本編
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本部に呼び出されてから数日後、玉狛支部のテレビを囲んで遊真たちを応援中だ。お茶がうまい。
「あーもうじりじりするわ…….!」
玉狛で遊真たちのランク戦を観戦中。小南は前のめりになってテレビを見てる。あんまり前に出たら私たちが見えないよ小南。
「いやー清々しいほどの破壊力だね千佳ちゃん」
「これ橋を落としたのはまずかったんじゃないの……!?」
「どっちにしろ那須隊が壊してましたよ」
烏丸曰わく那須隊大幅有利からやや有利まで抑えられたから悪くない判断とのこと。それを遊真がいないとどっちにしろ勝てないとばっさり切る小南。うーん世知辛い。がんばれ修くん、千佳ちゃん。どら焼きうまい。
「ヒュース、お茶とって」
「それくらい自分でとれないのかクズめ」
「お茶だけでこんなに悪口言われるなんて……」
何か恨みでもあるのか私に。全く記憶にないぞ。そして怒ってくれるのは嬉しいけどお茶ぐらいで騒がれるのも複雑だよ小南。五歳児と動物に挟まれて偉そうなこと言われても何も思わないから。そう思いつつテレビに顔を向ける。テレビには暴風雨の中、那須ちゃんのバイパーから逃げる修くんの姿があった。
「……うーん、あまりよくないなぁ」
その逃げ方だと当たってしまう。あの子も天才だからな。バイパーの弾道もその場で引いてるから射線も余り関係ないし。よくよく考えれば村上はともかく那須ちゃんの事はアドバイスできた気がする。たまに本部のトレーニングルームで一緒になるから手の内分かってるし。ごめん修くん。これも訓練だよきっと。緑茶うまい。ふう、と息をついて口を開く。
「そもそもヒュースって捕虜なんでしょ? こんなに自由にしてるって知ったら城戸さん怒るよ」
「それはナマエが言わなければ大丈夫な話だな」
「あーなるほど」
つまり共犯になれと。林藤さんはともかく、ヒュースの件は迅が一枚噛んでるからなぁ。何企んでんだろうあのエスパータイプ。ぎりぎりまで話さないしな。話さないときもあるし。それで色々背負うんだから迅は天性のMだと思う。そう思った瞬間、解説の迅がくしゃみをした。勘が良すぎてちょっと引いた。
「……オレをこの部屋に引っ張りだしたのはお前達だ。そっちこそ回りくどいやり口はやめろ。情報を聞き出したいのなら尋問でも拷問でもやってみるがいい」
「拷問なんかする気はないよ。ああいうのはされる方もする方もしんどい」
「ヒュースはごうもんされたいのか? マゾか?」
「五歳児にマゾなんて単語教えたの誰だよ。陽太郎、せめてMって言いなさい」
「余り変わりませんしその姿でMって言うのやめてください」
烏丸は幼女に夢を持っているらしい。………あれこいつもしかしてロリコン? 横に座っている烏丸に疑いの目を向けると「何考えてるか知りませんけど違いますから」と真顔で返ってきた。心を読まれた気分。最近凄んだ目するんだよねこいつ。大丈夫かな。
「……それに捕虜は丁重に扱っといた方が攫われた隊員を取り戻すときに駆け引きがスムーズになるかもしれない。
……ということになってる」
「でもこいつ見捨てられて置いてかれたんでしょ? 捕虜交換はできるほどの価値あるの?」
小南の言葉にムッと眉を寄せるヒュース。こういう所は年相応だな。16でここまで達観してるなんてただただ恐ろしいけど。遊真もそうだけどネイバーって本当に私たちと感覚違う。するとヒュース、林藤さん、小南の話を聞いていた烏丸が口を開いた。
「いや腕がよくて頭もキレるからたぶん”向こう”でも相当なエリートだろうって迅さんが言ってましたよ」
「迅がこいつを……? へぇ……ほんとに?」
「フッ」
あ、ちょっとドヤってした。
「まあウソですけど」
「……!?」
「今適当に想像してしゃべりました」
「なんであんた急にそんな嘘つくの!? なんかかわいそうじゃない!!」
