好きを煮詰めた他人のぼくら
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ホテルの就寝時間間近。修学旅行中ははぐれた際に連絡したり、マップを見たりなどではスマホは扱っていいが、それ以外はNGとなっていた。まあ素直に従うのもなんなので今日あった事とお休みメッセージは名前に送ったが。本当は電話しようとしたが「名前ちゃんに電話するの隠岐くん」「するで」「愛の告白とかいつもしてる?」「それはするやろ」「電話したら先生にチクるからな」「えっ」と電話は禁止となった。こんなことでスマホを没収されたら名前との連絡手段が絶たれてしまう。泣く泣くメッセージだけにした。
そんなことがありつつ布団を敷いて寝床を整えていたときだった。クラスメート達が話しかけてきた。
「隠岐くん」
「なに?」
「恋バナの時間です」
「名前の可愛いところ目一杯話してええってこと?」
「なんかこいつの恋バナ、ジャンルが違ってそうなんですけど」
「やっぱ寝ててください」
「どこがかわええかいっぱい聞かせたるわ」
「隠岐を布団に入れろ! リア充がくるぞ!」
整えた寝床がぐちゃぐちゃになったところで教師の見回りが来て「はよ寝ろ!」と怒られた。全員が布団に入るのを見守ってから教師は去っていった。
「……隠岐さぁ」
隣の寝床にいるクラスメートが話しかけてくる。
「名前ちゃんのどこが好きなの」
「優しいところ、他人と同じ目線に立てるところ、可愛いところ、ゆったりした性格、素直なところ、涙もろいところ、友達思いなところ、仲間思いなところ、誰かの為に勇気を出せるところ、人のこと悪く言えんところ、何でもプラスの言葉で話すところ、他人のいいところを最初に見ること、他人のいいところを見つけられること、それを相手に真っ直ぐ伝えられるところ、好きを惜しまないところ、何でも楽しそうにしてくれるところ、おれへの気持ちを一生懸命伝えてくれるところ、」
「はい、はい! わかりました! わかったので! てかお前呼吸してた今!?」
「まだまだあるんやけど」
「もう閉店しました」
話したりないが閉店したのなら仕方ない。
「はー……おまえら見てると好きな相手に気持ち伝えないの勿体ないなーってなるんだよなぁ」
「好きな人おったん?」
「いないけど」
「おらんのかい」「「いねーのかよ!!」」
同時にツッコミが入る。他の人間も聞いていたらしい。会話に入ってきた。
「さすが第一高校の筆頭バカップル。一聞けば百返ってきそう」
「やめろフラグを立てるな」
「名前のかわええところならいつでも話したるよ」
「はいはいありがとねー」
「つーか隠岐って初恋は名前ちゃん?」
「そうやで」
「初恋は実らないって嘘じゃん」
「だれが言ったんだろうな」
「名前ちゃんの初恋は隠岐?」
「……」
「え? 違うの?」
「違わんよ。名前はお父さん大好きやけど携帯の登録の一番最初はおれやったし」
「なんだお父さんかよ」
「お父さんはノーカンだわ」
「むしろお父さんでよかったわ。名前ちゃんの初恋相手が別だったら隠岐がなんかしそう」
「あはは」
「否定しないんですけどこの人」
「怖い……」
布団をごそごそする音がする。顔を向けるとうつ伏せになって話す体勢になっているのが何人かいた。
「ぶっちゃけると名前ちゃんって普通にモテてるよな」
「腹立だしいことにそうなんよなぁ」
「笑ってるけど怒ってるこれ……」
「怖い……」
「隠岐いるのにアホだなーって俺は思うんだけど愛されてる子が余計に可愛く見える理論は分かる」
「じゃあモテてるの隠岐のせいか」
「じゃあ隠さんといかんなぁ」
「学校一のバカップル? 遅いですよ?」
「隠岐くん褒めてほしいことがあるんですけど」
「なに?」
「俺の他校の友達が名前ちゃんの連絡先教えてって言ってきて必死に止めて教えませんでした」
「めちゃくちゃ偉いやん。ありがとう」
「おまえそれ自分の命を大事にしただけだろ」
「つーかおまえ何で名前ちゃんの連絡先知ってんの?」
「……………」
「何で知っとるん?」
「ちがっ、違います! 隠岐くん本当に違いますっ! 聞いてください!」
隣の寝床のクラスメートは壁まで逃げた。
「何で知っとるん?」
「ゆっくり起きあがらないで! 夢に出てきそう! 名前ちゃんがっ!」
「名前が?」
「“孝ちゃんの写真撮ったらください”ってにこにこしながら言ってきたの! あの顔でお願いされて断れないの知ってるでしょうがっ!」
「…………」
「無言やめて!」
「有罪」
「嘘だろ!?」
「……は、無しやな。おれも断れる気がせんわ」
「ですよねっ!? あーよかったぁああ!」
「首の皮一枚という状況を目の前で見てしまった」
「俺そんなぎりぎりなの!?」
「そこまで心狭ないよ」
「笑顔で圧かけてた奴の台詞じゃねーのよ」
「名前のことやしなぁ。しゃーないわ」
「しゃーないわで俺の寿命縮めるのやめて?」
隣の寝床に恐る恐る帰ってきた。少し隠岐から布団を離している。
「明日ユニバだけど隠岐は今まで何回くらい行ったの?」
「んー10回くらい? 新しく出来た所は行けてないなぁ」
「じゃあおまえも楽しめるな」
「よかったな。そこから回ろうぜ」
「ええの?」
「ええでー」「いいぜー」「いいよー」
「今日たくさん案内してもらったしな」
「ありがとう」
「おう。赤と緑の兄弟を倒しにいくぞ」
「絶対そういうアドベンチャーじゃないだろ」
「あいつら倒す側だろ」
「帽子かぶる?」
「男だけではキツイ」
「名前ちゃんへのお土産なに買うの?」
「名前は白い犬が好きやからその辺りやなぁ」
「あの白い犬わりと性悪だぞ」
「女の子は見た目が良かったら性格悪いやつでも気にしないんだよ。そういうところがある」
「全方面から怒られそうな話しとるなぁ」
そこで欠伸が漏れた。隠岐につられて何人か欠伸をした。
「寝るかー」
誰かの声に同意して目を瞑る。明日は早い。一日歩き回るだろう。寝よう。……白い犬は性悪。名前は知っているのだろうか。いや、風評被害な可能性はあるが。意外と名前はそういうところを気にするのである。有名な白い猫のキャラクターが異常に何でも仕事してると知って「なんかごめんね……」とご当地キーホルダーを逆に買わなくなったのだ。小さい頃から好きだったのに。その辺の情緒はよく分からないがお土産は別のにしておくかと考えたところで意識が遠のいた。