本編
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木虎は山原ナマエが気に入らない。今思えば初対面のときから良い印象はなかった。
「あははーよろしく木虎ちゃん。まぁ気楽にやろうや」
今から任務だと言うのにヘラヘラして緊張感ひとつない姿。B級に上がり、初めての防衛任務。それがこんな人と組まされるなんて、と酷く苛ついたのを覚えている。何より悪名高い山原ナマエと周囲から期待を受ける自分が何故組まされるのだと、我ながら生意気なことを思ったのだ。
万年B級隊員。それが山原ナマエの蔑称だった。物心つく前からボーダーに所属し、幹部を除いたら一番の古株隊員であるというのに何時までもB級。チームを組んでA級を目指すという向上心もない。そんなナマエを馬鹿にする者は多い。木虎もナマエの様々な噂を聞いて、嫌いな部類の人間だと判断した。そしてこうやって会って会話をして更にその印象を強めた。
「そんな肩筋張らなくても出ないときは出ないからねぇ。山手線ゲームでもやる?」
「結構です」
周囲を警戒する木虎にナマエは何とも呑気な提案をした。遊び気分かと更にナマエを嫌う木虎。「中学生こわい……」と自分の両肩を持つナマエとそれ以上会話はしなかった。
その日、結局ネイバーは現れなかった。
二回目の防衛任務はB級のチームに入れてもらい任務に臨んだ。またしてもネイバーは現れなかったがその隊の隊長は責任感のある人で、山原ナマエの何倍も尊敬に値する人物だった。思わずそう漏らした木虎にその人物は目を見張り、困ったような顔で苦笑した。「あいつはちょっと……あー……悪い奴ではないんだけどな、良い奴でもないが……いやっまあ、うん、尊敬は出来ないだろうけど」と歯切れの悪い言葉にその人物、柿崎国治と山原ナマエが同級生だったことを思い出した。失言だったとその場で謝罪したが、それは友人を乏してしまったという事に対してで、山原ナマエの評価は変える気はなかった。
そして三回目の防衛任務。組んだ相手は山原ナマエだった。
「かっきーのチームと任務したんだって? どうだった?」
前回の木虎の態度をもう忘れたのか、山原ナマエは馴れ馴れしく話しかけてきた。言うまでもなく任務中だ。
「………山原さんの何倍も、真面目で良い人でした」
嫌みと苛つきを盛大に込めてそう言うが「かっきーは面倒見いいからねぇ。口うるさいけど」と特に気にした様子はなかった。もちろんイラッとした。そして限界だった。
「………あなたは何故、」
──ボーダーにいるんですか
そう質問しようとした瞬間だった。
途端に鳴り響く警報。間をおかずして開いた門。ネイバーがやって来たのだ。
「……っ、」
生唾を飲み込む自分の横で山原ナマエは「あらら、来ちゃったよ」とのんびり呟いた。それで気が戻ったのか、木虎は銃型トリガーを構えた。
「モールモッド二体か」
指でトリオン兵の数を数え、耳元に手をやる。「こちら山原。モールモッド二体と遭遇。木虎と対処しまーす」と何時もと変わらない口調で、通信を終わらせて木虎へと視線をやった。
「大丈夫、大丈夫。近くに他の部隊もいるから。いつも通りで」
この間初めて会ったナマエと木虎にいつも通りもくそもなかったのだがそれに突っ込む気力はなかった。そしてそんな状態で、モールモッドが木虎とナマエへ襲いかかったのだ。
「!」
反射的に銃型トリガーを構えて撃った。しかし口の中のコアに当たらずに弾かれた。訓練では上手くいったのに、そう頭の中で呟いたときだった。
「アステロイド」
「!! ……あ、」
ナマエの右手から放たれたアステロイドによってモールモッドは破壊された。動かなくなったモールモッドに静かに息を漏らし、今更足を震わせた。
「大丈夫、大丈夫。次は当たるって」
そしてそんな木虎に、やはり変わらない口調でナマエはそう言いきった。
もう一体のモールモッドを見据え、「じゃ、私が釣りやるから木虎ちゃんトドメさしてね。自分のタイミングでいいから。あっ私が死ぬ前には撃ってね」とふざけた言葉を残してナマエはモールモッドへ向かって行った。
「…………、」
明らかに手を抜いた状態でモールモッドをあしらうナマエに木虎は口を結んだ。先ほど一撃で倒した相手に手間取る理由なんてあるわけがない。あるとすれば、木虎に少しでも経験を積ませようとしているのだ。先ほど何も出来なかった自分に、挽回の機会を与えようとしているのだ。そんな気遣いに、ナマエを万年B級だと馬鹿にした少し前の自分を恥じた。馬鹿はどちらだ。モールモッドと戦うナマエの背中は何だか大きく感じた。
木虎は銃型トリガーを静かに構え、標準を合わせて引き金を弾いた。
****
「今のブームは梅昆布茶です」
「確かに旨いなぁ。初めて飲んだが俺も好きだよ」
