本編
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「むしゃくしゃしたんで告白しました」
おれの部屋に入ってきて開口一番に京介はそう言った。すっきりした様子で心なしか顔ツヤがいい。聞けば昨日は安眠したらしい。普通は逆だろうに……と考えて今までの気苦労っぷりを思い出した。その原因をよく知っている身としては何て言ったらいいか分からずに苦笑いが出た。
「ナマエはなんだって?」
「みえてたでしょ迅さん」
「あー……」
「犬飼先輩のナマエさんへのちょっかいはあまり楽しそうな顔しない癖に俺はほぼ放置でしたから。何となくこの先も知ってるんだろうと思ってました」
当事者のはずだよなぁ……あまりにも達観している京介にそう思わずにはいられない。同時にある程度察知されていたことに少し動揺した。ポーカーフェイスは得意なはずなのにナマエが絡むと上手くいかないのを身に染みて感じた。「よっ自称実力派エリート」脳内のナマエが茶々を入れてきた。八割方おまえのせいだからな。
「……まあこの光景は何度も見たし、その先の未来も見てるのは確かだ」
「言わなくていいですから。どっちに転んでもやることは一つなので」
「……たくましいな」
「どっかの誰かさんのせいです」
恨み節のこもった台詞に思わず謝りそうになった。いやここで謝ってもな……
「遠慮しませんけどいいっすよね」
「ここでおれがダメって言っても聞かないだろ」
「はい」
清々しい返事に再び苦笑いが出た。とんでもない奴に惚れたなぁと京介に対して思っていたが、その逆も言えそうだ。
「……分かってたのに寂しくなるもんなんだな」
「告白しただけでしょげないでくださいよ」
「……家族の恋愛話なんてどんな結果であれ聞きたくないよ」
「……」
思い当たる節があるらしく京介は一瞬静かになった。
「二人でこういう話しないんですか?」
「しないなぁ。多分ナマエは避けてるとかそういうのじゃないけど」
圧倒的に恋愛話に向かないからしないだけだ。
「ナマエさんって好きになった相手っているんですか」
「……」
「いないですよね」
「……おまえよく見てるなぁ」
「いつから片思いしてると思ってるんすか」
「ちなみにいつからなの」
そう訊ねると凄く苦々しい顔で「自覚したのは中二のときです」と返ってきた。今世紀最大のミスみたいな顔だった。おれもそう思うよ。
「……好きになるってプラスの感情だけじゃすまないでしょう。あの人は恋愛事抜きでも他人に嫉妬なんてしない上にいい意味でも悪い意味でも『自分は自分、他人は他人』なんですよ」
気に入らない、と顔からも声色からも全面に伝えてきた京介に何かがストンと落ちるのが分かった。
……やっぱり寂しいなぁ。
心のなかで呟いた言葉はぐっと押し込めて口角を上げた。
「……うん、がんばれ」
おれの言葉をどう取ったのか分からないが京介は静かに「はい」と返した。声は静かなのに目は違っていて、二度目の苦笑いが漏れた。
京介が出て行ってしばらく経って、やっと力が抜けてベッドに横になった。
ずいぶん前にみた未来。そこにいたのはナマエとあいつで。ナマエは今まで見たことないような顔で笑っていた。幸せだと顔が、目が語っていた。
「……まあ、まだまだ先のことだけど」
六、七年後。きっとそのくらい先の未来が今ここから動きだして行くのが分かって、そっと目を閉じた。
おれの部屋に入ってきて開口一番に京介はそう言った。すっきりした様子で心なしか顔ツヤがいい。聞けば昨日は安眠したらしい。普通は逆だろうに……と考えて今までの気苦労っぷりを思い出した。その原因をよく知っている身としては何て言ったらいいか分からずに苦笑いが出た。
「ナマエはなんだって?」
「みえてたでしょ迅さん」
「あー……」
「犬飼先輩のナマエさんへのちょっかいはあまり楽しそうな顔しない癖に俺はほぼ放置でしたから。何となくこの先も知ってるんだろうと思ってました」
当事者のはずだよなぁ……あまりにも達観している京介にそう思わずにはいられない。同時にある程度察知されていたことに少し動揺した。ポーカーフェイスは得意なはずなのにナマエが絡むと上手くいかないのを身に染みて感じた。「よっ自称実力派エリート」脳内のナマエが茶々を入れてきた。八割方おまえのせいだからな。
「……まあこの光景は何度も見たし、その先の未来も見てるのは確かだ」
「言わなくていいですから。どっちに転んでもやることは一つなので」
「……たくましいな」
「どっかの誰かさんのせいです」
恨み節のこもった台詞に思わず謝りそうになった。いやここで謝ってもな……
「遠慮しませんけどいいっすよね」
「ここでおれがダメって言っても聞かないだろ」
「はい」
清々しい返事に再び苦笑いが出た。とんでもない奴に惚れたなぁと京介に対して思っていたが、その逆も言えそうだ。
「……分かってたのに寂しくなるもんなんだな」
「告白しただけでしょげないでくださいよ」
「……家族の恋愛話なんてどんな結果であれ聞きたくないよ」
「……」
思い当たる節があるらしく京介は一瞬静かになった。
「二人でこういう話しないんですか?」
「しないなぁ。多分ナマエは避けてるとかそういうのじゃないけど」
圧倒的に恋愛話に向かないからしないだけだ。
「ナマエさんって好きになった相手っているんですか」
「……」
「いないですよね」
「……おまえよく見てるなぁ」
「いつから片思いしてると思ってるんすか」
「ちなみにいつからなの」
そう訊ねると凄く苦々しい顔で「自覚したのは中二のときです」と返ってきた。今世紀最大のミスみたいな顔だった。おれもそう思うよ。
「……好きになるってプラスの感情だけじゃすまないでしょう。あの人は恋愛事抜きでも他人に嫉妬なんてしない上にいい意味でも悪い意味でも『自分は自分、他人は他人』なんですよ」
気に入らない、と顔からも声色からも全面に伝えてきた京介に何かがストンと落ちるのが分かった。
……やっぱり寂しいなぁ。
心のなかで呟いた言葉はぐっと押し込めて口角を上げた。
「……うん、がんばれ」
おれの言葉をどう取ったのか分からないが京介は静かに「はい」と返した。声は静かなのに目は違っていて、二度目の苦笑いが漏れた。
京介が出て行ってしばらく経って、やっと力が抜けてベッドに横になった。
ずいぶん前にみた未来。そこにいたのはナマエとあいつで。ナマエは今まで見たことないような顔で笑っていた。幸せだと顔が、目が語っていた。
「……まあ、まだまだ先のことだけど」
六、七年後。きっとそのくらい先の未来が今ここから動きだして行くのが分かって、そっと目を閉じた。