番外編
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「なんの呼び出しだろうな~」
「この二人の時点でお説教かな~」
「だよな~」
「…………」
「…………」
言葉を切った私と太刀川さんは顔を見合わせ深く息をついてお互いの茶番に舌打ちを漏らす。向かうは本部長室。ボーダーの虎がいる場所だ。二人で来るようにと響子ちゃんから伝言を受けた。その瞬間、どのお説教だ……? と頭を抱え始めた私達を見る響子ちゃんの目は冷たかった。助けてよ響子ちゃん。
「あー行きたくねぇ」
「忍田さんはバックレたら更に怒る人だから無理だよ」
「それ普通の人間」
遠回しに城戸さんのこと人外だと非難する太刀川さんに「城戸さんのこと人間じゃないって言ってたって伝えておくね」と言うと「なんでそうなったか知らねえけど言ったらぶった切るからな」と言われた。そんなことをしていると遂についてしまった本部長室。心なしか何時もより扉が大きく見える。
「……どっちから入る?」
「そりゃあおまえだろ。年上敬え」
「私太刀川さんの事さん付けして呼んでるけどあれあだ名みたいなもんだからね」
「どういう意味だこら!」
そういう意味だよ。
結局じゃんけんして負けた太刀川さんから入ることになった。ゴクリと喉を鳴らした太刀川さんがノックして部屋へ入る。続けて私も部屋に入った。
「廊下でギャーギャー騒ぐんじゃない」
そして第一声がそれだった。やばい、火に油をぶっこんでしまった。足引っ張りやがってと互いを睨み合う。これでお説教が長くなるのは確実だ。くそ、別々に行けばよかった。そう後悔していると私達のやり取りを見ていた忍田さんはため息をついてカバン片手に立ち上がった。
「睨み合うのを止めなさい。行くぞ」
「……行くってどこに」
「……地下室か?」
「何を身構えているんだ。半休を貰った。おまえ達も今日の任務は終わっただろう」
その問いに二人してぎこちなく頷く。状況が掴めない。ハテナを浮かべる私と太刀川さんを見て難しい顔をしていた忍田さんが顔を緩めた。
****
「うめぇ」
「忍田さん、特上食べたい」
「好きなのを頼みなさい」
忍田の言葉に顔を見合わせたナマエと太刀川はメニューを持ってどれを頼むか吟味している。小さい子供と同じ反応に忍田は声を出さずに笑った。
二人を労う意味も兼ねて焼肉店へ連れてきた忍田。大規模侵攻の件もあるが比較的古株の隊員であるこの二人には苦労をかけることが多い。若い隊員の先導に立つことが多い上になんだかんだ言って面倒も見てくれている。偶には甘やかしたいと思うのは必然だった。もちろんそれ以上に面倒はかけられているが今日は目を瞑ることにした。
「美味しいか?」
「うまい!」
「太刀川さんそっちのタレ美味しいの?」
「ほれ」
「おお……美味ですな」
「レモンかけてみろ」
「! うまっ」
美味しそうに食べるナマエと太刀川を見て頬を緩める忍田。当初は女のナマエがいるためどこに連れて行くか迷ったがやはりここで正解だったらしい。小さい頃から味覚が変わっていないようだ。「焼き肉! 焼き肉!」と騒ぐ姿は昔のままだった。
「忍田さんスーツに臭いついちゃうよ? いいの?」
「食べながら話さない。もう家に帰るだけだからな大丈夫だ」
「家帰ってもスーツ洗ってくれる嫁さんいねーから大変だな」
「三十路の一人暮らしってどんな心境?」
「ここで説教されたいのかおまえ達は」
忍田の言葉に黙々と箸を進める二人にため息をつく。良い意味でも悪い意味でも全く変わらないのはどうなのか。
「でもさ、忍田さんもいい歳なんだからそろそろ結婚とか考えないの?」
