番外編
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※未来の話
もうすぐバレンタイン。そしてふと思った。世の中の夫婦は結婚してからのバレンタインってどうしてるんだろう。それか同棲中の恋人同士。既製品を買うならともかく、手作りを渡すならバレないようにいつ作るか悩まない? チョコレート溶かすと甘い匂い残るし。冷蔵庫に保存するし。冷蔵庫禁止令だす? 絶対無理。
うんうん悩んでリビングに置いてる文明の利器ことノートパソコンでぽちぽち入力する。
『バレンタイン 完全犯罪』
映画が出てきた。バレンタインに人を殺す話。違う、そうじゃない。殺す予定はない。
検索方法が悪かったと悟ってなんて入力しようとキーボードに手を置いたままにしていると、ふわりと柔らかいいい匂いと温かさが背中を覆った。
「映画観たいのか?」
「………………」
風呂上がるの早い。渋い顔を京介に向けると「? ネタバレでもみたか?」と私の隣に座ってタオルで髪を拭いている。たったそれだけで相変わらずCMの一部みたいに様になるなこの男。
「バレンタイン殺人事件か。元々司祭が処刑された日だからな。それに因んだ話か?」
「知らぬ……誰じゃ司祭って」
「微妙にご機嫌ななめだな。どうした?」
片足を動かして私の身体を自分の股にしまう京介に風呂上がりでぬくい身体に背中を寄せた。あったかい。
「……ん? チョコレシピ?」
「あ」
別タブで表示されていた名前を読まれる。バレた? これバレた? 京介の顔を恐る恐る見ると分が悪そうに苦笑していた。
「風呂上がるの早かったか」
察しが早すぎる。ズデーと体重をかけて京介に寄りかかるのを強くすると「悪かった」とポンポン頭を叩かれた。
「早い。なんで今日はこんなに早いの」
「ナマエがそわそわしてたから何かあったのかと思った」
「スマートな顔してたはず……」
「結婚前も結婚してからも一度もみたことないな、その顔は」
なんだと。
「……バレた瞬間に思いついたけど玉狛支部で作ればよかったわ」
「サプライズしようとしてくれてたのか」
お腹に手が回って京介からもくっつかれる。首元に濡れた髪が当たってちょっとびっくりしたけどそのままくっついていた。
「サプライズ失敗です。これは中身で勝負しなきゃいけなくなった。ハードル上がった」
「ごめんな?」
「なんで笑ってるの」
「それでも作ってくれるのが嬉しいんだ」
「男はバレンタインに命かけてるって聞いたから。京介はバレンタイン神だから毎年大量に捧げものあるけど」
「結婚したからさすがにないだろ」
「付き合っても婚約してもあったからどうせあるよ」
「それは……困るな」
「本命もらってきたら家入れないからな」
お腹の上の手をいじりながら言うと「分かってる」とギュッと握られた。
「料理教室とかでドデカチョコ作りとかないかな」
「なに作るんだ?」
「等身大雷神丸」
「インパクトはあるが消費の面を考えてくれ」
「確かに」
太るしそんなにいっぱい食べられない。冷蔵庫入らないし暖房がつけられなくなる。一般家庭じゃ絶対むり。
「うーん……どうしよ」
「……いっそのこと一緒に作るか?」
「お?」
「うん。それもいいな」
京介は機嫌良さそうにそう言ってパソコンを触りだした。今年のバレンタインで検索して出てきたトレンドはカカオ高騰によってチョコレート単体じゃなくて、チョコレート菓子が多いらしい。ケーキとか、チョコクッキーとか。確かに最近チョコ高い。
「ケーキ食べたい。でも凝ったの作って失敗はしたくない」
「ガトーショコラは簡単なほうじゃないか?」
「しっとりどっしりしてるやつが好き」
「じゃあそんなレシピ探すぞ」
くっついて一緒にレシピを探す。人気なやつを発見してプリントした。見るからに美味しそうでわくわくしてきた。
「……あれ? サプライズじゃなくていいの?」
流されて一緒に作る流れになってる。京介を見ると楽しげに笑ってキスされた。
「ナマエが俺の為に作ってくれようと考えてくれるだけで嬉しい」
「……私は一緒に作ってもホワイトデーを所望します。強欲の嫁だから」
京介の幸せそうな顔に心がそわそわしてそんなことを言うと再びキスされて「楽しみにしてくれ」と言われてしまった。気が早い。……でも嬉しいな。そう思って私からキスすると優しく抱きしめられた。
そして当日。ふたりでエプロンを着てキッチンに材料を並べる。
「レシピはー……だいたい混ぜて焼くって書いてある」
「オムライスでも同じこと言うからなナマエは」
「だいたいの料理は混ぜて焼くんだよ」
「ナマエはチョコレート溶かしてくれ」
「はいよー」
卵黄と卵白に分けてる京介の横でお湯を沸かして鍋にボウル乗せてから刻んだチョコとバターを湯煎にかけて溶かす。もういい匂いするからチョコレートは罪深い。そして私がくるくる溶かしている一方で京介は薄力粉と純ココアをふるっていた。クッキーもだけど粉をさらさらにしないと美味しくないのかな?
