本編
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「山原さんこんにちは」
「か、……烏丸くん!」
「はい。烏丸です」
「よし!」
そんなに誇ることでもないのだが嬉しそうに笑う姿は微笑ましい。三つ上に言うことではないと思うが。
あの一件以来。ナマエと個々で話すことが増えた。迅の言う重要な相手になるから、が理由ではない。ナマエが素直にそれに従うような性格はしていないからだ。変わったのは烏丸の方だ。ナマエを見かけたら話しかけるようになった。ただ見ていたときに何となく胸にあった違和感がなくなってすっきりした気分だ。こんなことなら早く話しかければよかったと思った。
「高校ってどんなかんじなんですか?」
「教師に目ぇつけられたら面倒くさい場所」
「それ山原さんだけじゃないすか?」
「あ! ナマエさんととりまる!」
「佐鳥」
「お疲れさまっすナマエさん!」
「はいはいお疲れさま」
佐鳥も加わり三人で話す。まあ賑やかな二人が騒いで烏丸は相づちを打っていただけなのだが。それでもころころ表情が変わるナマエは……ナマエはなんだ? 内心首を傾げてその場を過ごした。
****
ナマエが烏丸の中学にやってきた。正しく言うならナマエと嵐山隊だ。ナマエ、嵐山、柿崎、時枝、佐鳥、綾辻。ボーダー隊員の募集に来たらしい。体育館に生徒を集めて説明会をするみたいだ。嵐山隊は温厚な人間が揃っているが、ナマエは果たして広報に向いているのだろうか。まだ広報の方向性が決まっていないのか。そんなことを思いながら嵐山がパワーポイントを使って話すのを聞いていた。
「…………!?」
ちらりとナマエのいる方を見た。二度見した。なぜならナマエが柿崎の肩を借りて立ったまま寝ていたからだ。本当に何しに来たんだあの人。そんなことを思いつつなぜか落ちつかない気持ちが生まれる。ボーダーが緩い組織だと思われるから? いや、そこはどうでもいい。ナマエの脳天気さが許せないから? それもどうでもいい。あの人はそういう人だ。他に要因が見つからなくてモヤモヤする。それは嵐山の話が終わり、体育館の明かりが戻ったときに柿崎がナマエの肩を何度も叩いて起こすまで続いた。失礼なことに嵐山の話を一切聞いていなかった烏丸だった。
やってきた隊員で各ブースをつくって質問をする機会が作られた。烏丸はナマエの列に並んだ。唯一の女性戦闘員だからか女子が多かった。ああ、そういえばこの人女性だったな。だから説明会に連れてこられたのか。女子に取っつきやすく思ってもらえるように。今さらなことを思いつつ、烏丸の番を待った。
「おまえは並ばなくていいでしょうが」
「お姉さんは彼氏いますか?」
「修学旅行生アテンドしてるバスガイドさんじゃねーんだよ」
「いないんですね」
「いませんけどなにか?」
その言葉に口元が上がったせいか「お次のお客様どうぞー!」と強引に順番を代えられた。そうか、いないのか。再び上がる口角。あまりに緩い顔をしてるのが分かったので口元を押さえた。押さえて、首を傾げた。
なんで俺は喜んでいるんだ。
ナマエに彼氏がいないことに。そもそもなんでそんな質問をした? するりと言葉が流れていた。疑問もなく。些か、というか大分性格が悪くないか? 彼氏がいないことに喜ぶなんて。自分の性格が思いの外悪かったことに気づいてしまって落ちこむ……ことはなかった。そんな一面もあったんだなと思っただけである。ただナマエに彼氏がいないのならこれからも話しかけるのに支障はない。烏丸にとって楽しい時間で二人きりで話すことも少なくない。男持ちじゃないなら遠慮もいらない。……こっちの理由で喜んでいただけか。腑に落ちてナマエのブースを見る。楽しげに人と話すナマエ。たまに手振り身振りが入るそれにまぶたが緩まるのが分かった。
****
「京介、師匠知んない?」
「知らないです」
あと20分くらい後に飯を奢ってもらう約束をしているが。次に鴨山って言ったら飯奢って下さいと適当に言った言葉が実行されるのだ。本当に適当に言っただけだったから本気にされるとは思っていなかった。意外に律儀である。
しかし、この事を教えたら出水もついて来る。確実に。二人きりじゃなくなる。特にナマエと仲のいい出水がいたら烏丸はほっとかれるだろう。それは楽しくない。佐鳥や時枝と出水は違うのだ。前者二人なら気にしないが出水は駄目。そんなことを思いつつ「何で探しているんですか?」と訊く。
