本編
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「月が綺麗ですね」
古紙とダンボールをまとめておやつをもらって休憩がてら一眠り。目を覚ますと陽はすっかり沈んでいて、目覚ましに屋上いくか~と冷えた風を身体に受けていたときだった。そこに現れたのは警戒していたはずの烏丸京介。視線は月ではなくばっちりとこちらに向いていた。
「…………せめて月見ながら言いなさいよ」
「ああ、意味知ってたんですか」
しれっとした顔の烏丸。恥じらいもなにもない。
「好きですよ、ナマエさん」
「……二回言わなくても聞こえてますけど」
「三回目もいいましょうか?」
「大丈夫です」
すぐさまそう返すと楽しげに喉を鳴らしてきた。私はなにも楽しくない。
「恥かしくないの……?」
「ナマエさんの反応が気に入ってるので特には」
「小学生男子かよ」
「似たようなものです」
肯定してきた……小学生男子とか最強かよこいつ……
「私なりに色々考えてるのに烏丸見てたらよく分からなくなってくる」
「分からないところは直接聞いてください」
「勉強会かよ……」
意味わからん……と苦悩に塗れながら顔を覆う。なんかさぁ……よく分かんないんだけどさぁ……告白して、されてってもっと緊迫感のある感じになるんじゃないの……? 小南や柚宇ちゃんの少女マンガはそうだった。気まずいのこっちだけだし。烏丸はどこからどうみても楽しそう。解せない。
「もう開き直って聞くけどさ」
「どうぞ」
「よくわかんないから振るってありですか」
「普通にありですよ。まぁ諦める予定はないのであまりオススメしません。ナマエさんの神経すり減らすだけですから」
「鬼メンタルかよ……」
「鍛えられましたから」
おまえに、が語尾についている気がした。風評被害が最近酷い。
「…………月が綺麗ですねってさ、」
「あからさまに話反らしましたね」
「黙ってそらされて。頭痛い」
「頭熱いの間違えでしょ。耳赤いっすよ」
「うっさい」
ぶん、と腕を振るとぱし、と簡単に受け止められた。じわりと伝わってくる熱が落ちつかない。
「……腕」
「もうちょっと」
親指の腹でなぞられる。相変わらずこっちは落ちつかないのに、烏丸の表情はただただ幸せそうに口元を緩ませていて、
「……、」
真冬なのに熱くて仕方ない。遠慮なしにぶつけてくる熱量に飲まれそうだ。無理やり手をすっぽ抜く。烏丸はやっぱり笑っている。
「……月が綺麗ですねって俗説らしいよ。漱石はそんなのいってねー! ってきっと怒ってるよ」
「喜んでるかもしれませんよ」
「自分のI love youの訳が後世であんなロマンチックに飾られてたら嫌だわ」
「……確かに。腕掴まれたぐらいで面白いくらいに反応する19歳ならそうかもしれないですね」
「うるせー! こなれた16歳! もうおまえやだ!」
「やだは傷つくので止めてください」
「えっご、ごめん」
「いいですよ」
あれ……なんで私謝ってるの……? ていうか完全に烏丸のペースに乗せられてるのでは……? 大丈夫……?
