本編
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一年の授業なのになぜかいるはずのない人が横に座っている。ただでさえボーダー隊員ってことで目立ってるのにこの人がいることで目立つとかそんな問題じゃなくなっていた。くそ! 気が散る!
授業が終わりさっさと席を立とうとするがそれは横の人物によって止められた。
「おい、待てよ。せめてノート置いてけ」
「ヒゲ剃れよ変質者」
そう言って次こそ教室から出る。後ろから「誰が変質者だ!」と声がしたけど無視した。太刀川さん以外に誰がいる。
「あらナマエ遅かったわね」
「変質者に捕まってた」
「それ大惨事よ」
大丈夫だったの? と優しく聞いてくる蓮に先ほどの出来事が綺麗に浄化された。蓮、天使。いや女神さま。なんであの変質者の幼なじみなんだろう。
「今日任務はあるの?」
「夜勤で。蓮は?」
「私はお昼からよ。ご飯食べたら行くわ。あと明日の午前中の授業はノート取っておくから午後まで寝てなさい」
「ここに女神がいますよー!!」
「黙りなさい」
「すみませんでした」
女神でも怒るときは怖いです。
大学のラウンジで二人でお弁当を広げてお昼をとる。あれこの卵焼き甘いぞ? もしかして砂糖入れた? え、そんなドジっこみたいなミスしたの私。なんかショック。
ショックを受けたせいか何時もより箸が進まない。
「? お腹空いてないのナマエ」
「いや……ドジっこショックが思いのほか大きくて」
「は?」
やばいなんか味も分からなくなってきた。ドジっこショック効果ありすぎだろ。
夜勤のとき食べようとお弁当をしまう。今なら普段飲めないブラックの珈琲が飲めるのでは、と試しに買って飲むと本当に飲むことができた。なんかテンション上がってきた。
「………ナマエ、ちょっと大人しくしてて」
「え、なんで。今スッゴくテンションが上がっていい感じなのに」
「いいから。……やっぱりあなた熱あるわよ」
熱?
「嘘だ。私最後に風邪ひいたの小学生のときだもん」
「知らないわそんな情報。ああもう、動かないの。足ふらふらじゃない。ちょっと待ってて今空き時間の人探すから」
そう言って蓮は携帯を操作する。ボーダーの大学生は緊急時に任務を変わってもらえるように全員が時間割を把握している。それを使うときが来るとは……。
「太刀川くんと諏訪さんと風間さん。誰に家まで送ってもらいたい?」
「なんでよりによってその三択……!」
堤さんとかさ! レイジさんとかいるじゃん! そう言うと「木崎さんは任務。堤さんは授業よ」と冷たく返された。
熱くなってきた頭でとりあえず考える。太刀川さん……は論外。変質者に家を知られるなんて死んでもやだ。諏訪さんは「甘えんじゃねえ」って言って川に捨てられそう。却下。残りは……
「風間さん……? もし立てなくなっても風間さんじゃ私のこと運べないでしょ」
「ほう。舐められたものだな」
ダメだ、本当に熱があるらしい。風間さんの幻覚まで見えてきた。もう死ぬかもしれない、と蓮に言うと「本物の風間さんよ。すみません、私はこれから任務なのでナマエのことよろしくお願いします」と言い蓮は行ってしまった。
風間さんの幻覚はテーブルに頬を引っ付けている私を見て「本当に熱があるようだな」と言った。
「んん……? その小さいけど上からな物言いとか小さいけど鋭い目つきとかすごいリアルな幻覚だ……」
「熱が下がったら覚えておけ」
荷物はこれだけかと私のリュックを持ち、風間さんの幻覚は私を背負った。残念ながら視線はいつもと全然変わらなかった。
「か、風間さんの幻覚、大丈夫……? トリオン体にならなくていい……?」
「おまえはどれだけ人をバカにしたら気が済むんだ」
いいから寝てろという言葉になぜか安心した私は狭い背中におでこをつけて、いつの間にか寝てしまっていた。
****
「………うん?」