ナマエが伺うようにしてそう尋ねる。隣にいる太刀川も同じ意見らしくうんうん頷いている。肉いっぱい頬張っているせいか間抜けに見える。
「結婚……まだ考えてないな。そもそも相手もいない」
「忍田さんだったらその辺の女の人誘ったらホイホイついてくるよ」
「忍田ホイホイだな」
「やめなさい」
「格好いいし権力者……粘着力凄そうだね」
「やめなさい」
人をゴキ◯リのように言うな。しかも食事所でなんて事を言うんだ。苦い顔をする忍田だがナマエたちは当事者である忍田をおいて嫁談議を繰り広げていた。
「忍田さんのお嫁さんならニコニコなんでも受け入れてくれる人じゃないとやっていけないよ」
「仕事人間だからなー。言葉強え女でもいいんじゃね?」
「ああ、『私と仕事どっちが大事なのよ!』ってかんじ?」
「溜め込まない女だな。どっちかっつーと。あと腕っ節の強いやつ」
「それ響子ちゃんじゃん…………あ、」
声を出さず「しまった」と口を動かすナマエ。太刀川も「馬鹿!」と小声で諫めた。本部長補佐である沢村響子が忍田に淡い恋心を抱いていることを知っているのは一部の人間だ。もちろん忍田はそのことを知らない。やらかした……と恐る恐る忍田を伺うナマエと太刀川。
「沢村くんはもっといい男がいるだろう」
だが忍田は全く気づいていなかった。微笑みながらそう言った忍田に悪気はない。だがある意味一番残酷なことをした。罪悪感から「響子ちゃんごめん」とナマエは小さく謝罪した。
「それよりもおまえたちはいい相手はいないのか?」
「太刀川さんが大学で女の人にビンタ食らったのは知ってる」
「余計なこと言うな!」
「間男と勘違いされたんでしょ? 風間さんがゴミを見るような目してたよ。あれは面白かった」
「しかもその場にいたのかよ! 止めろよおまえも風間さんも!」
仲間が濡れ衣着せられてんのになんてヤツらだ! と悲痛な声をあげる太刀川に「おまえは大学で何をやっているんだ……」と怒りを通り越して疲れきった顔をする忍田。
「おまえは相手すらいねえだろうが! そのままじゃ孤独死すんぞ」
「太刀川さんは女の人に刺されて死ぬと思う」
「ああもう分かったから止めなさい」
このままじゃ店の中で殴り合いが始まりそうだ。ごく一般的な質問でよくもここまで殺伐とした空気を作り出せるもんだ。はぁ……と息を吐いた忍田を見てナマエが思い出したように口を開いた。
「そういえば結婚するなら忍田さんみたいな人としなさいって言われたなぁ」
「最上さんにか?」
意外そうな口ぶりの忍田。記憶の中の最上はそういった話題をナマエにすることを避けていたような様子があった。それは結婚するなら誰がいいといった子供に一度はする質問でナマエが間髪入れず「きどさん」と答えたというトラウマによるものだったのだが。因みに理由を聞いた際に「けんりょくしゃだから!」とナマエが笑顔で答えたのは余談である。
怪訝な顔をする忍田にナマエは笑いながら口を開く。
「ちゃんと叱ってくれる人を旦那さんにしなさいって」
その言葉にああ……と声を漏らし目元を優しく緩める忍田。子供のことを心から想ってないと言えない言葉が最上らしいと思った。
「だったらボーダー隊員ほとんど当てはまるな。諏訪さんとかその筆頭だろ」
「いやだよあんなバイオレンスな旦那さん」
「諏訪さんも同じこと言うな絶対」
「あー絶対言うね」
諏訪の反応を想像してかケラケラ笑い出すナマエと太刀川。それを見た忍田はナマエの結婚相手は色んな意味で大変だろうな、と想像し始める。多少複雑な気持ちになるのは小さい頃から見てきた親心のようなものからか。
