番外編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「やあサン。世界史の教科書持っていないかい?」
「持ってるけどロッカー入れてる。勝手に開けてもいいよ。鍵かけてないし」
「女性のロッカーを勝手に開けられないよ」
「じゃあ行くわ」
「ロッカールームまでご同伴に預かろうかな」
「はいはい了解」
廊下から声をかけてきた王子にナマエは緩く返事を返して席から立ち上がった。
「カゲ、村上、水上、ポカリ。戻るまでノート写しといてよ」
「おめー教師の雑談まで書いてるから分かりにくいんだよ」
「矢印書いて『ウケをねらってる』とか書いたらノートチェックのときに減点されそうだけどな」
「そこじゃねーんだよ鋼」
「運の尽きだったな、オレ達が全員防衛任務の日だったのが」
「まあ要点はまとめられてるからカゲのノートよりマシやわ」
「ああ?」
軽く言い合うクラスメートたちを置いて教室から王子と共に出て行ったナマエ。ロッカールームはA組の奥にあるのでA組、B組の前を通ることになる。
「忘れ物するなんて珍しいね」
「予習してそのままうっかりしててね」
「なるほどー」
「あっナマエ! 世界史の資料集持ってる?」
「摩子さん。持ってるし今ロッカールーム向かってるから持ってくるよ」
「ありがとう!」
「ナマエちゃん眠そうだね」
「夜勤明けなんだよゾエ」
「寝てくればよかったのに」
「今日小テストあったから」
「ナマエってそういうとこちゃんとしてるよね。意外と」
「意外性の女だから」
ナマエは加賀美にそう返してばいばーいと手をふってB組をあとにした。
「小テストはどうだったんだい?」
「そりゃ満点よ」
「サンは普段の言動で惑わされるけどきちんと勉強するタイプだからね」
「惑わされるってなんだ。城戸さんと勉強ちゃんとするって約束してるから」
「成績もいいし進学校も行けたんじゃないかい?」
「王子にそれ言われてもなぁ。いいよ。進学校せかせかしてて無駄に怒られそう」
「今も結構な頻度で怒られてると思うんだけどな」
王子の脳裏には三年間ナマエの担任という苦行を背負わさせたC組の担任の顔が浮かんでいた。この男、熱心で真面目な所が生徒に人気でもあり、そこがあだとなってナマエの言動に日々頭を抱えていた。ナマエの言動は誰にも予測できないのが面白いところだと王子は思っているが、まあ相性の悪いものもいるだろうな、とも理解していた。
「うちの隊に入る話はまだ保留かい?」
「勝手に保留にするな。断ってるでしょ」
「サンがいたら絶対に面白くなるのにな」
「今の隊面白さで組んでるメンバーじゃないじゃん。絶対浮くわ」
「浮かないよ。みんな適応力があるからね」
「適応力が必要って遠まわしに言ってるの気づいてるからな」
のんびり会話をしながら二人で歩いていく。A組の前に通ったところで「ナマエ~!」と声がかかった。
「柚宇ちゃんなにー」
「今日ひま~? 作戦室でゲームやろ?」
「いいよー放課後いくわー」
「やったー」
「こら、補習があるでしょうが」
「こ、今ちゃん……」
「柚宇さん補習はやりなさいよ」
「姉さんは補習ねーんだろ?」
「たりめーよ当真」
「教師たちが『なんで山原は普段あれなのに成績は優秀なんだ……』って言ってたぜ」
「教師の風上にも置けねえな。今度やり返そう」
「おうがんばれよ」
一方的に教師への復讐が決まったところでA組の面々とも別れた。するとナマエのスマホが音を奏ではじめる。
「ん? ……げぇ、犬飼だ」
「あれ? 着信拒否にしてなかった?」
「同級生で着信拒否は連絡が回らなくなるからやめなさいって今ちゃんに言われたから」
「そうなんだね。じゃあスピーカーにしてみようか」
「楽しんでるなおめー」
ピッ
『もしもしナマエちゃん?』
「こちら山原用件をどーぞ」
『将来の旦那さんに塩対応すぎない?』
「将来の旦那さんじゃないからこれでいいんだよ。はよ用件いえ」
『ナマエちゃんの声が聞きたくなった……うそうそ、切らないで。今切ろうとしたでしょ』
「用件いえ」
『荒船くんの誕プレ何にするのかなーって思って』
「荒船には世話になってるから似合うものあげることにしてる」
『具体的に言えば?』
「…………メリケンサック?」
ナマエがそういうと電話の向こう側で吹き出す声がした。その瞬間ナマエは電話を切った。
「なんだったんだこれ」
「なんだったんだろうね」
確実に犬飼が楽しむための電話だった。そして火種が飛んだ荒船の行く末を王子は楽しみにしながらロッカールームへとたどり着いた。ナマエは荒船のことを気に入っているのだ。これでも。愛情は些か一方的だが。
ナマエはC組のロッカーのある場所へのんびり歩いて目的の場所で足を止める。番号を合わせることなくそのままガチャリと開いたロッカー。
「不用心じゃないかな?」