「場を和まそうと思って」
これで和んだと思ってたとしたら烏丸は大物である。見ろあのヒュースの顔。付き合いそんなにないけどあんな顔するのレアなんじゃないの。そして小南の言葉もなかなか辛辣だ。悪意ないからねあの子。仕方ないから私がヒュースを励まそう。可哀想だ。
「ヒュース、元気だせ。私のどら焼き分けてあげる」
「いらん」
「何でヒュースからこんなに嫌われてんの? 身に覚えがないんだけど」
「黒毛のバケモノの映像を無理やり何時間も見せておいて身に覚えがないだと!?」
ふざけるな! と怒鳴るヒュース。何のことだと頭を捻る。
「黒毛のバケモノ……? ……………おまえもしかしてトトロのことか」
「そうだ」
「ふざけんなよこら! 何がバケモノだ! トトロと言えトトロと!! 駿さんに謝れ!!!」
「誰だハヤオとは!?」
「この世界の神みたいな人!!!」
そうヒュースに怒鳴ると「神だと……!? ミデンにもそんな人物がいたのか、」と目を見開いた。なんか食い違ってる気がしないでもないけどまあいいや。
「……いつの間に映画なんて一緒に見たんすか」
「ちっさくなって暇なんだもん。ヒュースもずっと引きこもってたから丁度いいと思って」
「………」
まじかこの人って目を向けられた。え、別にボーダーの機密情報漏らしたとかじゃないじゃん……一緒にジブリみただけじゃん……。ディズニーなら良かったのかな。おもちゃのやつ借りてこようかな。そんな事を考えていると背後から「捕虜って何なんだろうな」と笑いながら言う林藤さんの声が聞こえた。それ林藤さんが言うことかな。
***
茜ちゃんとくまちゃんの頑張りになんだかうるっと来た。那須隊の応援をしたくなりつつも三つ巴となった隊長戦を見守る。あ、子鹿先輩の応援もしたい。この試合ダメだ。全員応援したくなる。荒船、諏訪隊のときぶっ飛ばせしか思わなかったのに。記録見てむしろスカッとしたのに。また今度見よう。
「……終わりだな。このまま一人ずつ倒されてナス隊の勝ちだ。人数が減るほどまぐれは起きにくくなる。ここまでくれば戦闘力の差はそうそう覆らない」
そう語るヒュース。そんなヒュースに対し小南は「そんなのは見てればわかるのよ、もっと実のあることいいなさいよ」と頭を小突く。そうは言うけど何だかんだ言って真面目に試合を見てる辺り、ヒュースは玉狛に絆されてる。陽太郎の質問にも丁寧に返してるし。てかおまえら仲良しだな。馴染みすぎだろ。………あ、
「……タマコマが他の部隊に比べて優れている点は砲撃で遠距離から戦場の地形条件を変えられる点だ。オレなら西岸のナス隊二人が片付いた時点で上流で堤防を破壊して川の水を抜き水位を下げる。そしてチームの合流を優先する」
その言葉に少し驚いた様子でヒュースを見る小南と鳥丸。そして静かに口元を押さえてヒュースを凝視する私。
「タマコマのは白い奴以外メインを張れる動きじゃない。白い髪の奴を中心にしてチームで戦う。スズナリの合流を許したとしても"本来の形"に戻すことを考えるべきだった」
「…………」
「…………なんだ」
私の視線が気になったのか眉を寄せてこちらを睨んでくるヒュース。まだ先ほどの事を根に持っているみたいだ。……だがそんなのはどうでもいい。
「………………そのフード似合ってるよ」
「本当に何なんだおまえはッ!」
吼えるヒュースにまあ落ちつけと声をかける陽太郎。そして何したいんだよという呆れたような小南と烏丸の視線。いや、うん。今のは私が悪いんだけどさ。そう思いつつこめかみを掻く。
ただふと思った。こんだけ洞察力があって、力量もあるヒュースが修くんたちのチームに入ったらどうなるんだろうと。そして頭に浮かんだのは迅のあの胡散臭い笑顔。
「………………」
何だろう。自分の予感が外れてる気がしない。だって頭の中の迅が「おれのサイドエフェクトがー」ってドヤ顔で囁いてくる。
「…………ヒュース、どんまい」
