本編
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「お疲れさまーっす………うん?」
「どうした陽介…………」
言葉の切れた奈良坂。うん、そうなるよな。
作戦室に帰るとそこにいたのは蓮さんだけだった。オペレーター席に座って作業する蓮さんに一度挨拶してテーブルに戻ろうとしたときだった。……何か伸びてる。蓮さんのデスクから何か伸びてる。
蓮さんのデスクまで足を進めて裏を覗きこむとそこには座った状態の蓮さんの腰にしがみついたナマエさんの姿があった。
「何やってんのナマエさん」
「怖い夢を見たそうよ」
作業しながら淡々と返す蓮さん。そして何も反応しないナマエさん。……うん、さすが同級生というか、色々慣れてんな。柿崎さんもこんな感じだよな。あの人はもっとナマエさんに口うるさいけど。
「怖い夢って……山原さんに怖いものなんてあるんですか」
「奈良坂くん、ナマエも一応人の子だから」
一向に解せぬといった顔で言い切った奈良坂に少し苦笑しながら蓮さんが返す。オレも少し思ったけどおまえ正直すぎない? まあ、うん。気持ちは分かるけどな。
『………なあ、師匠が捨て子で最上さん? って師匠の義理の父親が亡くなったって知ってたか』
ばつが悪そうな表情でオレにそう聞いてきた出水。あれは黒トリガー奪還任務の後くらいだったか。それに対して頷くと出水は苦虫を噛み潰したような顔になった。何で弟子のおれには言わないんだよって顔。普段全く師匠扱いしてないのにこれかと少し笑いそうになった。
まーオレもナマエさんから直接聞いたわけじゃない。あの人は良くも悪くも目立つからそういった噂が流れていて、偶然聞いてしまったってやつだ。本人にはさすがに聞けないよな。だって本当だったら……って思ってたら本当の事だったってオチで。そして思ったのがあの人壮絶な生い立ちを持ってるわりに明るすぎじゃねってことだ。別に暗くしてろってわけじゃない。でも普通は何かしらあるよなぁ……とぼんやり考えたことがある。身近で言えば秀次とか。
……まぁ、とっくの昔に割り切ってんだろうと結論付けた。そう出水に言ったが、あいつはやっぱり納得出来ないって顔をしていた。おまえ本当にナマエさん好きだな、と笑った。はぁ!? 好きじゃねえよ! とあいつは盛大に否定した。
そしてそんなナマエさんに怖いものがあるって分かって、内心ほっとした。いつも明るい人間なんていねえし、ナマエさんは喜怒哀楽激しいがいつも何を考えてるかわからない。いや、普段のハチャメチャな思考回路を理解出来るわけないが、またそういったものとは別の問題で。先の黒トリガー奪還任務のときもあの人は簡単に迅さん側についたし、それでも城戸さんにはいつも通りに接してるしでけっこう本気で意味が分からない。
「………山原さん、たけのこの里ありますけど食べますか」
「いる」
「あら起きたのナマエ」
そして周りもナマエさんのそういった行動に特に何も言わない。「まあ……あいつだからなぁ……」と諦めてるというか何というか。周りを無理やり納得させる力というか……何だかんだ言ってナマエさんのそういう所は普通に凄いと思う。普段あんなんだけど。
「奈良坂透ありがとう」
「………」
フルネームを呼ばれた奈良坂はたけのこを差し出しつつも微妙な顔をした。ナマエさんが奈良坂の名字をいつも間違えるため(奈良嶋とか奈良山とか)に「あっフルネームだったら間違える気がしない」というよく分からない理由で決定してしまったフルネーム呼び。間違われて訂正するか間違われずフルネーム呼びを許容するかで悩んでいた奈良坂は後者を選んだらしい。未だに心境は複雑らしいが。そして似たような理由で影浦隊の絵馬も下の名前で呼ばれている。「絵塚、絵原、えがしら……?」「絵馬」「うん、めんどくさいから下の名前で呼ぶ」「………」と眉をしかめた絵馬と勝手に納得した顔のナマエさんのやりとりは面白かった。
「そういや怖い夢ってなに見たんすか?」
「蓮と太刀川さんが結婚する夢。蓮が満面の笑みで私にスピーチ頼んでくるし皆反対しないしで世の中は絶望で満ち溢れてると思った。あとちょっと泣いた」
「……………」
うん、やっぱりこの人よくわかんねえ。
そんな事を考えていると背後の扉がウイーンと音を立てて開いた。振り返るとそこにいたのは秀次だった。集まっているオレたちに不思議に思ったのかオペレーター席まで来て中を覗く。そして蓮さんに未だに引っ付いたままのナマエさんを発見して顔を歪めた。おまえホントナマエさん嫌いね。
「…………」
そしてすぐに回れ右をしてテーブルに置いてあった書類を手にして出て行こうとする。見なかったことにしたらしい。
