本編
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響子ちゃんとラウンジで話した日の夜、烏丸が家にやってきた。
「夜飯もう食べました?」
少し身構えて扉を開けたけど、そこにいたのは何がどう違うわけもないいつもの烏丸だった。ホッとしたような、心臓の端っこがざわめくような不思議な感覚がして、無言で扉を閉めた。
ガッ!
「何で閉めるんですか」
「右手の生きがよくて」
「ちょっと何言ってるか分かりません」
即座に足を入れて阻止した烏丸は「バイト先の賄いもってきました」と持っていた袋を目線まで上げる。ふわっと広がるにおいに素直にお腹が鳴った。短すぎる抵抗だった。
「美味しいけどこれ何丼?」
「すき焼きっぽいのです」
「大根入ってるけど」
「入れる家庭もあるそうですよ」
知らなかった。賄いってなんでもありなのかな。というか私が賄い食べていいのか。正面に座り、ローテーブルに肘をついてぼうっと宙を見ている烏丸をちらりと見る。
「……ん、どうしました」
「、烏丸のは?」
「俺は食べてきたんで」
Q,食べてきたのに何で賄いがここに?
A,わざわざもう一つ作ってもらったから
「…………」
この脳内Q&Aはさすがに自意識過剰では。たまたま余ったやつかもしれないし。心のなかで言い訳みたいなのをしてるけど普通に直接訊けばいいのに、何故か訊けない。というよりも、少し見ただけなのにすぐに私の視線に気づき、とろけるような眼差しに変わった烏丸と上手く視線が合わせられなかった。
……あれ、なんか気まずい、ぞ?
昼間、響子ちゃんと話したときはどこか他人事みたいに、というか実感が湧いてなかったのかもしれない。だって烏丸は後輩で、仲間で、結構口うるさくて、誰にでも面倒見がよくて……いや、いいかな? ……いや、いいでしょ。だって修くんによく付きっきりで修業してるし。あ、でも修くんは弟子だからか。いやそれでも年下の木虎とか遊真のことも見てやってること多いし。……年下への面倒がいいのって烏丸にとっては普通では? 兄弟多いから基本がお兄ちゃん体質なんだから。だから年上には、別に、
「かかかかからすまさん」
「かが異様に多いですけどどうしました」
自分の思考に動揺するという初めての事に口が回らない。口は回らないけど頭の中はぐるぐる回る。主に今までの記憶が。
『十代で結婚願望なんて持ってもいいことないですよ』
『ナマエさんって今まで付き合った人いるんすか』
『時間くらい作りますよ』
『女性なんですから少しは気をつけてください』
『男と一緒の空間で寝るなんて金輪際しないでください』
『いいですよこのくらい。甘えてください』
『普段の犯行も言動も派手で突拍子もなくて自分の欲望のままに生きてるのに今更しおらしくされても困ります』
最後のは普通に違う。それいつもの烏丸さん。生意気で口うるさいやつ。何で今思い出した。
「……烏丸って生意気な上に口うるさいよね……」
「なんで唐突に悪口言われてるんすか」
「いやふと思って……」
「生意気はよく分かりませんけど」
「分かれ」
「俺が口喧しくなるのはナマエさんだけですよ」
いつもだったら。
いつもだったら反射的に言い返していた。でもその“いつも”はそこにはなかった。
目尻と口角を柔らかくして、端から聞いたら生意気の一言な台詞を慈悲むように言うのが“いつも”なわけがない。
「烏丸って私のこと好きなの」
聞いていたのに理解していなかった。そんな失礼極まりない台詞が出た。それなのに烏丸はひどく嬉しそうに笑った。
「そうですよ」
右手の箸がからんからんと音を立てて落ちた。拾う間もなく右手首を烏丸に掴まれる。ギョッとして振り解こうとするけどびくともしない。それどころか余裕そうにテーブルから足を出して私の真横に座り直した。
「男で、この状態だったら」
「……」
「簡単にナマエさんのことどうにか出来ます」
「どうにか」
「みなまで言いましょうか?」
「結構です」
「伝わって良かったです」
烏丸は伝わって良かったといいつつ左手首もがしりと掴んできた。離れるように動かすもやっぱりびくともしなかった。
「全部が全部に警戒しろとは言いませんけど、アンテナはちゃんと張ってください」
「現在進行形でアンテナから電波が多量に出てるんですけど」
「それでいいですよ。俺にもちゃんと警戒してください」
こいつ何を言ってるの……という顔が伝わったみたいで烏丸はそのまま話を続けた。
「男として見られないで平気な顔されるよりましですから」
とりあえず簡単に部屋に男を上げないでくださいと言う烏丸は本日の来室記録がすっぽり抜けているらしい。この人足をガッ! って入れてきたよガッ! って。そう思いつつも首を力無く縦に振ると烏丸は満足そうに頷いた。
「夜飯もう食べました?」
少し身構えて扉を開けたけど、そこにいたのは何がどう違うわけもないいつもの烏丸だった。ホッとしたような、心臓の端っこがざわめくような不思議な感覚がして、無言で扉を閉めた。
ガッ!