目が覚めると見覚えのある天井があった。うん私んちだね。あれ……授業を受けたあとの記憶がないぞ。隣に変質者がいたのは覚えている。そのあとがすっからかんだ。なんで太刀川さんのことだけ覚えてんだ絶対必要ないだろ。あれ夢か? まだ朝なのかもしれない。うん違った。19時だって。…………。
「19時!? ……つまり夜!? 夜勤は23時から! よし寝よう!」
「一人でもそんなにうるさいのかおまえは」
「一人でもって失礼な。一人暮らしだと独り言も増えるんですよ」
「知らん。目が覚めたなら何か腹に入れろ。薬も飲め」
「ええー薬嫌いなんだよね。小学生のとき以来飲んでないけど…………なんで風間さんがいるの?」
「やっと気づいたか。お粥とうどんどっちがいい」
カーペットの上に座って本を読む風間さんは我が家に馴染んでいた。え、なにやってんすか本当に。
私の質問を無視し「お粥とうどんどっちがいい」と再び質問する風間さん。質問に質問返してくるあの人。
とりあえずお粥と答えると風間さんは本をローテーブルの上に置き、キッチンへ向かった。それに勢いよく起き上がろうとしたら視界がグラリと回った。なんだこれ。
「熱がさっきまで40度近くあった。病院で解熱剤を打ってもらったから時期に下がる」
「よんじゅ……!? え、大丈夫? それ大丈夫? 私の命日もしかして今日?」
「それだけ喋れるやつが死ぬわけないだろう」
確かに。てか熱があると分かったら急にキツくなってきた。暑いけど寒いな。気持ち悪っ。
「夜勤までに熱下がるかな」
「下がるか。おまえの代わりは茶野隊がしてくれるそうだ」
「茶野隊って……あんな可愛げのある男の子たちに夜間任務って逆に危ないわ。やっぱ私がいくっ……おえ、」
「吐くなら枕もとの袋に吐け」
任せろ、と心の中で返して胃の中のものを戻す。やばい、体調が本当に悪いらしい。
「無理するな。ほら口をゆすげ」
ベッドに突っ伏していると風間さんがコップと洗面器を持ってきた。……洗面器? ああ、この中にいれろってことか。たらい落としならぬ洗面器落としされるのかと思った。
口をゆすいで洗面器に水を吐く。二、三回繰り返したらすっきりした。それを確認した風間さんはベッドの下に落とした袋も持ってキッチンに戻って行った。……仮にも異性かつ年上になに吐瀉物の処理させてんだ。
「ごめんねぇ……風間さーん……」
「今までおまえにかけられてきた迷惑に比べたら遥かにマシだ」
「それもそれでどうなんだ……」
グッタリしていると小鍋ごと持ってきて鍋敷きの上に置く。さっき吐いたのに普通に持ってきたなこの人。
「少しでいいから食べておけ。薬も飲まないといけないからな」
そう言うと上着とカバンを持って立ち上がる風間さん。え、
「帰るの?」
しまった。思ってたより声が寂しそうな声色になってしまった。その証拠に風間さんが何とも言えない顔をしてる。病院まで連れて行ってくれたのにこれ以上迷惑かけるなんて厚かましいでしょ普通に。
「や、ごめん。今のなし。なんかふとした疑問だったから深い意味はない」
「…………」
「病院代とかその辺に置いてあるポカリとか全部請求してね。返すから」
「……………」
「……あの、なんか言ってくれませんかね……?」
「なぜ迅に頼らない」
風間さんは難しい顔をしたままそう言った。その言葉に熱が上がったような気がした。
「病院で迅に連絡を入れようとしたらおまえはそれを必死に拒んだ」
「覚えてないっす」
「医者が鎮静剤を使うほどにだ」
「大暴れじゃないっすか」
え、鎮静剤ってあれでしょ? ドラマとかで出てくるやつ。……ダメだ本当に記憶にない。その病院一生行けないな。
「寝言で『迅を呼んだら殺す』とまで言っていた」
「いやもうそれ深層心理ですよ。あいつに会いたくないだけですよ」
「茶化すな。おまえたちの関係ならその言葉は有り得ない」
そう言い切る風間さんの目はこっちが反らしたくなるくらい真っ直ぐだった。というか実際反らした。風間さんのこういうとこ苦手だ。この人は実直すぎる。