嫌なのに目ぇつけられたね、という意味を込めてそう言うと「貴様はどれだけオレを馬鹿にすれば気が済むんだ……!」と震えながら言った。おまえの未来を案じてるんだよとは言わなかった。
***
ヒュースとナマエが騒いでいる内に試合が終了した。最終スコアは4対3対2で玉狛第二の勝ちだ。小南と烏丸は順調に勝ち上がっている修たちに師匠であり同じ支部の仲間として誇らしげな顔をした。一方でヒュースを弄るのを止めた(本人にその意図はない)ナマエは茶を啜りながら呟く。
「こりゃすぐに追い抜かれるなぁ」
立派だねぇと感心したような声を上げるナマエにすぐさま「何バカ言ってんのよ」という言葉を返す小南。同意見なのか小南の言葉に無言で頷く烏丸。それに怪訝な表情を隠そうとしないヒュースは目を細めてナマエへと視線をやる。
「この女が……? メガネと小さいのはともかく白アタマに勝てるのかこいつが」
「勝てるかアホ」
「勝てないだろうな」
「勝てるわけないでしょ」
上からナマエ、烏丸、小南。言ってることがムチャクチャである。ナマエはともかく烏丸と小南は何が言いたいのか。意味が分からないといった表情をするヒュースに笑いの声を上げたのは林藤だ。
「ナマエの戦い方は少しアレでな。強くはないが弱くもないぞ」
「………」
ますます意味が分からない。もしやバカにされているのかと思い始めたとき、当の本人がふぅと息を吐き、茶をテーブルに置いた。
「どぶねずみ相手にしてるみたいな戦い方だって」
「……は?」
「父親にそう言われた」
何てことのない顔でそう言うものだからヒュースの反応が一瞬遅れる。
──ドブネズミ、父親に言われた。
───それは本当に父の言葉なのか。そう思わずにはいられなかった。だがヒュース以外の人間はそれだけで理解出来たらしく、頷いたり納得したような声を出している。
「………」
ひとつも納得出来ないヒュースにナマエは苦笑いを返し、口を開いた。
「まぁ、機会があれば分かるんじゃないの」
言っとくけど全然強くないからね、と情けない言葉を付け足したナマエにヒュースは言いようのない感情を覚えた。本当に何なんだこいつは。
「あーもうじりじりするわ…….!」
玉狛で遊真たちのランク戦を観戦中。小南は前のめりになってテレビを見てる。あんまり前に出たら私たちが見えないよ小南。
「いやー清々しいほどの破壊力だね千佳ちゃん」
「これ橋を落としたのはまずかったんじゃないの……!?」
「どっちにしろ那須隊が壊してましたよ」
烏丸曰わく那須隊大幅有利からやや有利まで抑えられたから悪くない判断とのこと。それを遊真がいないとどっちにしろ勝てないとばっさり切る小南。うーん世知辛い。がんばれ修くん、千佳ちゃん。どら焼きうまい。
「ヒュース、お茶とって」
「それくらい自分でとれないのかクズめ」
「お茶だけでこんなに悪口言われるなんて……」
何か恨みでもあるのか私に。全く記憶にないぞ。そして怒ってくれるのは嬉しいけどお茶ぐらいで騒がれるのも複雑だよ小南。五歳児と動物に挟まれて偉そうなこと言われても何も思わないから。そう思いつつテレビに顔を向ける。テレビには暴風雨の中、那須ちゃんのバイパーから逃げる修くんの姿があった。
「……うーん、あまりよくないなぁ」
その逃げ方だと当たってしまう。あの子も天才だからな。バイパーの弾道もその場で引いてるから射線も余り関係ないし。よくよく考えれば村上はともかく那須ちゃんの事はアドバイスできた気がする。たまに本部のトレーニングルームで一緒になるから手の内分かってるし。ごめん修くん。これも訓練だよきっと。緑茶うまい。ふう、と息をついて口を開く。
「そもそもヒュースって捕虜なんでしょ? こんなに自由にしてるって知ったら城戸さん怒るよ」
「それはナマエが言わなければ大丈夫な話だな」
「あーなるほど」
つまり共犯になれと。林藤さんはともかく、ヒュースの件は迅が一枚噛んでるからなぁ。何企んでんだろうあのエスパータイプ。ぎりぎりまで話さないしな。話さないときもあるし。それで色々背負うんだから迅は天性のMだと思う。そう思った瞬間、解説の迅がくしゃみをした。勘が良すぎてちょっと引いた。
