番外編

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「もう教えることねーよ家帰らせてよねむい」

「雑誌読みながら言うな! あんた一応おれの師匠だろ!」

 演習場にある観覧席の長椅子でごろごろしながら雑誌を読むナマエとそれに噛みつく出水。何してんだあいつら。つーかナマエのやつなに持ち込んでやがる。おまえの家じゃねえんだぞ演習場は。

「うるさいな、もう教えることないって言ってんじゃん。とんとん拍子でA級上がりやがって可愛くねー」

「最後のが本音だろうがっ! ……弟子がこんなに悩んでんのによくそんな態度とれるよな」

 ふてくされた口調でそう言った出水はナマエが転がっている長椅子のすぐ隣に腰を落とした。胡座をかいてナマエを睨むがナマエは雑誌にしか興味ないらしい。一切出水を見ようとしない。あいつら本当に師弟関係なのか?
 遠目で見守っていたが流石に出水が不憫になり、俺も演習場へ入ろうと足を進めたときだった。

「なに遠征行くのがそんなに不安なの」

 突如ナマエがそう言った。それに対し出水は目を瞬いてナマエを凝視している。なんで、と口元が動くのが分かった。……なんだちゃんと師匠してんのか、と自分の頬が緩むのが分かった。

 ………が、

「おまえ今月の占い最下位だから気をつけなよ」

 そこじゃねえだろッ!
 軽い口調でそう言ったナマエ。なんで不安がっている弟子にそれを伝えた。もっと言うべき事あるだろ。ああ、呑気に雑誌読んでるあいつの頭叩いてやりてぇ。俺と同じ心境らしい出水は額に青筋を浮かべている。殴っちまえ。ああ……あいつのせいで煙草落としちまった。

「まじムカつくまじムカつく」

「うるせー。さっさと遠征の準備して寝ろ」

「あと一週間あるんだけど」

「一週間寝てろ」

「適当すぎんだよ!」

 なんでこの人を師匠にしたんだおれ……と力なくボヤく出水。それに対し「東さんに言え」と冷たく返すナマエ。そういえば東さんが出水にナマエを紹介したとか言ってたな。完全に人選ミスだと思うのは俺だけじゃないだろう。

「で、何で今さら悩んでんの。太刀川さんとか風間さんとかいるんだから大丈夫だって」

「………」

「え、なに無視?」

「師匠に話すの癪になってきた」

「遠慮しなくていいよ」

「雑誌置いてから言え」

 出水の言葉にだらだらと起き上がり、雑誌を横に置くナマエ。起き上がるときの声が「あ~どっこらしょ」だった辺りあいつは女を捨てきっている。
 出水はぼさぼさになった髪をのんびり直すナマエを見て息を吐き、ポツリと口を開いた。

「……最近、弾が当たんねえんだよ」

 狙った通りにいかない、遠征が近づくにつれて思い通りにいかなくなったと話し出した。話す度に声が弱くなっていくのは気のせいではない。

「遠征で、仲間に当てちまったらどうしよう」

 そう言って出水は下を向いた。出水は天才って言われるほどの腕を持ってるし頭も悪くない。だが、それでもまだまだ心は子供だ。──ここでフォローしとかねえと崩れるぞ、ナマエ
 そう心で呟く。すると出水の言葉を聞いたナマエがやっと口を開いた。

「…………気持ち悪っ」

 ……………。

「………………は?」

 あいつ、今なんて言った。

「え、なにしおらしくなってんの気持ち悪い。誰だおまえ」

 本気で嫌な顔をするナマエに出水は両手で顔を押さえた。その手はブルブル震えている。

「なっ、んで、! おれは、こんなのを! 師匠って呼んでんだっ!」

 心からの叫びだった。あそこまで怒り狂っている出水を見たのは初めてだ。……なんて可哀想なやつなんだ。心から同情する。

「おい、出水」

「なんだよ!!」

「ほら撃つとこ見てやるからさっさと行け」

 手元のデバイスを弄りながらナマエはそう言った。演習場には五十ほどの動く的が現れる。虚を突かれた出水はぶつぶつ言いながら演習場に降りてトリガーを起動させる。そしてバイパーを撃つが当たったのは半分ほど。……確かにこれは何時もの出水じゃあり得ねえな。完全にスランプに陥ってるようだ。出水もそれを分かっているのか顔を酷く歪めている。

「ヘタクソ!!」

 そしておまえは素直に言い過ぎだ! 少しは優しい言葉かけられねえのか!

「うわぁおまえ大丈夫?」

 大丈夫じゃねえだろどうみても。あれ出水泣きそうじゃね?

「……もう師匠がおれの代わりに行ってくれよ」

「嫌だよ。あっちの水飲めたもんじゃないもん」

 おまえの嫌の基準がおかしいんだよ。旅行気分か。
 ナマエは出水が当てられなかった残りの的をバイパーで全て撃ち落とした。それを見た出水はさらに表情を暗くする。

「師匠以下って……」

「ほんとだよ。どんだけメンタル弱いんだおまえ」

「……師匠はスランプとかねえの?」

「あるに決まってんだろ。つーか凡人はスランプの固まりだっつーの」

 この天才野郎が、と出水に吐き捨てるナマエ。あいつは出水になんかされたのか。冷たすぎだろ。仮にも師匠だろお前。

「じゃ、どうやって……乗り越えてんの」

「頑張って乗り越える。努力」

「師匠が鍛錬してるとこ見たことないんだけど」

「……いやっ、イメトレはいっつもしてるし」

 顔を反らしながら言うな。

「………もし師匠が迅さんに弾当てたらどうするの」

「もしっていうか何回も当ててるけど。昔からバンバン当ててたよ」

「………」

 全く悪びれてなく言ったナマエに出水は小さく「うわぁ……」と呟いた。片や仲間に当てるかもしれないと不安に思う人間と片や家族同然のやつに当てても堂々としている人間。うん、あいつ最悪だな。

「なんか悩んでんのバカらしくなってきた……」

「そりゃよかった。てか味方に当てる勢いで撃っちゃえば? そしたら的増えるから余計な神経使わないよ」

 軽い口調でそう言ったナマエ。あいつには罪悪感という言葉がないらしい。「師匠って本当はネイバーだろ」と真顔で言う出水。全面的に肯定する。
 ナマエは観覧席に座り、上から出水を見下ろす。その顔は呆れかえっていて、スランプ状態の弟子に向けるものではない。しかし出水は真摯な眼差しでナマエを見返した。

「シューターの役目は」

 静かにそう尋ねるナマエ。出水は真っ直ぐにナマエを見つめて口を開いた。

「……仲間のフォロー、白兵をいかに生かすか、近中遠距離全ての目線から、冷静に戦況を見極めること」

「……おし」

 分かってるならいい。そう言ってナマエは傍らに置いていた雑誌を再び手に持ち読み出す。それに対し出水は下唇を噛み締めてギッ! とナマエを睨む。その顔は僅かに赤らんでいた。

「師匠って本当に狡いよな!!」

「年取るとね、みんなそうなるんだよ」

「二つしか変わんねーだろ!」

 ……ああ、もう大丈夫だな。

 次の日、演習場で百に近い的を楽々と全て撃ち落とす出水とそれを端っこの方でそれをぼけーっと見つめるナマエの姿があった。
 
 
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