本編
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ボーダーのラウンジで烏丸に勉強を教えることになった。これもぜんざいのため、と自分に言い聞かせながら行くとそこにいたのは烏丸だけじゃなかった。
「……なにこの群れ」
いつも以上に無表情の烏丸に聞くと淡々と話し出した。怖いよ。
曰わく非番なのに基地へ向かうのを見られたらしく暇人共につけられたらしい。そして先に勉強を始めているとついてきた暇人共が「俺にも教えて!」と群がりいつの間にか大所帯になったと。おい高校生ばっかじゃねーか。
「ナマエさんやっと来たー! これ教えてください!」
「脳みそに教科書突っ込んどけ」
「ひどい!」
泣き喚く佐鳥を無視してラウンジを去ろうとするとガシぃ! と腕を掴まれる。
「どこ行くんすか」
「家帰る」
「俺との約束破るんすか」
「約束どころじゃない」
ざっと見るだけで頭の悪そうなのが五人いる。やってられん。そう言っても烏丸は「約束破るんすか」と離さない。普段のクールキャラどこやった。
無理やり席に座らされると「大学生来たぞ! ナマエさんだけど!」とやる気なさげにまばらな拍手をされた。こいつら人を舐めてるな。とりあえず近くにいた小荒井を殴ろうとしたら教科書とノートを持った茶野がやってきた。
「古典、教えてもらえませんか……?」
「よし来た座れ茶野」
心の清涼剤がやってきた。やる気出てきた。一年前くらいの記憶を遡りながら解説していくと最初しかめっ面だった茶野の顔がパァと明るくなった。癒される。
「ありがとうございます!」
「おまえは本当に高校生の良心だよ」
「師匠これ教えて」
「却下」
「態度違いすぎんだよ!」
うるさい。
それでも嫌々何人かの面倒を見ていると、さっきから屍のように動かなかった黒い物体が近づいて来た。視界に入れないようにしてたのに……。
「……たすけて」
「誰か医務室連れていけ」
今にも死にそうな顔と声色でそう言った米屋。しかし全員がさっと目を逸らす。そんなにヤバいの?
米屋の持っていた中間テストの解答を見せてもらう。………これは。
「来世に期待!!」
「見捨てないでナマエさん」
縋るように足に引っ付いて来た米屋。振り払うと「しぬ、まじしぬ……」と繰り返す。……仕方ない。
携帯を出してある人物に連絡をとる。コールが鳴り、少し経ってから電話が繋がった。
****
「………こんなのも分からないのか。おまえは学校で何をしていた」
「す、すみません……!!」
「謝るくらいなら問題を解け。寝る暇もないと思え」
血走った目で返事をする米屋先輩。その前には鋭い眼孔の城戸司令の姿。先ほどまでワイワイと賑わっていたラウンジが静まり返っている。怯えるようにペンを進めるヤツが大半で、ラウンジに来た人間はこの異様な光景に目を逸らし、すぐさま踵を返して行く。それに満足した様子で頷くナマエさんに話しかける。
「……なんで城戸司令呼んだんすか」
「だって城戸メゾットが一番効果あるんだもん。あの迅が城戸さんにしごかれて学年30位に入ったからね」
どれだけ効果凄いんだ。そもそも城戸司令に勉強を教わろうとした経緯がよく分からない。
「じゃ、城戸さんいるから帰るわ」
ナマエさんがそう言うと、先ほどはナマエさんが来ても大した反応を示さなかった人達が必死に目で訴える。この状態で帰らないでくれ、と。しかしそれに全く気づかないナマエさんは荷物を纏めて去ろうとする。
「俺も用事あるんで帰ります」
「ん。じゃ城戸さんよろしくねー」
ナマエさんと続けてラウンジを出る。背後から妬ましそうな視線や呪詛のような声が聞こえたけど気のせいだろう。
「あー疲れた」
そう言って背伸びするナマエさん。外は既に日が落ちていた。白い息が周囲に溶け込む。
「結局、俺の勉強一切見なかったすね」
「…………明日は晴れかなぁ」
忘れてた、と顔が語っている。わざとらしく顔を逸らしたナマエさんにそっとため息をついた。玉狛では迅さんや小南先輩に邪魔されると思ってラウンジにしたのにこんな事になるとは……。