「……ああ、でも楽しみだな」
そう言って忍田は優しく微笑んだ。
「この二人の時点でお説教かな~」
「だよな~」
「…………」
「…………」
言葉を切った私と太刀川さんは顔を見合わせ深く息をついてお互いの茶番に舌打ちを漏らす。向かうは本部長室。ボーダーの虎がいる場所だ。二人で来るようにと響子ちゃんから伝言を受けた。その瞬間、どのお説教だ……? と頭を抱え始めた私達を見る響子ちゃんの目は冷たかった。助けてよ響子ちゃん。
「あー行きたくねぇ」
「忍田さんはバックレたら更に怒る人だから無理だよ」
「それ普通の人間」
遠回しに城戸さんのこと人外だと非難する太刀川さんに「城戸さんのこと人間じゃないって言ってたって伝えておくね」と言うと「なんでそうなったか知らねえけど言ったらぶった切るからな」と言われた。そんなことをしていると遂についてしまった本部長室。心なしか何時もより扉が大きく見える。
「……どっちから入る?」
「そりゃあおまえだろ。年上敬え」
「私太刀川さんの事さん付けして呼んでるけどあれあだ名みたいなもんだからね」
「どういう意味だこら!」
そういう意味だよ。
結局じゃんけんして負けた太刀川さんから入ることになった。ゴクリと喉を鳴らした太刀川さんがノックして部屋へ入る。続けて私も部屋に入った。
「廊下でギャーギャー騒ぐんじゃない」
そして第一声がそれだった。やばい、火に油をぶっこんでしまった。足引っ張りやがってと互いを睨み合う。これでお説教が長くなるのは確実だ。くそ、別々に行けばよかった。そう後悔していると私達のやり取りを見ていた忍田さんはため息をついてカバン片手に立ち上がった。
「睨み合うのを止めなさい。行くぞ」
「……行くってどこに」
「……地下室か?」
「何を身構えているんだ。半休を貰った。おまえ達も今日の任務は終わっただろう」
その問いに二人してぎこちなく頷く。状況が掴めない。ハテナを浮かべる私と太刀川さんを見て難しい顔をしていた忍田さんが顔を緩めた。
****
「うめぇ」
「忍田さん、特上食べたい」
「好きなのを頼みなさい」
忍田の言葉に顔を見合わせたナマエと太刀川はメニューを持ってどれを頼むか吟味している。小さい子供と同じ反応に忍田は声を出さずに笑った。
二人を労う意味も兼ねて焼肉店へ連れてきた忍田。大規模侵攻の件もあるが比較的古株の隊員であるこの二人には苦労をかけることが多い。若い隊員の先導に立つことが多い上になんだかんだ言って面倒も見てくれている。偶には甘やかしたいと思うのは必然だった。もちろんそれ以上に面倒はかけられているが今日は目を瞑ることにした。
「美味しいか?」
「うまい!」
「太刀川さんそっちのタレ美味しいの?」
「ほれ」
「おお……美味ですな」
「レモンかけてみろ」
「! うまっ」
美味しそうに食べるナマエと太刀川を見て頬を緩める忍田。当初は女のナマエがいるためどこに連れて行くか迷ったがやはりここで正解だったらしい。小さい頃から味覚が変わっていないようだ。「焼き肉! 焼き肉!」と騒ぐ姿は昔のままだった。
「忍田さんスーツに臭いついちゃうよ? いいの?」
「食べながら話さない。もう家に帰るだけだからな大丈夫だ」
「家帰ってもスーツ洗ってくれる嫁さんいねーから大変だな」
「三十路の一人暮らしってどんな心境?」
「ここで説教されたいのかおまえ達は」
忍田の言葉に黙々と箸を進める二人にため息をつく。良い意味でも悪い意味でも全く変わらないのはどうなのか。
「でもさ、忍田さんもいい歳なんだからそろそろ結婚とか考えないの?」
