本編
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基地内ですれ違ったナマエに「今日の晩ご飯なに?」と質問されシチューだったよ、と言えば顔を綻ばせて去っていった。絶対に夜来るな、と視えてなくても分かる未来を脳裏に浮かべて迅は足を進める。そしてナマエが歩いて来た方向の廊下を曲がるとそこにはピラミッド状態で固まっていた高校生たちがいた。
「……何やってるんだ?」
この未来は視えていなかった。それ故に状況がいまいち把握しきれない。目を少し瞬かせながらそう質問するとピラミッドに介入せずその横に立っていた国近が「ナマエさんを尾行中です~」と答えた。余計に意味が分からなくなった。
「あいつの後追っても楽しくないでしょ」
「楽しい楽しくないっていうよりも大変です」
少し苛ついた様子で答えたのは国近と同じくピラミッドから離れた荒船だった。幾度となくナマエに振り回されてきた光景を視た迅は心の中で謝罪した。謝らないといけないような気がした。ごめんな……でも驚くほどに荒船に対しては悪意はないんだよ……斧とか。特に斧とか。本人に悪気ないだけで善意の犯行なんだよ……。そう思いつつピラミッドの一番下になっている北添に視線を向けた。
「ここに来るまで何したの、ナマエは」
「えーっと、お昼に風間さんにお子様カレーを奢ってから暇そうにしていた隊員捕まえてジョー○みた後にファインディングニ○鑑賞。ラインナップの温度差にみんな泣きそうになってました」
「もうなんか本当にごめんな……」
多分スリル満点な映画の後には心温まる話を~みたいなノリだったのだろう。多分これも悪意はない。空気が読めないだけで。せめて海というジャンルだけでも変えていたら違ったのだろうが。そして風間の件は割と風間自身が食べられたら見た目は気にしない質なので特に突っ込まなかった迅。周りのざわめきもスルーしてもぐもぐカレーを食べる風間の姿が簡単に頭に浮かんだ。これは風間さんも悪い、と呟いて北添の上でニヤニヤしている二人に視線をやった。多分この珍妙な光景を作り出した元凶だ。
「で、何企んでるんだ? 当真に犬飼」
「企みってひでー言い様だな迅さん」
「俺たちはただナマエさんの弱点が知りたいだけですよ」
ナマエの、弱点。頭の中でそう繰り返す。そしてため息を漏らしてどうしてそんなことになったの、と質問した。
「この間姉さんの今までの武勇伝と悪行の数々をみんなで言い合ってたんすよ」
まず武勇伝と悪行という言葉が同列に並ぶことに酷く違和感を覚えた迅。だが一々突っ込んでは話が進まないためにそのまま黙って続きを求めた。
「その流れで『そういえばナマエさんの苦手なものってなんだ?』ってなりまして」
「それで尾行か……」
ようするに暇だったんだろう。荒船以外は。多分巻き込まれただけだな……可哀想に……と哀れんでいると「迅さんは知らないんですか~? ナマエさんの弱点」と国近が話しかける。
「弱点だらけじゃないの? 空気読めないところとか」
「それは柿崎さんが言ってました」
「じゃあ寝相が悪い」
「それは嵐山さんが」
「思ったことがすぐに口にでるとか」
「蓮さんが言ってましたよ~」
「手も出る」
「生駒さんが」
ナマエの同級生に聞き回ったらしい18歳たちに苦笑いする迅。そして同級生全員が似たようなことを言っていることに更に苦笑いが零れた。みんな思いつくことは一緒らしい。
「虫も爬虫類もお化け屋敷も暗い場所も平気なんだろ、姉さんって」
「あー……ホラーゲームは反撃出来ないから得意じゃないって言ってたよ」
「反撃ってなんすか」
そのままの意味だよ、と薄い笑みを返した迅。ホラー系統は人並みに怖がりはするが、怖がりながらも楽しんでいるために弱点というほどではない。ナマエがお化け屋敷は平気というのは生身だから(攻撃出来る)という理由なのだ。どこまでも物騒な人間である。そしてさらに言うなら小学生のときに山で捕まえた蛇を飼おうとしたというとんでもエピソードもある。平気なんてレベルではない。むしろ得意分野に入る。ゴ○ブリを見つけて気持ち悪いと騒ぎはするが、率先して退治に行くのもナマエである。……あいつたくましいなぁ……。迅は少し遠い目をした。
「迅さんでも知らないならお手上げだねぇ……」
「迅さん何か隠していませんか」
