本編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「高校の同級生で高原っておったやん」
「いたっけ……いないよ」
「おるって。バスケ部の7番」
「番号じゃ分かんない。スラムダンクで例えて」
「リョータくん」
「リョータくんか。……あっ! あのピアスしてた」
「それただのリョータくんや」
生駒はそうツッコんで新発売のマグロカツ丼を口に運ぶ。ナマエと生駒、二人の一つ年下の水上は食堂で昼ご飯を食べていた。セルフのドリンクサーバーからちょうど対角線上に一番離れた隅っこの席だった。生駒と水上が並んで座ってナマエが生駒の前に座っている。
「マグロカツ丼うまっ」
「一口交換」
「ん。水上は?」
「大丈夫です」
丼を向けてきた生駒に軽く手を振って断る水上。ナマエは自分のヒレカツを生駒の丼に乗せていた。
「ありがとう。……マグロカツうまっ」
「やろ。……で、リョータくんの話に戻るんやけど」
「戻んなくていいよ。多分もう思い出さないから消えた思い出にしとくリョータくん」
「卒業して一年経ってないで」
「過去は振り返らないことにしてる」
「一年ぐらい頑張れ」
生駒にそう言われ首を傾げてナマエは思案する。
「バスケ部……リョータくん……ピアス……」
「ピアスはしてへんで」
「ややこしい。そもそも私とリョータくんって接点あった?」
「リョータくんは風紀委員や。ナマエ目の敵にされとったやろ」
「風紀委員……? …………もしかしてゴリラの輸入してそうなあいつ?」
どんなやつやねん。二人の話をずっと聞いていた水上は心でツッコむ。「それそれ」しかもあってるんかい。ゴリラの輸入は犯罪ではないのか。水上にはどういう人間か一向に想像がつかなかった。
「バスケ部でリョータくんでゴリラってややこしい。赤木さんの方が出てくる」
「せやな」
「そういえば九州の動物園にはもうゴリラいないんだって」
「えっほんまに?」
「ほんで、そのリョータくんがどうしたんです?」
なかなか話が進まないので水上がそう促すと生駒は神妙な雰囲気を作って口を開いた。
「大学からバンド始めてめっちゃモテてるらしいで」
「引っ張ったわりにはしょーもないな」
「なんでや。一大事やろ」
「イコさんもギター始めましたもんね」
「ひとりでギターやってモテるの?」
「そもそも披露する場がない」
「駄目じゃん」
「だから悩んでんねん。参考に聞きたいんやけどナマエはどんな男が好みなんや」
「! っ、ゲホッゲホッ」
「めっちゃむせとるけど大丈夫か」
「大丈夫大丈夫」
「ナマエさん目が泳いではりますよ」
「お腹いっぱいになったら目が泳ぐタイプだから」
「どんなタイプやねん」
訝しげな目をした水上に「本当ですけどぉ」とやはり目がうろついているナマエ。なんだか怪しい。
「で、なんなん」
「しつこい」
「モテたいんです」
「ちなみにこれ答えないといつまで続く?」
「3日強くらい」
「日にち越すの……強ってなに」
「弱より強い」
「うるせー」
このままマイペースに押し通すことが分かっているのでナマエは仕方なしに頭を捻る。
「えええ……好きなタイプ……? ええー……?」
「そんな悩むもんなんすか」
「人生で考えたこともない」
「嘘やろ」
「ほんと。ググっちゃ駄目?」
「駄目。生の声が大事」
「こんな生の声あてにするなよ……んんー……強いていえば、」
「強いていえば?」
うーん、うーんとしばらく唸ったあと、ぽつりと呟いた。
「…………ご飯作ってくれる人?」
「それタカリやんけ」
「料理出来る男か。考えとくわ」
前者が水上、後者が生駒だった。生駒の納得のいく回答だったことにふぅと息をつき、残りのヒレカツに手を伸ばそうとしたときだった。
「ここいいですか」
「………駄目で「ええで、烏丸くん」……生駒キサマ」
「なんでナマエ怒っとるんや」
「ナマエさんの好きなタイプって料理できる男なんですか」
「こういうことだよ」
「? 全然分からん」