「三輪、章平は学校の課外があるそうで今日は来れないそうだ」
「そうか、分かった」
「あ、秀次。オレも明日は補修入っちまった」
「………分かった」
「あ。秀次、東さんが心配してたから顔みせときなよ」
「分かっ……!?」
バッと振り返った秀次の顔は少し赤い。そしてオレと奈良坂も秀次ほどではないが驚いてナマエさんを凝視する。視線を一身に集めたナマエさんは意味が分からないといった風に首を傾げていたが気づいたのか「あっ」と声を出した。
「だから名前で呼ぶなと言っているだろうッ!」
そしてナマエさんが何か言い出す前に秀次は作戦室から出て行った。……耳赤かったな。やっちまった……と後頭部をかくナマエさんに話しかける。
「ナマエさんって秀次のこと名前で呼んでたっけ?」
「いや、うん。うっかり間違えただけ」
微妙に歯切れの悪いナマエさん。でも秀次の反応から見るにこれが初めてじゃないみたいだが。そもそもナマエさんが下の名前で呼ぶ男なんてほとんどいない。間違えるか普通。つーか二宮さんほどじゃないけどナマエさんと秀次って仲悪いんじゃなかったか? ……ナマエさんはちょっかいかけてただけだな。多分嫌ってない。三輪の奥様とか言ってたし。めちゃくちゃ秀次キレてたやつ。それにナマエさんの嫌いな相手への態度は二宮さんと犬飼先輩でよく知っている。つまり秀次が一方的に嫌ってんのか。………そのわりにさっき普通に照れてたよな。嫌いな人間に名前呼ばれたら舌打ちくらい返しそうだよな、性格的に。どういうことだ?
次はオレが疑問符を浮かべているとずっとオレたちの様子を見ていた蓮さんが笑みを零した。
「ふふ、移っちゃったのよね。三輪くんの呼び方」
「移ってない」
「本当に?」
「絶対移ってない」
楽しそうな蓮さんとそんな蓮さんにふてくされたような態度のナマエさん。移ったって? と質問するが二人とも答えてくれなかった。
****
「秀次」
赤くなった頬を手で隠して歩いていると背後から聞き慣れた声で呼ばれる。少し間を置き、振り返ると予想通りの人間がそこにいた。
「顔が赤いがどうかしたか」
「いえ、大丈夫です。……二宮さん」
「そうか。そう言えば東さんがおまえの事を心配していた。時間があるときに顔を出しておけ」
「………………」
「……なんだ」
怪訝そうな表情の二宮に三輪は「……何でもありません」と静かに返した。
「どうした陽介…………」
言葉の切れた奈良坂。うん、そうなるよな。
作戦室に帰るとそこにいたのは蓮さんだけだった。オペレーター席に座って作業する蓮さんに一度挨拶してテーブルに戻ろうとしたときだった。……何か伸びてる。蓮さんのデスクから何か伸びてる。
蓮さんのデスクまで足を進めて裏を覗きこむとそこには座った状態の蓮さんの腰にしがみついたナマエさんの姿があった。
「何やってんのナマエさん」
「怖い夢を見たそうよ」
作業しながら淡々と返す蓮さん。そして何も反応しないナマエさん。……うん、さすが同級生というか、色々慣れてんな。柿崎さんもこんな感じだよな。あの人はもっとナマエさんに口うるさいけど。
「怖い夢って……山原さんに怖いものなんてあるんですか」
「奈良坂くん、ナマエも一応人の子だから」
一向に解せぬといった顔で言い切った奈良坂に少し苦笑しながら蓮さんが返す。オレも少し思ったけどおまえ正直すぎない? まあ、うん。気持ちは分かるけどな。
『………なあ、師匠が捨て子で最上さん? って師匠の義理の父親が亡くなったって知ってたか』
ばつが悪そうな表情でオレにそう聞いてきた出水。あれは黒トリガー奪還任務の後くらいだったか。それに対して頷くと出水は苦虫を噛み潰したような顔になった。何で弟子のおれには言わないんだよって顔。普段全く師匠扱いしてないのにこれかと少し笑いそうになった。
まーオレもナマエさんから直接聞いたわけじゃない。あの人は良くも悪くも目立つからそういった噂が流れていて、偶然聞いてしまったってやつだ。本人にはさすがに聞けないよな。だって本当だったら……って思ってたら本当の事だったってオチで。そして思ったのがあの人壮絶な生い立ちを持ってるわりに明るすぎじゃねってことだ。別に暗くしてろってわけじゃない。でも普通は何かしらあるよなぁ……とぼんやり考えたことがある。身近で言えば秀次とか。
……まぁ、とっくの昔に割り切ってんだろうと結論付けた。そう出水に言ったが、あいつはやっぱり納得出来ないって顔をしていた。おまえ本当にナマエさん好きだな、と笑った。はぁ!? 好きじゃねえよ! とあいつは盛大に否定した。
