本編
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「怖いのは私たちが終わらせるからもうちょっとだけがんばって」
膝をつき弟と妹の目線に合わせて話す黒色の羽織りに何かのマークをつけて片手に剣を持ったといった異色の服装をした人物は突如現れた化け物を簡単に退治した。顔はまだ幼い。中学生くらいだろうか。それなのにいやに落ちついている。それが場違いに異常に見えて助けてもらったのに弟と妹たちを背後に隠してしまった。失礼なことをしているのは分かっている。だけど今は何が起きてるのか全く分からないのだ。
女の子は烏丸の行動に目をぱちりとまばたきしてふわりと笑った。
「カッコいいじゃんお兄ちゃん。避難所までその調子でお願いね」
誘導するから怪我したくないないのはついてきてー! と周りの避難者たちに呼びかける女の子。頼れるのがその子しかいないと大人たちは判断したらしい。「説明は後で。今は命が第一優先」と女の子に言われたのも効いたらしい。
同伴者を増やしながら途中で現れる未確認生命体を女の子が倒しつつ避難所へと着いた。
「んじゃ他の避難者助けてくるから。ここは安全だよ」
いつの間にか女の子に懐いていた弟妹たちの頭を撫でてそう言う。少しぐずったが、慣れた様子であやしていた。そこまでみてはっとする。自分の役目だと。
「すみません。ほらおまえらもそろそろ離れないと」
「だってあの化け物こわいー!」
「お姉ちゃんがいたら退治してくれるんだもん!」
「もうここには現れないよ。私の仲間がそう言っているから」
「……ほんと?」
「ほんと」
ぽんぽんと弟妹たちの頭を撫でて今度こそ立ち去ろうとした女の子だが、ふと振り返って烏丸の方へやってきた。そして烏丸の頭を撫でる。
「お兄ちゃんも頑張った。えらいぞ」
その言葉を最後に女の子は走って去っていった。……本当は怖かったのがばれていた。でも弟妹たちの為に押し殺していた。兄なのだからと。でも、わかってくれた。ふわりと胸のなかがあったかくなるのが分かった。
──そんな初対面だった。烏丸は忘れなかったというのにナマエはそんなことなかったかのように「ああ、鴨山くん」と今日も烏丸の名前を間違える。何人もの人間を避難、救助の手伝いをしたのだ。何より目標 の殲滅。あの日は旧ボーダー隊員にとったら慌ただしいなんてものじゃなかっただろう。自分たちしか市民を救えないのだから。プレッシャーもあったはずだ。だから烏丸のことを覚えてないのは仕方ない。仕方ないと思うのだが鴨山くんはいい加減になおしてほしい。大ざっぱに鳥でまとめやがって。少しのうらみごとを心で言いながら今日も怒られている恩人を見つけた。
「まったく、またポイント剥奪だからなナマエ」
「別にいいけどさぁ、それ痛くもかゆくもないから罰になってないよ忍田さん」
「自覚があるなら改善しなさい。おまえは本当に……」
ポイントを集めて上へ目指す者ばかりの中で山原ナマエはしょっちゅう何かしら問題を起こしてポイントを剥奪されている。だから彼女の実力は実際のところよく分かっていない。ポイントと実力があべこべだからだ。侵攻時に使っていた剣を止めてシューター一本にして、烏丸の一個上の弟子がいるのは知っているがそれだけだ。
……烏丸はガンナーを選んだ。だから交わることもない。佐鳥や時枝といるときは話せるがそんなに出会う頻度もない。いや、あんなはちゃめちゃな人と話す内容など特に思い浮かばないのだが。幼い子を適当に川辺であやしていた姿なんてやる気も覇気も感じられなかった。
あのとき のお礼を言うならまだしも、普通に話す必要なんてないだろう。……そう思うのに目は彼女を追っていた。なぜだろう。
****
「狡いよなーサイドエフェクトあるから風刃ゲット出来たんだろ?」
「負け惜しみかよ」
「うるせー! あんなチートサイドエフェクトあったら勝って当然だろ!」
「まぁな。人生楽だろうな」
ラウンジで佐鳥と時枝といたときだった。隣の席の会話が聞こえてくる。だいぶ声が大きい。内容は黒トリガーの争奪戦の話だろう。20人以上が参加した大掛かりなものだった。その参加者だろうか。それにしても一方的な言い分だ。烏丸がそんなことを思っていたときだった。
バンッ!
