番外編
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支部勤務の木崎と本部基地に向かっていた。なんとも珍しいことだと思いつつ淡々と言葉を交わして足を進める。雨が降っているために余計に声の温度が上がらないが、木崎と寺島は普段からこんなものだ。互いに大きな声を出すタイプではない。何か起きない限りは。
「あ、レイジさんと雷蔵さんだ」
珍しいねぇレイジさんがこっち来るの、とのんびりした口調で話すナマエは全身ずぶ濡れだった。ちなみに今日は降水確率100%と天気予報でいっていた。
「なんで傘をさしてないんだっ」
木崎は少し語尾を上げてナマエの元に行き、すぐさま自分の傘に入れてやった。「だって傘ないもん」質問の意図を全く理解していないナマエ。一気に賑やかになっていく空気に寺島は「はぁ」と息を吐いた。
「もうこれだけずぶ濡れなら走っても無駄だなぁって。むしろ走ったら危ないなぁって」
ザーザー降り続ける雨の中、のんびりと足を進めていた理由をナマエは語った。一理あるようなないようなナマエの言葉に木崎は「天気予報はみなかったのか」と返した。
「天気予報ってみなかったら何も意味を成さないよね」
「みろ」
簡潔な言葉に苦労が見えた。彼らの付き合いは長い。この独特な感性を持つ二つ年下の彼女に振り回される人間は多いがそれは木崎も変わらないらしい。付き合いの長さは比例しないのか。木崎の傘に入って会話を続ける二人をみてそう思う寺島。そして三歩ほど離れて歩いていたためにあることに気づいた。一瞬どうするか迷ったが、片手で上着を脱いで声をかける。
「ナマエ、風邪をひく」
そう言って上着を渡した。意外に律儀なところがあるので「洗って返してくれたらいい」と先に言っておくと遠慮の言葉の代わりに「ありがとう雷蔵さん」と返ってきた。
「本部に着いたら支給品の服があるからそれを着て帰ればいいよ」
「あの服さぁボーダーのマーク着いてるのすごくダサいと思うんだけどどう思う?」
「訊かないで」
「えー……じゃあレイジさんは?」
「俺にも訊くな」
「ええ……じゃあ後で城戸さんに訊いてみよ」
もっと止めろ。心の声が一致するのが分かった。
基地について寺島のラボへ向かっていると風間と諏訪に会った。今日はよく鉢合わせする日だと思った。
「あん? 何でそんな濡れネズミになってんだ」
「傘ささなかったからだよ。見て分からんのか」
「何で偉そうなんだよおまえは」
ナマエの濡れた頭を軽く小突く諏訪に対して「天気予報くらいみろ」と先ほどの木崎と同じ言葉を吐く風間。ある程度察しがついている台詞だった。
特に何か言ったわけでもなく諏訪達も同じ方向に歩き出した。「ちょうどいいから雨の日に惨殺される映画みようよ」「何がちょうどいいんだ」「もっといい選択なかったのかよ」「どんな映画なんだそれは」その上勝手に寺島の所持している映画を観ることが決定した。別に構わないが誰も一言かけない辺り勝手である。ナマエ以外は同い年であるからこその気安さだろうが。
ラボについて各自寛ぎだした面々をおいて封の開いていない服を収納から取り出す。男物しかなかったのは失念していたが、まあ問題ないだろう。
「ナマエ、奥で着替えておいで」
「いやあ、かたじけないでござるのぅ」
「そういうのいいから」
ノリが悪いと不評を受けた。本当に風邪をひくぞ。ぶーたれながら奥の部屋に入っていく背中に言う。
「あいつ砂糖何個だ?」
「二つでミルクもありだ」
「あいよ」
諏訪と木崎の会話を背中で聞きつつタオルも取り出す。先に渡しておけばよかった。そんなことを思っていると近くでピッ、と機械音がした。軽く振り返ると風間がエアコンのリモコンを操作していた。ブオンと生暖かい風が通っていく。
「ドライヤーはあるか雷蔵」
「さすがにないね」
