番外編
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※モブ目線
高2の球技大会。そうそうに負けてしまったおれのクラスは得点係の役割を仰せつかることとなった。やる気なくぺらりぺらりと得点板を捲る作業を繰り返す。相方になった同じクラスの女子は「今のブロックすごかったからボーナス点とか入れていいかな?」「やめろ山原!」と失点になった方のチームから怒られている。「サービスサービス」とからから笑ってるから反省は多分ない。ちょっと気をつけて見ておこうと思いつつ「ひまだなー」と何回目になるか分からない言葉を口にした。
「ひまだねー」
「なー」
とてつもなく空気が緩い。目の前でバコバコ痛そうな音が鳴ってる。得点係は退屈だがバレーはあまり好きではないから早々に負けてよかったのかもしれない。そんな事を言うと「バレー楽しいじゃん」と返ってきた。
「んー、まぁ人選ぶよなバレーって。山原さんは得意なん?」
「レシーブしたら二階の観覧席まで飛んだ」
「下手じゃん」
「でも楽しい」
「変わってるな」
ああ、でもこの人なんでも楽しそうにしてるからな。そう考えると余り意外性はないかもしれない。
二年で初めて同じクラスになった山原さん。始業式早々えらく目立っていた人だが割と話しやすい部類の人間だった。たまに意味分かんないところもあるが。「今日近所の猫が猫又になる夢みてさ」こういうところとか。すげー話飛ぶな。別にいいけど。
「朝確認したらまだ猫だったよ」
「よかったね」
「うん、よかった。奴にはまだ早い」
「どういう関係なの?」
急に偉そうな声で言うので少し困惑した。相手猫だろ。「カカロットとベジータ的な。私ベジータ」「負けてんじゃねーか」「そうなんだよ」猫に負けるってどういうことだ。気になったがちょうどおれ側のコートに得点が入ったので話題が切れてしまった。くそ、気になる。
「あ、下手くそ! ちゃんとブロックせんか!」
「得点係が野次ってくんじゃねーよ!」
「え、得点係じゃないならいいの? みなさーん! こっちのチームがミスしたら野次っていいですよー!」
「先導すんな!」
観客達の視線が一気に集まった。やりにくいな。おれでさえもそう思うのだから選手はもっと思うだろう。現に「山原この野郎」と恨み言を言っている奴もいる。
「緊張感っているのはね、空気から作っていくもんなんだよ」
どうでもよさそうな顔でそれっぽいことを言っている。でもどことなく楽しそうだ。こうやって何でも賑やかくするから何でも楽しくできる人なのかもしれない。ふとそう思った。
「山原さんって嫌いなものとかなさそうだな」
「嫌いなもの? ……もの?」
「もの」
「人ならすぐ浮かぶけど」
「あー……まぁ嫌いな人間とか苦手な人間っていて当然だしな。みんながみんな仲良しとはいかねーし」
「この世は人間で溢れてるしね」
「ね」
軽い気持ちで訊ねた質問だったが、山原さんは予想外に真剣に考えてくれていた。
「嫌いなもの……嫌いなもの……」
うーん、と首を捻っている。悩む時点で無いんじゃないかと思ったと同時に、好き嫌い……嫌なものは嫌とはっきり言う性格だから少し意外だなとも思った。嫌いなもの無さそうと言った手前黙っていたが。
「うーん、普通にあるけどこう……言葉にするのが……あっ迅だ」
また話飛んだな。そう思いつつ視線を同じ方へ向けた。観覧席には去年同じクラスだった迅がいた。迅は軽く手を上げて前前、とジェスチャーをした。顔は苦笑の形をしている。
「知り合い……って当たり前か。ボーダー隊員だもんな」
「うん。あと一緒に住んでるし」
「へー…………それおれが聞いていいやつ?」
「聞いていいやつ。エロティックの欠片もないよ」
「いやエロティック期待したわけでは」
全くないと言ったら嘘になるが。そりゃ同い年の男女が同じ家に住んでいるって聞いたら……そりゃあ、な。