会話は一瞬にして止んだ。テーブルを叩く音がその場に響いた。そのテーブルに手をついているのはナマエだった。
「や、山原さん……?」
「面かして」
「え?」
「2体1でいい。私が負けたらポイント全部やるよ。私が勝ったら言うことひとつ聞け」
「え、っと」
「立て」
いつも楽しげに賑やかにしている人とは思えない静かな声。こちらからは背中しか見えない。本当にあの人だろうか。そう思うほど普段とはかけ離れていた。
ナマエの圧に負けて隣の席の二人はナマエに続いてラウンジから出て行った。
「あれ、不味くない?」
「ナマエさん怒ってたね」
「怒ってたってレベルじゃないって! 諏訪さん呼んでくる! なんか起きそう!」
佐鳥はそう言って走ってラウンジから出て行く。時枝は飲んでたジュースを飲み終えて「対戦ブース行こうか」と烏丸を誘った。
「なんであの人があんなに怒っていたんだ」
「迅さんのことだから」
「迅さん」
S級隊員の迅悠一。その名を知らない人はいない。先ほどの話題に上がっていた人物。確かに聞いていて面白くない話だったが。人の実力を真正面から見ないで妬む行為。
ナマエは喜怒哀楽が激しい。激しいのだ。だからあんなにも静かに怒る姿は見たことがない。
「あの人たちの言い分に腹立つのは分かるけどナマエさんはおれ達の比じゃないと思う」
「なんでだ」
「迅さんとナマエさんは家族だから」
「!」
「血は繋がってないけどね」
家族。その言葉が頭に残った。
***
圧倒的だった。弧月と弾トリガーを駆使して相手を制圧し尽くした。手も足も出ない。そんな試合だった上、表情がひとつも変わらないものだから観覧席で観ていた者達も「ナマエさん……?」と言葉を無くしている。いつものナマエとは戦い方も何もかも違いすぎるからだ。そしてB級同士の戦いにしては差がありすぎた。そこでやっと思い出した。この人は古くからボーダーに所属していた人間なのだと。
ナマエは腰を抜かした二人に何かを話して対戦ブースから出てきた。まだ表情はない。誰もが話かけるのをためらっていた。佐鳥に呼ばれた諏訪でさえ言葉が出ない様子だった。
そのときだった。
「ナマエ」
ナマエに近づく人間がいた。本部 にいるのは珍しい人物──迅悠一だった。
「顔怖いよ。早く帰ろう」
「…………」
「今日はレイジさんお手製鍋だよ」
「…………」
「みんなでご飯食べよう」
迅はナマエの手を握って柔らかい動作で手を引いて観覧ブースから出て行った。途中で諏訪に軽く頭を下げて。諏訪はそれに対して頷いて手を払った。さっさと行けと言わんばかりに。
首を突っ込むものではない。そう自覚していた。それなのに足が勝手に動いていた。
二人にはすぐ追いついた。なぜなら観覧ブースから出て少しした先にある休憩所で迅とナマエがしゃがみ込んで向き合っていたからだ。迅はナマエの背中をさすっている。ナマエは背中を向けて顔は見えないが迅とは目が合った。迅は烏丸と目があって柔らかく目を細めた。
「よう烏丸京介くん」
「……名前言ったことありましたっけ」
「まあ色々とな」
「……山原さん大丈夫なんですか?」
「もう少ししたら復活する。今回弧月使ったからな」
「弧月使ったから……?」
「似てるだろ? これと」
そう言って自分の腰のものを叩く。風刃だ。なぜ似ていたらこうなるのか全く分からない。烏丸の疑問に迅はすらすら答える。
「風刃はナマエの親の形見なんだ」
「…………」
「きついだろ。親の形見に似た武器で戦うの。侵攻のときは気張ってたけどそれからはからきしでな。シューター専門になったから別に支障はなかったけど……今回はちょっとネジ外れちゃったな」
ほぼ初対面の烏丸に話す内容ではない。なぜ教えてくれるのだろう。ぼんやりとそんなことを思っていると「必要なことだからだよ」と烏丸の心を読んだように迅が言った。未来が視えるサイドエフェクト。その片鱗を今みた気がした。
