好きを煮詰めた他人のぼくら
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隠岐は里見と昼ご飯を食べている最中、クラスメート達に囲まれていた。
「第一高校で一番のバカップルと名高い隠岐くん」
「どないしたん?」
「バカップルにツッコまないの?」
「里見うるさい。バカップル様に力を借りようとしてるんだ。女の子とどう話したらいいか、女の子はどんな話を好むのか、女の子は男にどんなときにときめくのか、彼女様に質問させていただけないでしょうか」
「別にええけど、」
「ええけど?」
「名前は当てにならんと思うで?」
「なんで」
「主語が全部“孝ちゃんは~”になるから」
「本当にバカップル極めてるなぁ」
「それでもいいです」
「いいんかい」
「クラスの女子より怖くない名前ちゃんの意見を聞きたいんです」
「聞こえてんぞこらぁ!」
「何が怖いだ男子!」
「可愛い子と話したいだけだろうが!」
「ほら怖い……」
「うちのクラスは仲ええなぁ」
「コレみてその感想が出る隠岐もすごいなー」
隠岐は箸を置いて名前にメッセージを送った。今日はどちらもフリーの日だ。
《今日の放課後うちのクラスで一緒に宿題やろうや》
《いいよー》
「名前はええって」
「何て誘ったんですか?」
「宿題やろうやって」
「それで何て返ってきたんですか?」
「いいよーって」
「やりとりがいい……いいな……」
「めちゃくちゃ切羽詰まってるね」
大丈夫? と心配する里見と放課後デートやなぁとにこやかな隠岐がいた。
***
「隠岐先輩いますか?」
「はいはいいるよ隠岐ー! 名前ちゃん来たよー!」
「うん? どこにいます?」
「あの男共の壁のなか」
かごめかごめでもしているのかな? それくらい密度がある。そう思いながら孝ちゃんの教室の2─Aに入った。近くにいったら圧迫感があって少し腰がひけた。
「こ、孝ちゃーん?」
「ああ、名前ちょっと待ってな。はい、質問は終わりやで」
「もうちょっとお願いします!」
「俺はまだ聞いてもらってない!」
「残りはメッセージ送ってや……ああやっぱり名前と話しとるときには見らんから無理やな」
「じゃあカンペで!」
「はいはい了解」
賑やかだなぁ。そんなことを思っていたら人壁の中から孝ちゃんが現れた。一気に元気が出てきた。顔がほころんでるのが分かりながら話しかける。
「孝ちゃんっ孝ちゃんっ朝ぶりっ」
「朝ぶりやなぁ。今日はどんなことあったん?」
「美術の時間に卓上収納ラックの設計図書いたの。側面にね猫の肉球つけたよ」
「かわええやん」
「色はパステルカラーにする予定!」
「名前の勉強机に合いそうやなぁ」
「う゛んっ! う゛う゛んっ!!」
「あー……名前、席座ろか」
「うん」
凄い咳ばらいした人いたけど大丈夫かな?
孝ちゃんに手を引かれながら2つ真正面同士をくっつけてある机の元に行く。孝ちゃんは窓側に座ったのでその前に座る。すると周りの人達も席に座った。
「? 今日、孝ちゃんのクラスいっぱい課題でたの? 人いっぱいだけど」
「んーそんなとこ」
「里見先輩は?」
「里見は今日任務やから見られんの惜しんでたわ」
「なにが見られないの?」
「楽しいこと」
「それは残念だねぇ」
「なー」
通学バッグから英語の課題を出す。お昼休みに友達のよっちゃんとやったから八割くらい終わってるから楽勝だ。
「名前、質問したいこといっぱいあるんやけどええ?」
「いいよー」
「どんな男がタイプ?」
「えっ宿題のことじゃないの?」
「全然違う」
「全然違うんだ……まぁいいけど。もちろん孝ちゃん!」
「おれ以外でって。全部おれ以外でって」
って? なんか違う人の意見みたいな言い方するなぁと思いながら頭をひねる。孝ちゃん以外で。難しい。
「うーん、優しいひと?」
「優しい人は内容がふわふわしてるので、詳しくお願いします」
「何で敬語? うーん、他の人に気配りが出来る人、かなぁ? 優しい人ってそういうことさらっと出来るイメージ」
「ありがとう。じゃあ次は男にどんなことされたらドキッとする?」
「孝ちゃん以外で?」
「おれ以外で。……この質問あかんやろ。却下」
孝ちゃんがそういうと後ろから一斉に椅子が動く音がして凄くびっくりした。振り返ったら普通に座ってたけど。……な、なんだったんだ? 疑問に思いつつ私のいる方を見つめる孝ちゃんに視線を戻す。……なんか視線後ろにいってない? 気のせい?