「基地に住んでいるの。他にも人いるから寮みたいなかんじだよ」
「なるほど」
それでもほんの少し何かあるんじゃないかと思ったが、この人達の“寮”の意味合いは普通とは異なるから流石にそれ以上は下世話な想像は出来なかった。日常を守ってもらってそれはねーな。自分が少し恥ずかしい。野次馬かよ。
そんなときだった。
ド、ゴッ
そんな音が真横から届いた。
「いっ、たいッ!? なんか後頭部に当たった! ていうかめちゃくちゃこめかみ痛い!」
「血! 山原さん、血ィでてる!!」
「うそだ!」
「唐突にこんな嘘つくわけないだろ! ていうかあんま興奮しないで!!」
辺りは騒然としていた。当たり前だ。頭から血を出している人間がいるのだから。
飛んできたボールに後頭部が直撃。その反動でこめかみが得点板の端っこに当たって出血。そんな流れだった。ボールを山原さんに当ててしまった人(サーブを外したらしい)は顔を真っ青にして謝っている。そして自分より慌てている人間がいるからか、山原さんもだいぶ落ちついたらしい。「ナイスサーブ」皮肉ってるのかフォローなのかちょっとよく分からない言葉を相手に返している。おれはまだ心臓がドキドキしている。
「保健室行ってくる。私の代わりに……得点を……お願い、ね……」
「ふざけなくていいから早く行ってくれ。お願いだから」
「あいよ」
付き添いはボールを当ててしまった生徒がするみたいだ。「こっちの人のが倒れそうなんだけど」山原さんは傷をハンカチで押さえながら少し不服というか心配そうな顔をしている。
「ぎゃー! ナマエ!? 何で血がでてんの!!」
「バレーボールに嫌われちゃった」
「元から好かれてると思ってんのか!!」
出会った友人らしき人間も混乱しているのか言葉がおかしい。
「事故だからあんまはしゃぎなさんなー」
「楽しがってるみたいな言い方やめれ!」
「ナマエ大丈夫なのそれ!?」
「山原が出血しとる!? なんで!」
「おまえ何したんだ!」
「おれもびびったけどとりあえず保健室だろ! びびったけど!」
「ほらいくよ!」
ピクミンみたいに人が増えていって一つの集団となって山原さんは消えていった。……好かれてんなぁ。心臓はまだドキドキしてるがそんな感想がでた。みんなナマエやら山原やらと呼んで心配していた。
「ナマエの代わりおれがやるよ」
「迅」
「ほら、みんな早く試合戻らないと終わんないよ。こめかみだから血がたくさん出ただけで傷跡にも残らないから」
あまりの衝撃にプレイを中断していた面々に緩やかに声をかける迅。それにハッとしたのか試合に戻りだした。
「迅って怪我に詳しいの?」
「うん? なんで」
「だって傷跡に残らないって」
「あー……まあそんなかんじ」
緩い笑みに少し違和感を覚えた。なんでだと言われたら分からないけど。
***
「ごめん、ナマエ」
「気にすんなー」
「……理由も聞かないの?」
「これが最善だったんでしょ? 私以外だったらもっとでっかい怪我してたとか」
「…………」
「迅のせいじゃないでしょー。そんな顔しなくていいって」
閉会式後の片付け時間。裏庭の倉庫に余分のテニスボールを片付けるよう言われて向かっていたときだった。先ほどよく聞いた声がした。それも2つとも。
顔をひょこりと出してぎょっとした。山原さんが背をかがめた迅の頭を片手で抱いてもう片方の手で背中をぽんぽんしていたからだ。え? え? あの二人そんな関係なの?
そんなことを思いつつもこめかみ周辺を大きく覆うようにガーゼが顔に貼られた山原さんに目がいく。みるからに痛そうだ。
「全部背負いおってからにー」
「…………家族が怪我するの無視したんだぞ」
「無視できてないからそんな顔するんでしょ。本当に厄介な男だのー」
「…………ごめん」
「次謝ったら本気びんたね」
「……怪我したナマエに気をつかわせてダメだなおれは」
「じめじめ時間長い。山原びんたね」
ばしぃ!!
