本編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あの日以来、ナマエの顔が見れなくなった。そのせいで不自然にナマエを避ける形となった。しかし、ナマエはそれを不自然とは思わなかったらしく偶然居合わせても「おつかれさーん」と軽い言葉のみ残して去っていく。烏丸から行動しないと一緒にいることはないのだと知った瞬間だった。
そんな日々が続いたある日。嵐山とラウンジの片隅で鉢合わせした。
「お疲れ様です嵐山さん」
「おつかれ、京介。なんだか久しぶりだな」
「嵐山隊が広報部隊になってから忙しそうでしたから」
「そうだな。ゆっくり話せたのはラーメン屋で会ったときか」
ラーメン屋。ある意味烏丸の地雷。顔がピクリと動いたせいで人をよく見ている嵐山に気づかれてしまった。眉を下げてこちらを見ている。
「ナマエと何かあったか? あれから二人でいるところを見てないが。最近仲良かっただろう?」
「…………」
「ナマエは鈍感なところがあるからはっきり言わないと気づかないぞ」
「……山原さんが問題というより、俺の問題です」
「京介の問題?」
話してみるか。この人ならバカにしない。あの人が可愛くみえて顔を合わせられないと。あの破天荒で言動が突拍子もなくてしょっちゅう人に怒られてる人が、なぜか可愛いのだと。顔が見られないくせに、背中を追ってしまうのだと。
そう相談しようとしたときだった。
『好きなんです!! あなたのことが!!』
真横から大きな音声が届いた。
「わあ! ごめんなさい! 興奮しすぎてイヤホン抜けました!」
「ああ、大丈夫だよ。気にしないでくれ」
どうやらスマホで動画を観ていたらしい。それが途中でイヤホンが抜けて大音量が響いたということらしい。スマホの持ち主はペコペコ頭を下げて謝っている。嵐山はその対応をしている。そして烏丸はというと。
「………………っ、」
口元を押さえて動揺を必死に押さえていた。一気に頭に熱が上がった。パチリとなにかがハマった気がした。自分の気持ちが無理やり言語化されたと思った。よりによって他人の言葉、しかもドラマかなにかで。確実に情けない顔をしている。こんな形で自覚するなんて。いつからだ。いつから。そう心に問いかけるとすぐさま返ってきた。
『カッコいいじゃんお兄ちゃん』
『お兄ちゃんも頑張った。えらいぞ』
優しく笑うその姿。烏丸を励ましてくれた言葉。家族を守ってもらった姿。全部が特別で大切だった。最初から。出会ったときからナマエは烏丸の特別だった。気づかなかっただけで。
鴨山くんなんて間違うからだ。烏丸を覚えていないからだ。ナマエに責任を押しつける。そうでないとやってられなかった。相手は三つも年上。破天荒の擬人化。言動に一貫性がない。何かと適当。はっきり言って問題児。そう思う一方で、いつも元気で明るい、何にでも楽しそうに笑っている、いつも輪の中心にいる、何だかんだ言って人に好かれやすい性格、そして家族思い。それ以上に好きなところが出てくる。そう、好きなのだ。あの人が。
初恋とは言わない。言わないがこみ上げてくる熱量が全然違っている。胸の動悸がおさまらない。顔の熱がおさまらない。愛おしさが止まらない。
烏丸の気持ちを暴いた動画の持ち主はペコペコ謝りながら作戦室へ行くと言って去っていった。そしてそれを見送った嵐山はこちらを振り返る。
「京介、顔が真っ赤だが……?」
「嵐山さん、」
「なんだ?」
「俺が山原さんを好きと言ったらおかしいですか」
烏丸の言葉に嵐山は二、三瞬きをした。そしてゆったりと目元を緩めて笑った。
「見る目があるな、京介。ナマエは素敵な女性だ」
「……はい」
「応援するよ」
同級生の言葉は何より頼りになった。これからは嵐山を頼ろうと決心した烏丸はこの先、嵐山とナマエの仲の良さに嫉妬することになることをまだ知らない。