横目でナマエさんの様子を伺うと星空を見ながら「今日はカツ丼だなぁ」とぼやいていた。分かってはいたがムードもなにもない。そんな事を期待した俺が悪いのだろうか。そして星を見てカツ丼を連想する要素が全く分からない。この人の脳内は一生理解できないだろう。
「……お、雷神丸がいるよ烏丸」
俺にそう言って手を伸ばし空をなぞるナマエさん。同じく空を見上げてみたが雷神丸らしきものは見つけられなかった。見つけられなかったが、ナマエさんが楽しそうに笑うので「そうですね」と自然にそう返していた。
「あ、ぜんざい」
「教えてもらえなかったのでありませんよ」
「今日何のために基地に行ったんだ……」
悔しそうに呟くナマエさんに口角が上がるのが分かった。我ながら緩んだ顔をしていたので手の甲で口元を押さえる。それを見たナマエさんが「鼻血? ティッシュいる?」と余計な気を回して来たのですぐ収まったが。
「………」
「え、なに。やっぱ鼻血?」
「ナマエさんって今まで付き合った人いるんすか」
「………明日は」
「天気の話はもういいです」
俺がそう言うと罰が悪そうに視線をキョロキョロさせ始めた。そして手遊びが激しい。
「べ、別に人数とかさ、関係ないし。人間なんてひとりで生きていけるし、今年で二十歳だけど、焦ってなんかないし」
「つまりいたことないんすね」
「………」
ギロッと効果音を出して睨んでくるナマエさんに先ほど治まった笑みが戻ってきてしまった。案の定、不機嫌そうにするナマエさん。
「このイケメンが……イケメンには一般人の気持ちが分かるまい」
「別になにも言ってませんよ」
「顔がにやついてんだよ!」
バカにしてんのか! と騒ぐナマエさんをまあまあと宥めると「選びたい放題のイケメンめ……毛根をハゲの人に贈るボランティアにでも参加しろ」とむちゃくちゃなことを言われた。
「別に選びたい放題じゃないっすよ」
「なわけないだろ。……ああ、女は日替わりで代わるってやつか」
「なんでそうなる」
思わず敬語を忘れてナマエさんの頬を引っ張る。抵抗されるが無視した。どれだけ人が悩んでいるか全く分かってない。……伝わってないからこそ悩んでいるのだが。
頬を引っ張られている上にフガフガ文句を言っているその顔はどうみてもマヌケだ。マヌケ、なんだけど……
「………はぁ……」
「ひほのかおみて、ためいきふくな!」
出水先輩の言っていた「師匠のことを女として見るヤツは男として終わったな」という言葉が頭から離れなかった。
「……なにこの群れ」
いつも以上に無表情の烏丸に聞くと淡々と話し出した。怖いよ。
曰わく非番なのに基地へ向かうのを見られたらしく暇人共につけられたらしい。そして先に勉強を始めているとついてきた暇人共が「俺にも教えて!」と群がりいつの間にか大所帯になったと。おい高校生ばっかじゃねーか。
「ナマエさんやっと来たー! これ教えてください!」
「脳みそに教科書突っ込んどけ」
「ひどい!」
泣き喚く佐鳥を無視してラウンジを去ろうとするとガシぃ! と腕を掴まれる。
「どこ行くんすか」
「家帰る」
「俺との約束破るんすか」
「約束どころじゃない」
ざっと見るだけで頭の悪そうなのが五人いる。やってられん。そう言っても烏丸は「約束破るんすか」と離さない。普段のクールキャラどこやった。
無理やり席に座らされると「大学生来たぞ! ナマエさんだけど!」とやる気なさげにまばらな拍手をされた。こいつら人を舐めてるな。とりあえず近くにいた小荒井を殴ろうとしたら教科書とノートを持った茶野がやってきた。
「古典、教えてもらえませんか……?」
「よし来た座れ茶野」
心の清涼剤がやってきた。やる気出てきた。一年前くらいの記憶を遡りながら解説していくと最初しかめっ面だった茶野の顔がパァと明るくなった。癒される。
「ありがとうございます!」
「おまえは本当に高校生の良心だよ」
「師匠これ教えて」
「却下」
「態度違いすぎんだよ!」
うるさい。
それでも嫌々何人かの面倒を見ていると、さっきから屍のように動かなかった黒い物体が近づいて来た。視界に入れないようにしてたのに……。
「……たすけて」
「誰か医務室連れていけ」
今にも死にそうな顔と声色でそう言った米屋。しかし全員がさっと目を逸らす。そんなにヤバいの?