迅の背中から鈍い音がした。本当に殴ったあの人。なんの話か分からないけど迅は落ち込んでいるみたいなのに。あれ絶対つき合ってない。場違いにそう思った。
「いたっ!? おまえ、本気で殴ったでしょ!?」
「元気でたじゃん」
「……でたけどさぁ!」
「いいんだよこれで」
「……男前すぎて男寄ってこないよこのままじゃ」
「そんなんで散る男なんかいらん」
「……もうそんな男いるんだけどさ」
「あ? なんて言った?」
「なんでもない」
用事が終わったのかこっち側にやってくる2人に焦ったが、2人の足取りが早かったのですぐさま鉢合わせした。
「あれ? どしたの?」
「裏庭の倉庫にテニスボール戻してこいって言われて」
「手伝おっか?」
「いや意外と軽いから」
「そう?」
「うん、ありがとう。あ、ゴン太ががんばった記念にジュースおごってくれるって」
「なに!? 早く教室戻らないと!」
「ナマエ、今日は走っちゃ駄目って言われただろ?」
「早歩きの達人するから!」
「はいはい」
そういって2人は去って行こうとしたが途中で山原さんが「あっ」と言って足を止めた。
「迅先いってて。一分で追いつく」
「待つよ?」
「一分で追いつく」
「はいはい」
迅は肩をすぼめて歩き出して山原さんがおれの方を向いた。えっなんだなんだ。
「──くん」
「は、はい」
「あったよ。嫌いなもの」
「えっ? あ、あー話してたやつね」
「うん。めちゃくちゃあった。代わってやりたいくらい嫌いなもの」
「……代わってあげるなら嫌いと言えないのでは?」
「うん? 確かに? ……まあいいか。じゃあ片づけがんばってね」
そう残して山原さんは今度こそ去っていった。……嫌いなものってなんだったんだろう。そう首を傾げながら倉庫の扉を開ける。埃っぽかった。そしてふと思う。なんというか、あれだなぁ。
「つき合ってないんだろうけど特別なんだろうなぁ」
あの緩い雰囲気だけどよく読めない迅があんなに落ち込んでるの初めてみた。それが見せられる相手が山原さんなんだろう。なんとなくそう思いながらテニスボールをしまい込んだ。
高2の球技大会。そうそうに負けてしまったおれのクラスは得点係の役割を仰せつかることとなった。やる気なくぺらりぺらりと得点板を捲る作業を繰り返す。相方になった同じクラスの女子は「今のブロックすごかったからボーナス点とか入れていいかな?」「やめろ山原!」と失点になった方のチームから怒られている。「サービスサービス」とからから笑ってるから反省は多分ない。ちょっと気をつけて見ておこうと思いつつ「ひまだなー」と何回目になるか分からない言葉を口にした。
「ひまだねー」
「なー」
とてつもなく空気が緩い。目の前でバコバコ痛そうな音が鳴ってる。得点係は退屈だがバレーはあまり好きではないから早々に負けてよかったのかもしれない。そんな事を言うと「バレー楽しいじゃん」と返ってきた。
「んー、まぁ人選ぶよなバレーって。山原さんは得意なん?」
「レシーブしたら二階の観覧席まで飛んだ」
「下手じゃん」
「でも楽しい」
「変わってるな」
ああ、でもこの人なんでも楽しそうにしてるからな。そう考えると余り意外性はないかもしれない。
二年で初めて同じクラスになった山原さん。始業式早々えらく目立っていた人だが割と話しやすい部類の人間だった。たまに意味分かんないところもあるが。「今日近所の猫が猫又になる夢みてさ」こういうところとか。すげー話飛ぶな。別にいいけど。
「朝確認したらまだ猫だったよ」
「よかったね」
「うん、よかった。奴にはまだ早い」
「どういう関係なの?」
急に偉そうな声で言うので少し困惑した。相手猫だろ。「カカロットとベジータ的な。私ベジータ」「負けてんじゃねーか」「そうなんだよ」猫に負けるってどういうことだ。気になったがちょうどおれ側のコートに得点が入ったので話題が切れてしまった。くそ、気になる。
「あ、下手くそ! ちゃんとブロックせんか!」