「そんなこと隠さないって」
訝しげな犬飼と国近の視線を手で宥めて迅はそこで18歳衆と別れた。この後会議があるのだ。これからのことを決める大事な会議が。古株隊員の多くが呼ばれているが、ナマエ(最古参)は呼ばれていない辺りで察しがつくくらい大事な会議だ。あいついたら話の腰が折れまくるからね、と城戸の判断にうんうん頷く迅。会議に来るのは確か太刀川、風間、嵐山……
「…………あ」
迅の頭に思い浮かんだのは嵐山、柿崎、月見、生駒といった同級生たちの顔だった。月見や弓場は違ったが他は高校も同じで付き合いもそこそこ長い。過ごした時間と比例して互いに学生らしいみっともない姿もさらけ出している。言うまでもなくナマエも。
「……嘘ついちゃったな」
後頭部をぽりぽり掻きながらそう呟く迅。忘れていたわけではない。というよりも知らなかったのか、という気持ちの方が強い。だってナマエはあれが苦手なことを隠していない。むしろ隠せるわけがない。条件反射で怖がっているんだから。
「難しい顔をしているが何かあったか、迅」
「あ、風間さん」
迅の隣に並んだ風間。おそらく行き先は同じだろう。口元に手をやり、少し思案した迅は風間に向かって口を開く。
「風間さんってナマエの弱点知ってる?」
「唐突になんだ」
「いいからいいから」
「……人の話を聞かないところじゃないのか」
なぜ誰しもが弱点と言われて挙げるものがそういった類の話なのか。そして同時に風間も知らないのか、と内心驚く迅。ナマエは風間さんには弱いところを見せていると思っていたんだけど……とそこまで考えてふと思い出した。ナマエが苦手なものが出るときは人前に姿を一切現さないことと、ナマエがそれがダメになったのが高校三年生という割と最近の出来事だということを。これはもしかしたら古い付き合いの小南も知らないかもしれない。
ナマエが、雷が駄目だということに。
『無理無理無理この学校ぼろいじゃん。落ちたら終わる。隙間から落ちてくる』
『大丈夫だから机から出てこい! 一人で避難訓練するな!』
『大丈夫ってそんな簡単に言うけどさぁ! 自然の力に人間が勝てますか!? なんで落雷って言葉があると思ってんだ!! 落ちるんだよ雷はッ!』
外でゴロゴロという音が鳴り響く授業中。授業中にも関わらず机の下に入り込み身体を縮ませるナマエと机から出そうと格闘する柿崎。学生時代は複数回見られた光景だ。特に夏。もしかしたら学年中が知っているかもしれない。だって学年集会のときも「体育館とか絶対無理だって落ちるって!!」と騒いでいたのだから。うん、絶対知ってる。むしろ一つ下の当真たちが知らないのは奇跡かもしれない。多分タイミングが合わなかったんだろう。そんな頻繁に雷って鳴らないし。月見は学校は違ったが雷予報が出たときに真っ先にナマエが泣きつく相手なので知っていて当然だ。
まあ、雷が駄目になったという理由が任務中、目の前にあった鉄塔に雷が直撃したという割と笑えない理由からなのだから仕方ないと言えば仕方ない。トリオン体じゃなかったらどうなっていたことか。その日ナマエは「雷コワイ、雷コワイ」と本気で泣いていた。これも仕方ないことだろう。でもまさか全く知られてないとは。あれだけ騒いでいるのに。そして何故かこのことを教えなかった同級生たちの顔を再び思い浮かべる。
「………割と強かなメンバーだなぁ」
「なにがだ」
「いや、ちょっと」
柿崎、橘高、弓場、藤丸は可哀想という気持ちや弱味を人に教えることに抵抗を覚えたという線が強いが他はどうだろうか。嵐山も柿崎達と似たような理由な気がしないでもないが……少し怪しい。広報という仕事をやっているためか、面倒な諍いをスルリとすり抜ける術をよく知っているのだあの男は。まぁ天然で熱血漢というのも確かなのだが。そして月見。彼女は頭がいいしナマエの扱いも慣れている。ナマエも困ったときに一番に頼りにするのは月見だ。生駒は……うん、よく分からない。何を考えてるんだろう。大したことは考えてないのだろうが。
『今日雷マーク出てる! 蓮とかっきーとののと弓場は任務! 嵐山はモデル! 羽矢は学校! 生駒は知らん! 迅は!?』
普段一人でたくましく好き勝手にしているナマエがそうやって頼ってくるのは結構心地いい。先ほどの当真たちと一緒で横の繋がりは大きい。隊のチームメイトたちとは違った絆がある。……まぁつまり、そういうことなのだろう。全員ナマエに頼られて悪い気はしないのだ。自分を含めて。