そこにいたのは烏丸だった。快く迎え入れた生駒と違い、烏丸の姿を見たナマエは随分渋い顔をしている。そして烏丸はナマエの視線を気にすることなく隣に腰を下ろした。
「料理できる男が好きなんですか?」
「…………強いていえば」
「へえ」
ぶっきらぼうな返事にも関わらず烏丸は嬉しそうに口角を上げた。
「俺、そこそこ料理できますよ」
「……知ってますが」
「そうすね。玉狛に飯食べにきますもんね」
「……そうですね」
「何かリクエストありますか」
「……席の移動を、」
「料理のリクエストです」
「……なんでもいいです」
気のせいか微妙に烏丸の圧が強い。ナマエがボケた? 辺りが特に。ナマエも視線をあっちやこっちに動いていて忙しない。烏丸に対して何かやってしまったのだろうか。そんな事を水上が思っていると「ふたり喧嘩でもしたん?」といつもの調子で生駒が訊ねた。
「喧嘩はしてませんけどこの間、俺がナマエさんに告白したので気まずいらしいです」
そして烏丸がそれにさらりと返した。……いま何かいったな。やけに耳にすんなりと入ってこないなにかを。水上は二度ほどゆっくりまばたきをする。そして深呼吸、
「え、烏丸くんナマエのこと好きなん」
「はい」
する前に生駒があっさり訊ねた。そして烏丸はあっさり答えた。水上の箸がぽろりと手からこぼれる。
「……烏丸さん、ほら水上のあの顔みてみなよ。テニスボール投げたら口にちょうど収まりそうだよ」
「投げちゃ駄目っすよ」
「いやそういうことじゃなくてね。天変地異を目撃したって顔してるんだよね」
「はあ」
「分かってないなこいつ……つまりさ、そういうの人前でやるのはさ」
「そういうのって何ですか」
「えっ」
「そういうのって何ですか?」
そう言ってナマエの座っている椅子の背もたれに片手をかける烏丸。自然と近づく距離に真正面からそれを見ていた水上は頬を赤らめた。何で俺が照れなあかんねん、と心でツッコミながら。
関係のない水上が赤らめ、ナマエはピシリと固まり、生駒は「これがモテる男なんやな」と感心したような声を出す。昼時でざわめく食堂は端っこの席のカオスさに気づかない。
「いたっけ……いないよ」
「おるって。バスケ部の7番」
「番号じゃ分かんない。スラムダンクで例えて」
「リョータくん」
「リョータくんか。……あっ! あのピアスしてた」
「それただのリョータくんや」
生駒はそうツッコんで新発売のマグロカツ丼を口に運ぶ。ナマエと生駒、二人の一つ年下の水上は食堂で昼ご飯を食べていた。セルフのドリンクサーバーからちょうど対角線上に一番離れた隅っこの席だった。生駒と水上が並んで座ってナマエが生駒の前に座っている。
「マグロカツ丼うまっ」
「一口交換」
「ん。水上は?」
「大丈夫です」
丼を向けてきた生駒に軽く手を振って断る水上。ナマエは自分のヒレカツを生駒の丼に乗せていた。
「ありがとう。……マグロカツうまっ」
「やろ。……で、リョータくんの話に戻るんやけど」
「戻んなくていいよ。多分もう思い出さないから消えた思い出にしとくリョータくん」
「卒業して一年経ってないで」
「過去は振り返らないことにしてる」
「一年ぐらい頑張れ」
生駒にそう言われ首を傾げてナマエは思案する。
「バスケ部……リョータくん……ピアス……」
「ピアスはしてへんで」
「ややこしい。そもそも私とリョータくんって接点あった?」
「リョータくんは風紀委員や。ナマエ目の敵にされとったやろ」
「風紀委員……? …………もしかしてゴリラの輸入してそうなあいつ?」
どんなやつやねん。二人の話をずっと聞いていた水上は心でツッコむ。「それそれ」しかもあってるんかい。ゴリラの輸入は犯罪ではないのか。水上にはどういう人間か一向に想像がつかなかった。
「バスケ部でリョータくんでゴリラってややこしい。赤木さんの方が出てくる」
「せやな」
「そういえば九州の動物園にはもうゴリラいないんだって」
「えっほんまに?」
「ほんで、そのリョータくんがどうしたんです?」
なかなか話が進まないので水上がそう促すと生駒は神妙な雰囲気を作って口を開いた。