「そうか……」
「おまえはナマエのおかんか」
諏訪のからかいを含んだ言葉に「いつまで経っても手間がかかる」と真顔の木崎。それに「あいつは何歳児なんだ」と呆れた顔の風間が続いた。
憎まれ口と手元があっていないな。寺島はそう思った。
この中で一番年下とはいえあと少しで成人、しかも女性に文句を言いつつも世話を焼く同級生達。そこまでしなくてもナマエは何だかんだ言ってもしっかりしている方だ。手がかかるのは否定しないが。矛盾しているようだがそういう人間なのだから仕方ない。いつも騒がしいのは事実だ。
「なんかいい匂いする……」
「ほら、おまえの」
「ありがとう諏訪さん。……えっこれ諏訪さんが淹れたの? 大丈夫?」
「どういう意味だこら」
「だっていつも堤さんや笹森に淹れてもらってるから……」
「おまえだってそうだろーが」
「うわぁ……諏訪さんと同レベ……今度淹れてあげよう。すっごく下手だけど。城戸さんが顔しかめるくらいの不味さだけど」
「やめろ!」
「あの鉄仮面を歪ませるとは……」「あいつにはコーヒー器具に触らせないように言っておこう」と誓いを立てるような二人の声がした。木崎に同意しつつナマエの頭にタオルを乗せた。
「風邪をひく」
「……ふふふ」
「? どうしたの」
何故か急に笑い出したナマエ。何が面白いんだ。この子のツボは相変わらず分からない。そう首を傾げているとやけに明るい口調でナマエは言った。
「風邪ひくって雷蔵さんに言われるの今日で三度目だよ」
「……そうだっけ」
「うん」
意識していなかった。
「そいつが簡単に風邪ひくわけねーだろ雷蔵」
「はい残念でした! こないだ風邪ひいたもんね! ねっ風間さん!」
「どや顔で言うことか」
「待て、俺はきいてないぞナマエ」
「…………はい、ちゃっちゃと映画みよう」
「なかったことにするな」
木崎に迫られているナマエを横目に気まずさから軽く頬をかいた。意識していなかったが、自分もあの三人と対して変わらなかったらしい。
「…………」
ナマエはもう子どもではないのに何をやってるんだ四人して。そう思いつつ口角が上がるのが分かった。
「あ、レイジさんと雷蔵さんだ」
珍しいねぇレイジさんがこっち来るの、とのんびりした口調で話すナマエは全身ずぶ濡れだった。ちなみに今日は降水確率100%と天気予報でいっていた。
「なんで傘をさしてないんだっ」
木崎は少し語尾を上げてナマエの元に行き、すぐさま自分の傘に入れてやった。「だって傘ないもん」質問の意図を全く理解していないナマエ。一気に賑やかになっていく空気に寺島は「はぁ」と息を吐いた。
「もうこれだけずぶ濡れなら走っても無駄だなぁって。むしろ走ったら危ないなぁって」
ザーザー降り続ける雨の中、のんびりと足を進めていた理由をナマエは語った。一理あるようなないようなナマエの言葉に木崎は「天気予報はみなかったのか」と返した。
「天気予報ってみなかったら何も意味を成さないよね」
「みろ」
簡潔な言葉に苦労が見えた。彼らの付き合いは長い。この独特な感性を持つ二つ年下の彼女に振り回される人間は多いがそれは木崎も変わらないらしい。付き合いの長さは比例しないのか。木崎の傘に入って会話を続ける二人をみてそう思う寺島。そして三歩ほど離れて歩いていたためにあることに気づいた。一瞬どうするか迷ったが、片手で上着を脱いで声をかける。
「ナマエ、風邪をひく」
そう言って上着を渡した。意外に律儀なところがあるので「洗って返してくれたらいい」と先に言っておくと遠慮の言葉の代わりに「ありがとう雷蔵さん」と返ってきた。
「本部に着いたら支給品の服があるからそれを着て帰ればいいよ」
「あの服さぁボーダーのマーク着いてるのすごくダサいと思うんだけどどう思う?」
「訊かないで」
「えー……じゃあレイジさんは?」
「俺にも訊くな」