「梅昆布茶を普及させて各作戦室に常備させようと目論んでるからよろしく」
「ははっ了解」
「………」
のんびりと寛ぐ自隊の隊長とその同僚兼友人……自分にとっては先輩に、何とも言えない視線を向ける木虎。「お茶は日本人の心だよねぇ」「飲んでると落ちつくからなぁ」「身体がお茶を求めてるよねぇ」と何の生産性のない会話を続ける二人に仕事してください、と言おうとして止めた。隊長─嵐山にとっては束の間の休息だ。ずっと働き詰めだったのだ。先輩─ナマエは知らないが。強いて言えば個人対戦ブースで「米屋が勝つほうに食券一枚」「俺も米屋だな」「賭けにならないじゃん出水にかけてよ太刀川さん」「師匠はおれに賭けろよ!」と相も変わらず騒いでいたところを見たくらいだ。
「………」
あれから数ヶ月経った。ナマエの事はやはり、気に入らない。
『木虎ちゃん、オールラウンダーにならない? 木虎ちゃんは器用だからいけると思うけど』
『あ、木虎ちゃん。これ烏丸。強いから色々教わりなー』
『木虎、顔色悪くない? ほら飴ちゃんやろう。きついなら休め休め。隊員くさるほどいるんだから』
気に入らない。自由気儘に、自分勝手に生きているくせに、人が困っているときにひょこっと現れて、サラッと助言して、去っていくのだ。自分の憧れの人の視線を一身に受けているのに全く気づかない鈍感さも気に入らない。そして何より──彼女が万年B級隊員だと過小評価されているのが気に入らない。
「ん、どうした木虎。梅昆布茶ほしい? 煎れようか?」
「結構です」
「中学生こわい……」
両肩を震えながら掴むナマエをギッと睨む。そんな風にいつもふざけてるから周りが気づかないのだ。本当は、凄い人間なんだと。昔からボーダーに所属して、生き残った猛者が弱いわけがない。個人戦もやる気が出ないといって殆どやらないし、戦っているときも普段の調子を全く崩さない。つまりふざけているように見える。真面目かと思えばいつも通り突拍子のないことをやらかす。原因は限りなくナマエのせいだったが、やはり木虎は気に入らなかった。
だって自分にボーダー隊員として生きていく決意をさせたのはこの人だ。あの引き金を弾いたときに、木虎はボーダー隊員の使命が分かった気がしたのだ。それなのに、それなのに……ッ!
「仕事しますから出て行ってください」
「木虎、そこまで言わなくてもいいんじゃ……もうすぐ三雲君も来るだろうし」
「あ、修くん来るの? じゃあもうちょっといようかな」
「出て行ってください!!!」
やっぱりこの人は気に入らない。
「あははーよろしく木虎ちゃん。まぁ気楽にやろうや」
今から任務だと言うのにヘラヘラして緊張感ひとつない姿。B級に上がり、初めての防衛任務。それがこんな人と組まされるなんて、と酷く苛ついたのを覚えている。何より悪名高い山原ナマエと周囲から期待を受ける自分が何故組まされるのだと、我ながら生意気なことを思ったのだ。
万年B級隊員。それが山原ナマエの蔑称だった。物心つく前からボーダーに所属し、幹部を除いたら一番の古株隊員であるというのに何時までもB級。チームを組んでA級を目指すという向上心もない。そんなナマエを馬鹿にする者は多い。木虎もナマエの様々な噂を聞いて、嫌いな部類の人間だと判断した。そしてこうやって会って会話をして更にその印象を強めた。
「そんな肩筋張らなくても出ないときは出ないからねぇ。山手線ゲームでもやる?」
「結構です」
周囲を警戒する木虎にナマエは何とも呑気な提案をした。遊び気分かと更にナマエを嫌う木虎。「中学生こわい……」と自分の両肩を持つナマエとそれ以上会話はしなかった。
その日、結局ネイバーは現れなかった。
二回目の防衛任務はB級のチームに入れてもらい任務に臨んだ。またしてもネイバーは現れなかったがその隊の隊長は責任感のある人で、山原ナマエの何倍も尊敬に値する人物だった。思わずそう漏らした木虎にその人物は目を見張り、困ったような顔で苦笑した。「あいつはちょっと……あー……悪い奴ではないんだけどな、良い奴でもないが……いやっまあ、うん、尊敬は出来ないだろうけど」と歯切れの悪い言葉にその人物、柿崎国治と山原ナマエが同級生だったことを思い出した。失言だったとその場で謝罪したが、それは友人を乏してしまったという事に対してで、山原ナマエの評価は変える気はなかった。
そして三回目の防衛任務。組んだ相手は山原ナマエだった。
「かっきーのチームと任務したんだって? どうだった?」
前回の木虎の態度をもう忘れたのか、山原ナマエは馴れ馴れしく話しかけてきた。言うまでもなく任務中だ。
「………山原さんの何倍も、真面目で良い人でした」
嫌みと苛つきを盛大に込めてそう言うが「かっきーは面倒見いいからねぇ。口うるさいけど」と特に気にした様子はなかった。もちろんイラッとした。そして限界だった。