米屋の持っていた中間テストの解答を見せてもらう。………これは。
「来世に期待!!」
「見捨てないでナマエさん」
縋るように足に引っ付いて来た米屋。振り払うと「しぬ、まじしぬ……」と繰り返す。……仕方ない。
携帯を出してある人物に連絡をとる。コールが鳴り、少し経ってから電話が繋がった。
****
「………こんなのも分からないのか。おまえは学校で何をしていた」
「す、すみません……!!」
「謝るくらいなら問題を解け。寝る暇もないと思え」
血走った目で返事をする米屋先輩。その前には鋭い眼孔の城戸司令の姿。先ほどまでワイワイと賑わっていたラウンジが静まり返っている。怯えるようにペンを進めるヤツが大半で、ラウンジに来た人間はこの異様な光景に目を逸らし、すぐさま踵を返して行く。それに満足した様子で頷くナマエさんに話しかける。
「……なんで城戸司令呼んだんすか」
「だって城戸メゾットが一番効果あるんだもん。あの迅が城戸さんにしごかれて学年30位に入ったからね」
どれだけ効果凄いんだ。そもそも城戸司令に勉強を教わろうとした経緯がよく分からない。
「じゃ、城戸さんいるから帰るわ」
ナマエさんがそう言うと、先ほどはナマエさんが来ても大した反応を示さなかった人達が必死に目で訴える。この状態で帰らないでくれ、と。しかしそれに全く気づかないナマエさんは荷物を纏めて去ろうとする。
「俺も用事あるんで帰ります」
「ん。じゃ城戸さんよろしくねー」
ナマエさんと続けてラウンジを出る。背後から妬ましそうな視線や呪詛のような声が聞こえたけど気のせいだろう。
「あー疲れた」
そう言って背伸びするナマエさん。外は既に日が落ちていた。白い息が周囲に溶け込む。
「結局、俺の勉強一切見なかったすね」
「…………明日は晴れかなぁ」
忘れてた、と顔が語っている。わざとらしく顔を逸らしたナマエさんにそっとため息をついた。玉狛では迅さんや小南先輩に邪魔されると思ってラウンジにしたのにこんな事になるとは……。
横目でナマエさんの様子を伺うと星空を見ながら「今日はカツ丼だなぁ」とぼやいていた。分かってはいたがムードもなにもない。そんな事を期待した俺が悪いのだろうか。そして星を見てカツ丼を連想する要素が全く分からない。この人の脳内は一生理解できないだろう。
「……お、雷神丸がいるよ烏丸」
俺にそう言って手を伸ばし空をなぞるナマエさん。同じく空を見上げてみたが雷神丸らしきものは見つけられなかった。見つけられなかったが、ナマエさんが楽しそうに笑うので「そうですね」と自然にそう返していた。
「あ、ぜんざい」
「教えてもらえなかったのでありませんよ」
「今日何のために基地に行ったんだ……」
悔しそうに呟くナマエさんに口角が上がるのが分かった。我ながら緩んだ顔をしていたので手の甲で口元を押さえる。それを見たナマエさんが「鼻血? ティッシュいる?」と余計な気を回して来たのですぐ収まったが。
「………」
「え、なに。やっぱ鼻血?」
「ナマエさんって今まで付き合った人いるんすか」
「………明日は」
「天気の話はもういいです」
俺がそう言うと罰が悪そうに視線をキョロキョロさせ始めた。そして手遊びが激しい。
「べ、別に人数とかさ、関係ないし。人間なんてひとりで生きていけるし、今年で二十歳だけど、焦ってなんかないし」
「つまりいたことないんすね」
「………」
ギロッと効果音を出して睨んでくるナマエさんに先ほど治まった笑みが戻ってきてしまった。案の定、不機嫌そうにするナマエさん。
「このイケメンが……イケメンには一般人の気持ちが分かるまい」
「別になにも言ってませんよ」
「顔がにやついてんだよ!」
バカにしてんのか! と騒ぐナマエさんをまあまあと宥めると「選びたい放題のイケメンめ……毛根をハゲの人に贈るボランティアにでも参加しろ」とむちゃくちゃなことを言われた。
「別に選びたい放題じゃないっすよ」
「なわけないだろ。……ああ、女は日替わりで代わるってやつか」
「なんでそうなる」
思わず敬語を忘れてナマエさんの頬を引っ張る。抵抗されるが無視した。どれだけ人が悩んでいるか全く分かってない。……伝わってないからこそ悩んでいるのだが。
頬を引っ張られている上にフガフガ文句を言っているその顔はどうみてもマヌケだ。マヌケ、なんだけど……
「………はぁ……」
「ひほのかおみて、ためいきふくな!」
出水先輩の言っていた「師匠のことを女として見るヤツは男として終わったな」という言葉が頭から離れなかった。