「何で閉めるんですか」
「右手の生きがよくて」
「ちょっと何言ってるか分かりません」
即座に足を入れて阻止した烏丸は「バイト先の賄いもってきました」と持っていた袋を目線まで上げる。ふわっと広がるにおいに素直にお腹が鳴った。短すぎる抵抗だった。
「美味しいけどこれ何丼?」
「すき焼きっぽいのです」
「大根入ってるけど」
「入れる家庭もあるそうですよ」
知らなかった。賄いってなんでもありなのかな。というか私が賄い食べていいのか。正面に座り、ローテーブルに肘をついてぼうっと宙を見ている烏丸をちらりと見る。
「……ん、どうしました」
「、烏丸のは?」
「俺は食べてきたんで」
Q,食べてきたのに何で賄いがここに?
A,わざわざもう一つ作ってもらったから
「…………」
この脳内Q&Aはさすがに自意識過剰では。たまたま余ったやつかもしれないし。心のなかで言い訳みたいなのをしてるけど普通に直接訊けばいいのに、何故か訊けない。というよりも、少し見ただけなのにすぐに私の視線に気づき、とろけるような眼差しに変わった烏丸と上手く視線が合わせられなかった。
……あれ、なんか気まずい、ぞ?
昼間、響子ちゃんと話したときはどこか他人事みたいに、というか実感が湧いてなかったのかもしれない。だって烏丸は後輩で、仲間で、結構口うるさくて、誰にでも面倒見がよくて……いや、いいかな? ……いや、いいでしょ。だって修くんによく付きっきりで修業してるし。あ、でも修くんは弟子だからか。いやそれでも年下の木虎とか遊真のことも見てやってること多いし。……年下への面倒がいいのって烏丸にとっては普通では? 兄弟多いから基本がお兄ちゃん体質なんだから。だから年上には、別に、
「かかかかからすまさん」
「かが異様に多いですけどどうしました」
自分の思考に動揺するという初めての事に口が回らない。口は回らないけど頭の中はぐるぐる回る。主に今までの記憶が。
『十代で結婚願望なんて持ってもいいことないですよ』
『ナマエさんって今まで付き合った人いるんすか』
『時間くらい作りますよ』
『女性なんですから少しは気をつけてください』
『男と一緒の空間で寝るなんて金輪際しないでください』
『いいですよこのくらい。甘えてください』
『普段の犯行も言動も派手で突拍子もなくて自分の欲望のままに生きてるのに今更しおらしくされても困ります』
最後のは普通に違う。それいつもの烏丸さん。生意気で口うるさいやつ。何で今思い出した。
「……烏丸って生意気な上に口うるさいよね……」
「なんで唐突に悪口言われてるんすか」
「いやふと思って……」
「生意気はよく分かりませんけど」
「分かれ」
「俺が口喧しくなるのはナマエさんだけですよ」
いつもだったら。
いつもだったら反射的に言い返していた。でもその“いつも”はそこにはなかった。
目尻と口角を柔らかくして、端から聞いたら生意気の一言な台詞を慈悲むように言うのが“いつも”なわけがない。
「烏丸って私のこと好きなの」
聞いていたのに理解していなかった。そんな失礼極まりない台詞が出た。それなのに烏丸はひどく嬉しそうに笑った。
「そうですよ」
右手の箸がからんからんと音を立てて落ちた。拾う間もなく右手首を烏丸に掴まれる。ギョッとして振り解こうとするけどびくともしない。それどころか余裕そうにテーブルから足を出して私の真横に座り直した。
「男で、この状態だったら」
「……」
「簡単にナマエさんのことどうにか出来ます」
「どうにか」
「みなまで言いましょうか?」
「結構です」
「伝わって良かったです」
烏丸は伝わって良かったといいつつ左手首もがしりと掴んできた。離れるように動かすもやっぱりびくともしなかった。
「全部が全部に警戒しろとは言いませんけど、アンテナはちゃんと張ってください」
「現在進行形でアンテナから電波が多量に出てるんですけど」
「それでいいですよ。俺にもちゃんと警戒してください」
こいつ何を言ってるの……という顔が伝わったみたいで烏丸はそのまま話を続けた。
「男として見られないで平気な顔されるよりましですから」
とりあえず簡単に部屋に男を上げないでくださいと言う烏丸は本日の来室記録がすっぽり抜けているらしい。この人足をガッ! って入れてきたよガッ! って。そう思いつつも首を力無く縦に振ると烏丸は満足そうに頷いた。