番外編
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じゃじゃ馬が過ぎる。これが最近の城戸の悩みだった。
最上の娘であるナマエ。最初は余り言葉を話さなかったが成長していくに連れて余計なものまで覚えて口にするようになった。「ねーねーきどさん。えすえむプレイってなーに?」とりあえず城戸は最上を問い詰めた。余計なことを教えるな、見せるな、聞かせるな。そう言ったが曰わく何でも吸収してしまう年頃で制御できないとの事だった。吸収してはいけないものまで吸収している。日常的に聞く言葉じゃないだろうといつもの三倍の睨みを利かせた城戸。……が、
「いいかナマエ。成田離婚だけはすんなよ。周りに迷惑かかるからな。ちゃんと結婚前に相手を見定めろ」
「分かったりんどーさん! なりたりこんはしない! でもなりたりこんってなに!」
そもそも教育環境が悪かった。男ばかりの周囲、好奇心に溢れた駄目な大人(林藤)、またやってるなぁと大抵のことを流す大人たち。ナマエの教育に関するボーダー間の派閥は「このままじゃろくな大人にならない」「まあすくすく成長してるしこのままでいいんじゃね?」「面白いから色々教えよう」の三つに分かれている。城戸は最初の派閥に属していた。言うまでもなく林藤は最後の派閥だ。
「ナマエは城戸さんと結婚したいんだよなー」
「うん! けんりょくしゃだから!」
「良かったっすねぇ城戸さん」
「何が良かったんだ」
理由が最悪だ。子供でも大人でも関係ない。最悪だ。こんな理由で最上にも睨まれるし散々だった。
「きどさんはどんな女の子がすきなの?」
「…………」
キラキラした目で質問してくるナマエを見て、城戸にある考えが浮かんだ。日頃から泥だらけで帰ってくるナマエ。それは別に構わない。子供なのだから服を汚すのは当たり前だ。だがその理由が「売られたけんかを買っただけ」「おとし穴つくってきた」「……ら、自分でおちた」など物騒かつアホのような理由が含まれてる事が多々だった。生物学上ナマエは女だ。このまま成長したらどうなる。悲劇だ。
「…………女の子らしい子だ」
「女の子らしい? なにそれ」
「おまえとは真逆の子という意味だ」
「!?」
衝撃。まさにそんな顔をしたナマエ。そして「きどさん……わたしきらいなの……」と少し寂しそうな声を出したナマエ。そのことに僅かに良心を痛ませつつ城戸は口を開いた。
「女の子らしい子の方が好きだな」
「…………りんどーさん! 今日からわたし女の子になる!」
城戸の言葉に唇をムッと噛んで林藤へ突っ込んでいったナマエ。「おまえは元々女だぞー」と笑いながら言う林藤の言葉は聞こえていない。そして意味ありげに見てくる視線を城戸は無視した。
***
「おままごと嫌い……何でぎじ家庭を演じなきゃだめなの……」
「擬似家庭と言うのはやめなさい」
夫役をしていた忍田は即座に突っ込んだ。どこで覚えたそんな言葉と目が語っている。だが「はいあなたー今日はノリの佃煮ですよーおめしあがれー」というナマエのやる気なさげな妻の台詞に遮られた。本当に嫌いらしい。それでも料理のチョイスはどうにかならなかったのか。反応に困る。とりあえず喜んでおくか。
「ありがとう、美味しいよ」
「ノリの佃煮だけが夜ご飯って……しのださん、そんな人と結婚したらひさんだよ……?」
「おまえは私にどうしてほしいんだ」
この子供の考えていることが分からない。分かりやすい時との落差が酷すぎる。それとも子供というのはこんなものなのか。一番身近にいる子供がナマエ(ハードモード)である忍田は子供という概念を見失いかけていた。なんだこの生き物。そんな心境だ。
「……つかれた。休む!」
「こら」
正座をしていた忍田の真後ろに周り、背中に張り付くナマエ。後ろから押してくるまだまだ弱い力に口許を緩めつつ「女の子らしい遊びをするのではなかったのか?」と質問する忍田。
「むー……だってつまんない」
「お絵かきはどうだ?」
「そもそもその場にジッとするのがむり」
「それは困ったな」
いつも走り回っているナマエに確かにお絵かきは向いてないな、と自分の出した案に喉を鳴らす忍田。
