番外編
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玉狛支部の一階が何やら騒がしい。ギャーギャー騒いでいるのは小南だろうか。京介もいるから多分またからかわれたんだろうな、とある程度予想を立てつつ部屋から出て一階まで降りる。迅は今日非番だった。大抵トリオン体で過ごしている迅だがさすがに今日は換装を解いている。といっても服装は似たようなものなのだが。
「よーし、山原いっきまーす」
「ちょっちょっと! もうちょっと慎重にやりなさいよ!」
「こういうのは勢いが大事なの」
一階の廊下からリビングに繋がる扉をガチャリと迷いなく開けた迅。そして真っ先に視界に入ったのはナイフを逆手に持ち、頭の上まで振り上げて勢いをつけて降ろそうとしているナマエとソファーの後ろからそれを見守る小南の姿だった。
騒がしいはずだとナマエの手もとをちらりと覗いて食事テーブルで頬杖をついて見ていた烏丸の元に行く。
「昼ご飯何か残ってる?」
「見事にスルーしましたね迅さん」
いやどうせすぐに巻き込まれるから……と諦めの笑みを返す。予想通り「迅ースプーンとってー」と声がかかった。迅がリビングに来て一分も経っていなかった。ため息混じりに返事をして大きめのスプーンを食器棚から2、3本とってナマエに渡す。
「はいどうぞ」
「どうもどうも。陽太郎ー! 頭切ったからおいでー中身くり抜けー」
「もっと言い方考えような」
口元をひきつらせた迅の視線の先には上部を切り取られたかぼちゃがあった。かぼちゃには口や鼻が描かれていた。
「ナマエ! エプロンつけたぞ!」
「よしよし。くり抜きは陽太郎の係りね」
「まかされた!」
「任したぞ。……え、雷神丸もすんの? ……え、ほんとに?」
木崎のカフェエプロンを身にまとって現れた陽太郎。目は爛々と輝いている。かぼちゃはナマエが支え、スプーンを持った陽太郎が中身をくりぬき始めた。スプーンを咥えた雷神丸と「まじでやるの?」と会話をしているナマエに苦笑しながら迅は袖を捲る。
「じゃあおれはこっちのかぼちゃくり抜くから」
残り3つのかぼちゃ。必然的に残った三人の担当となった。小南は髪を結んで陽太郎と似たような眼差しで、烏丸は少しめんどくさそうにかぼちゃを手に取った。
10月31日。今日はハロウィンだ。
****
「このカボチャどこから持ってきたんですか」
「通販で買った」
「ああ、だからナマエさん宛ての荷物が朝から来たんですね」
玄関先にあったダンボールはそれか、と思いつつ中身をほじくる。通販ということは前々からこの計画を目論んでいたことになる。その割に一切告知はされていないが。「前もって言いなさいよ」「サプライズサプライズ」サプライズらしい。物は言い様である。
「中身はどうするの?」
「これジャック・オ・ランタン用のやつだから食べられるのかな? 迅ちょっと食べてみて」
「堂々と毒味進めないでくれる?」
そんなこんなで中身のくり抜きが終わった。こんもり貯まった中身をキッチンに置いて次は目と鼻と口のくり抜きだ。
「陽太郎、ナイフふっ飛ばすかもだからソファーの後ろにいてね」
「まかされた!」
隣の物騒な会話を聞いてナマエから少し距離を開ける3人。トリオン体になっておけば良かったと少し後悔しつつ星型の目を切り抜く。だんだんとそれっぽくなってきた。
「そういえば今年は本部でハロウィンしないのね。いつもあっちで騒いでるのに」
「うん。今日だけ出禁になったから騒げなかった」
「去年何やったのよ!」
小南の突っ込みに「はははー」と笑ってごまかすナマエ。防衛隊員が基地を出禁にされるなんて聞いたことがない。
目や鼻を切り取ったジャック・オ・ランタンは外で日射しのあるところで乾燥させる。乾いたら完成だ。
「陽太郎眠いの?」
「ねむくないぞ」
「嘘付け」
ある程度片づけをして一段落していると、陽太郎が大きな欠伸を漏らした。子どもには重労働だったらしい。
「カボチャのケーキどうする? 今から買いにいくけど」
「おれもいくぞぉ」
「陽太郎さん、それ雷神丸なんですけど」
雷神丸に向かって返事をする陽太郎に渋い顔をしたナマエはうーん、と少し頭を捻った後、そのまま眠そうな陽太郎を抱き上げた。