そう自問自答する。だけど一向に活路が見いだせない。
「……好きってなんなんですか。意味分かんなくなってきた」
「哲学みたいなこと聞きますね。まあ、一般的には相手の顔を見たらドキドキするとか」
「えっしてる……」
「一人のとき相手のことを思いだすとか」
「思い出す……」
「相手のこと触れたいとか」
「それはよく分からん」
「触ってみますか?」
「結構です」
断ると一瞬間を置いてずいっと近づいてきた。日本語が通じない。しばらく抵抗したけどあえなく捕まり、そのまま私の手を自分の心臓へ押しやった。
「…………烏丸さん、涼しい顔してるのに心臓が大変なことになってます」
「いつもこんなもんですよ」
「早死にしそう」
「急に真顔で言うの止めてください。というかナマエさんといるときは、っていう主語伝わってないっすよね」
「……む、胸もんじゃうぞ」
「どうぞ。仕返ししますけど」
混乱して口走った言葉にも烏丸はどこまでも冷静に返してきた。大げさに手を離しても顔色は変わらない。さっきの心臓の音は嘘だったみたいに。
「…………もっかい触っていい?」
もう一度知りたくなってそう訊ねると烏丸の動きがピタリと止まった。
「え、あっごめん、いやおっぱい揉みたいとかそういうんじゃなくて! セクハラしたいんじゃなくて普通に!」
「……そんな風に精一杯否定したら余計に怪しいですよ」
「確かに!!」
「っ、ふ、そんなに全力で肯定しなくても……、……はい、どうぞ」
そう言って口元を緩ませながら両手を広げる烏丸。いや、これでやったー! って手を伸ばしたら凄くダメな光景になる気が……。そう思って躊躇していたら業を煮やしたのか烏丸は距離を詰めてきた。私の頭に手を回してそのまま耳に胸を押し当てる。
「…………」
「満足ですか?」
「……当初の目的が不明になっており、何故この体勢にする必要になったのか、理由を明確に答えてください」
「俺も触りたくなりました」
「お、おっぱい揉みますよ」
「頭以外触りますよ」
烏丸の声はいつも通りなのに心臓の音は忙しない。気のせいか先ほど触ったときよりも。
「…………ドキドキして思い出して触れたくなってってこれが好きなの?」
「これが好きですよ。……って言いたいですけど、ナマエさんの場合は初めての恋愛沙汰で四苦八苦してるって感じですかね」
「まじか……」
「まじです。もっと俺のこと考えて悩んでください」
「これ以上どう考えろと」
「………。気がついたら、」
烏丸はそこで言葉を切った。不思議に思って顔を上げる。
「溺れてるんです。いやな感情も一緒になって。ドキドキして相手のことを思い出して触れたくなって、あなたの全部がほしくなって仕方なくなるんです。少なくとも俺の“好き”はそれです」
どろりと瞳が動くのが分かった。思わず喉が鳴る。目の前の烏丸が、全く知らないひとのように見えた。
「……欲張りだ」
「物欲はそこまでないんですけどね」
「嘘だぁ……」
「嘘じゃないです」
溺れるくらい好きな人が出来ただけです。
そう言って軽く背中に手が回った。
古紙とダンボールをまとめておやつをもらって休憩がてら一眠り。目を覚ますと陽はすっかり沈んでいて、目覚ましに屋上いくか~と冷えた風を身体に受けていたときだった。そこに現れたのは警戒していたはずの烏丸京介。視線は月ではなくばっちりとこちらに向いていた。
「…………せめて月見ながら言いなさいよ」
「ああ、意味知ってたんですか」
しれっとした顔の烏丸。恥じらいもなにもない。
「好きですよ、ナマエさん」
「……二回言わなくても聞こえてますけど」
「三回目もいいましょうか?」
「大丈夫です」
すぐさまそう返すと楽しげに喉を鳴らしてきた。私はなにも楽しくない。
「恥かしくないの……?」
「ナマエさんの反応が気に入ってるので特には」
「小学生男子かよ」
「似たようなものです」
肯定してきた……小学生男子とか最強かよこいつ……
「私なりに色々考えてるのに烏丸見てたらよく分からなくなってくる」
「分からないところは直接聞いてください」
「勉強会かよ……」
意味わからん……と苦悩に塗れながら顔を覆う。なんかさぁ……よく分かんないんだけどさぁ……告白して、されてってもっと緊迫感のある感じになるんじゃないの……? 小南や柚宇ちゃんの少女マンガはそうだった。気まずいのこっちだけだし。烏丸はどこからどうみても楽しそう。解せない。
「もう開き直って聞くけどさ」
「どうぞ」
「よくわかんないから振るってありですか」
「普通にありですよ。まぁ諦める予定はないのであまりオススメしません。ナマエさんの神経すり減らすだけですから」
「鬼メンタルかよ……」
「鍛えられましたから」
おまえに、が語尾についている気がした。風評被害が最近酷い。
「…………月が綺麗ですねってさ、」
「あからさまに話反らしましたね」
「黙ってそらされて。頭痛い」
「頭熱いの間違えでしょ。耳赤いっすよ」
「うっさい」
ぶん、と腕を振るとぱし、と簡単に受け止められた。じわりと伝わってくる熱が落ちつかない。
「……腕」
「もうちょっと」
親指の腹でなぞられる。相変わらずこっちは落ちつかないのに、烏丸の表情はただただ幸せそうに口元を緩ませていて、
「……、」
真冬なのに熱くて仕方ない。遠慮なしにぶつけてくる熱量に飲まれそうだ。無理やり手をすっぽ抜く。烏丸はやっぱり笑っている。
「……月が綺麗ですねって俗説らしいよ。漱石はそんなのいってねー! ってきっと怒ってるよ」
「喜んでるかもしれませんよ」
「自分のI love youの訳が後世であんなロマンチックに飾られてたら嫌だわ」
「……確かに。腕掴まれたぐらいで面白いくらいに反応する19歳ならそうかもしれないですね」
「うるせー! こなれた16歳! もうおまえやだ!」
「やだは傷つくので止めてください」
「えっご、ごめん」
「いいですよ」
あれ……なんで私謝ってるの……? ていうか完全に烏丸のペースに乗せられてるのでは……? 大丈夫……?