「……オレをこの部屋に引っ張りだしたのはお前達だ。そっちこそ回りくどいやり口はやめろ。情報を聞き出したいのなら尋問でも拷問でもやってみるがいい」
「拷問なんかする気はないよ。ああいうのはされる方もする方もしんどい」
「ヒュースはごうもんされたいのか? マゾか?」
「五歳児にマゾなんて単語教えたの誰だよ。陽太郎、せめてMって言いなさい」
「余り変わりませんしその姿でMって言うのやめてください」
烏丸は幼女に夢を持っているらしい。………あれこいつもしかしてロリコン? 横に座っている烏丸に疑いの目を向けると「何考えてるか知りませんけど違いますから」と真顔で返ってきた。心を読まれた気分。最近凄んだ目するんだよねこいつ。大丈夫かな。
「……それに捕虜は丁重に扱っといた方が攫われた隊員を取り戻すときに駆け引きがスムーズになるかもしれない。
……ということになってる」
「でもこいつ見捨てられて置いてかれたんでしょ? 捕虜交換はできるほどの価値あるの?」
小南の言葉にムッと眉を寄せるヒュース。こういう所は年相応だな。16でここまで達観してるなんてただただ恐ろしいけど。遊真もそうだけどネイバーって本当に私たちと感覚違う。するとヒュース、林藤さん、小南の話を聞いていた烏丸が口を開いた。
「いや腕がよくて頭もキレるからたぶん”向こう”でも相当なエリートだろうって迅さんが言ってましたよ」
「迅がこいつを……? へぇ……ほんとに?」
「フッ」
あ、ちょっとドヤってした。
「まあウソですけど」
「……!?」
「今適当に想像してしゃべりました」
「なんであんた急にそんな嘘つくの!? なんかかわいそうじゃない!!」
「場を和まそうと思って」
これで和んだと思ってたとしたら烏丸は大物である。見ろあのヒュースの顔。付き合いそんなにないけどあんな顔するのレアなんじゃないの。そして小南の言葉もなかなか辛辣だ。悪意ないからねあの子。仕方ないから私がヒュースを励まそう。可哀想だ。
「ヒュース、元気だせ。私のどら焼き分けてあげる」
「いらん」
「何でヒュースからこんなに嫌われてんの? 身に覚えがないんだけど」
「黒毛のバケモノの映像を無理やり何時間も見せておいて身に覚えがないだと!?」
ふざけるな! と怒鳴るヒュース。何のことだと頭を捻る。
「黒毛のバケモノ……? ……………おまえもしかしてトトロのことか」
「そうだ」
「ふざけんなよこら! 何がバケモノだ! トトロと言えトトロと!! 駿さんに謝れ!!!」
「誰だハヤオとは!?」
「この世界の神みたいな人!!!」
そうヒュースに怒鳴ると「神だと……!? ミデンにもそんな人物がいたのか、」と目を見開いた。なんか食い違ってる気がしないでもないけどまあいいや。
「……いつの間に映画なんて一緒に見たんすか」
「ちっさくなって暇なんだもん。ヒュースもずっと引きこもってたから丁度いいと思って」
「………」
まじかこの人って目を向けられた。え、別にボーダーの機密情報漏らしたとかじゃないじゃん……一緒にジブリみただけじゃん……。ディズニーなら良かったのかな。おもちゃのやつ借りてこようかな。そんな事を考えていると背後から「捕虜って何なんだろうな」と笑いながら言う林藤さんの声が聞こえた。それ林藤さんが言うことかな。
***
茜ちゃんとくまちゃんの頑張りになんだかうるっと来た。那須隊の応援をしたくなりつつも三つ巴となった隊長戦を見守る。あ、子鹿先輩の応援もしたい。この試合ダメだ。全員応援したくなる。荒船、諏訪隊のときぶっ飛ばせしか思わなかったのに。記録見てむしろスカッとしたのに。また今度見よう。
「……終わりだな。このまま一人ずつ倒されてナス隊の勝ちだ。人数が減るほどまぐれは起きにくくなる。ここまでくれば戦闘力の差はそうそう覆らない」