****
「ナマエさん」
「うん?」
振り返ったナマエはいつも通りのナマエだ。それに少しがっかりしながらも下の名前で呼べた高揚感は止まらない。烏丸に呼ばれて足を止めたナマエは首を傾げる。
「なんか、顔見るの久しぶり?」
「そうでもないですよ」
「そう?」
「ナマエさん、今身長いくつですか」
「えーいくつだっけ? 風間さんより高いよ」
「そんなの一目瞭然です」
「風間さんに怒られるぞおまえ」
「先に言ったのはナマエさんです。失礼します」
「?」
三歩距離を縮めた。少しドキリとしながらも背を比べる。視線は少しだけ烏丸の方が上。今の時点で勝ってはいる。これからもっと伸びればいい。まだまだ成長期だ。見込みはある。出来れば迅と同じくらいの身長差になりたい。
「どうした?」
至近距離で動揺もせず上目遣いされる。すがすがしいくらいに意識されてもない。しかたない。さすがに三つ差の年下の中学生を意識するとは思えない。烏丸だって今の時点で三つ下が恋愛相手になるかと訊かれたら答えはノーだ。勝負は高校生になってからだな。烏丸は長期戦を覚悟した。
「ナマエさん、好きなタイプってなんですか?」
「好きなタイプ? 炎タイプ。御三家は絶対炎タイプ」
恋愛情緒も皆無らしい。好きなタイプと訊かれたら普通異性の好ましさを話すだろうに。なんでポケモンの話になっている。一気に力が抜ける。今の質問にどれだけ勇気を込めたと思っている。これは難敵であり強敵だ。好きな相手を称するには似つかわしい言葉が頭に浮かんだ。
「烏丸は?」
「…………扱いにくいタイプが好きみたいです」
「扱いにくい? ドラゴンタイプ?」
「もうそれでいいです」
「先に訊いてきたくせに……」
「ナマエさんのせいです」
「なんか私のせいになってる……」
なんで? と首を傾げるナマエに気が抜ける。どうせ長期戦になるのは確実だ。この様子を見てたらなおさら。気張らずやっていこう。
「ナマエさん」
「うん?」
「これからよろしくお願いします」
「? こちらこそよろしく?」
今さら?と顔が言っている。今のは決意表明です。心の中でそう返してナマエに笑いかけた。
そんな日々が続いたある日。嵐山とラウンジの片隅で鉢合わせした。
「お疲れ様です嵐山さん」
「おつかれ、京介。なんだか久しぶりだな」
「嵐山隊が広報部隊になってから忙しそうでしたから」
「そうだな。ゆっくり話せたのはラーメン屋で会ったときか」
ラーメン屋。ある意味烏丸の地雷。顔がピクリと動いたせいで人をよく見ている嵐山に気づかれてしまった。眉を下げてこちらを見ている。
「ナマエと何かあったか? あれから二人でいるところを見てないが。最近仲良かっただろう?」
「…………」
「ナマエは鈍感なところがあるからはっきり言わないと気づかないぞ」
「……山原さんが問題というより、俺の問題です」
「京介の問題?」
話してみるか。この人ならバカにしない。あの人が可愛くみえて顔を合わせられないと。あの破天荒で言動が突拍子もなくてしょっちゅう人に怒られてる人が、なぜか可愛いのだと。顔が見られないくせに、背中を追ってしまうのだと。
そう相談しようとしたときだった。
『好きなんです!! あなたのことが!!』
真横から大きな音声が届いた。
「わあ! ごめんなさい! 興奮しすぎてイヤホン抜けました!」
「ああ、大丈夫だよ。気にしないでくれ」
どうやらスマホで動画を観ていたらしい。それが途中でイヤホンが抜けて大音量が響いたということらしい。スマホの持ち主はペコペコ頭を下げて謝っている。嵐山はその対応をしている。そして烏丸はというと。
「………………っ、」
口元を押さえて動揺を必死に押さえていた。一気に頭に熱が上がった。パチリとなにかがハマった気がした。自分の気持ちが無理やり言語化されたと思った。よりによって他人の言葉、しかもドラマかなにかで。確実に情けない顔をしている。こんな形で自覚するなんて。いつからだ。いつから。そう心に問いかけるとすぐさま返ってきた。