「得点係が野次ってくんじゃねーよ!」
「え、得点係じゃないならいいの? みなさーん! こっちのチームがミスしたら野次っていいですよー!」
「先導すんな!」
観客達の視線が一気に集まった。やりにくいな。おれでさえもそう思うのだから選手はもっと思うだろう。現に「山原この野郎」と恨み言を言っている奴もいる。
「緊張感っているのはね、空気から作っていくもんなんだよ」
どうでもよさそうな顔でそれっぽいことを言っている。でもどことなく楽しそうだ。こうやって何でも賑やかくするから何でも楽しくできる人なのかもしれない。ふとそう思った。
「山原さんって嫌いなものとかなさそうだな」
「嫌いなもの? ……もの?」
「もの」
「人ならすぐ浮かぶけど」
「あー……まぁ嫌いな人間とか苦手な人間っていて当然だしな。みんながみんな仲良しとはいかねーし」
「この世は人間で溢れてるしね」
「ね」
軽い気持ちで訊ねた質問だったが、山原さんは予想外に真剣に考えてくれていた。
「嫌いなもの……嫌いなもの……」
うーん、と首を捻っている。悩む時点で無いんじゃないかと思ったと同時に、好き嫌い……嫌なものは嫌とはっきり言う性格だから少し意外だなとも思った。嫌いなもの無さそうと言った手前黙っていたが。
「うーん、普通にあるけどこう……言葉にするのが……あっ迅だ」
また話飛んだな。そう思いつつ視線を同じ方へ向けた。観覧席には去年同じクラスだった迅がいた。迅は軽く手を上げて前前、とジェスチャーをした。顔は苦笑の形をしている。
「知り合い……って当たり前か。ボーダー隊員だもんな」
「うん。あと一緒に住んでるし」
「へー…………それおれが聞いていいやつ?」
「聞いていいやつ。エロティックの欠片もないよ」
「いやエロティック期待したわけでは」
全くないと言ったら嘘になるが。そりゃ同い年の男女が同じ家に住んでいるって聞いたら……そりゃあ、な。
「基地に住んでいるの。他にも人いるから寮みたいなかんじだよ」
「なるほど」
それでもほんの少し何かあるんじゃないかと思ったが、この人達の“寮”の意味合いは普通とは異なるから流石にそれ以上は下世話な想像は出来なかった。日常を守ってもらってそれはねーな。自分が少し恥ずかしい。野次馬かよ。
そんなときだった。
ド、ゴッ
そんな音が真横から届いた。
「いっ、たいッ!? なんか後頭部に当たった! ていうかめちゃくちゃこめかみ痛い!」
「血! 山原さん、血ィでてる!!」
「うそだ!」
「唐突にこんな嘘つくわけないだろ! ていうかあんま興奮しないで!!」
辺りは騒然としていた。当たり前だ。頭から血を出している人間がいるのだから。
飛んできたボールに後頭部が直撃。その反動でこめかみが得点板の端っこに当たって出血。そんな流れだった。ボールを山原さんに当ててしまった人(サーブを外したらしい)は顔を真っ青にして謝っている。そして自分より慌てている人間がいるからか、山原さんもだいぶ落ちついたらしい。「ナイスサーブ」皮肉ってるのかフォローなのかちょっとよく分からない言葉を相手に返している。おれはまだ心臓がドキドキしている。
「保健室行ってくる。私の代わりに……得点を……お願い、ね……」
「ふざけなくていいから早く行ってくれ。お願いだから」
「あいよ」
付き添いはボールを当ててしまった生徒がするみたいだ。「こっちの人のが倒れそうなんだけど」山原さんは傷をハンカチで押さえながら少し不服というか心配そうな顔をしている。
「ぎゃー! ナマエ!? 何で血がでてんの!!」
「バレーボールに嫌われちゃった」
「元から好かれてると思ってんのか!!」
出会った友人らしき人間も混乱しているのか言葉がおかしい。
「事故だからあんまはしゃぎなさんなー」
「楽しがってるみたいな言い方やめれ!」
「ナマエ大丈夫なのそれ!?」
「山原が出血しとる!? なんで!」
「おまえ何したんだ!」
「おれもびびったけどとりあえず保健室だろ! びびったけど!」