「飯一緒に食おうと思って」
「他の人と食べたらどうすか?」
「師匠なら気ぃつかわなくていいんだよ」
「一人で食べたらどうすか?」
「お前さっきからトゲトゲしてね?」
「してないです」
ただ基地ではナマエと四六時中一緒なのだから今回は烏丸に譲ってくれと思っただけだ。トゲトゲなんてしていない。
「つーか京介でいいか。飯食おうぜ」
「用事あるんで無理です」
「可愛くねーなおまえ」
そう言って出水は去っていった。ボーダーの支給品のスマホで「外で食べませんか?」と誘った。鉢合わせしたらたまったもんじゃない。
《いいよー麺類の気分。玉狛支部の近くのラーメン屋いこう美味しいよ》
すぐに了解と返した。そして思う。二人きりで飯を食べるのは初めてではないか、と。そう考えると初めてがラーメン屋では……と一瞬だけ考えていや、別にいいだろうと自分にツッコんだ。
「よし、後ろ乗って」
「………………」
ヘルメットを渡されて固まる。乗れ? 後ろに? 乗れっていったかこの人。
「16なってすぐに免許とったからもう二人乗りしてオッケーなんだよ。はよ乗れ」
「…………」
「烏丸?」
「ど、こ掴めばいいんですか」
息が一瞬詰まって言葉が途切れた。
「グリップでもお腹に腕回してもいいよ」
「!?」
「なんだその顔。迅とか小南とか乗せてるから慣れてるよ。大丈夫」
その心配ではない。そう思いつつ細い腰を見る。なんだか見てはならないものを見た気分になってすぐに視線を逸らした。顔が熱い。
女の子だ。率直にそう思った。そう思うと女の子の後ろに乗せてもらうのはかっこ悪いんじゃないのかと思ってしまう。烏丸京介14才。年頃である。
「あの、その……」
「あー! もうはやく乗れってば! お腹がラーメンのお腹になってんの!」
無理やりヘルメットを被らされて腕を引かれる。バイクに跨がったナマエのお腹に掴まれた腕を回され、その勢いで後ろに座ってしまった。
「!?」
「ちゃんとくっついててね。危ないから」
「!??」
その言葉に反射的に腕がぎゅっと力を入れた。その瞬間、バイクは動き始めた。柔らかい。細い。いい匂いがする。くらりと頭が揺れる。この人は女の子だ。そう思うのと同時に視線はあまり変わらないのだと分かった。つまり身長差がない。その事実になぜか落ちこむ自分がいた。
しばらくバイクを走らせて目的地に着いた。その間は無心でいることに専念した。でないと事故を誘発しそうで仕方なかったからだ。
「ここ。美味しいよ」
バイクに鍵をかけたナマエと共に店に入る。そして一番最初に目に入ったのは。
「あれ? 迅と嵐山じゃん」
「お、ナマエと京介か。こっちの席空いてるぞ」
「あー……鉢合わせしちゃったか」
「文句あんのか迅こらぁ」
「ナマエって平気で可能性の低い方選ぶよね」
「え、ラーメン屋ダメな日だった?」
「いやそんなことないけど」
「ならいいじゃん」
そう言って迅と嵐山の隣のテーブルに座るナマエ。入り口で固まっていた烏丸は数秒してそれに続いた。
「水とってくるね。烏丸はメニューみてなよ。私みそって決めてるから」
「あ、おれも。嵐山もいる?」
「ああ、頼む」
迅とナマエ、二人同時に立ち上がる。並んで歩くその姿は理想的な身長差に見えた。それがひどくもどかしい。二人は家族と知っている。それなのになぜ。そもそも理想的とはなんだ。自分はナマエと何になりたいのだ。
心の中で葛藤しながらナマエと同じメニューを頼む。結局2人っきりではなかったが、もうそれどころではなかった。
「いただきます! ……しようと思ったけど煮卵追加で頼むの忘れた!」
「俺の半分食べるか?」
「え? いいの嵐山? 食べる! ありがと!」
「これだけで喜ばれるとこっちも嬉しいな」
ナマエの器にレンゲで移した半分の煮卵。いや、それって間接キスじゃ……と思っているところでナマエはすぐに食べてしまった。いや、卵なら箸で割ってからだろう、だから間接キスじゃない……などどうでもいいことを頭のなかでぐるぐるさせる。
「烏丸、口に合わなかった? 顔変わんないけど」
「いえ、美味しいです」
「でしょ!」
ここ美味しいんだから!と嬉しそうに笑うナマエにまた固まる烏丸。場所はラーメン屋。隣には二人の先輩。ラーメンの匂いや餃子を焼く香ばしい匂いも充満している。そんな場所なのにどうしてかナマエが可愛く見えてしまった。気のせいだと思う要因はたくさんあるのに目がどうしても反らせなかった。