そしてそんなナマエさんに怖いものがあるって分かって、内心ほっとした。いつも明るい人間なんていねえし、ナマエさんは喜怒哀楽激しいがいつも何を考えてるかわからない。いや、普段のハチャメチャな思考回路を理解出来るわけないが、またそういったものとは別の問題で。先の黒トリガー奪還任務のときもあの人は簡単に迅さん側についたし、それでも城戸さんにはいつも通りに接してるしでけっこう本気で意味が分からない。
「………山原さん、たけのこの里ありますけど食べますか」
「いる」
「あら起きたのナマエ」
そして周りもナマエさんのそういった行動に特に何も言わない。「まあ……あいつだからなぁ……」と諦めてるというか何というか。周りを無理やり納得させる力というか……何だかんだ言ってナマエさんのそういう所は普通に凄いと思う。普段あんなんだけど。
「奈良坂透ありがとう」
「………」
フルネームを呼ばれた奈良坂はたけのこを差し出しつつも微妙な顔をした。ナマエさんが奈良坂の名字をいつも間違えるため(奈良嶋とか奈良山とか)に「あっフルネームだったら間違える気がしない」というよく分からない理由で決定してしまったフルネーム呼び。間違われて訂正するか間違われずフルネーム呼びを許容するかで悩んでいた奈良坂は後者を選んだらしい。未だに心境は複雑らしいが。そして似たような理由で影浦隊の絵馬も下の名前で呼ばれている。「絵塚、絵原、えがしら……?」「絵馬」「うん、めんどくさいから下の名前で呼ぶ」「………」と眉をしかめた絵馬と勝手に納得した顔のナマエさんのやりとりは面白かった。
「そういや怖い夢ってなに見たんすか?」
「蓮と太刀川さんが結婚する夢。蓮が満面の笑みで私にスピーチ頼んでくるし皆反対しないしで世の中は絶望で満ち溢れてると思った。あとちょっと泣いた」
「……………」
うん、やっぱりこの人よくわかんねえ。
そんな事を考えていると背後の扉がウイーンと音を立てて開いた。振り返るとそこにいたのは秀次だった。集まっているオレたちに不思議に思ったのかオペレーター席まで来て中を覗く。そして蓮さんに未だに引っ付いたままのナマエさんを発見して顔を歪めた。おまえホントナマエさん嫌いね。
「…………」
そしてすぐに回れ右をしてテーブルに置いてあった書類を手にして出て行こうとする。見なかったことにしたらしい。
「三輪、章平は学校の課外があるそうで今日は来れないそうだ」
「そうか、分かった」
「あ、秀次。オレも明日は補修入っちまった」
「………分かった」
「あ。秀次、東さんが心配してたから顔みせときなよ」
「分かっ……!?」
バッと振り返った秀次の顔は少し赤い。そしてオレと奈良坂も秀次ほどではないが驚いてナマエさんを凝視する。視線を一身に集めたナマエさんは意味が分からないといった風に首を傾げていたが気づいたのか「あっ」と声を出した。
「だから名前で呼ぶなと言っているだろうッ!」
そしてナマエさんが何か言い出す前に秀次は作戦室から出て行った。……耳赤かったな。やっちまった……と後頭部をかくナマエさんに話しかける。
「ナマエさんって秀次のこと名前で呼んでたっけ?」
「いや、うん。うっかり間違えただけ」
微妙に歯切れの悪いナマエさん。でも秀次の反応から見るにこれが初めてじゃないみたいだが。そもそもナマエさんが下の名前で呼ぶ男なんてほとんどいない。間違えるか普通。つーか二宮さんほどじゃないけどナマエさんと秀次って仲悪いんじゃなかったか? ……ナマエさんはちょっかいかけてただけだな。多分嫌ってない。三輪の奥様とか言ってたし。めちゃくちゃ秀次キレてたやつ。それにナマエさんの嫌いな相手への態度は二宮さんと犬飼先輩でよく知っている。つまり秀次が一方的に嫌ってんのか。………そのわりにさっき普通に照れてたよな。嫌いな人間に名前呼ばれたら舌打ちくらい返しそうだよな、性格的に。どういうことだ?
次はオレが疑問符を浮かべているとずっとオレたちの様子を見ていた蓮さんが笑みを零した。
「ふふ、移っちゃったのよね。三輪くんの呼び方」
「移ってない」
「本当に?」
「絶対移ってない」
楽しそうな蓮さんとそんな蓮さんにふてくされたような態度のナマエさん。移ったって? と質問するが二人とも答えてくれなかった。
****
「秀次」
赤くなった頬を手で隠して歩いていると背後から聞き慣れた声で呼ばれる。少し間を置き、振り返ると予想通りの人間がそこにいた。
「顔が赤いがどうかしたか」
「いえ、大丈夫です。……二宮さん」
「そうか。そう言えば東さんがおまえの事を心配していた。時間があるときに顔を出しておけ」
「………………」
「……なんだ」
怪訝そうな表情の二宮に三輪は「……何でもありません」と静かに返した。