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 《はい、こちら山原ー。……あれこれ繋がってる? 》

 そう言ってカメラを自分に向けるナマエ。その瞬間会場では所々で悲鳴と怒声が発生した。「なにやったの山原さん……」と小さく突っ込んだ緑川に東は苦笑する。生ライブ映像ではなく録画映像のためナマエに伝わることはない。
 B級のランク戦を盛り上げるために導入されたインタビュー企画。武富桜子が考案したものらしいが人選が謎すぎる。ほとんどの人間がそう感じているなか「ボーダー隊員で知らない人はいない! 城戸司令のお茶請けを盗んだ回数は数知れず! 本部にくれば名前を聞かない日はほぼないB級隊員の希望の星! 山原ナマエさんです!」と武富はノリノリである。突っ込み所が多すぎる。

 《……まぁいいやちゃっちゃと終わらせよう。はいこちら諏訪隊の作戦室でーす》

 棒読み加減が酷いが一応仕事はやるらしい。「入るよー」「ノックぐらいしろ!」「着替え中の女子ですか」……このやりとりなぜカットしなかった。
 カメラの向こうには怒鳴っている諏訪、いらっしゃいと歓迎する堤、硬直する笹森、相変わらず飴を加えている佐野の姿があった。

 《諏訪隊は煙草、仏、一般人、飴玉ガールで結成されたユニットですねー》

 《おまえ説明する気あんのか》

 《あんまり》

 《一般人って……》

 《落ち込むな日佐人》

 《ナマエさんも食べますかー》

 《いるーオサノ相変わらずいいスタイルしてるね》

 《その会話今するなッ! 》

 なんだこれ昼休みか。
 任せる相手間違えたんじゃないか、と武富に視線をやるが「さすがナマエさん! 日常会話から相手をリラックスさせる手法ですね!」となぜか目を輝かせている。武富がなぜここまでナマエを買っているのか東と緑川、そして会場にいるほとんどの人間に分からなかった。「あれ素でやってね?」「山原さんって真面目な時間ってないんですか」「た、多分あると思うよ」これは米屋、黒江、古寺の会話だった。

 《えーとなに聞けばいいんだっけ……あー対戦相手の荒船隊と玉狛第二についてどーぞ》

 《大ざっぱすぎんだよおまえは》

 《まあまあ。うーんそうだね、荒船隊はスナイパー間の連携が上手いからどう攻略するかが鍵かな。玉狛第二は新人離れしてる子がいるからね。それにデータも少ないから冷静にどう対処していくかが大切だね》

 《おー……さすが仏ですね。もう隊長交代したらどうですか》

 《しねえよ! 》

 《てか笹森もなんか話しなよ。気づけば諏訪さんのツッコミだけだったなんて振り返りに困るから》

 《ええ……》

 困った顔をする笹森にカメラが寄る。「はよ話せ」「質問ってナマエさんが考えるんじゃないんですか」「基本的に私の好きにやっていいって桜子ちゃんが言ってた」「これ以上好き勝手やるんですか……」「これ以上ってなんだこら」「一々絡むんじゃねえよ!」なんて雑談の多いインタビューだ。

 《じゃあナマエさんは他の隊のことどう思うんですか? 》

 《えー……どう思うって》

 そしてなぜか佐野がナマエに質問をし始めた。

 《じゃ荒船隊から》

 《荒船隊……ゴルゴと必殺倒置法とエロかぶりの隊でしょ》

 ナマエの言葉で会場の何人かがむせ返した。「ゴルっ……!?」と机を叩いて笑う緑川もそのひとりだ。そして「そういえば昔からあだ名つけたがる子だったなぁ」と懐かしむ東。もはや戦闘前の空気ではない。

 《なんか全員ねちっこそう。帽子ずっと被ってたらハゲるよ》

 《なんの話だよ》

 《あ、でもその割には荒船って髪サラサラだよね。サラ船だ》

 《サラ船ッ!!! 》

 そして腹を抱える諏訪に必死に笑いを堪える笹森と佐野に口元を押さえて顔を逸らす堤。こちらも既にカメラの存在を忘れている。

 《玉狛第二はとにかく可愛い。死ぬほど可愛い。マスコットチームだね、あれは世界を救うね》

 そして周りを置いて玉狛第二について語り出したナマエ。言うまでもなく本来の目的を忘れている。手に持っていたカメラをその辺りに置いたらしく諏訪隊と共にカメラに映って珈琲を飲んでいる。なにをしている。

 《あ、そういえばカメラの充電してないけど大丈……》

 ーープツン

 そして映像は切れた。

「……え、これで終わり?」

 シーンと静寂で包まれた会場で緑川がそう呟いた。

「はい! ナマエさんありがとうございました! お時間ありましたらまたナマエさんにインタビューをお願いしたいと思います!」

「絶対止めたほうがいいと思う」

「ははっ」
 
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