城戸の目論見は分かっている。お転婆なナマエに少しでも女の子らしくなってほしいのだろう。忍田も似たようなことを思ったことがある。「これペットにするー」と青大将を首に巻いて帰ってきたときだ。悲鳴と混乱が入り混じり、一気にその場は地獄絵図と化した。ヘビも平気なのか……何が怖いんだこの子は……と逃げ惑う隊員たちを見ながら忍田はそう思った。そして青大将を取り上げられて「ぴーちゃん返して!」とめずらしく泣いてただをこねたナマエを説得するのは大変だった。あだ名まで付けていたので大変だった。鳥のようなあだ名だがあれは紛れもなくヘビだった。鳥だったらどんなに良かったことか。
「でもきどさんは女の子らしい子が好きだからがんばる……」
忍田の首に緩く回ってきた小さな手。この手でどうやってヘビを捕まえたのだろうと忍田は疑問に思いつつ、うなじ辺りをグリグリしてくるナマエの頭を撫でた。
やることは予測出来ない。たまにとんでもないことをやらかす。でも本当にやってはいけない事はやらない。そんな子供なのだナマエは。それはナマエの周りにいる大人たちがしっかりと言い聞かせてきた賜物だ。ありがとうもごめんなさいもいただきますもごちそうさまもちゃんと言える子供だ。……確かにお転婆だが、それでいいんじゃないかと忍田は思う。城戸に嫌われたくないと努力するこの子供が忍田は愛おしい。
そしてそのことをあの人物はよく分かっている。
「………」
「……きどさん」
忍田にかかっていた弱い力がスッとなくなり、顔だけ振り返ってみると城戸がナマエの脇に手を入れて抱き上げていた。しかめっ面で。こんなときまで、と思わず林藤のように笑いそうになったが咳をしてごまかした。
「……まだ女の子らしくないからきどさん来ちゃだめだよ」
「もういい」
「………きらいになった?」
胸のあたりの服をぎゅっと握りながら伺うようにして城戸にそう訊ねるナマエ。それに対し眉を一瞬潜めた城戸は片腕でナマエを支えて抱き上げ、もう片方の腕で強張った動作で頭を撫でる。
「意地の悪い言い方をした」
「いじ? わるい?」
「………おまえはそのままでいい」
「!」
「悪かった」
途端に花が咲くような笑顔を浮かべ、城戸に抱きついたナマエと僅かにうなり声を上げて受け止めた城戸に忍田は柔らかな笑みを浮かべた。
最上の娘であるナマエ。最初は余り言葉を話さなかったが成長していくに連れて余計なものまで覚えて口にするようになった。「ねーねーきどさん。えすえむプレイってなーに?」とりあえず城戸は最上を問い詰めた。余計なことを教えるな、見せるな、聞かせるな。そう言ったが曰わく何でも吸収してしまう年頃で制御できないとの事だった。吸収してはいけないものまで吸収している。日常的に聞く言葉じゃないだろうといつもの三倍の睨みを利かせた城戸。……が、
「いいかナマエ。成田離婚だけはすんなよ。周りに迷惑かかるからな。ちゃんと結婚前に相手を見定めろ」
「分かったりんどーさん! なりたりこんはしない! でもなりたりこんってなに!」
そもそも教育環境が悪かった。男ばかりの周囲、好奇心に溢れた駄目な大人(林藤)、またやってるなぁと大抵のことを流す大人たち。ナマエの教育に関するボーダー間の派閥は「このままじゃろくな大人にならない」「まあすくすく成長してるしこのままでいいんじゃね?」「面白いから色々教えよう」の三つに分かれている。城戸は最初の派閥に属していた。言うまでもなく林藤は最後の派閥だ。
「ナマエは城戸さんと結婚したいんだよなー」
「うん! けんりょくしゃだから!」
「良かったっすねぇ城戸さん」
「何が良かったんだ」
理由が最悪だ。子供でも大人でも関係ない。最悪だ。こんな理由で最上にも睨まれるし散々だった。
「きどさんはどんな女の子がすきなの?」
「…………」
キラキラした目で質問してくるナマエを見て、城戸にある考えが浮かんだ。日頃から泥だらけで帰ってくるナマエ。それは別に構わない。子供なのだから服を汚すのは当たり前だ。だがその理由が「売られたけんかを買っただけ」「おとし穴つくってきた」「……ら、自分でおちた」など物騒かつアホのような理由が含まれてる事が多々だった。生物学上ナマエは女だ。このまま成長したらどうなる。悲劇だ。
「…………女の子らしい子だ」
「女の子らしい? なにそれ」
「おまえとは真逆の子という意味だ」