『カッコいいじゃんお兄ちゃん』
『お兄ちゃんも頑張った。えらいぞ』
優しく笑うその姿。烏丸を励ましてくれた言葉。家族を守ってもらった姿。全部が特別で大切だった。最初から。出会ったときからナマエは烏丸の特別だった。気づかなかっただけで。
鴨山くんなんて間違うからだ。烏丸を覚えていないからだ。ナマエに責任を押しつける。そうでないとやってられなかった。相手は三つも年上。破天荒の擬人化。言動に一貫性がない。何かと適当。はっきり言って問題児。そう思う一方で、いつも元気で明るい、何にでも楽しそうに笑っている、いつも輪の中心にいる、何だかんだ言って人に好かれやすい性格、そして家族思い。それ以上に好きなところが出てくる。そう、好きなのだ。あの人が。
初恋とは言わない。言わないがこみ上げてくる熱量が全然違っている。胸の動悸がおさまらない。顔の熱がおさまらない。愛おしさが止まらない。
烏丸の気持ちを暴いた動画の持ち主はペコペコ謝りながら作戦室へ行くと言って去っていった。そしてそれを見送った嵐山はこちらを振り返る。
「京介、顔が真っ赤だが……?」
「嵐山さん、」
「なんだ?」
「俺が山原さんを好きと言ったらおかしいですか」
烏丸の言葉に嵐山は二、三瞬きをした。そしてゆったりと目元を緩めて笑った。
「見る目があるな、京介。ナマエは素敵な女性だ」
「……はい」
「応援するよ」
同級生の言葉は何より頼りになった。これからは嵐山を頼ろうと決心した烏丸はこの先、嵐山とナマエの仲の良さに嫉妬することになることをまだ知らない。
****
「ナマエさん」
「うん?」
振り返ったナマエはいつも通りのナマエだ。それに少しがっかりしながらも下の名前で呼べた高揚感は止まらない。烏丸に呼ばれて足を止めたナマエは首を傾げる。
「なんか、顔見るの久しぶり?」
「そうでもないですよ」
「そう?」
「ナマエさん、今身長いくつですか」
「えーいくつだっけ? 風間さんより高いよ」
「そんなの一目瞭然です」
「風間さんに怒られるぞおまえ」
「先に言ったのはナマエさんです。失礼します」
「?」
三歩距離を縮めた。少しドキリとしながらも背を比べる。視線は少しだけ烏丸の方が上。今の時点で勝ってはいる。これからもっと伸びればいい。まだまだ成長期だ。見込みはある。出来れば迅と同じくらいの身長差になりたい。
「どうした?」
至近距離で動揺もせず上目遣いされる。すがすがしいくらいに意識されてもない。しかたない。さすがに三つ差の年下の中学生を意識するとは思えない。烏丸だって今の時点で三つ下が恋愛相手になるかと訊かれたら答えはノーだ。勝負は高校生になってからだな。烏丸は長期戦を覚悟した。
「ナマエさん、好きなタイプってなんですか?」
「好きなタイプ? 炎タイプ。御三家は絶対炎タイプ」
恋愛情緒も皆無らしい。好きなタイプと訊かれたら普通異性の好ましさを話すだろうに。なんでポケモンの話になっている。一気に力が抜ける。今の質問にどれだけ勇気を込めたと思っている。これは難敵であり強敵だ。好きな相手を称するには似つかわしい言葉が頭に浮かんだ。
「烏丸は?」
「…………扱いにくいタイプが好きみたいです」
「扱いにくい? ドラゴンタイプ?」
「もうそれでいいです」
「先に訊いてきたくせに……」
「ナマエさんのせいです」
「なんか私のせいになってる……」
なんで? と首を傾げるナマエに気が抜ける。どうせ長期戦になるのは確実だ。この様子を見てたらなおさら。気張らずやっていこう。
「ナマエさん」
「うん?」
「これからよろしくお願いします」
「? こちらこそよろしく?」
今さら?と顔が言っている。今のは決意表明です。心の中でそう返してナマエに笑いかけた。
94/94ページ