「俺が言いふらすとか思わないんですか」
「思わないよ。おれのサイドエフェクトがそう言っている」
「…………」
「ナマエの為にならないことはやらない主義なんだよおれは」
烏丸に話すことがナマエの為になるような言い方だった。その真意は分からないが、何通りの未来が視えている相手にそのことを詰めても仕方がない。
「山原さんが怒った理由は、」
「うん、知ってるよ。何を約束させたのかも」
「……聞いてもいいですか?」
「“おれの前で口を開くな”だって。過激すぎ」
苦笑しながらナマエの頭を撫でる迅。だがその目は慈愛に満ちていた。家族。その言葉が二人の姿でかっちりとおさまった気がした。
「2対1の賭けありなんて忍田さんに知られたらまた怒られちゃうよナマエ」
「……別に痛くもかゆくもない」
「おっ戻ってきた」
「うん。もう大丈夫。ありがと」
「いいえ」
最後に迅がぽんぽんとナマエの頭を撫でて二人は立ち上がった。振り返ったナマエの顔はいつもの表情に戻っていた。
「あれ? 鴨山くんがなんでここいんの?」
「烏丸くんだよナマエ。ちゃんと覚えてやって。ナマエにとって重要な相手になるんだから」
「おれのサイドエフェクトがそういってんの?」
「そうだよ」
「へーそっかぁ。別に仲間に区別はしないけど」
「数十分前に怒り狂った相手のこと覚えてる?」
「あいつらはしばらく許さん」
「はいはいありがとね」
「私が勝手にムカついただけだし」
テンポよく話す二人についていけない。そもそもなんで追いかけたのかまだ分かっていない。ただナマエの様子をみて安心したのは確かだった。
「山原さん」
「なに?」
「烏丸京介です」
「……知ってます?」
「じゃあ二度と間違えないでくださいね」
「……………まかせろ」
「声小さいんですけど」
「似てるんだもん」
「似てません」「似てないよ」
「同時に言うな!」
ああ、いつものナマエだ。
そんなに話したこともないくせにそう思って、なぜかそれが心地よかった。
膝をつき弟と妹の目線に合わせて話す黒色の羽織りに何かのマークをつけて片手に剣を持ったといった異色の服装をした人物は突如現れた化け物を簡単に退治した。顔はまだ幼い。中学生くらいだろうか。それなのにいやに落ちついている。それが場違いに異常に見えて助けてもらったのに弟と妹たちを背後に隠してしまった。失礼なことをしているのは分かっている。だけど今は何が起きてるのか全く分からないのだ。
女の子は烏丸の行動に目をぱちりとまばたきしてふわりと笑った。
「カッコいいじゃんお兄ちゃん。避難所までその調子でお願いね」
誘導するから怪我したくないないのはついてきてー! と周りの避難者たちに呼びかける女の子。頼れるのがその子しかいないと大人たちは判断したらしい。「説明は後で。今は命が第一優先」と女の子に言われたのも効いたらしい。
同伴者を増やしながら途中で現れる未確認生命体を女の子が倒しつつ避難所へと着いた。
「んじゃ他の避難者助けてくるから。ここは安全だよ」
いつの間にか女の子に懐いていた弟妹たちの頭を撫でてそう言う。少しぐずったが、慣れた様子であやしていた。そこまでみてはっとする。自分の役目だと。
「すみません。ほらおまえらもそろそろ離れないと」
「だってあの化け物こわいー!」
「お姉ちゃんがいたら退治してくれるんだもん!」
「もうここには現れないよ。私の仲間がそう言っているから」
「……ほんと?」
「ほんと」
ぽんぽんと弟妹たちの頭を撫でて今度こそ立ち去ろうとした女の子だが、ふと振り返って烏丸の方へやってきた。そして烏丸の頭を撫でる。
「お兄ちゃんも頑張った。えらいぞ」