そう自問自答する。だけど一向に活路が見いだせない。
「……好きってなんなんですか。意味分かんなくなってきた」
「哲学みたいなこと聞きますね。まあ、一般的には相手の顔を見たらドキドキするとか」
「えっしてる……」
「一人のとき相手のことを思いだすとか」
「思い出す……」
「相手のこと触れたいとか」
「それはよく分からん」
「触ってみますか?」
「結構です」
断ると一瞬間を置いてずいっと近づいてきた。日本語が通じない。しばらく抵抗したけどあえなく捕まり、そのまま私の手を自分の心臓へ押しやった。
「…………烏丸さん、涼しい顔してるのに心臓が大変なことになってます」
「いつもこんなもんですよ」
「早死にしそう」
「急に真顔で言うの止めてください。というかナマエさんといるときは、っていう主語伝わってないっすよね」
「……む、胸もんじゃうぞ」
「どうぞ。仕返ししますけど」
混乱して口走った言葉にも烏丸はどこまでも冷静に返してきた。大げさに手を離しても顔色は変わらない。さっきの心臓の音は嘘だったみたいに。
「…………もっかい触っていい?」
もう一度知りたくなってそう訊ねると烏丸の動きがピタリと止まった。
「え、あっごめん、いやおっぱい揉みたいとかそういうんじゃなくて! セクハラしたいんじゃなくて普通に!」
「……そんな風に精一杯否定したら余計に怪しいですよ」
「確かに!!」
「っ、ふ、そんなに全力で肯定しなくても……、……はい、どうぞ」
そう言って口元を緩ませながら両手を広げる烏丸。いや、これでやったー! って手を伸ばしたら凄くダメな光景になる気が……。そう思って躊躇していたら業を煮やしたのか烏丸は距離を詰めてきた。私の頭に手を回してそのまま耳に胸を押し当てる。
「…………」
「満足ですか?」
「……当初の目的が不明になっており、何故この体勢にする必要になったのか、理由を明確に答えてください」
「俺も触りたくなりました」
「お、おっぱい揉みますよ」
「頭以外触りますよ」
烏丸の声はいつも通りなのに心臓の音は忙しない。気のせいか先ほど触ったときよりも。
「…………ドキドキして思い出して触れたくなってってこれが好きなの?」
「これが好きですよ。……って言いたいですけど、ナマエさんの場合は初めての恋愛沙汰で四苦八苦してるって感じですかね」
「まじか……」
「まじです。もっと俺のこと考えて悩んでください」
「これ以上どう考えろと」
「………。気がついたら、」
烏丸はそこで言葉を切った。不思議に思って顔を上げる。
「溺れてるんです。いやな感情も一緒になって。ドキドキして相手のことを思い出して触れたくなって、あなたの全部がほしくなって仕方なくなるんです。少なくとも俺の“好き”はそれです」
どろりと瞳が動くのが分かった。思わず喉が鳴る。目の前の烏丸が、全く知らないひとのように見えた。
「……欲張りだ」
「物欲はそこまでないんですけどね」
「嘘だぁ……」
「嘘じゃないです」
溺れるくらい好きな人が出来ただけです。
そう言って軽く背中に手が回った。