「仕方ないからこのまま行ってくるね。この間陽太郎と一緒にケーキ選ぶって約束したし、置いてったら後でうるさいし」
「おれが抱っこしようか? 帰り荷物持てないでしょ」
「ケーキくらい大丈夫。小南と烏丸はご飯の方よろしくー」
そう言ってお尻のポケットに財布を突っ込み「行くぞ雷神丸」と声をかけてナマエはリビングを後にした。
「……子どもと犬を散歩に連れて行く日曜日のお父さん?」
「一応女だから止めてあげて京介」
***
「なんか重くなってる……」
迅に頼めば良かったと苦い顔で早々に後悔するナマエ。そんなナマエとは反対に陽太郎は安らかな顔で眠っている。「ケーキ屋ついたら叩き起こすからな」と恨み言をひとつ漏らし、陽太郎を抱きかかえ直しながら先日のやりとりを思い出していた。
『ナマエ! おれハロウィンやりたいぞ!』
『お菓子ほしいの? イタズラしたいの?』
『レイジをもてなすぞ!』
『ハロウィンって何だか知ってる?』
そう聞くとカボチャで色々する日だと返ってきた。間違ってないが何故レイジをもてなすつもりなのか再び聞くと『古株たるもの後輩をもてなすのは当然だ~』みたいなことをもじもじしながら言っていた。
ああ、あれだ、父の日みたいなやつか。何となく察したナマエはおまえはレイジさんの先輩じゃないだろと思いつつ携帯でカボチャの注文を行った。
「わざわざ栞ちゃんにレイジさん拉致ってもらったのに真っ先に眠気にやられおって」
ここまでやっても恐らくレイジにはバレていそうだが。玄関先のダンボールやら陽太郎のウキウキした態度やら栞のにやにや楽しそうな様子などで。今日のことを完全に知らなかったのは小南くらいだ。他は薄々気づいていたと思われる。何かやるぞ、と。ちなみに変に身構えていた烏丸は今回の趣旨を話したら酷く怪訝な顔をした。「らしくないことしますね」という嫌みなど一切ない純粋な感想に言いようのない気持ちになったのは余談である。
「……陽太郎はレイジさん大好きだからなぁ」
なんとなく。なんとなくだが父の日やら敬老の日やらお正月やらで騒いでいた子どものときの自分を思い出して。そしてそんな子どもを見守る側の気持ちがなんとなく分かって。なんとなく、手伝ってあげようとそう思っただけだった。
「……なにこれ、なんか恥ずかしいぞ……」
迅に視られたら最悪だ……とぼやきつつほんのり赤に染まった頬を押さえた。
「よーし、山原いっきまーす」
「ちょっちょっと! もうちょっと慎重にやりなさいよ!」
「こういうのは勢いが大事なの」
一階の廊下からリビングに繋がる扉をガチャリと迷いなく開けた迅。そして真っ先に視界に入ったのはナイフを逆手に持ち、頭の上まで振り上げて勢いをつけて降ろそうとしているナマエとソファーの後ろからそれを見守る小南の姿だった。
騒がしいはずだとナマエの手もとをちらりと覗いて食事テーブルで頬杖をついて見ていた烏丸の元に行く。
「昼ご飯何か残ってる?」
「見事にスルーしましたね迅さん」
いやどうせすぐに巻き込まれるから……と諦めの笑みを返す。予想通り「迅ースプーンとってー」と声がかかった。迅がリビングに来て一分も経っていなかった。ため息混じりに返事をして大きめのスプーンを食器棚から2、3本とってナマエに渡す。
「はいどうぞ」
「どうもどうも。陽太郎ー! 頭切ったからおいでー中身くり抜けー」
「もっと言い方考えような」
口元をひきつらせた迅の視線の先には上部を切り取られたかぼちゃがあった。かぼちゃには口や鼻が描かれていた。
「ナマエ! エプロンつけたぞ!」
「よしよし。くり抜きは陽太郎の係りね」
「まかされた!」
「任したぞ。……え、雷神丸もすんの? ……え、ほんとに?」
木崎のカフェエプロンを身にまとって現れた陽太郎。目は爛々と輝いている。かぼちゃはナマエが支え、スプーンを持った陽太郎が中身をくりぬき始めた。スプーンを咥えた雷神丸と「まじでやるの?」と会話をしているナマエに苦笑しながら迅は袖を捲る。
「じゃあおれはこっちのかぼちゃくり抜くから」
残り3つのかぼちゃ。必然的に残った三人の担当となった。小南は髪を結んで陽太郎と似たような眼差しで、烏丸は少しめんどくさそうにかぼちゃを手に取った。
10月31日。今日はハロウィンだ。
