番外編
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この人いい加減にみえて気ぃ使いやな。
階段を登っていく姿を見てそう思った。
階段の一番上に先輩がいることに気がついた。ボーダーの一個上の先輩。賑やかな質で自隊の隊長ともいつもよく分からない会話を繰り広げている、そんな先輩。挨拶せななぁ。そう思っていたら先輩の隣にいた女子がガクンと足を踏み外したのが見えた。そこからはスローモーションで動きが見えた気がする。空中に投げ出されそうになる女子生徒を先輩が掴んで後ろにぐるりと放り投げた。力いっぱいやったのだろう。その代わり先輩が空中に身体を浮かせた。
「ナマエさん!」
生身やと無理や。トリガーどこや。通学バッグの中。あかん、ナマエさん落ちてまう。そんなことを一瞬のうちに考えていたらナマエさんがカーディガンに手を突っ込んで制服姿から見慣れた水色の隊服に換装した。空中で体勢を持ち直し、くるりと身体を回転させてナマエさんは俺の隣に着地した。
「びっくりしたぁ」
のん気な声に一気に気が抜けた。
「こっちの台詞ですわ」
「よっ水上」
「よっじゃないんすよ」
挨拶しようとは思っていたがこんな形ではない。まだ心臓がドクドクいっている。冷や汗もかいた。それなのに当の本人は「反射神経テスト満点じゃない?」とズレたことを聞いてくる。
「よおカーディガンのポケットにトリガー入れとりましたね」
「あ、そうだそれそれ」
キョロキョロと顔を動かしてすぐさま止まる。立ち上がってナマエさんは真っ直ぐある人物の場所に走っていった。そしてその人物に飛びかかる。なんなく受け止められた。なぜならその人も──迅さんも換装体だったからだ。
「ありがとうー!」
「はいはいよかったよ無事で」
「アドバイス通りポッケに入れといたよ!」
「あとで二人でトリガーの使用履歴の書類を提出しないとね」
「……一気にテンション下がった」
「鬼怒田さんに怒られるよ」
未来視の能力。くっ付いて話す二人の言葉を聞いていたら察しがついた。ナマエさんが階段から落ちる未来が視えた。だからトリガーを持つように言い聞かせて自分自身は万が一の為に換装体になって下にいた。……迅さん苦労性やなぁ。家族が落ちてくる未来なんて視たい人間などいない。この日が来るまで戦々恐々だっただろう。おそらく一番安心しているのは迅さんだ。……ナマエさんが珍しく迅さんからくっ付いて離れないのはそういうことやろうな。
「ナマエ、ナマエ~~~ッ! ごめんなさいぃいい!!!」
階段上から聞こえる涙声。そういえば忘れていた。ナマエさんに庇われた人物。一歩間違えれば友達を自分のせいで無くしていたかもしれない人物。ここで一番罪悪感のあるのは彼女だ。
「あらら、腰抜かして号泣してら」
「いってあげてナマエ」
「一緒行こ」
「おれはいいから」
「そういうのいいから」
換装体を解き、迅さんの両頬に手をやるナマエさん。ジーッと見られて観念したのか迅さんも換装体を解いた。顔色はよくなかった。
「行くよ迅」
「……はい」
手を繋いで二人は階段を登って行く。すれ違うときに「お騒がせしました~」と軽く俺に頭を下げたナマエさん。俺にはえらい軽いな。相手みてやっとるんやろうけど。迅さんは恥ずかしいのかこっちを見ようとしなかったのでこっちも見なかったことにした。
「ほら、元気だから泣かないの~ぎゅーって抱きしめて!」
「オラフぅううう! 似てないぃいいい!!」
「でも抱きしめるんかい」
「よかったぁああ! ごめんねぇええ!!!」
「いいよ~」
「ノリ軽いぃいいい!!!」
人混みが増えてきたので知ってる顔はあっちいけと手を振っておいた。やりとりは些か気が抜けるしふざけてるのかと思いそうになるが、衝撃から抜けてないシリアスな場面のはずだ。泣いてる人にとったら特に。……わざと気の緩い会話にしようとしてる? ナマエさんが? あり得るともあり得んとも言い難いのはナマエさんの生態が結構謎なところが多いせいで。普段好き勝手に生きてるせいか、自由気ままというイメージが抜けきらない。人に気を使わず豪胆に生きている。そんな感じ。
……でも迅さんへの対応みてたら多分わざと雰囲気緩くしようとしてるんやろうなぁ。未だに続く「クリストフだー! ……えっ待って、クリストフなの?」「私スヴェンじゃないぃいいい!!」「クリストフでもないけどね」というアホな茶番にそう思った。
(愛っていうのは、自分より人のことを大切に思うこと……)
ナマエさんが真似してるキャラの台詞が頭に浮かぶ。その言葉の通りやったらえらいナマエさんが愛情深い人みたいやな。これはこれで違和感がある。まあそんな曖昧なもん定義してもしゃーないしな。くるりと踵を返す。もうすぐ休み時間も終わりだ。別階段で上に行こう。迅さんも俺に顔見られたくないやろうし。
「ぎりぎりだったな水上。なんかあったのか?」
「いや、なんもないで当真」