「チョコ溶けた~。次は……卵黄と砂糖をハンドミキサーで混ぜる~。……この歳でハンドミキサー使うとテンション上がるのあり?」
「いいんじゃないか」
夫の許可が出たのでテンション上げながらハンドミキサーで混ぜる。白っぽくなった卵黄にチョコを少しずつ加えて混ぜて、さっきふるった薄力粉と純ココアをまたふるいながら更に混ぜる。なんか生地っぽくなってきた。
「あとは別のボウルに卵白に塩いれて~メレンゲに……蘭ねーちゃんの角くらいにする」
「蘭ねーちゃんの角って書かれてないだろ」
「これ言ったらみんな「ああ~」ってなる魔法の言葉よ」
鬼の角より有名説のある蘭ねーちゃんの角。なんで蘭ねーちゃんより年上になっても蘭ねーちゃんって言いたくなるんだろうね。
そしてメレンゲに少しずつチョコ生地を加えてその都度混ぜて全部混ぜ終わった。
「あとは焼くだけ~」
ふんふん言いながらオーブンを余熱しているとクッキングシートを準備していた京介が「ふふ」と笑った。
「なに?」
「いや、楽しそうで可愛いなって。ずっと鼻歌うたってた」
「…………」
無自覚でした。えっ普段歌わないのに。なんでだ。そう考えたらすぐに答えは出てきて。
ケーキの型に生地を流す京介を見てじんわりと胸に何かがわき上がってくる。京介が鉄板にケーキを乗せてオーブンを閉じてピッ、ピッと操作しているその背中にギュッと抱きついた。
「ん? どうした?」
「なんでもない」
「エプロン、少し汚れてるぞ」
「手洗うしいいの」
柄にもなく心が浮きだって鼻歌をうたう。大きい背中に頬をくっつけて、そっと振り降りてくるような幸せを噛みしめた。
ガトーショコラはしっとりとしていてそれでいて控えめな甘い味が口の中を広がった。一緒に作ったのに「ありがとう」と言ってくれる京介に「おうよ」と返しておそろいのお酒が美味しくなるというタンブラーを渡した。
「晩酌の友!」
「烏の絵が描いてあるな」
「絵も文字も印字出来るって言われたから。これぞ烏丸夫婦よ」
そしてこれは京介には言わないけれど。
『烏は生涯を一対のパートナーと過ごして夫婦で行動する鳥なんですよ』
技術者さんにそう言われたこのタンブラーが古くなったらまた同じのを買おう。そう思った。
もうすぐバレンタイン。そしてふと思った。世の中の夫婦は結婚してからのバレンタインってどうしてるんだろう。それか同棲中の恋人同士。既製品を買うならともかく、手作りを渡すならバレないようにいつ作るか悩まない? チョコレート溶かすと甘い匂い残るし。冷蔵庫に保存するし。冷蔵庫禁止令だす? 絶対無理。
うんうん悩んでリビングに置いてる文明の利器ことノートパソコンでぽちぽち入力する。
『バレンタイン 完全犯罪』
映画が出てきた。バレンタインに人を殺す話。違う、そうじゃない。殺す予定はない。
検索方法が悪かったと悟ってなんて入力しようとキーボードに手を置いたままにしていると、ふわりと柔らかいいい匂いと温かさが背中を覆った。
「映画観たいのか?」
「………………」
風呂上がるの早い。渋い顔を京介に向けると「? ネタバレでもみたか?」と私の隣に座ってタオルで髪を拭いている。たったそれだけで相変わらずCMの一部みたいに様になるなこの男。
「バレンタイン殺人事件か。元々司祭が処刑された日だからな。それに因んだ話か?」
「知らぬ……誰じゃ司祭って」
「微妙にご機嫌ななめだな。どうした?」
片足を動かして私の身体を自分の股にしまう京介に風呂上がりでぬくい身体に背中を寄せた。あったかい。
「……ん? チョコレシピ?」
「あ」
別タブで表示されていた名前を読まれる。バレた? これバレた? 京介の顔を恐る恐る見ると分が悪そうに苦笑していた。
「風呂上がるの早かったか」
察しが早すぎる。ズデーと体重をかけて京介に寄りかかるのを強くすると「悪かった」とポンポン頭を叩かれた。
「早い。なんで今日はこんなに早いの」
「ナマエがそわそわしてたから何かあったのかと思った」
「スマートな顔してたはず……」
「結婚前も結婚してからも一度もみたことないな、その顔は」
なんだと。
「……バレた瞬間に思いついたけど玉狛支部で作ればよかったわ」
「サプライズしようとしてくれてたのか」
お腹に手が回って京介からもくっつかれる。首元に濡れた髪が当たってちょっとびっくりしたけどそのままくっついていた。
「サプライズ失敗です。これは中身で勝負しなきゃいけなくなった。ハードル上がった」
「ごめんな?」
「なんで笑ってるの」
「それでも作ってくれるのが嬉しいんだ」
「男はバレンタインに命かけてるって聞いたから。京介はバレンタイン神だから毎年大量に捧げものあるけど」