「お金入れてるわけじゃないし……なんだこれ?」
「手紙みたいだね」
「山原さんへって書いてあるわ」
首を傾げながら堂々とその場で開けるナマエにいや、それもしかして……と予想をつける王子。しばらく中身に目を通していた様子だったが、ピキリと身体が固まった。やっぱり、と思いつつ口を開く。
「告白かい?」
「!? なんで分かったの!?」
「なんとなくね」
「え、え、え? どうしたらいいのこれ」
爆弾を抱えてるように手紙を持つナマエ。
「知ってる人?」
「委員会が一緒……」
「そういう雰囲気になったことは?」
「……………………………………わかんない」
だろうな、と王子は思った。男女のあれこれなんて今時進んでいる小学生にも劣っているのだ。察する能力などないだろう。
「とりあえずきみの旦那さんに連絡を入れたらどうだい?」
「あいつに言うくらいなら真っ当に蔵っちに相談するわ。……………断るかぁ」
「判断が早いね」
「恋愛わからん」
あっさりと解決したらしい。告白した相手も可哀想にと思う。まあ知らない相手なので王子がどうこうすることはないのだが。
「ボーダーのみんなに話したら盛り上がるだろうね」
「酒の肴にするのやめれ」
「きみの旦那さんなんかは一番騒ぎそうだね」
「想像するだけでうっとうしい」
「一年生の教室に行くのも賑やかになりそうだ」
「一年? なんで一年?」
ボーダー1のモテ男が不機嫌になるからだよとは口に出さずににっこり微笑んだ。ナマエは不思議そうな顔をしつつ世界史の教科書と資料集をロッカーから取り出した。
「はい。マーカー引いてもいいよ。先生同じだし」
「うーんそれはどうかなぁ」
大らかなのか大ざっぱなのか。両方だな。王子はそう思いつつ世界史の教科書を受け取った。
「サン」
「んー?」
「きみは身内には意外と甘いけどそれ以外には適当なところがあるから振るにしてもちゃんと対応してあげるんだよ」
「了解?」
「怪しいなぁ」
「告白されたの初めてだからちゃんとできるか分かんないから」
「きみの旦那さんには毎日熱烈に告白されてるじゃないか」
「あれは嫌がらせ風ギャグだから」
「確かに」
「納得するんかい」
片眉を下げて突っ込むナマエにあははと笑う。山原の山の字を音読みにしてサン。あとは太陽みたいに賑やかで明るいところからかけてある楽しい友達であり仲間。破天荒で大胆不敵なこの子の隣に歩く人間はどんな相手なんだろう。きっと面白い人間に違いない。王子はそう確信しつつ二人でロッカールームを出た。
「持ってるけどロッカー入れてる。勝手に開けてもいいよ。鍵かけてないし」
「女性のロッカーを勝手に開けられないよ」
「じゃあ行くわ」
「ロッカールームまでご同伴に預かろうかな」
「はいはい了解」
廊下から声をかけてきた王子にナマエは緩く返事を返して席から立ち上がった。
「カゲ、村上、水上、ポカリ。戻るまでノート写しといてよ」
「おめー教師の雑談まで書いてるから分かりにくいんだよ」
「矢印書いて『ウケをねらってる』とか書いたらノートチェックのときに減点されそうだけどな」
「そこじゃねーんだよ鋼」
「運の尽きだったな、オレ達が全員防衛任務の日だったのが」
「まあ要点はまとめられてるからカゲのノートよりマシやわ」
「ああ?」
軽く言い合うクラスメートたちを置いて教室から王子と共に出て行ったナマエ。ロッカールームはA組の奥にあるのでA組、B組の前を通ることになる。
「忘れ物するなんて珍しいね」
「予習してそのままうっかりしててね」
「なるほどー」
「あっナマエ! 世界史の資料集持ってる?」
「摩子さん。持ってるし今ロッカールーム向かってるから持ってくるよ」
「ありがとう!」
「ナマエちゃん眠そうだね」
「夜勤明けなんだよゾエ」
「寝てくればよかったのに」
「今日小テストあったから」
「ナマエってそういうとこちゃんとしてるよね。意外と」
「意外性の女だから」
ナマエは加賀美にそう返してばいばーいと手をふってB組をあとにした。
「小テストはどうだったんだい?」
「そりゃ満点よ」
「サンは普段の言動で惑わされるけどきちんと勉強するタイプだからね」
「惑わされるってなんだ。城戸さんと勉強ちゃんとするって約束してるから」
「成績もいいし進学校も行けたんじゃないかい?」
「王子にそれ言われてもなぁ。いいよ。進学校せかせかしてて無駄に怒られそう」
「今も結構な頻度で怒られてると思うんだけどな」
王子の脳裏には三年間ナマエの担任という苦行を背負わさせたC組の担任の顔が浮かんでいた。この男、熱心で真面目な所が生徒に人気でもあり、そこがあだとなってナマエの言動に日々頭を抱えていた。ナマエの言動は誰にも予測できないのが面白いところだと王子は思っているが、まあ相性の悪いものもいるだろうな、とも理解していた。
「うちの隊に入る話はまだ保留かい?」