****
「このカボチャどこから持ってきたんですか」
「通販で買った」
「ああ、だからナマエさん宛ての荷物が朝から来たんですね」
玄関先にあったダンボールはそれか、と思いつつ中身をほじくる。通販ということは前々からこの計画を目論んでいたことになる。その割に一切告知はされていないが。「前もって言いなさいよ」「サプライズサプライズ」サプライズらしい。物は言い様である。
「中身はどうするの?」
「これジャック・オ・ランタン用のやつだから食べられるのかな? 迅ちょっと食べてみて」
「堂々と毒味進めないでくれる?」
そんなこんなで中身のくり抜きが終わった。こんもり貯まった中身をキッチンに置いて次は目と鼻と口のくり抜きだ。
「陽太郎、ナイフふっ飛ばすかもだからソファーの後ろにいてね」
「まかされた!」
隣の物騒な会話を聞いてナマエから少し距離を開ける3人。トリオン体になっておけば良かったと少し後悔しつつ星型の目を切り抜く。だんだんとそれっぽくなってきた。
「そういえば今年は本部でハロウィンしないのね。いつもあっちで騒いでるのに」
「うん。今日だけ出禁になったから騒げなかった」
「去年何やったのよ!」
小南の突っ込みに「はははー」と笑ってごまかすナマエ。防衛隊員が基地を出禁にされるなんて聞いたことがない。
目や鼻を切り取ったジャック・オ・ランタンは外で日射しのあるところで乾燥させる。乾いたら完成だ。
「陽太郎眠いの?」
「ねむくないぞ」
「嘘付け」
ある程度片づけをして一段落していると、陽太郎が大きな欠伸を漏らした。子どもには重労働だったらしい。
「カボチャのケーキどうする? 今から買いにいくけど」
「おれもいくぞぉ」
「陽太郎さん、それ雷神丸なんですけど」
雷神丸に向かって返事をする陽太郎に渋い顔をしたナマエはうーん、と少し頭を捻った後、そのまま眠そうな陽太郎を抱き上げた。
「仕方ないからこのまま行ってくるね。この間陽太郎と一緒にケーキ選ぶって約束したし、置いてったら後でうるさいし」
「おれが抱っこしようか? 帰り荷物持てないでしょ」
「ケーキくらい大丈夫。小南と烏丸はご飯の方よろしくー」
そう言ってお尻のポケットに財布を突っ込み「行くぞ雷神丸」と声をかけてナマエはリビングを後にした。
「……子どもと犬を散歩に連れて行く日曜日のお父さん?」
「一応女だから止めてあげて京介」
***
「なんか重くなってる……」
迅に頼めば良かったと苦い顔で早々に後悔するナマエ。そんなナマエとは反対に陽太郎は安らかな顔で眠っている。「ケーキ屋ついたら叩き起こすからな」と恨み言をひとつ漏らし、陽太郎を抱きかかえ直しながら先日のやりとりを思い出していた。
『ナマエ! おれハロウィンやりたいぞ!』
『お菓子ほしいの? イタズラしたいの?』
『レイジをもてなすぞ!』
『ハロウィンって何だか知ってる?』
そう聞くとカボチャで色々する日だと返ってきた。間違ってないが何故レイジをもてなすつもりなのか再び聞くと『古株たるもの後輩をもてなすのは当然だ~』みたいなことをもじもじしながら言っていた。
ああ、あれだ、父の日みたいなやつか。何となく察したナマエはおまえはレイジさんの先輩じゃないだろと思いつつ携帯でカボチャの注文を行った。
「わざわざ栞ちゃんにレイジさん拉致ってもらったのに真っ先に眠気にやられおって」
ここまでやっても恐らくレイジにはバレていそうだが。玄関先のダンボールやら陽太郎のウキウキした態度やら栞のにやにや楽しそうな様子などで。今日のことを完全に知らなかったのは小南くらいだ。他は薄々気づいていたと思われる。何かやるぞ、と。ちなみに変に身構えていた烏丸は今回の趣旨を話したら酷く怪訝な顔をした。「らしくないことしますね」という嫌みなど一切ない純粋な感想に言いようのない気持ちになったのは余談である。
「……陽太郎はレイジさん大好きだからなぁ」
なんとなく。なんとなくだが父の日やら敬老の日やらお正月やらで騒いでいた子どものときの自分を思い出して。そしてそんな子どもを見守る側の気持ちがなんとなく分かって。なんとなく、手伝ってあげようとそう思っただけだった。
「……なにこれ、なんか恥ずかしいぞ……」
迅に視られたら最悪だ……とぼやきつつほんのり赤に染まった頬を押さえた。