「か、……烏丸くん!」
「はい。烏丸です」
「よし!」
そんなに誇ることでもないのだが嬉しそうに笑う姿は微笑ましい。三つ上に言うことではないと思うが。
あの一件以来。ナマエと個々で話すことが増えた。迅の言う重要な相手になるから、が理由ではない。ナマエが素直にそれに従うような性格はしていないからだ。変わったのは烏丸の方だ。ナマエを見かけたら話しかけるようになった。ただ見ていたときに何となく胸にあった違和感がなくなってすっきりした気分だ。こんなことなら早く話しかければよかったと思った。
「高校ってどんなかんじなんですか?」
「教師に目ぇつけられたら面倒くさい場所」
「それ山原さんだけじゃないすか?」
「あ! ナマエさんととりまる!」
「佐鳥」
「お疲れさまっすナマエさん!」
「はいはいお疲れさま」
佐鳥も加わり三人で話す。まあ賑やかな二人が騒いで烏丸は相づちを打っていただけなのだが。それでもころころ表情が変わるナマエは……ナマエはなんだ? 内心首を傾げてその場を過ごした。
****
ナマエが烏丸の中学にやってきた。正しく言うならナマエと嵐山隊だ。ナマエ、嵐山、柿崎、時枝、佐鳥、綾辻。ボーダー隊員の募集に来たらしい。体育館に生徒を集めて説明会をするみたいだ。嵐山隊は温厚な人間が揃っているが、ナマエは果たして広報に向いているのだろうか。まだ広報の方向性が決まっていないのか。そんなことを思いながら嵐山がパワーポイントを使って話すのを聞いていた。
「…………!?」
ちらりとナマエのいる方を見た。二度見した。なぜならナマエが柿崎の肩を借りて立ったまま寝ていたからだ。本当に何しに来たんだあの人。そんなことを思いつつなぜか落ちつかない気持ちが生まれる。ボーダーが緩い組織だと思われるから? いや、そこはどうでもいい。ナマエの脳天気さが許せないから? それもどうでもいい。あの人はそういう人だ。他に要因が見つからなくてモヤモヤする。それは嵐山の話が終わり、体育館の明かりが戻ったときに柿崎がナマエの肩を何度も叩いて起こすまで続いた。失礼なことに嵐山の話を一切聞いていなかった烏丸だった。
やってきた隊員で各ブースをつくって質問をする機会が作られた。烏丸はナマエの列に並んだ。唯一の女性戦闘員だからか女子が多かった。ああ、そういえばこの人女性だったな。だから説明会に連れてこられたのか。女子に取っつきやすく思ってもらえるように。今さらなことを思いつつ、烏丸の番を待った。
「おまえは並ばなくていいでしょうが」
「お姉さんは彼氏いますか?」
「修学旅行生アテンドしてるバスガイドさんじゃねーんだよ」
「いないんですね」
「いませんけどなにか?」
その言葉に口元が上がったせいか「お次のお客様どうぞー!」と強引に順番を代えられた。そうか、いないのか。再び上がる口角。あまりに緩い顔をしてるのが分かったので口元を押さえた。押さえて、首を傾げた。
なんで俺は喜んでいるんだ。
ナマエに彼氏がいないことに。そもそもなんでそんな質問をした? するりと言葉が流れていた。疑問もなく。些か、というか大分性格が悪くないか? 彼氏がいないことに喜ぶなんて。自分の性格が思いの外悪かったことに気づいてしまって落ちこむ……ことはなかった。そんな一面もあったんだなと思っただけである。ただナマエに彼氏がいないのならこれからも話しかけるのに支障はない。烏丸にとって楽しい時間で二人きりで話すことも少なくない。男持ちじゃないなら遠慮もいらない。……こっちの理由で喜んでいただけか。腑に落ちてナマエのブースを見る。楽しげに人と話すナマエ。たまに手振り身振りが入るそれにまぶたが緩まるのが分かった。
****
「京介、師匠知んない?」
「知らないです」
あと20分くらい後に飯を奢ってもらう約束をしているが。次に鴨山って言ったら飯奢って下さいと適当に言った言葉が実行されるのだ。本当に適当に言っただけだったから本気にされるとは思っていなかった。意外に律儀である。
しかし、この事を教えたら出水もついて来る。確実に。二人きりじゃなくなる。特にナマエと仲のいい出水がいたら烏丸はほっとかれるだろう。それは楽しくない。佐鳥や時枝と出水は違うのだ。前者二人なら気にしないが出水は駄目。そんなことを思いつつ「何で探しているんですか?」と訊く。
「飯一緒に食おうと思って」