その言葉を最後に女の子は走って去っていった。……本当は怖かったのがばれていた。でも弟妹たちの為に押し殺していた。兄なのだからと。でも、わかってくれた。ふわりと胸のなかがあったかくなるのが分かった。
──そんな初対面だった。烏丸は忘れなかったというのにナマエはそんなことなかったかのように「ああ、鴨山くん」と今日も烏丸の名前を間違える。何人もの人間を避難、救助の手伝いをしたのだ。何より
「まったく、またポイント剥奪だからなナマエ」
「別にいいけどさぁ、それ痛くもかゆくもないから罰になってないよ忍田さん」
「自覚があるなら改善しなさい。おまえは本当に……」
ポイントを集めて上へ目指す者ばかりの中で山原ナマエはしょっちゅう何かしら問題を起こしてポイントを剥奪されている。だから彼女の実力は実際のところよく分かっていない。ポイントと実力があべこべだからだ。侵攻時に使っていた剣を止めてシューター一本にして、烏丸の一個上の弟子がいるのは知っているがそれだけだ。
……烏丸はガンナーを選んだ。だから交わることもない。佐鳥や時枝といるときは話せるがそんなに出会う頻度もない。いや、あんなはちゃめちゃな人と話す内容など特に思い浮かばないのだが。幼い子を適当に川辺であやしていた姿なんてやる気も覇気も感じられなかった。
****
「狡いよなーサイドエフェクトあるから風刃ゲット出来たんだろ?」
「負け惜しみかよ」
「うるせー! あんなチートサイドエフェクトあったら勝って当然だろ!」
「まぁな。人生楽だろうな」
ラウンジで佐鳥と時枝といたときだった。隣の席の会話が聞こえてくる。だいぶ声が大きい。内容は黒トリガーの争奪戦の話だろう。20人以上が参加した大掛かりなものだった。その参加者だろうか。それにしても一方的な言い分だ。烏丸がそんなことを思っていたときだった。
バンッ!
会話は一瞬にして止んだ。テーブルを叩く音がその場に響いた。そのテーブルに手をついているのはナマエだった。
「や、山原さん……?」
「面かして」
「え?」
「2体1でいい。私が負けたらポイント全部やるよ。私が勝ったら言うことひとつ聞け」
「え、っと」
「立て」
いつも楽しげに賑やかにしている人とは思えない静かな声。こちらからは背中しか見えない。本当にあの人だろうか。そう思うほど普段とはかけ離れていた。
ナマエの圧に負けて隣の席の二人はナマエに続いてラウンジから出て行った。
「あれ、不味くない?」
「ナマエさん怒ってたね」
「怒ってたってレベルじゃないって! 諏訪さん呼んでくる! なんか起きそう!」
佐鳥はそう言って走ってラウンジから出て行く。時枝は飲んでたジュースを飲み終えて「対戦ブース行こうか」と烏丸を誘った。
「なんであの人があんなに怒っていたんだ」
「迅さんのことだから」
「迅さん」
S級隊員の迅悠一。その名を知らない人はいない。先ほどの話題に上がっていた人物。確かに聞いていて面白くない話だったが。人の実力を真正面から見ないで妬む行為。
ナマエは喜怒哀楽が激しい。激しいのだ。だからあんなにも静かに怒る姿は見たことがない。
「あの人たちの言い分に腹立つのは分かるけどナマエさんはおれ達の比じゃないと思う」
「なんでだ」
「迅さんとナマエさんは家族だから」
「!」
「血は繋がってないけどね」
家族。その言葉が頭に残った。
***
圧倒的だった。弧月と弾トリガーを駆使して相手を制圧し尽くした。手も足も出ない。そんな試合だった上、表情がひとつも変わらないものだから観覧席で観ていた者達も「ナマエさん……?」と言葉を無くしている。いつものナマエとは戦い方も何もかも違いすぎるからだ。そしてB級同士の戦いにしては差がありすぎた。そこでやっと思い出した。この人は古くからボーダーに所属していた人間なのだと。
ナマエは腰を抜かした二人に何かを話して対戦ブースから出てきた。まだ表情はない。誰もが話かけるのをためらっていた。佐鳥に呼ばれた諏訪でさえ言葉が出ない様子だった。