「なぜ会いたくないんだ」
「………」
「家族なら病気のときくらい頼ればいいだろう」
「………」
「言いたくないか、ならば迅に聞こう」
「やめろ! てか珍しく弱ってんだから優しくしてよ! 悪魔かあんた!」
「それは俺の役目じゃない」
布団から顔を出して風間さんを見上げる。その目は、真っ直ぐ私を見ていて気づけば口を開いていた。
「………だって、あいつ泣くんだもん」
「………」
「最上さん死んでから、一度、体調崩して、今みたいに熱が高くて、看病してくれてた迅が、横で泣いてた」
死なないでくれって。
「熱ごときで死ぬわけないじゃんって言ったのにボロボロ泣いてて、キツいの私なのにあいつの方が辛そうだった」
そして単純に、こんな迅みたくないって思った。独りになるかもってことさえも感じさせたくないと思った。もしかしたら未来が分岐していたのかもしれない。視てしまったのかもしれない。だから、
「これはただの私の独りよがりだから、迅にいう必要なんかない。私があんな弱った迅を見たくないだけだから」
そう言って布団に潜り込んだ。このまま風間さんの目を見てたらさらに弱っていきそうだった。
時計の秒針が聞こえるほど静まった部屋。そのせいか、風間さんがベッドのすぐ横に来たのが分かった。身体を硬直させていると、風間さんの手が優しく布団の上に乗った。
「それでおまえがひとりになったら意味がないだろう」
子どもをあやすようにポンポンと置かれる手は苦しいくらいにあったかい。
「人に優しくしたいならまず自分を大切にしろ。今のおまえはそれさえも出来ていない」
「…………」
「おまえはまずそこからだ」
そう言って風間さんは布団を剥ぎ取り不細工に泣きはらす私を見てふ、と顔を緩めた。
「泣いてるおんなみて、笑うなんておとこの風上にもおけないひとですね」
「おまえは女以前の問題だ」
ティッシュでぐちゃぐちゃの顔を拭く風間さんの顔は呆れつつも優しくて私の涙腺に火をつける。この人狡すぎる。
「熱あがった。もうだれかにかんびょーしてもらわないとダメです」
「この状態で置いていったら一生呪われそうだからな」
仕方ないから看病してやる、とすっかり冷めたお粥を温めにキッチンへ向かった風間さんの背中は小さいのに大きくみえた。
授業が終わりさっさと席を立とうとするがそれは横の人物によって止められた。
「おい、待てよ。せめてノート置いてけ」
「ヒゲ剃れよ変質者」
そう言って次こそ教室から出る。後ろから「誰が変質者だ!」と声がしたけど無視した。太刀川さん以外に誰がいる。
「あらナマエ遅かったわね」
「変質者に捕まってた」
「それ大惨事よ」
大丈夫だったの? と優しく聞いてくる蓮に先ほどの出来事が綺麗に浄化された。蓮、天使。いや女神さま。なんであの変質者の幼なじみなんだろう。
「今日任務はあるの?」
「夜勤で。蓮は?」
「私はお昼からよ。ご飯食べたら行くわ。あと明日の午前中の授業はノート取っておくから午後まで寝てなさい」
「ここに女神がいますよー!!」
「黙りなさい」
「すみませんでした」
女神でも怒るときは怖いです。
大学のラウンジで二人でお弁当を広げてお昼をとる。あれこの卵焼き甘いぞ? もしかして砂糖入れた? え、そんなドジっこみたいなミスしたの私。なんかショック。
ショックを受けたせいか何時もより箸が進まない。
「? お腹空いてないのナマエ」
「いや……ドジっこショックが思いのほか大きくて」
「は?」
やばいなんか味も分からなくなってきた。ドジっこショック効果ありすぎだろ。
夜勤のとき食べようとお弁当をしまう。今なら普段飲めないブラックの珈琲が飲めるのでは、と試しに買って飲むと本当に飲むことができた。なんかテンション上がってきた。
「………ナマエ、ちょっと大人しくしてて」
「え、なんで。今スッゴくテンションが上がっていい感じなのに」
「いいから。……やっぱりあなた熱あるわよ」
熱?