「ほらいくよ!」
ピクミンみたいに人が増えていって一つの集団となって山原さんは消えていった。……好かれてんなぁ。心臓はまだドキドキしてるがそんな感想がでた。みんなナマエやら山原やらと呼んで心配していた。
「ナマエの代わりおれがやるよ」
「迅」
「ほら、みんな早く試合戻らないと終わんないよ。こめかみだから血がたくさん出ただけで傷跡にも残らないから」
あまりの衝撃にプレイを中断していた面々に緩やかに声をかける迅。それにハッとしたのか試合に戻りだした。
「迅って怪我に詳しいの?」
「うん? なんで」
「だって傷跡に残らないって」
「あー……まあそんなかんじ」
緩い笑みに少し違和感を覚えた。なんでだと言われたら分からないけど。
***
「ごめん、ナマエ」
「気にすんなー」
「……理由も聞かないの?」
「これが最善だったんでしょ? 私以外だったらもっとでっかい怪我してたとか」
「…………」
「迅のせいじゃないでしょー。そんな顔しなくていいって」
閉会式後の片付け時間。裏庭の倉庫に余分のテニスボールを片付けるよう言われて向かっていたときだった。先ほどよく聞いた声がした。それも2つとも。
顔をひょこりと出してぎょっとした。山原さんが背をかがめた迅の頭を片手で抱いてもう片方の手で背中をぽんぽんしていたからだ。え? え? あの二人そんな関係なの?
そんなことを思いつつもこめかみ周辺を大きく覆うようにガーゼが顔に貼られた山原さんに目がいく。みるからに痛そうだ。
「全部背負いおってからにー」
「…………家族が怪我するの無視したんだぞ」
「無視できてないからそんな顔するんでしょ。本当に厄介な男だのー」
「…………ごめん」
「次謝ったら本気びんたね」
「……怪我したナマエに気をつかわせてダメだなおれは」
「じめじめ時間長い。山原びんたね」
ばしぃ!!
迅の背中から鈍い音がした。本当に殴ったあの人。なんの話か分からないけど迅は落ち込んでいるみたいなのに。あれ絶対つき合ってない。場違いにそう思った。
「いたっ!? おまえ、本気で殴ったでしょ!?」
「元気でたじゃん」
「……でたけどさぁ!」
「いいんだよこれで」
「……男前すぎて男寄ってこないよこのままじゃ」
「そんなんで散る男なんかいらん」
「……もうそんな男いるんだけどさ」
「あ? なんて言った?」
「なんでもない」
用事が終わったのかこっち側にやってくる2人に焦ったが、2人の足取りが早かったのですぐさま鉢合わせした。
「あれ? どしたの?」
「裏庭の倉庫にテニスボール戻してこいって言われて」
「手伝おっか?」
「いや意外と軽いから」
「そう?」
「うん、ありがとう。あ、ゴン太ががんばった記念にジュースおごってくれるって」
「なに!? 早く教室戻らないと!」
「ナマエ、今日は走っちゃ駄目って言われただろ?」
「早歩きの達人するから!」
「はいはい」
そういって2人は去って行こうとしたが途中で山原さんが「あっ」と言って足を止めた。
「迅先いってて。一分で追いつく」
「待つよ?」
「一分で追いつく」
「はいはい」
迅は肩をすぼめて歩き出して山原さんがおれの方を向いた。えっなんだなんだ。
「──くん」
「は、はい」
「あったよ。嫌いなもの」
「えっ? あ、あー話してたやつね」
「うん。めちゃくちゃあった。代わってやりたいくらい嫌いなもの」
「……代わってあげるなら嫌いと言えないのでは?」
「うん? 確かに? ……まあいいか。じゃあ片づけがんばってね」
そう残して山原さんは今度こそ去っていった。……嫌いなものってなんだったんだろう。そう首を傾げながら倉庫の扉を開ける。埃っぽかった。そしてふと思う。なんというか、あれだなぁ。
「つき合ってないんだろうけど特別なんだろうなぁ」
あの緩い雰囲気だけどよく読めない迅があんなに落ち込んでるの初めてみた。それが見せられる相手が山原さんなんだろう。なんとなくそう思いながらテニスボールをしまい込んだ。