本編
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「え、忍田さんの昔の彼女?」
思わずそう聞くと「声が大きい!」と口をガバッと塞がれた。頬を赤くしながら察してよ……という目で私を見る響子ちゃんは恋する乙女そのものだった。かわいいなぁと和みたかったがさすが元アタッカー。鼻までばっちり塞ぐ徹底ぷり。意識が遠のきそうになってやっと「わー!? ごめん大丈夫!?」と手を離してもらえた。ラウンジが墓場になるかと思った。いやだなこんな人通りが多い墓場。
「忍田さんの元彼女……うーん、」
「そっそもそも今いないよね……?」
「いないいない。仕事が恋人」
この間いないって言ってたしと付け加えると見るからにほっとしている響子ちゃん。見た目は綺麗系なのに中身は乙女な響子ちゃんは結構長いこと忍田さんに片思いを続けている。恋愛事に全く縁のない私ですら「ああ……好きなんだね……忍田さんがめちゃくちゃ好きなんだねぇ……」と早い段階で気づいたのに当の本人ときたら……。仕事してるときは響子ちゃんも態度に出さないけど、あなた達大抵一緒にいるでしょ……と私が頭を押さえるくらいの鈍感さを発揮して全く気づかない。恋愛の切れ味はナマクラだあの人。
「私としては響子ちゃんが忍田さんとくっ付いてくれたら嬉しいんだけど」
「それが出来たら苦労しないの」
はあ……と憂いを帯びたため息を漏らす響子ちゃんの頬は少し赤くなっていた。忍田さんのことを考えているのだろうか。今さらだけど私は人の恋愛事の力になったことがない。そもそも私に相談する猛者は響子ちゃんくらいだ。「それで、忍田さんの昔の恋人ってどんな人だったの……?」と響子ちゃんはすごい形相で訊いてくる。どうしよう、ストレートに言っていいのかな。見た目くらいしか覚えてないけど。
「び、美人だったよ」
「……だよね」
響子ちゃんは目に見えてがっくりしていた。嘘をついてもアマゾネスみたいな人だったよと言うべきだったかもしれない。でもどこでそんなアマゾネスをゲットしたんだって訊かれたら困るし、響子ちゃんがアマゾネスを目指しだしても困るし、それがうっかり忍田さんに伝わって「何故アマゾネスだ」って言われても困るし、本当に忍田さんの好みの相手がアマゾネスだったら反応に困る。うん、言わなくて良かったアマゾネス。
うーん恋愛相談って難しい。そう心で思っていると「ナマエは何かないの?」と訊かれた。
「こないだ烏丸に告白されたかなぁ」
「へーそっか。烏丸くんに…………えっ!!?」
「響子ちゃん声大きいよ」
さっきとは立場が逆だねぇと言うと「なんでそんなにまったりしてるの!」と怒られた。この温度差。
「か、烏丸くんってあの烏丸くん?」
「私の知ってる烏丸くんは一人だけだね」
「私もそうね……知ってる烏丸くんは烏丸くんだけだわ……」
何だこの会話。だいぶ響子ちゃんは混乱しているらしい。「それでナマエは何て返したの……?」すごい緊迫感のある顔してる。
「なにも。『今は何もいりません。今は』って言われたから」
「そっそうなの……」
何故か響子ちゃんの頬が染まった。どこに照れる要素があったのだろうか。
あの時の烏丸は鬼気迫るというか「おまえいい加減にしろよはっ倒すぞ」という顔をしていた。いつぞやの般若を思い出させる顔だった。殺意が隠しきれてなかった。何故……。
そのため言われたことを噛み砕くのにしばらく時間がかかって。「まあこれからよろしくお願いします」「あっこちらこそ」と烏丸はなにごともなかったように部屋から出て行った。
『俺と一緒に生きてほしい』
同時にその言葉が胸につっかかっている。理由は分からない。