「嘘だ。私最後に風邪ひいたの小学生のときだもん」
「知らないわそんな情報。ああもう、動かないの。足ふらふらじゃない。ちょっと待ってて今空き時間の人探すから」
そう言って蓮は携帯を操作する。ボーダーの大学生は緊急時に任務を変わってもらえるように全員が時間割を把握している。それを使うときが来るとは……。
「太刀川くんと諏訪さんと風間さん。誰に家まで送ってもらいたい?」
「なんでよりによってその三択……!」
堤さんとかさ! レイジさんとかいるじゃん! そう言うと「木崎さんは任務。堤さんは授業よ」と冷たく返された。
熱くなってきた頭でとりあえず考える。太刀川さん……は論外。変質者に家を知られるなんて死んでもやだ。諏訪さんは「甘えんじゃねえ」って言って川に捨てられそう。却下。残りは……
「風間さん……? もし立てなくなっても風間さんじゃ私のこと運べないでしょ」
「ほう。舐められたものだな」
ダメだ、本当に熱があるらしい。風間さんの幻覚まで見えてきた。もう死ぬかもしれない、と蓮に言うと「本物の風間さんよ。すみません、私はこれから任務なのでナマエのことよろしくお願いします」と言い蓮は行ってしまった。
風間さんの幻覚はテーブルに頬を引っ付けている私を見て「本当に熱があるようだな」と言った。
「んん……? その小さいけど上からな物言いとか小さいけど鋭い目つきとかすごいリアルな幻覚だ……」
「熱が下がったら覚えておけ」
荷物はこれだけかと私のリュックを持ち、風間さんの幻覚は私を背負った。残念ながら視線はいつもと全然変わらなかった。
「か、風間さんの幻覚、大丈夫……? トリオン体にならなくていい……?」
「おまえはどれだけ人をバカにしたら気が済むんだ」
いいから寝てろという言葉になぜか安心した私は狭い背中におでこをつけて、いつの間にか寝てしまっていた。
****
「………うん?」
目が覚めると見覚えのある天井があった。うん私んちだね。あれ……授業を受けたあとの記憶がないぞ。隣に変質者がいたのは覚えている。そのあとがすっからかんだ。なんで太刀川さんのことだけ覚えてんだ絶対必要ないだろ。あれ夢か? まだ朝なのかもしれない。うん違った。19時だって。…………。
「19時!? ……つまり夜!? 夜勤は23時から! よし寝よう!」
「一人でもそんなにうるさいのかおまえは」
「一人でもって失礼な。一人暮らしだと独り言も増えるんですよ」
「知らん。目が覚めたなら何か腹に入れろ。薬も飲め」
「ええー薬嫌いなんだよね。小学生のとき以来飲んでないけど…………なんで風間さんがいるの?」
「やっと気づいたか。お粥とうどんどっちがいい」
カーペットの上に座って本を読む風間さんは我が家に馴染んでいた。え、なにやってんすか本当に。
私の質問を無視し「お粥とうどんどっちがいい」と再び質問する風間さん。質問に質問返してくるあの人。
とりあえずお粥と答えると風間さんは本をローテーブルの上に置き、キッチンへ向かった。それに勢いよく起き上がろうとしたら視界がグラリと回った。なんだこれ。
「熱がさっきまで40度近くあった。病院で解熱剤を打ってもらったから時期に下がる」
「よんじゅ……!? え、大丈夫? それ大丈夫? 私の命日もしかして今日?」
「それだけ喋れるやつが死ぬわけないだろう」
確かに。てか熱があると分かったら急にキツくなってきた。暑いけど寒いな。気持ち悪っ。
「夜勤までに熱下がるかな」
「下がるか。おまえの代わりは茶野隊がしてくれるそうだ」
「茶野隊って……あんな可愛げのある男の子たちに夜間任務って逆に危ないわ。やっぱ私がいくっ……おえ、」
「吐くなら枕もとの袋に吐け」
任せろ、と心の中で返して胃の中のものを戻す。やばい、体調が本当に悪いらしい。
「無理するな。ほら口をゆすげ」
ベッドに突っ伏していると風間さんがコップと洗面器を持ってきた。……洗面器? ああ、この中にいれろってことか。たらい落としならぬ洗面器落としされるのかと思った。