「!?」
衝撃。まさにそんな顔をしたナマエ。そして「きどさん……わたしきらいなの……」と少し寂しそうな声を出したナマエ。そのことに僅かに良心を痛ませつつ城戸は口を開いた。
「女の子らしい子の方が好きだな」
「…………りんどーさん! 今日からわたし女の子になる!」
城戸の言葉に唇をムッと噛んで林藤へ突っ込んでいったナマエ。「おまえは元々女だぞー」と笑いながら言う林藤の言葉は聞こえていない。そして意味ありげに見てくる視線を城戸は無視した。
***
「おままごと嫌い……何でぎじ家庭を演じなきゃだめなの……」
「擬似家庭と言うのはやめなさい」
夫役をしていた忍田は即座に突っ込んだ。どこで覚えたそんな言葉と目が語っている。だが「はいあなたー今日はノリの佃煮ですよーおめしあがれー」というナマエのやる気なさげな妻の台詞に遮られた。本当に嫌いらしい。それでも料理のチョイスはどうにかならなかったのか。反応に困る。とりあえず喜んでおくか。
「ありがとう、美味しいよ」
「ノリの佃煮だけが夜ご飯って……しのださん、そんな人と結婚したらひさんだよ……?」
「おまえは私にどうしてほしいんだ」
この子供の考えていることが分からない。分かりやすい時との落差が酷すぎる。それとも子供というのはこんなものなのか。一番身近にいる子供がナマエ(ハードモード)である忍田は子供という概念を見失いかけていた。なんだこの生き物。そんな心境だ。
「……つかれた。休む!」
「こら」
正座をしていた忍田の真後ろに周り、背中に張り付くナマエ。後ろから押してくるまだまだ弱い力に口許を緩めつつ「女の子らしい遊びをするのではなかったのか?」と質問する忍田。
「むー……だってつまんない」
「お絵かきはどうだ?」
「そもそもその場にジッとするのがむり」
「それは困ったな」
いつも走り回っているナマエに確かにお絵かきは向いてないな、と自分の出した案に喉を鳴らす忍田。
城戸の目論見は分かっている。お転婆なナマエに少しでも女の子らしくなってほしいのだろう。忍田も似たようなことを思ったことがある。「これペットにするー」と青大将を首に巻いて帰ってきたときだ。悲鳴と混乱が入り混じり、一気にその場は地獄絵図と化した。ヘビも平気なのか……何が怖いんだこの子は……と逃げ惑う隊員たちを見ながら忍田はそう思った。そして青大将を取り上げられて「ぴーちゃん返して!」とめずらしく泣いてただをこねたナマエを説得するのは大変だった。あだ名まで付けていたので大変だった。鳥のようなあだ名だがあれは紛れもなくヘビだった。鳥だったらどんなに良かったことか。
「でもきどさんは女の子らしい子が好きだからがんばる……」
忍田の首に緩く回ってきた小さな手。この手でどうやってヘビを捕まえたのだろうと忍田は疑問に思いつつ、うなじ辺りをグリグリしてくるナマエの頭を撫でた。
やることは予測出来ない。たまにとんでもないことをやらかす。でも本当にやってはいけない事はやらない。そんな子供なのだナマエは。それはナマエの周りにいる大人たちがしっかりと言い聞かせてきた賜物だ。ありがとうもごめんなさいもいただきますもごちそうさまもちゃんと言える子供だ。……確かにお転婆だが、それでいいんじゃないかと忍田は思う。城戸に嫌われたくないと努力するこの子供が忍田は愛おしい。
そしてそのことをあの人物はよく分かっている。
「………」
「……きどさん」
忍田にかかっていた弱い力がスッとなくなり、顔だけ振り返ってみると城戸がナマエの脇に手を入れて抱き上げていた。しかめっ面で。こんなときまで、と思わず林藤のように笑いそうになったが咳をしてごまかした。
「……まだ女の子らしくないからきどさん来ちゃだめだよ」
「もういい」
「………きらいになった?」
胸のあたりの服をぎゅっと握りながら伺うようにして城戸にそう訊ねるナマエ。それに対し眉を一瞬潜めた城戸は片腕でナマエを支えて抱き上げ、もう片方の腕で強張った動作で頭を撫でる。
「意地の悪い言い方をした」
「いじ? わるい?」
「………おまえはそのままでいい」
「!」
「悪かった」
途端に花が咲くような笑顔を浮かべ、城戸に抱きついたナマエと僅かにうなり声を上げて受け止めた城戸に忍田は柔らかな笑みを浮かべた。