そう語るヒュース。そんなヒュースに対し小南は「そんなのは見てればわかるのよ、もっと実のあることいいなさいよ」と頭を小突く。そうは言うけど何だかんだ言って真面目に試合を見てる辺り、ヒュースは玉狛に絆されてる。陽太郎の質問にも丁寧に返してるし。てかおまえら仲良しだな。馴染みすぎだろ。………あ、
「……タマコマが他の部隊に比べて優れている点は砲撃で遠距離から戦場の地形条件を変えられる点だ。オレなら西岸のナス隊二人が片付いた時点で上流で堤防を破壊して川の水を抜き水位を下げる。そしてチームの合流を優先する」
その言葉に少し驚いた様子でヒュースを見る小南と鳥丸。そして静かに口元を押さえてヒュースを凝視する私。
「タマコマのは白い奴以外メインを張れる動きじゃない。白い髪の奴を中心にしてチームで戦う。スズナリの合流を許したとしても"本来の形"に戻すことを考えるべきだった」
「…………」
「…………なんだ」
私の視線が気になったのか眉を寄せてこちらを睨んでくるヒュース。まだ先ほどの事を根に持っているみたいだ。……だがそんなのはどうでもいい。
「………………そのフード似合ってるよ」
「本当に何なんだおまえはッ!」
吼えるヒュースにまあ落ちつけと声をかける陽太郎。そして何したいんだよという呆れたような小南と烏丸の視線。いや、うん。今のは私が悪いんだけどさ。そう思いつつこめかみを掻く。
ただふと思った。こんだけ洞察力があって、力量もあるヒュースが修くんたちのチームに入ったらどうなるんだろうと。そして頭に浮かんだのは迅のあの胡散臭い笑顔。
「………………」
何だろう。自分の予感が外れてる気がしない。だって頭の中の迅が「おれのサイドエフェクトがー」ってドヤ顔で囁いてくる。
「…………ヒュース、どんまい」
嫌なのに目ぇつけられたね、という意味を込めてそう言うと「貴様はどれだけオレを馬鹿にすれば気が済むんだ……!」と震えながら言った。おまえの未来を案じてるんだよとは言わなかった。
***
ヒュースとナマエが騒いでいる内に試合が終了した。最終スコアは4対3対2で玉狛第二の勝ちだ。小南と烏丸は順調に勝ち上がっている修たちに師匠であり同じ支部の仲間として誇らしげな顔をした。一方でヒュースを弄るのを止めた(本人にその意図はない)ナマエは茶を啜りながら呟く。
「こりゃすぐに追い抜かれるなぁ」
立派だねぇと感心したような声を上げるナマエにすぐさま「何バカ言ってんのよ」という言葉を返す小南。同意見なのか小南の言葉に無言で頷く烏丸。それに怪訝な表情を隠そうとしないヒュースは目を細めてナマエへと視線をやる。
「この女が……? メガネと小さいのはともかく白アタマに勝てるのかこいつが」
「勝てるかアホ」
「勝てないだろうな」
「勝てるわけないでしょ」
上からナマエ、烏丸、小南。言ってることがムチャクチャである。ナマエはともかく烏丸と小南は何が言いたいのか。意味が分からないといった表情をするヒュースに笑いの声を上げたのは林藤だ。
「ナマエの戦い方は少しアレでな。強くはないが弱くもないぞ」
「………」
ますます意味が分からない。もしやバカにされているのかと思い始めたとき、当の本人がふぅと息を吐き、茶をテーブルに置いた。
「どぶねずみ相手にしてるみたいな戦い方だって」
「……は?」
「父親にそう言われた」
何てことのない顔でそう言うものだからヒュースの反応が一瞬遅れる。
──ドブネズミ、父親に言われた。
───それは本当に父の言葉なのか。そう思わずにはいられなかった。だがヒュース以外の人間はそれだけで理解出来たらしく、頷いたり納得したような声を出している。
「………」
ひとつも納得出来ないヒュースにナマエは苦笑いを返し、口を開いた。
「まぁ、機会があれば分かるんじゃないの」
言っとくけど全然強くないからね、と情けない言葉を付け足したナマエにヒュースは言いようのない感情を覚えた。本当に何なんだこいつは。