「ええ……じゃあ後で城戸さんに訊いてみよ」
もっと止めろ。心の声が一致するのが分かった。
基地について寺島のラボへ向かっていると風間と諏訪に会った。今日はよく鉢合わせする日だと思った。
「あん? 何でそんな濡れネズミになってんだ」
「傘ささなかったからだよ。見て分からんのか」
「何で偉そうなんだよおまえは」
ナマエの濡れた頭を軽く小突く諏訪に対して「天気予報くらいみろ」と先ほどの木崎と同じ言葉を吐く風間。ある程度察しがついている台詞だった。
特に何か言ったわけでもなく諏訪達も同じ方向に歩き出した。「ちょうどいいから雨の日に惨殺される映画みようよ」「何がちょうどいいんだ」「もっといい選択なかったのかよ」「どんな映画なんだそれは」その上勝手に寺島の所持している映画を観ることが決定した。別に構わないが誰も一言かけない辺り勝手である。ナマエ以外は同い年であるからこその気安さだろうが。
ラボについて各自寛ぎだした面々をおいて封の開いていない服を収納から取り出す。男物しかなかったのは失念していたが、まあ問題ないだろう。
「ナマエ、奥で着替えておいで」
「いやあ、かたじけないでござるのぅ」
「そういうのいいから」
ノリが悪いと不評を受けた。本当に風邪をひくぞ。ぶーたれながら奥の部屋に入っていく背中に言う。
「あいつ砂糖何個だ?」
「二つでミルクもありだ」
「あいよ」
諏訪と木崎の会話を背中で聞きつつタオルも取り出す。先に渡しておけばよかった。そんなことを思っていると近くでピッ、と機械音がした。軽く振り返ると風間がエアコンのリモコンを操作していた。ブオンと生暖かい風が通っていく。
「ドライヤーはあるか雷蔵」
「さすがにないね」
「そうか……」
「おまえはナマエのおかんか」
諏訪のからかいを含んだ言葉に「いつまで経っても手間がかかる」と真顔の木崎。それに「あいつは何歳児なんだ」と呆れた顔の風間が続いた。
憎まれ口と手元があっていないな。寺島はそう思った。
この中で一番年下とはいえあと少しで成人、しかも女性に文句を言いつつも世話を焼く同級生達。そこまでしなくてもナマエは何だかんだ言ってもしっかりしている方だ。手がかかるのは否定しないが。矛盾しているようだがそういう人間なのだから仕方ない。いつも騒がしいのは事実だ。
「なんかいい匂いする……」
「ほら、おまえの」
「ありがとう諏訪さん。……えっこれ諏訪さんが淹れたの? 大丈夫?」
「どういう意味だこら」
「だっていつも堤さんや笹森に淹れてもらってるから……」
「おまえだってそうだろーが」
「うわぁ……諏訪さんと同レベ……今度淹れてあげよう。すっごく下手だけど。城戸さんが顔しかめるくらいの不味さだけど」
「やめろ!」
「あの鉄仮面を歪ませるとは……」「あいつにはコーヒー器具に触らせないように言っておこう」と誓いを立てるような二人の声がした。木崎に同意しつつナマエの頭にタオルを乗せた。
「風邪をひく」
「……ふふふ」
「? どうしたの」
何故か急に笑い出したナマエ。何が面白いんだ。この子のツボは相変わらず分からない。そう首を傾げているとやけに明るい口調でナマエは言った。
「風邪ひくって雷蔵さんに言われるの今日で三度目だよ」
「……そうだっけ」
「うん」
意識していなかった。
「そいつが簡単に風邪ひくわけねーだろ雷蔵」
「はい残念でした! こないだ風邪ひいたもんね! ねっ風間さん!」
「どや顔で言うことか」
「待て、俺はきいてないぞナマエ」
「…………はい、ちゃっちゃと映画みよう」
「なかったことにするな」
木崎に迫られているナマエを横目に気まずさから軽く頬をかいた。意識していなかったが、自分もあの三人と対して変わらなかったらしい。
「…………」
ナマエはもう子どもではないのに何をやってるんだ四人して。そう思いつつ口角が上がるのが分かった。