「勝手に保留にするな。断ってるでしょ」
「サンがいたら絶対に面白くなるのにな」
「今の隊面白さで組んでるメンバーじゃないじゃん。絶対浮くわ」
「浮かないよ。みんな適応力があるからね」
「適応力が必要って遠まわしに言ってるの気づいてるからな」
のんびり会話をしながら二人で歩いていく。A組の前に通ったところで「ナマエ~!」と声がかかった。
「柚宇ちゃんなにー」
「今日ひま~? 作戦室でゲームやろ?」
「いいよー放課後いくわー」
「やったー」
「こら、補習があるでしょうが」
「こ、今ちゃん……」
「柚宇さん補習はやりなさいよ」
「姉さんは補習ねーんだろ?」
「たりめーよ当真」
「教師たちが『なんで山原は普段あれなのに成績は優秀なんだ……』って言ってたぜ」
「教師の風上にも置けねえな。今度やり返そう」
「おうがんばれよ」
一方的に教師への復讐が決まったところでA組の面々とも別れた。するとナマエのスマホが音を奏ではじめる。
「ん? ……げぇ、犬飼だ」
「あれ? 着信拒否にしてなかった?」
「同級生で着信拒否は連絡が回らなくなるからやめなさいって今ちゃんに言われたから」
「そうなんだね。じゃあスピーカーにしてみようか」
「楽しんでるなおめー」
ピッ
『もしもしナマエちゃん?』
「こちら山原用件をどーぞ」
『将来の旦那さんに塩対応すぎない?』
「将来の旦那さんじゃないからこれでいいんだよ。はよ用件いえ」
『ナマエちゃんの声が聞きたくなった……うそうそ、切らないで。今切ろうとしたでしょ』
「用件いえ」
『荒船くんの誕プレ何にするのかなーって思って』
「荒船には世話になってるから似合うものあげることにしてる」
『具体的に言えば?』
「…………メリケンサック?」
ナマエがそういうと電話の向こう側で吹き出す声がした。その瞬間ナマエは電話を切った。
「なんだったんだこれ」
「なんだったんだろうね」
確実に犬飼が楽しむための電話だった。そして火種が飛んだ荒船の行く末を王子は楽しみにしながらロッカールームへとたどり着いた。ナマエは荒船のことを気に入っているのだ。これでも。愛情は些か一方的だが。
ナマエはC組のロッカーのある場所へのんびり歩いて目的の場所で足を止める。番号を合わせることなくそのままガチャリと開いたロッカー。
「不用心じゃないかな?」
「お金入れてるわけじゃないし……なんだこれ?」
「手紙みたいだね」
「山原さんへって書いてあるわ」
首を傾げながら堂々とその場で開けるナマエにいや、それもしかして……と予想をつける王子。しばらく中身に目を通していた様子だったが、ピキリと身体が固まった。やっぱり、と思いつつ口を開く。
「告白かい?」
「!? なんで分かったの!?」
「なんとなくね」
「え、え、え? どうしたらいいのこれ」
爆弾を抱えてるように手紙を持つナマエ。
「知ってる人?」
「委員会が一緒……」
「そういう雰囲気になったことは?」
「……………………………………わかんない」
だろうな、と王子は思った。男女のあれこれなんて今時進んでいる小学生にも劣っているのだ。察する能力などないだろう。
「とりあえずきみの旦那さんに連絡を入れたらどうだい?」
「あいつに言うくらいなら真っ当に蔵っちに相談するわ。……………断るかぁ」
「判断が早いね」
「恋愛わからん」
あっさりと解決したらしい。告白した相手も可哀想にと思う。まあ知らない相手なので王子がどうこうすることはないのだが。
「ボーダーのみんなに話したら盛り上がるだろうね」
「酒の肴にするのやめれ」
「きみの旦那さんなんかは一番騒ぎそうだね」
「想像するだけでうっとうしい」
「一年生の教室に行くのも賑やかになりそうだ」
「一年? なんで一年?」
ボーダー1のモテ男が不機嫌になるからだよとは口に出さずににっこり微笑んだ。ナマエは不思議そうな顔をしつつ世界史の教科書と資料集をロッカーから取り出した。
「はい。マーカー引いてもいいよ。先生同じだし」
「うーんそれはどうかなぁ」
大らかなのか大ざっぱなのか。両方だな。王子はそう思いつつ世界史の教科書を受け取った。
「サン」
「んー?」
「きみは身内には意外と甘いけどそれ以外には適当なところがあるから振るにしてもちゃんと対応してあげるんだよ」
「了解?」
「怪しいなぁ」
「告白されたの初めてだからちゃんとできるか分かんないから」
「きみの旦那さんには毎日熱烈に告白されてるじゃないか」
「あれは嫌がらせ風ギャグだから」
「確かに」
「納得するんかい」
片眉を下げて突っ込むナマエにあははと笑う。山原の山の字を音読みにしてサン。あとは太陽みたいに賑やかで明るいところからかけてある楽しい友達であり仲間。破天荒で大胆不敵なこの子の隣に歩く人間はどんな相手なんだろう。きっと面白い人間に違いない。王子はそう確信しつつ二人でロッカールームを出た。