「大学からバンド始めてめっちゃモテてるらしいで」
「引っ張ったわりにはしょーもないな」
「なんでや。一大事やろ」
「イコさんもギター始めましたもんね」
「ひとりでギターやってモテるの?」
「そもそも披露する場がない」
「駄目じゃん」
「だから悩んでんねん。参考に聞きたいんやけどナマエはどんな男が好みなんや」
「! っ、ゲホッゲホッ」
「めっちゃむせとるけど大丈夫か」
「大丈夫大丈夫」
「ナマエさん目が泳いではりますよ」
「お腹いっぱいになったら目が泳ぐタイプだから」
「どんなタイプやねん」
訝しげな目をした水上に「本当ですけどぉ」とやはり目がうろついているナマエ。なんだか怪しい。
「で、なんなん」
「しつこい」
「モテたいんです」
「ちなみにこれ答えないといつまで続く?」
「3日強くらい」
「日にち越すの……強ってなに」
「弱より強い」
「うるせー」
このままマイペースに押し通すことが分かっているのでナマエは仕方なしに頭を捻る。
「えええ……好きなタイプ……? ええー……?」
「そんな悩むもんなんすか」
「人生で考えたこともない」
「嘘やろ」
「ほんと。ググっちゃ駄目?」
「駄目。生の声が大事」
「こんな生の声あてにするなよ……んんー……強いていえば、」
「強いていえば?」
うーん、うーんとしばらく唸ったあと、ぽつりと呟いた。
「…………ご飯作ってくれる人?」
「それタカリやんけ」
「料理出来る男か。考えとくわ」
前者が水上、後者が生駒だった。生駒の納得のいく回答だったことにふぅと息をつき、残りのヒレカツに手を伸ばそうとしたときだった。
「ここいいですか」
「………駄目で「ええで、烏丸くん」……生駒キサマ」
「なんでナマエ怒っとるんや」
「ナマエさんの好きなタイプって料理できる男なんですか」
「こういうことだよ」
「? 全然分からん」
そこにいたのは烏丸だった。快く迎え入れた生駒と違い、烏丸の姿を見たナマエは随分渋い顔をしている。そして烏丸はナマエの視線を気にすることなく隣に腰を下ろした。
「料理できる男が好きなんですか?」
「…………強いていえば」
「へえ」
ぶっきらぼうな返事にも関わらず烏丸は嬉しそうに口角を上げた。
「俺、そこそこ料理できますよ」
「……知ってますが」
「そうすね。玉狛に飯食べにきますもんね」
「……そうですね」
「何かリクエストありますか」
「……席の移動を、」
「料理のリクエストです」
「……なんでもいいです」
気のせいか微妙に烏丸の圧が強い。ナマエがボケた? 辺りが特に。ナマエも視線をあっちやこっちに動いていて忙しない。烏丸に対して何かやってしまったのだろうか。そんな事を水上が思っていると「ふたり喧嘩でもしたん?」といつもの調子で生駒が訊ねた。
「喧嘩はしてませんけどこの間、俺がナマエさんに告白したので気まずいらしいです」
そして烏丸がそれにさらりと返した。……いま何かいったな。やけに耳にすんなりと入ってこないなにかを。水上は二度ほどゆっくりまばたきをする。そして深呼吸、
「え、烏丸くんナマエのこと好きなん」
「はい」
する前に生駒があっさり訊ねた。そして烏丸はあっさり答えた。水上の箸がぽろりと手からこぼれる。
「……烏丸さん、ほら水上のあの顔みてみなよ。テニスボール投げたら口にちょうど収まりそうだよ」
「投げちゃ駄目っすよ」
「いやそういうことじゃなくてね。天変地異を目撃したって顔してるんだよね」
「はあ」
「分かってないなこいつ……つまりさ、そういうの人前でやるのはさ」
「そういうのって何ですか」
「えっ」
「そういうのって何ですか?」
そう言ってナマエの座っている椅子の背もたれに片手をかける烏丸。自然と近づく距離に真正面からそれを見ていた水上は頬を赤らめた。何で俺が照れなあかんねん、と心でツッコミながら。
関係のない水上が赤らめ、ナマエはピシリと固まり、生駒は「これがモテる男なんやな」と感心したような声を出す。昼時でざわめく食堂は端っこの席のカオスさに気づかない。