相手のことを考えるだけで可愛く見えるんだなぁ、と響子ちゃんやレイジさんを見ているとしみじみ思う。あのゴツいレイジさんでもそう思わせてしまうのだからスゴいパワーが働いているに違いない。恋ってすごい。そう思う。思うだけで、そこを理解したことは多分ない。だからか烏丸に好きだと言われてもいまいちピンと来なかった。烏丸が般若を纏ってたせいもあると思う。というかこれが理由じゃないかなってすごく思ってる。ドラマとかで愛を囁いている人の顔と全然違ってた。どっちかというと「タマとったろうか」系の顔だった。
『私と同じ好きじゃないのに渡さないでよ!』
小4のときだった。幼稚園から小学校までクラスが全部同じで、何かと縁があったタカシくんという少年がいた。タカシくんはお手本のようなガキ大将だったけど性根は寂しがりだったから「母ちゃんにしかチョコもらえない……くそ……」とバレンタインの時期にむせび泣いていた。何だか可哀想になった当時の私は城戸さん達にあげる分をタカシくんにあげた。タカシくんは「べ、べつに頼んでねーけどくれるってんなら貰ってやるよ!」とお手本のようなツンデレをみせてきた。しかしツンデレなんて知らない当時の私は「こいつにはもう絶対やらない」と微妙に拗ねていた。そんなときだった。
同じクラスの女の子が涙ながらに私に訊いてきたのだ。「タカシくんのこと好きなの?」と。泣いている彼女にびっくりしつつ素直に答えた。「普通……に好きかなぁ」と。それが彼女の怒りに触れて上記の言葉に繋がる。好きじゃないならあげちゃ駄目なの? でも最上さんたちは好きだし……タカシくんは今は微妙だけどまあ好きな方。小さい頃からずっと一緒だったから。でもこの子はすごく怒ってる。好きなのに渡さないでと怒ってる。同じじゃないんだから、と。それから何となくバレンタインにチョコを送るのはしなくなった。
「…………そういえばあれ以来だなぁ」
バレンタインにチョコをあげたのは。あげた本人である烏丸の顔を脳裏に浮かべる。その瞬間、あの言葉と同様に胸がなにかに引っかかった気がした。
思わずそう聞くと「声が大きい!」と口をガバッと塞がれた。頬を赤くしながら察してよ……という目で私を見る響子ちゃんは恋する乙女そのものだった。かわいいなぁと和みたかったがさすが元アタッカー。鼻までばっちり塞ぐ徹底ぷり。意識が遠のきそうになってやっと「わー!? ごめん大丈夫!?」と手を離してもらえた。ラウンジが墓場になるかと思った。いやだなこんな人通りが多い墓場。
「忍田さんの元彼女……うーん、」
「そっそもそも今いないよね……?」
「いないいない。仕事が恋人」
この間いないって言ってたしと付け加えると見るからにほっとしている響子ちゃん。見た目は綺麗系なのに中身は乙女な響子ちゃんは結構長いこと忍田さんに片思いを続けている。恋愛事に全く縁のない私ですら「ああ……好きなんだね……忍田さんがめちゃくちゃ好きなんだねぇ……」と早い段階で気づいたのに当の本人ときたら……。仕事してるときは響子ちゃんも態度に出さないけど、あなた達大抵一緒にいるでしょ……と私が頭を押さえるくらいの鈍感さを発揮して全く気づかない。恋愛の切れ味はナマクラだあの人。
「私としては響子ちゃんが忍田さんとくっ付いてくれたら嬉しいんだけど」
「それが出来たら苦労しないの」
はあ……と憂いを帯びたため息を漏らす響子ちゃんの頬は少し赤くなっていた。忍田さんのことを考えているのだろうか。今さらだけど私は人の恋愛事の力になったことがない。そもそも私に相談する猛者は響子ちゃんくらいだ。「それで、忍田さんの昔の恋人ってどんな人だったの……?」と響子ちゃんはすごい形相で訊いてくる。どうしよう、ストレートに言っていいのかな。見た目くらいしか覚えてないけど。
「び、美人だったよ」
「……だよね」