ナマエが伺うようにしてそう尋ねる。隣にいる太刀川も同じ意見らしくうんうん頷いている。肉いっぱい頬張っているせいか間抜けに見える。
「結婚……まだ考えてないな。そもそも相手もいない」
「忍田さんだったらその辺の女の人誘ったらホイホイついてくるよ」
「忍田ホイホイだな」
「やめなさい」
「格好いいし権力者……粘着力凄そうだね」
「やめなさい」
人をゴキ◯リのように言うな。しかも食事所でなんて事を言うんだ。苦い顔をする忍田だがナマエたちは当事者である忍田をおいて嫁談議を繰り広げていた。
「忍田さんのお嫁さんならニコニコなんでも受け入れてくれる人じゃないとやっていけないよ」
「仕事人間だからなー。言葉強え女でもいいんじゃね?」
「ああ、『私と仕事どっちが大事なのよ!』ってかんじ?」
「溜め込まない女だな。どっちかっつーと。あと腕っ節の強いやつ」
「それ響子ちゃんじゃん…………あ、」
声を出さず「しまった」と口を動かすナマエ。太刀川も「馬鹿!」と小声で諫めた。本部長補佐である沢村響子が忍田に淡い恋心を抱いていることを知っているのは一部の人間だ。もちろん忍田はそのことを知らない。やらかした……と恐る恐る忍田を伺うナマエと太刀川。
「沢村くんはもっといい男がいるだろう」
だが忍田は全く気づいていなかった。微笑みながらそう言った忍田に悪気はない。だがある意味一番残酷なことをした。罪悪感から「響子ちゃんごめん」とナマエは小さく謝罪した。
「それよりもおまえたちはいい相手はいないのか?」
「太刀川さんが大学で女の人にビンタ食らったのは知ってる」
「余計なこと言うな!」
「間男と勘違いされたんでしょ? 風間さんがゴミを見るような目してたよ。あれは面白かった」
「しかもその場にいたのかよ! 止めろよおまえも風間さんも!」
仲間が濡れ衣着せられてんのになんてヤツらだ! と悲痛な声をあげる太刀川に「おまえは大学で何をやっているんだ……」と怒りを通り越して疲れきった顔をする忍田。
「おまえは相手すらいねえだろうが! そのままじゃ孤独死すんぞ」
「太刀川さんは女の人に刺されて死ぬと思う」
「ああもう分かったから止めなさい」
このままじゃ店の中で殴り合いが始まりそうだ。ごく一般的な質問でよくもここまで殺伐とした空気を作り出せるもんだ。はぁ……と息を吐いた忍田を見てナマエが思い出したように口を開いた。
「そういえば結婚するなら忍田さんみたいな人としなさいって言われたなぁ」
「最上さんにか?」
意外そうな口ぶりの忍田。記憶の中の最上はそういった話題をナマエにすることを避けていたような様子があった。それは結婚するなら誰がいいといった子供に一度はする質問でナマエが間髪入れず「きどさん」と答えたというトラウマによるものだったのだが。因みに理由を聞いた際に「けんりょくしゃだから!」とナマエが笑顔で答えたのは余談である。
怪訝な顔をする忍田にナマエは笑いながら口を開く。
「ちゃんと叱ってくれる人を旦那さんにしなさいって」
その言葉にああ……と声を漏らし目元を優しく緩める忍田。子供のことを心から想ってないと言えない言葉が最上らしいと思った。
「だったらボーダー隊員ほとんど当てはまるな。諏訪さんとかその筆頭だろ」
「いやだよあんなバイオレンスな旦那さん」
「諏訪さんも同じこと言うな絶対」
「あー絶対言うね」
諏訪の反応を想像してかケラケラ笑い出すナマエと太刀川。それを見た忍田はナマエの結婚相手は色んな意味で大変だろうな、と想像し始める。多少複雑な気持ちになるのは小さい頃から見てきた親心のようなものからか。
「……ああ、でも楽しみだな」
そう言って忍田は優しく微笑んだ。