そのときだった。
「ナマエ」
ナマエに近づく人間がいた。
「顔怖いよ。早く帰ろう」
「…………」
「今日はレイジさんお手製鍋だよ」
「…………」
「みんなでご飯食べよう」
迅はナマエの手を握って柔らかい動作で手を引いて観覧ブースから出て行った。途中で諏訪に軽く頭を下げて。諏訪はそれに対して頷いて手を払った。さっさと行けと言わんばかりに。
首を突っ込むものではない。そう自覚していた。それなのに足が勝手に動いていた。
二人にはすぐ追いついた。なぜなら観覧ブースから出て少しした先にある休憩所で迅とナマエがしゃがみ込んで向き合っていたからだ。迅はナマエの背中をさすっている。ナマエは背中を向けて顔は見えないが迅とは目が合った。迅は烏丸と目があって柔らかく目を細めた。
「よう烏丸京介くん」
「……名前言ったことありましたっけ」
「まあ色々とな」
「……山原さん大丈夫なんですか?」
「もう少ししたら復活する。今回弧月使ったからな」
「弧月使ったから……?」
「似てるだろ? これと」
そう言って自分の腰のものを叩く。風刃だ。なぜ似ていたらこうなるのか全く分からない。烏丸の疑問に迅はすらすら答える。
「風刃はナマエの親の形見なんだ」
「…………」
「きついだろ。親の形見に似た武器で戦うの。侵攻のときは気張ってたけどそれからはからきしでな。シューター専門になったから別に支障はなかったけど……今回はちょっとネジ外れちゃったな」
ほぼ初対面の烏丸に話す内容ではない。なぜ教えてくれるのだろう。ぼんやりとそんなことを思っていると「必要なことだからだよ」と烏丸の心を読んだように迅が言った。未来が視えるサイドエフェクト。その片鱗を今みた気がした。
「俺が言いふらすとか思わないんですか」
「思わないよ。おれのサイドエフェクトがそう言っている」
「…………」
「ナマエの為にならないことはやらない主義なんだよおれは」
烏丸に話すことがナマエの為になるような言い方だった。その真意は分からないが、何通りの未来が視えている相手にそのことを詰めても仕方がない。
「山原さんが怒った理由は、」
「うん、知ってるよ。何を約束させたのかも」
「……聞いてもいいですか?」
「“おれの前で口を開くな”だって。過激すぎ」
苦笑しながらナマエの頭を撫でる迅。だがその目は慈愛に満ちていた。家族。その言葉が二人の姿でかっちりとおさまった気がした。
「2対1の賭けありなんて忍田さんに知られたらまた怒られちゃうよナマエ」
「……別に痛くもかゆくもない」
「おっ戻ってきた」
「うん。もう大丈夫。ありがと」
「いいえ」
最後に迅がぽんぽんとナマエの頭を撫でて二人は立ち上がった。振り返ったナマエの顔はいつもの表情に戻っていた。
「あれ? 鴨山くんがなんでここいんの?」
「烏丸くんだよナマエ。ちゃんと覚えてやって。ナマエにとって重要な相手になるんだから」
「おれのサイドエフェクトがそういってんの?」
「そうだよ」
「へーそっかぁ。別に仲間に区別はしないけど」
「数十分前に怒り狂った相手のこと覚えてる?」
「あいつらはしばらく許さん」
「はいはいありがとね」
「私が勝手にムカついただけだし」
テンポよく話す二人についていけない。そもそもなんで追いかけたのかまだ分かっていない。ただナマエの様子をみて安心したのは確かだった。
「山原さん」
「なに?」
「烏丸京介です」
「……知ってます?」
「じゃあ二度と間違えないでくださいね」
「……………まかせろ」
「声小さいんですけど」
「似てるんだもん」
「似てません」「似てないよ」
「同時に言うな!」
ああ、いつものナマエだ。
そんなに話したこともないくせにそう思って、なぜかそれが心地よかった。