相変わらず自分の家族は雑に扱われているようで愛されているな、と迅思わず笑みが零れた。
「……何やってるんだ?」
この未来は視えていなかった。それ故に状況がいまいち把握しきれない。目を少し瞬かせながらそう質問するとピラミッドに介入せずその横に立っていた国近が「ナマエさんを尾行中です~」と答えた。余計に意味が分からなくなった。
「あいつの後追っても楽しくないでしょ」
「楽しい楽しくないっていうよりも大変です」
少し苛ついた様子で答えたのは国近と同じくピラミッドから離れた荒船だった。幾度となくナマエに振り回されてきた光景を視た迅は心の中で謝罪した。謝らないといけないような気がした。ごめんな……でも驚くほどに荒船に対しては悪意はないんだよ……斧とか。特に斧とか。本人に悪気ないだけで善意の犯行なんだよ……。そう思いつつピラミッドの一番下になっている北添に視線を向けた。
「ここに来るまで何したの、ナマエは」
「えーっと、お昼に風間さんにお子様カレーを奢ってから暇そうにしていた隊員捕まえてジョー○みた後にファインディングニ○鑑賞。ラインナップの温度差にみんな泣きそうになってました」
「もうなんか本当にごめんな……」
多分スリル満点な映画の後には心温まる話を~みたいなノリだったのだろう。多分これも悪意はない。空気が読めないだけで。せめて海というジャンルだけでも変えていたら違ったのだろうが。そして風間の件は割と風間自身が食べられたら見た目は気にしない質なので特に突っ込まなかった迅。周りのざわめきもスルーしてもぐもぐカレーを食べる風間の姿が簡単に頭に浮かんだ。これは風間さんも悪い、と呟いて北添の上でニヤニヤしている二人に視線をやった。多分この珍妙な光景を作り出した元凶だ。
「で、何企んでるんだ? 当真に犬飼」
「企みってひでー言い様だな迅さん」
「俺たちはただナマエさんの弱点が知りたいだけですよ」
ナマエの、弱点。頭の中でそう繰り返す。そしてため息を漏らしてどうしてそんなことになったの、と質問した。
「この間姉さんの今までの武勇伝と悪行の数々をみんなで言い合ってたんすよ」
まず武勇伝と悪行という言葉が同列に並ぶことに酷く違和感を覚えた迅。だが一々突っ込んでは話が進まないためにそのまま黙って続きを求めた。
「その流れで『そういえばナマエさんの苦手なものってなんだ?』ってなりまして」
「それで尾行か……」
ようするに暇だったんだろう。荒船以外は。多分巻き込まれただけだな……可哀想に……と哀れんでいると「迅さんは知らないんですか~? ナマエさんの弱点」と国近が話しかける。
「弱点だらけじゃないの? 空気読めないところとか」
「それは柿崎さんが言ってました」
「じゃあ寝相が悪い」
「それは嵐山さんが」
「思ったことがすぐに口にでるとか」
「蓮さんが言ってましたよ~」
「手も出る」
「生駒さんが」
ナマエの同級生に聞き回ったらしい18歳たちに苦笑いする迅。そして同級生全員が似たようなことを言っていることに更に苦笑いが零れた。みんな思いつくことは一緒らしい。
「虫も爬虫類もお化け屋敷も暗い場所も平気なんだろ、姉さんって」
「あー……ホラーゲームは反撃出来ないから得意じゃないって言ってたよ」
「反撃ってなんすか」
そのままの意味だよ、と薄い笑みを返した迅。ホラー系統は人並みに怖がりはするが、怖がりながらも楽しんでいるために弱点というほどではない。ナマエがお化け屋敷は平気というのは生身だから(攻撃出来る)という理由なのだ。どこまでも物騒な人間である。そしてさらに言うなら小学生のときに山で捕まえた蛇を飼おうとしたというとんでもエピソードもある。平気なんてレベルではない。むしろ得意分野に入る。ゴ○ブリを見つけて気持ち悪いと騒ぎはするが、率先して退治に行くのもナマエである。……あいつたくましいなぁ……。迅は少し遠い目をした。
「迅さんでも知らないならお手上げだねぇ……」
「迅さん何か隠していませんか」
「そんなこと隠さないって」
