うかも」
「イコさんかあ」
生駒の生態は未だに謎が多いので言い出す気がしないでもない。まあそもそも京都は生駒の地元で大阪は隣なのだから気に入らなかったら帰省したときに自分で買うだろう。水上はお土産に関心があるとは思わないし、海は何でも喜ぶタイプだ。うん。何も問題ない。気を使ったお土産はマリオが用意してるだろうし。
「名前は何か変わったことあった?」
「初日にね、村上先輩と影浦先輩と穂刈先輩と水上先輩が本部一緒に行ってくれたよ。二日目はとっきーとさとけんが。三日目は防衛任務だったから日佐人と。みんな優しくて気を使ってくれたの」
「初日は大所帯やなあ」
「先輩たち圧迫感あるから下駄箱であった同じ委員会の子がびっくりしてた」
「あのメンバーは村上先輩はともかく他が圧あるからなあ」
「村上先輩も無表情だと圧あったよ?」
「ん? めずらしいなあそれ」
「4人並んで無表情だから私もちょっとびくってなったの」
笑いながら名前は言ってるが4人並んで無表情になるのは相当のことがあったからだろう。これは水上に聞かないといけない。頭にメモする。
「あ、そうや名前ちょっとどいてや」
「えーいやー」
「いやーやないの。いいもんあげるから」
「嘘ついたらちゅーね」
「罰になってへんなあ」
ふたりで笑いながら話す。膝の上の子が可愛くて下ろしたくなくなりそうだ。まあ本末転倒なので我慢して腰を掴んでするりと下ろしたが。名前の顔がもうちょっとくっ付いてたいと言ってるのですぐに行動に移す。
ベッドのサイドテーブルの引き出しに入れていたパワーストーンブレスレット。お守りですごく喜んでくれていてうっかり渡すのを忘れていたのだ。
「名前左手貸して?」
「どうぞー」
するりと左手に通す。腕を動かしても引っこ抜けそうにない。ちょうどいいサイズだったようだ。
「えっ可愛い! なにこれ!」
「体験学習で作ってん」
「孝ちゃんがやりたいのにしてって言ったのに……」
「やりたいの選んだで?」
「もおー! うそつきだ! でもありがとうーっ嬉しい!」
再び名前が抱きついてくる。今度は隣同士になってベッドに座った。
「名前は何でも喜んでくれて嬉しいわ」
「孝ちゃんが喜ばせ上手なの。来年の私の修学旅行、覚悟しててね」
「楽しみに待っとく……って言いたいけどまた離れ離れやなあ」
「! まだその話はなしでっ」
ぐりぐり頭を擦り付けてくるので優しく撫でる。三泊四日が長かったのはお互い様だ。本当は昨日帰ってきてから「今日はうちに止まらへん?」と誘ったのだが名前が「孝ちゃん疲れてるからゆっくり休んで!」と満面の笑みで断ったので次の日に会うことになったのだが。ぶっちゃけると防衛任務の方が疲れるし、名前といたほうが癒されたのだが気遣いは無碍にしたくない。
(……よくよく考えたら久しぶりに会って歯止めきかんくなっとったらヤバかったなあ)
ベッドのサイドテーブルの二番目の引き出しに眠るもの。まだ使うには早いだろう。名前が断ってくれてよかった。心から思った。
「あ! 私も孝ちゃんに渡すのあった!」
そういってぱたぱた歩いて鞄から何かを取り出す。
「はいっ三つセットだったから一個あげる」
そう言って渡されたものは……
「なんやっけこの鳥」
「ハシビロコウ」
「めっちゃガンとばしとるけど」
「可愛いでしょ」
言及はさけて目の前にかざす。プラスチックで出来ており、ゴムのリングが繋がっていて、プラスチックのプレートには目つきの鋭い名前曰わくハシビロコウの絵。「誰のものだと思っている」とセリフつきだ。
「これなに?」
「アンブレラマーカー! 傘盗まれ対策!」
「ああ、このゴムのリングに持ち手通すんか」
「そうそう! 目印にもなるよ」
この目つきの悪さはそれは目立つやろうなあ。そう思った。なるほどセリフは傘泥棒に向けてか。これは盗りにくいだろう。
「ほんまにもらってええの?」
「うん! 買うとき三つセットだから孝ちゃんとおそろいにしようって思って」
「ありがとう」
変なおそろいだが名前が喜ぶならそれでいい。忘れないうちに傘につける。心なしか防御力が上がった気がする。
「あと一個は誰かにやるん?」
「うーん、友達のよっちゃんにと思ったけど孝ちゃんと自動的におそろいになると言うことで複雑な気持ちに……」
「やきもち?」
「そうなのです」
「かわええなあ」
幼稚園のときに一緒で小学校で離れて、中学で再会した仲のいい友達相手でも小さなやきもちを妬いてしまうらしい。可愛い。おでこにちゅ、とすると名前はふにゃりと笑う。
「よっちゃんには何か別のおそろいにする」
「せやなあ」
「なにがいいかな。よっちゃんシンプルな物が好きだから私と趣味反対なの」
それだったらハシビロコウは受け取ってもらえなかったんじゃないかと思わないわけでもないが、名前がしょんぼりしそうなことは口にはしない。
修学旅行帰りのオフの日はずっとくっ付いて話をした。ささやかな幸せだったが、こんな日が続けばいいと思った。