「他の人と食べたらどうすか?」
「師匠なら気ぃつかわなくていいんだよ」
「一人で食べたらどうすか?」
「お前さっきからトゲトゲしてね?」
「してないです」
ただ基地ではナマエと四六時中一緒なのだから今回は烏丸に譲ってくれと思っただけだ。トゲトゲなんてしていない。
「つーか京介でいいか。飯食おうぜ」
「用事あるんで無理です」
「可愛くねーなおまえ」
そう言って出水は去っていった。ボーダーの支給品のスマホで「外で食べませんか?」と誘った。鉢合わせしたらたまったもんじゃない。
《いいよー麺類の気分。玉狛支部の近くのラーメン屋いこう美味しいよ》
すぐに了解と返した。そして思う。二人きりで飯を食べるのは初めてではないか、と。そう考えると初めてがラーメン屋では……と一瞬だけ考えていや、別にいいだろうと自分にツッコんだ。
「よし、後ろ乗って」
「………………」
ヘルメットを渡されて固まる。乗れ? 後ろに? 乗れっていったかこの人。
「16なってすぐに免許とったからもう二人乗りしてオッケーなんだよ。はよ乗れ」
「…………」
「烏丸?」
「ど、こ掴めばいいんですか」
息が一瞬詰まって言葉が途切れた。
「グリップでもお腹に腕回してもいいよ」
「!?」
「なんだその顔。迅とか小南とか乗せてるから慣れてるよ。大丈夫」
その心配ではない。そう思いつつ細い腰を見る。なんだか見てはならないものを見た気分になってすぐに視線を逸らした。顔が熱い。
女の子だ。率直にそう思った。そう思うと女の子の後ろに乗せてもらうのはかっこ悪いんじゃないのかと思ってしまう。烏丸京介14才。年頃である。
「あの、その……」
「あー! もうはやく乗れってば! お腹がラーメンのお腹になってんの!」
無理やりヘルメットを被らされて腕を引かれる。バイクに跨がったナマエのお腹に掴まれた腕を回され、その勢いで後ろに座ってしまった。
「!?」
「ちゃんとくっついててね。危ないから」
「!??」
その言葉に反射的に腕がぎゅっと力を入れた。その瞬間、バイクは動き始めた。柔らかい。細い。いい匂いがする。くらりと頭が揺れる。この人は女の子だ。そう思うのと同時に視線はあまり変わらないのだと分かった。つまり身長差がない。その事実になぜか落ちこむ自分がいた。
しばらくバイクを走らせて目的地に着いた。その間は無心でいることに専念した。でないと事故を誘発しそうで仕方なかったからだ。
「ここ。美味しいよ」
バイクに鍵をかけたナマエと共に店に入る。そして一番最初に目に入ったのは。
「あれ? 迅と嵐山じゃん」
「お、ナマエと京介か。こっちの席空いてるぞ」
「あー……鉢合わせしちゃったか」
「文句あんのか迅こらぁ」
「ナマエって平気で可能性の低い方選ぶよね」
「え、ラーメン屋ダメな日だった?」
「いやそんなことないけど」
「ならいいじゃん」
そう言って迅と嵐山の隣のテーブルに座るナマエ。入り口で固まっていた烏丸は数秒してそれに続いた。
「水とってくるね。烏丸はメニューみてなよ。私みそって決めてるから」
「あ、おれも。嵐山もいる?」
「ああ、頼む」
迅とナマエ、二人同時に立ち上がる。並んで歩くその姿は理想的な身長差に見えた。それがひどくもどかしい。二人は家族と知っている。それなのになぜ。そもそも理想的とはなんだ。自分はナマエと何になりたいのだ。
心の中で葛藤しながらナマエと同じメニューを頼む。結局2人っきりではなかったが、もうそれどころではなかった。
「いただきます! ……しようと思ったけど煮卵追加で頼むの忘れた!」
「俺の半分食べるか?」
「え? いいの嵐山? 食べる! ありがと!」
「これだけで喜ばれるとこっちも嬉しいな」
ナマエの器にレンゲで移した半分の煮卵。いや、それって間接キスじゃ……と思っているところでナマエはすぐに食べてしまった。いや、卵なら箸で割ってからだろう、だから間接キスじゃない……などどうでもいいことを頭のなかでぐるぐるさせる。
「烏丸、口に合わなかった? 顔変わんないけど」
「いえ、美味しいです」
「でしょ!」
ここ美味しいんだから!と嬉しそうに笑うナマエにまた固まる烏丸。場所はラーメン屋。隣には二人の先輩。ラーメンの匂いや餃子を焼く香ばしい匂いも充満している。そんな場所なのにどうしてかナマエが可愛く見えてしまった。気のせいだと思う要因はたくさんあるのに目がどうしても反らせなかった。