響子ちゃんは目に見えてがっくりしていた。嘘をついてもアマゾネスみたいな人だったよと言うべきだったかもしれない。でもどこでそんなアマゾネスをゲットしたんだって訊かれたら困るし、響子ちゃんがアマゾネスを目指しだしても困るし、それがうっかり忍田さんに伝わって「何故アマゾネスだ」って言われても困るし、本当に忍田さんの好みの相手がアマゾネスだったら反応に困る。うん、言わなくて良かったアマゾネス。
うーん恋愛相談って難しい。そう心で思っていると「ナマエは何かないの?」と訊かれた。
「こないだ烏丸に告白されたかなぁ」
「へーそっか。烏丸くんに…………えっ!!?」
「響子ちゃん声大きいよ」
さっきとは立場が逆だねぇと言うと「なんでそんなにまったりしてるの!」と怒られた。この温度差。
「か、烏丸くんってあの烏丸くん?」
「私の知ってる烏丸くんは一人だけだね」
「私もそうね……知ってる烏丸くんは烏丸くんだけだわ……」
何だこの会話。だいぶ響子ちゃんは混乱しているらしい。「それでナマエは何て返したの……?」すごい緊迫感のある顔してる。
「なにも。『今は何もいりません。今は』って言われたから」
「そっそうなの……」
何故か響子ちゃんの頬が染まった。どこに照れる要素があったのだろうか。
あの時の烏丸は鬼気迫るというか「おまえいい加減にしろよはっ倒すぞ」という顔をしていた。いつぞやの般若を思い出させる顔だった。殺意が隠しきれてなかった。何故……。
そのため言われたことを噛み砕くのにしばらく時間がかかって。「まあこれからよろしくお願いします」「あっこちらこそ」と烏丸はなにごともなかったように部屋から出て行った。
『俺と一緒に生きてほしい』
同時にその言葉が胸につっかかっている。理由は分からない。
相手のことを考えるだけで可愛く見えるんだなぁ、と響子ちゃんやレイジさんを見ているとしみじみ思う。あのゴツいレイジさんでもそう思わせてしまうのだからスゴいパワーが働いているに違いない。恋ってすごい。そう思う。思うだけで、そこを理解したことは多分ない。だからか烏丸に好きだと言われてもいまいちピンと来なかった。烏丸が般若を纏ってたせいもあると思う。というかこれが理由じゃないかなってすごく思ってる。ドラマとかで愛を囁いている人の顔と全然違ってた。どっちかというと「タマとったろうか」系の顔だった。
『私と同じ好きじゃないのに渡さないでよ!』
小4のときだった。幼稚園から小学校までクラスが全部同じで、何かと縁があったタカシくんという少年がいた。タカシくんはお手本のようなガキ大将だったけど性根は寂しがりだったから「母ちゃんにしかチョコもらえない……くそ……」とバレンタインの時期にむせび泣いていた。何だか可哀想になった当時の私は城戸さん達にあげる分をタカシくんにあげた。タカシくんは「べ、べつに頼んでねーけどくれるってんなら貰ってやるよ!」とお手本のようなツンデレをみせてきた。しかしツンデレなんて知らない当時の私は「こいつにはもう絶対やらない」と微妙に拗ねていた。そんなときだった。
同じクラスの女の子が涙ながらに私に訊いてきたのだ。「タカシくんのこと好きなの?」と。泣いている彼女にびっくりしつつ素直に答えた。「普通……に好きかなぁ」と。それが彼女の怒りに触れて上記の言葉に繋がる。好きじゃないならあげちゃ駄目なの? でも最上さんたちは好きだし……タカシくんは今は微妙だけどまあ好きな方。小さい頃からずっと一緒だったから。でもこの子はすごく怒ってる。好きなのに渡さないでと怒ってる。同じじゃないんだから、と。それから何となくバレンタインにチョコを送るのはしなくなった。
「…………そういえばあれ以来だなぁ」
バレンタインにチョコをあげたのは。あげた本人である烏丸の顔を脳裏に浮かべる。その瞬間、あの言葉と同様に胸がなにかに引っかかった気がした。