「結婚したからさすがにないだろ」
「付き合っても婚約してもあったからどうせあるよ」
「それは……困るな」
「本命もらってきたら家入れないからな」
お腹の上の手をいじりながら言うと「分かってる」とギュッと握られた。
「料理教室とかでドデカチョコ作りとかないかな」
「なに作るんだ?」
「等身大雷神丸」
「インパクトはあるが消費の面を考えてくれ」
「確かに」
太るしそんなにいっぱい食べられない。冷蔵庫入らないし暖房がつけられなくなる。一般家庭じゃ絶対むり。
「うーん……どうしよ」
「……いっそのこと一緒に作るか?」
「お?」
「うん。それもいいな」
京介は機嫌良さそうにそう言ってパソコンを触りだした。今年のバレンタインで検索して出てきたトレンドはカカオ高騰によってチョコレート単体じゃなくて、チョコレート菓子が多いらしい。ケーキとか、チョコクッキーとか。確かに最近チョコ高い。
「ケーキ食べたい。でも凝ったの作って失敗はしたくない」
「ガトーショコラは簡単なほうじゃないか?」
「しっとりどっしりしてるやつが好き」
「じゃあそんなレシピ探すぞ」
くっついて一緒にレシピを探す。人気なやつを発見してプリントした。見るからに美味しそうでわくわくしてきた。
「……あれ? サプライズじゃなくていいの?」
流されて一緒に作る流れになってる。京介を見ると楽しげに笑ってキスされた。
「ナマエが俺の為に作ってくれようと考えてくれるだけで嬉しい」
「……私は一緒に作ってもホワイトデーを所望します。強欲の嫁だから」
京介の幸せそうな顔に心がそわそわしてそんなことを言うと再びキスされて「楽しみにしてくれ」と言われてしまった。気が早い。……でも嬉しいな。そう思って私からキスすると優しく抱きしめられた。
そして当日。ふたりでエプロンを着てキッチンに材料を並べる。
「レシピはー……だいたい混ぜて焼くって書いてある」
「オムライスでも同じこと言うからなナマエは」
「だいたいの料理は混ぜて焼くんだよ」
「ナマエはチョコレート溶かしてくれ」
「はいよー」
卵黄と卵白に分けてる京介の横でお湯を沸かして鍋にボウル乗せてから刻んだチョコとバターを湯煎にかけて溶かす。もういい匂いするからチョコレートは罪深い。そして私がくるくる溶かしている一方で京介は薄力粉と純ココアをふるっていた。クッキーもだけど粉をさらさらにしないと美味しくないのかな?
「チョコ溶けた~。次は……卵黄と砂糖をハンドミキサーで混ぜる~。……この歳でハンドミキサー使うとテンション上がるのあり?」
「いいんじゃないか」
夫の許可が出たのでテンション上げながらハンドミキサーで混ぜる。白っぽくなった卵黄にチョコを少しずつ加えて混ぜて、さっきふるった薄力粉と純ココアをまたふるいながら更に混ぜる。なんか生地っぽくなってきた。
「あとは別のボウルに卵白に塩いれて~メレンゲに……蘭ねーちゃんの角くらいにする」
「蘭ねーちゃんの角って書かれてないだろ」
「これ言ったらみんな「ああ~」ってなる魔法の言葉よ」
鬼の角より有名説のある蘭ねーちゃんの角。なんで蘭ねーちゃんより年上になっても蘭ねーちゃんって言いたくなるんだろうね。
そしてメレンゲに少しずつチョコ生地を加えてその都度混ぜて全部混ぜ終わった。
「あとは焼くだけ~」
ふんふん言いながらオーブンを余熱しているとクッキングシートを準備していた京介が「ふふ」と笑った。
「なに?」
「いや、楽しそうで可愛いなって。ずっと鼻歌うたってた」
「…………」
無自覚でした。えっ普段歌わないのに。なんでだ。そう考えたらすぐに答えは出てきて。
ケーキの型に生地を流す京介を見てじんわりと胸に何かがわき上がってくる。京介が鉄板にケーキを乗せてオーブンを閉じてピッ、ピッと操作しているその背中にギュッと抱きついた。
「ん? どうした?」
「なんでもない」
「エプロン、少し汚れてるぞ」
「手洗うしいいの」
柄にもなく心が浮きだって鼻歌をうたう。大きい背中に頬をくっつけて、そっと振り降りてくるような幸せを噛みしめた。
ガトーショコラはしっとりとしていてそれでいて控えめな甘い味が口の中を広がった。一緒に作ったのに「ありがとう」と言ってくれる京介に「おうよ」と返しておそろいのお酒が美味しくなるというタンブラーを渡した。
「晩酌の友!」
「烏の絵が描いてあるな」
「絵も文字も印字出来るって言われたから。これぞ烏丸夫婦よ」
そしてこれは京介には言わないけれど。
『烏は生涯を一対のパートナーと過ごして夫婦で行動する鳥なんですよ』
技術者さんにそう言われたこのタンブラーが古くなったらまた同じのを買おう。そう思った。