クラスに帰って席につくと前の席の当真が話しかけてきた。なんもなかった。それでええやろ。
階段を登っていく姿を見てそう思った。
階段の一番上に先輩がいることに気がついた。ボーダーの一個上の先輩。賑やかな質で自隊の隊長ともいつもよく分からない会話を繰り広げている、そんな先輩。挨拶せななぁ。そう思っていたら先輩の隣にいた女子がガクンと足を踏み外したのが見えた。そこからはスローモーションで動きが見えた気がする。空中に投げ出されそうになる女子生徒を先輩が掴んで後ろにぐるりと放り投げた。力いっぱいやったのだろう。その代わり先輩が空中に身体を浮かせた。
「ナマエさん!」
生身やと無理や。トリガーどこや。通学バッグの中。あかん、ナマエさん落ちてまう。そんなことを一瞬のうちに考えていたらナマエさんがカーディガンに手を突っ込んで制服姿から見慣れた水色の隊服に換装した。空中で体勢を持ち直し、くるりと身体を回転させてナマエさんは俺の隣に着地した。
「びっくりしたぁ」
のん気な声に一気に気が抜けた。
「こっちの台詞ですわ」
「よっ水上」
「よっじゃないんすよ」
挨拶しようとは思っていたがこんな形ではない。まだ心臓がドクドクいっている。冷や汗もかいた。それなのに当の本人は「反射神経テスト満点じゃない?」とズレたことを聞いてくる。
「よおカーディガンのポケットにトリガー入れとりましたね」
「あ、そうだそれそれ」
キョロキョロと顔を動かしてすぐさま止まる。立ち上がってナマエさんは真っ直ぐある人物の場所に走っていった。そしてその人物に飛びかかる。なんなく受け止められた。なぜならその人も──迅さんも換装体だったからだ。
「ありがとうー!」
「はいはいよかったよ無事で」
「アドバイス通りポッケに入れといたよ!」
「あとで二人でトリガーの使用履歴の書類を提出しないとね」
「……一気にテンション下がった」
「鬼怒田さんに怒られるよ」
未来視の能力。くっ付いて話す二人の言葉を聞いていたら察しがついた。ナマエさんが階段から落ちる未来が視えた。だからトリガーを持つように言い聞かせて自分自身は万が一の為に換装体になって下にいた。……迅さん苦労性やなぁ。家族が落ちてくる未来なんて視たい人間などいない。この日が来るまで戦々恐々だっただろう。おそらく一番安心しているのは迅さんだ。……ナマエさんが珍しく迅さんからくっ付いて離れないのはそういうことやろうな。
「ナマエ、ナマエ~~~ッ! ごめんなさいぃいい!!!」
階段上から聞こえる涙声。そういえば忘れていた。ナマエさんに庇われた人物。一歩間違えれば友達を自分のせいで無くしていたかもしれない人物。ここで一番罪悪感のあるのは彼女だ。
「あらら、腰抜かして号泣してら」
「いってあげてナマエ」
「一緒行こ」
「おれはいいから」
「そういうのいいから」
換装体を解き、迅さんの両頬に手をやるナマエさん。ジーッと見られて観念したのか迅さんも換装体を解いた。顔色はよくなかった。
「行くよ迅」
「……はい」
手を繋いで二人は階段を登って行く。すれ違うときに「お騒がせしました~」と軽く俺に頭を下げたナマエさん。俺にはえらい軽いな。相手みてやっとるんやろうけど。迅さんは恥ずかしいのかこっちを見ようとしなかったのでこっちも見なかったことにした。
「ほら、元気だから泣かないの~ぎゅーって抱きしめて!」
「オラフぅううう! 似てないぃいいい!!」
「でも抱きしめるんかい」
「よかったぁああ! ごめんねぇええ!!!」
「いいよ~」
「ノリ軽いぃいいい!!!」
人混みが増えてきたので知ってる顔はあっちいけと手を振っておいた。やりとりは些か気が抜けるしふざけてるのかと思いそうになるが、衝撃から抜けてないシリアスな場面のはずだ。泣いてる人にとったら特に。……わざと気の緩い会話にしようとしてる? ナマエさんが? あり得るともあり得んとも言い難いのはナマエさんの生態が結構謎なところが多いせいで。普段好き勝手に生きてるせいか、自由気ままというイメージが抜けきらない。人に気を使わず豪胆に生きている。そんな感じ。
……でも迅さんへの対応みてたら多分わざと雰囲気緩くしようとしてるんやろうなぁ。未だに続く「クリストフだー! ……えっ待って、クリストフなの?」「私スヴェンじゃないぃいいい!!」「クリストフでもないけどね」というアホな茶番にそう思った。
(愛っていうのは、自分より人のことを大切に思うこと……)
ナマエさんが真似してるキャラの台詞が頭に浮かぶ。その言葉の通りやったらえらいナマエさんが愛情深い人みたいやな。これはこれで違和感がある。まあそんな曖昧なもん定義してもしゃーないしな。くるりと踵を返す。もうすぐ休み時間も終わりだ。別階段で上に行こう。迅さんも俺に顔見られたくないやろうし。
「ぎりぎりだったな水上。なんかあったのか?」
「いや、なんもないで当真」
クラスに帰って席につくと前の席の当真が話しかけてきた。なんもなかった。それでええやろ。