訝しげな犬飼と国近の視線を手で宥めて迅はそこで18歳衆と別れた。この後会議があるのだ。これからのことを決める大事な会議が。古株隊員の多くが呼ばれているが、ナマエ(最古参)は呼ばれていない辺りで察しがつくくらい大事な会議だ。あいついたら話の腰が折れまくるからね、と城戸の判断にうんうん頷く迅。会議に来るのは確か太刀川、風間、嵐山……
「…………あ」
迅の頭に思い浮かんだのは嵐山、柿崎、月見、生駒といった同級生たちの顔だった。月見や弓場は違ったが他は高校も同じで付き合いもそこそこ長い。過ごした時間と比例して互いに学生らしいみっともない姿もさらけ出している。言うまでもなくナマエも。
「……嘘ついちゃったな」
後頭部をぽりぽり掻きながらそう呟く迅。忘れていたわけではない。というよりも知らなかったのか、という気持ちの方が強い。だってナマエはあれが苦手なことを隠していない。むしろ隠せるわけがない。条件反射で怖がっているんだから。
「難しい顔をしているが何かあったか、迅」
「あ、風間さん」
迅の隣に並んだ風間。おそらく行き先は同じだろう。口元に手をやり、少し思案した迅は風間に向かって口を開く。
「風間さんってナマエの弱点知ってる?」
「唐突になんだ」
「いいからいいから」
「……人の話を聞かないところじゃないのか」
なぜ誰しもが弱点と言われて挙げるものがそういった類の話なのか。そして同時に風間も知らないのか、と内心驚く迅。ナマエは風間さんには弱いところを見せていると思っていたんだけど……とそこまで考えてふと思い出した。ナマエが苦手なものが出るときは人前に姿を一切現さないことと、ナマエがそれがダメになったのが高校三年生という割と最近の出来事だということを。これはもしかしたら古い付き合いの小南も知らないかもしれない。
ナマエが、雷が駄目だということに。
『無理無理無理この学校ぼろいじゃん。落ちたら終わる。隙間から落ちてくる』
『大丈夫だから机から出てこい! 一人で避難訓練するな!』
『大丈夫ってそんな簡単に言うけどさぁ! 自然の力に人間が勝てますか!? なんで落雷って言葉があると思ってんだ!! 落ちるんだよ雷はッ!』
外でゴロゴロという音が鳴り響く授業中。授業中にも関わらず机の下に入り込み身体を縮ませるナマエと机から出そうと格闘する柿崎。学生時代は複数回見られた光景だ。特に夏。もしかしたら学年中が知っているかもしれない。だって学年集会のときも「体育館とか絶対無理だって落ちるって!!」と騒いでいたのだから。うん、絶対知ってる。むしろ一つ下の当真たちが知らないのは奇跡かもしれない。多分タイミングが合わなかったんだろう。そんな頻繁に雷って鳴らないし。月見は学校は違ったが雷予報が出たときに真っ先にナマエが泣きつく相手なので知っていて当然だ。
まあ、雷が駄目になったという理由が任務中、目の前にあった鉄塔に雷が直撃したという割と笑えない理由からなのだから仕方ないと言えば仕方ない。トリオン体じゃなかったらどうなっていたことか。その日ナマエは「雷コワイ、雷コワイ」と本気で泣いていた。これも仕方ないことだろう。でもまさか全く知られてないとは。あれだけ騒いでいるのに。そして何故かこのことを教えなかった同級生たちの顔を再び思い浮かべる。
「………割と強かなメンバーだなぁ」
「なにがだ」
「いや、ちょっと」
柿崎、橘高、弓場、藤丸は可哀想という気持ちや弱味を人に教えることに抵抗を覚えたという線が強いが他はどうだろうか。嵐山も柿崎達と似たような理由な気がしないでもないが……少し怪しい。広報という仕事をやっているためか、面倒な諍いをスルリとすり抜ける術をよく知っているのだあの男は。まぁ天然で熱血漢というのも確かなのだが。そして月見。彼女は頭がいいしナマエの扱いも慣れている。ナマエも困ったときに一番に頼りにするのは月見だ。生駒は……うん、よく分からない。何を考えてるんだろう。大したことは考えてないのだろうが。
『今日雷マーク出てる! 蓮とかっきーとののと弓場は任務! 嵐山はモデル! 羽矢は学校! 生駒は知らん! 迅は!?』
普段一人でたくましく好き勝手にしているナマエがそうやって頼ってくるのは結構心地いい。先ほどの当真たちと一緒で横の繋がりは大きい。隊のチームメイトたちとは違った絆がある。……まぁつまり、そういうことなのだろう。全員ナマエに頼られて悪い気はしないのだ。自分を含めて。
相変わらず自分の家族は雑に扱われているようで愛されているな、と迅思わず笑みが零れた。