口をゆすいで洗面器に水を吐く。二、三回繰り返したらすっきりした。それを確認した風間さんはベッドの下に落とした袋も持ってキッチンに戻って行った。……仮にも異性かつ年上になに吐瀉物の処理させてんだ。
「ごめんねぇ……風間さーん……」
「今までおまえにかけられてきた迷惑に比べたら遥かにマシだ」
「それもそれでどうなんだ……」
グッタリしていると小鍋ごと持ってきて鍋敷きの上に置く。さっき吐いたのに普通に持ってきたなこの人。
「少しでいいから食べておけ。薬も飲まないといけないからな」
そう言うと上着とカバンを持って立ち上がる風間さん。え、
「帰るの?」
しまった。思ってたより声が寂しそうな声色になってしまった。その証拠に風間さんが何とも言えない顔をしてる。病院まで連れて行ってくれたのにこれ以上迷惑かけるなんて厚かましいでしょ普通に。
「や、ごめん。今のなし。なんかふとした疑問だったから深い意味はない」
「…………」
「病院代とかその辺に置いてあるポカリとか全部請求してね。返すから」
「……………」
「……あの、なんか言ってくれませんかね……?」
「なぜ迅に頼らない」
風間さんは難しい顔をしたままそう言った。その言葉に熱が上がったような気がした。
「病院で迅に連絡を入れようとしたらおまえはそれを必死に拒んだ」
「覚えてないっす」
「医者が鎮静剤を使うほどにだ」
「大暴れじゃないっすか」
え、鎮静剤ってあれでしょ? ドラマとかで出てくるやつ。……ダメだ本当に記憶にない。その病院一生行けないな。
「寝言で『迅を呼んだら殺す』とまで言っていた」
「いやもうそれ深層心理ですよ。あいつに会いたくないだけですよ」
「茶化すな。おまえたちの関係ならその言葉は有り得ない」
そう言い切る風間さんの目はこっちが反らしたくなるくらい真っ直ぐだった。というか実際反らした。風間さんのこういうとこ苦手だ。この人は実直すぎる。
「なぜ会いたくないんだ」
「………」
「家族なら病気のときくらい頼ればいいだろう」
「………」
「言いたくないか、ならば迅に聞こう」
「やめろ! てか珍しく弱ってんだから優しくしてよ! 悪魔かあんた!」
「それは俺の役目じゃない」
布団から顔を出して風間さんを見上げる。その目は、真っ直ぐ私を見ていて気づけば口を開いていた。
「………だって、あいつ泣くんだもん」
「………」
「最上さん死んでから、一度、体調崩して、今みたいに熱が高くて、看病してくれてた迅が、横で泣いてた」
死なないでくれって。
「熱ごときで死ぬわけないじゃんって言ったのにボロボロ泣いてて、キツいの私なのにあいつの方が辛そうだった」
そして単純に、こんな迅みたくないって思った。独りになるかもってことさえも感じさせたくないと思った。もしかしたら未来が分岐していたのかもしれない。視てしまったのかもしれない。だから、
「これはただの私の独りよがりだから、迅にいう必要なんかない。私があんな弱った迅を見たくないだけだから」
そう言って布団に潜り込んだ。このまま風間さんの目を見てたらさらに弱っていきそうだった。
時計の秒針が聞こえるほど静まった部屋。そのせいか、風間さんがベッドのすぐ横に来たのが分かった。身体を硬直させていると、風間さんの手が優しく布団の上に乗った。
「それでおまえがひとりになったら意味がないだろう」
子どもをあやすようにポンポンと置かれる手は苦しいくらいにあったかい。
「人に優しくしたいならまず自分を大切にしろ。今のおまえはそれさえも出来ていない」
「…………」
「おまえはまずそこからだ」
そう言って風間さんは布団を剥ぎ取り不細工に泣きはらす私を見てふ、と顔を緩めた。
「泣いてるおんなみて、笑うなんておとこの風上にもおけないひとですね」
「おまえは女以前の問題だ」
ティッシュでぐちゃぐちゃの顔を拭く風間さんの顔は呆れつつも優しくて私の涙腺に火をつける。この人狡すぎる。
「熱あがった。もうだれかにかんびょーしてもらわないとダメです」
「この状態で置いていったら一生呪われそうだからな」
仕方ないから看病してやる、とすっかり冷めたお粥を温めにキッチンへ向かった風間さんの背中は小さいのに大きくみえた。