「………あなたは何故、」
──ボーダーにいるんですか
そう質問しようとした瞬間だった。
途端に鳴り響く警報。間をおかずして開いた門。ネイバーがやって来たのだ。
「……っ、」
生唾を飲み込む自分の横で山原ナマエは「あらら、来ちゃったよ」とのんびり呟いた。それで気が戻ったのか、木虎は銃型トリガーを構えた。
「モールモッド二体か」
指でトリオン兵の数を数え、耳元に手をやる。「こちら山原。モールモッド二体と遭遇。木虎と対処しまーす」と何時もと変わらない口調で、通信を終わらせて木虎へと視線をやった。
「大丈夫、大丈夫。近くに他の部隊もいるから。いつも通りで」
この間初めて会ったナマエと木虎にいつも通りもくそもなかったのだがそれに突っ込む気力はなかった。そしてそんな状態で、モールモッドが木虎とナマエへ襲いかかったのだ。
「!」
反射的に銃型トリガーを構えて撃った。しかし口の中のコアに当たらずに弾かれた。訓練では上手くいったのに、そう頭の中で呟いたときだった。
「アステロイド」
「!! ……あ、」
ナマエの右手から放たれたアステロイドによってモールモッドは破壊された。動かなくなったモールモッドに静かに息を漏らし、今更足を震わせた。
「大丈夫、大丈夫。次は当たるって」
そしてそんな木虎に、やはり変わらない口調でナマエはそう言いきった。
もう一体のモールモッドを見据え、「じゃ、私が釣りやるから木虎ちゃんトドメさしてね。自分のタイミングでいいから。あっ私が死ぬ前には撃ってね」とふざけた言葉を残してナマエはモールモッドへ向かって行った。
「…………、」
明らかに手を抜いた状態でモールモッドをあしらうナマエに木虎は口を結んだ。先ほど一撃で倒した相手に手間取る理由なんてあるわけがない。あるとすれば、木虎に少しでも経験を積ませようとしているのだ。先ほど何も出来なかった自分に、挽回の機会を与えようとしているのだ。そんな気遣いに、ナマエを万年B級だと馬鹿にした少し前の自分を恥じた。馬鹿はどちらだ。モールモッドと戦うナマエの背中は何だか大きく感じた。
木虎は銃型トリガーを静かに構え、標準を合わせて引き金を弾いた。
****
「今のブームは梅昆布茶です」
「確かに旨いなぁ。初めて飲んだが俺も好きだよ」
「梅昆布茶を普及させて各作戦室に常備させようと目論んでるからよろしく」
「ははっ了解」
「………」
のんびりと寛ぐ自隊の隊長とその同僚兼友人……自分にとっては先輩に、何とも言えない視線を向ける木虎。「お茶は日本人の心だよねぇ」「飲んでると落ちつくからなぁ」「身体がお茶を求めてるよねぇ」と何の生産性のない会話を続ける二人に仕事してください、と言おうとして止めた。隊長─嵐山にとっては束の間の休息だ。ずっと働き詰めだったのだ。先輩─ナマエは知らないが。強いて言えば個人対戦ブースで「米屋が勝つほうに食券一枚」「俺も米屋だな」「賭けにならないじゃん出水にかけてよ太刀川さん」「師匠はおれに賭けろよ!」と相も変わらず騒いでいたところを見たくらいだ。
「………」
あれから数ヶ月経った。ナマエの事はやはり、気に入らない。
『木虎ちゃん、オールラウンダーにならない? 木虎ちゃんは器用だからいけると思うけど』
『あ、木虎ちゃん。これ烏丸。強いから色々教わりなー』
『木虎、顔色悪くない? ほら飴ちゃんやろう。きついなら休め休め。隊員くさるほどいるんだから』
気に入らない。自由気儘に、自分勝手に生きているくせに、人が困っているときにひょこっと現れて、サラッと助言して、去っていくのだ。自分の憧れの人の視線を一身に受けているのに全く気づかない鈍感さも気に入らない。そして何より──彼女が万年B級隊員だと過小評価されているのが気に入らない。
「ん、どうした木虎。梅昆布茶ほしい? 煎れようか?」
「結構です」
「中学生こわい……」
両肩を震えながら掴むナマエをギッと睨む。そんな風にいつもふざけてるから周りが気づかないのだ。本当は、凄い人間なんだと。昔からボーダーに所属して、生き残った猛者が弱いわけがない。個人戦もやる気が出ないといって殆どやらないし、戦っているときも普段の調子を全く崩さない。つまりふざけているように見える。真面目かと思えばいつも通り突拍子のないことをやらかす。原因は限りなくナマエのせいだったが、やはり木虎は気に入らなかった。
だって自分にボーダー隊員として生きていく決意をさせたのはこの人だ。あの引き金を弾いたときに、木虎はボーダー隊員の使命が分かった気がしたのだ。それなのに、それなのに……ッ!
「仕事しますから出て行ってください」
「木虎、そこまで言わなくてもいいんじゃ……もうすぐ三雲君も来るだろうし」
「あ、修くん来るの? じゃあもうちょっといようかな」
「出て行ってください!!!」
やっぱりこの人は気に入らない。