「おれでもいいから教えてください」
「孝ちゃんでもいいなら……キスするとき?」
「人前で出来ることでありませんか?」
「人前で……重いもの持ってたらさらって持ってくれるとき? 嬉しくて逞しくてドキドキするの」
「いくらでも持ったるよ」
「いつもありがとう孝ちゃん。大好き」
「おれも大好き」
「う゛う゛んっ!」
風邪流行ってるのかな? 私も気をつけよう。
「じゃあ次は女子と話すのはどうしたらいい? どんな話されたら喜ぶ? これは女子と男の場合です」
「普通に話せばいいのでは……?」
「普通が分からないのです」
「孝ちゃんさっきから口調が変だよ」
「普通が分からへんから教えて?」
「もどった……孝ちゃん、他の女の子とお喋りしたいの?」
むっとすると孝ちゃんは焦った様子で「友達の話! 名前以外の女の子に興味あらへんよ!」と言った。焦ってるのが怪しい。
「嘘だったら1日無視するからね」
「そんなん堪えられんからそんなこと言わんといてや」
「本当に友達の話?」
「ほんまに。絶対。100パーセント」
「なら信じる。……うーん、流行ってる映画の話とか、共通の話題とか話せばいいんじゃないかな? あと喜ぶ話かぁ。髪の毛切ったとか今がんばってることとか気づいてもらえたら喜ぶかな」
「ストーカーと思わん?」
「ストーカー!? 思わないよ!? なんで!?」
「名前みたいに好意的に見てくれる人は希少なんやって」
「そんなことないと思うけど……」
「この話題切ないからやめようや。次は、話したことないのに告白されたら勝率はどのくらい?」
「私は孝ちゃんいるから断ります」
「おれがおらん場合……はありえへんけど、例えばで」
「例えば……どんな人か分かってないから怖くて断ると思う」
でも、恋人募集中の人ならとりあえずでつき合ったりするのかな?
「じゃあやっぱり先に知り合いになってたほうがええってこと?」
「うん、そっちの方が安心するかな」
「好きな子と知り合うにはどうしたらええと思う?」
「共通の友達にお願いしたり、普通に挨拶から始めたり、教科書とか貸してもらったり?」
そう考えると私は孝ちゃんと自然と知り合えたから恵まれてたんだなぁ。引っ越し様々だ。
「デートに誘うにはどうしたらいい?」
「真正面から誘うのは駄目なの?」
「恥ずかしいみたいやで」
「でも関係を進展させたいからデートに誘うんでしょ? だったら一歩目を踏み出さないと」
「おれに片想いだったとしても?」
「孝ちゃんに片想い……」
一気に元気がなくなった。そうだ、両想いは当たり前じゃない。奇跡なんだ。小さい頃から享受していて感覚が鈍ってた。ちゃんと感謝して好きを伝えて毎日を過ごさないと。
「孝ちゃん大好き。好きになってくれてありがとう」
「……おれも名前が好きやで。おれこそ好きになってくれてありがとぉな」
「うん!」
「もう終わりでええやろ。きりがないわ」
「? なにが?」
そう言うと後ろから椅子の足がガガっと鳴る音が教室に響いた。
「そんなこと言うなよ隠岐くん!」
「まだ聞きたいことあるんです隠岐くん!」
「お願いだから見捨てないで隠岐くん!」
「自分たちで頑張りぃや」
「「「「隠岐くん!!」」」」
何人もこちらにやってきて詰め寄ってきた。圧がすごい。
「……孝ちゃん人気者?」
「どっちかと言うと名前やな。人気者は」
「私? なんで?」
「なんででも。おれら帰るからどいてや」
孝ちゃんに荷物まとめてと言われたのでまとめたらすぐさま手を繋いで教室から出て行った。「隠岐様ぁ!!」と孝ちゃんは後ろからの声は完全に無視してた。
「変な質問いっぱいしてごめんなぁ」
「別にいいけど」
なんだったんだろう?首を傾げたけど「ありがとぉな」と頬にチュッとされたので一気にどうでもよくなった。今日も大好き。