番外編
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「あ、風間さんとこの有望株だ」
「おー有望株。席ねーならここ空いてるぞー」
「嫌なら別の席で食べろ菊地原。確実に飯が不味くなるぞ」
「…………失礼します」
菊地原は顔を歪めながら風間の前の席に座った。食堂の四人掛けのテーブル。昼時とあって空いている一人席はない。空いているのはこういった四人掛けの席くらいだ。ボーダーに入隊したばかりなのもあって知り合いはほぼいない。まだ顔馴染みのほうがマシだと思うことにした。風間さんだけだったら良かったのに……とうどんを啜りつつ横の人物と斜め前の人物にちらりと視線をやった。
「不老不死のクラゲもいるんだって」
「へー見た目脆そうだけどな」
「陸に上がったら雑魚なのにね」
「海じゃ結構最強だよな。刺されると痛てーし」
「根暗嫌がらせランキング上位には入るよねぇ」
「絶対入るなあ」
この人たち何の話してるの
そう思ったが突っ込んだら負けだと風間の視線が語っていたために口に出すことはなかった。風間の忠告が数分足らずに当たるとは思っていなかった。なにこの頭の悪そうな会話。高校生ってこんなに馬鹿なの、と菊地原は心の中で毒づいた。
馬鹿な高校生もとい太刀川とナマエは色んな意味で有名だ。入隊したばかりの菊地原が名前を知っているくらいに。前者はアタッカーのトップクラスの実力者として、後者は城戸指令の茶菓子を盗んだ、ラウンジで焼き芋パーティーした、警戒区域で打ち上げ花火した……と、兎に角ろくな噂がない。噂で済めば良かったのだが「そんなことあったねぇ。ラウンジで焼き芋はダメだったねさすがに」と懐かしそうに語るものだから手に負えない。そしてその事に太刀川も殆ど加担していたと聞いてからは絶対に関わっちゃいけない部類の人間たちだと菊地原の頭に刻み込まれた。……そう、刻み込まれたのだが、
「有望株そんだけで足りんのか?」
「有望株ー肉食べなよ肉。じゃないと風間さんみたいになるよ」
「三食バランスよく食べて成長しても中身がおまえたちではどうしようもないだろう」
「「確かに」」
そこ納得するの。やっぱりこの人たち馬鹿だ。
味のしないうどんを食べながら毒づく菊地原。そんな菊地原へのナマエと太刀川の認識が『風間さんとこの有望株』あの風間さんが直々にスカウトしたなんてすっげーとのこと。これは太刀川が菊地原にそのまま言った言葉だ。やはり馬鹿っぽい。そんな馬鹿っぽいふたりは菊地原を見かけたら絶対に絡んでくる。迷惑極まりなかった。そして何故かそんな馬鹿二人と一緒にいる確率が高い風間。これがまた厄介で風間がいると太刀川とナマエのことを邪険にしにくいのだ。あのときの風間の言葉は胸に残っている。真っ直ぐな眼差しと共に言われた言葉を。
「……おい、菊地原のやつC級のくせに太刀川さんたちと飯食ってるぜ」
……残っていてもこのように馬鹿な事を影でグチグチ言う奴は減らないのだが。同じ馬鹿なら太刀川とナマエの方が100倍マシだった。
「風間さんも何であんな奴スカウトしたんだろうな。あんな使えねーサイドエフェクトで」
「太刀川さんもよく話にいってるみたいだしよ」
「山原さんは………よくわからねーけど」
「………暇なんじゃね?」
寄っていた眉が自然と元に戻るのが分かった。そして隣で牛丼を頬張るナマエへ視線をやる。
「ん? お肉ほしい?」
「…………………」
悩みなさそうこの人。感想はそれだけだった。……何か気が抜けた。菊地原の陰口を言っていた連中も「この間山原さんと任務だったんだけどバンダーの餌にされかけた……」「……おまえ何したの」「してねーよ! 『なんかムカつく後ろ姿だったからつい。ごめんね』とかめちゃくちゃ理不尽な理由だった!」「あの人本能で生きてるからな……」「本能でオレ殺されかけたの!?」とナマエの話で盛り上がっている。……アホらしい。菊地原は重くため息をついた。
「ため息つくと疲れるよ有望株」
「別に……関係ないでしょ」
「関係あるわ。さっさとB級上がって私を助けてもらわないと」
「………………は?」
唐突なナマエの言葉に菊地原は顔ごとナマエへ向けた。だが当の本人は菊地原の視線を気にすることなく茶を啜っている。
「…………どういう意味ですか」
仕方なくそう尋ねるとナマエは菊地原にちらりと視線を向けて口を開いた。
「だって風間さんの有望株なんでしょ? どーせさっさとA級行くだろうし、弱いB級隊員の私を助けてもらおうかなって」
「……あの使えないサイドエフェクトで本気でそう言ってるんですか」
刺々しい口調になっているのを自覚しつつ菊地原は吐き捨てるようにそう言った。最初に自分のサイドエフェクトを認めてくれた風間の前でこんな事を言うのは僅かに心が痛んだが、言わずにはいられなかった。『使えないサイドエフェクト』これが周りの評価だ。
「は? 仲間助けられるいいサイドエフェクトじゃん」
何言ってんのおまえ、と怪訝そうな顔を隠すことなくナマエはそう言った。菊地原はナマエの言葉に思わず目を見開いたがナマエは気づいていない。そしてそのまま再び口を開いた。
「耳がいいって最強じゃない? 相手が何してくるか音で分かるし。危ないときすぐ分かるじゃん。ねえ太刀川さん」
「ん、そうだな。聞こえるだけでも全然違うし助かる」
「老後の心配もいらないよね。それだけ耳良かったら」
「………山原……」
「えっなんで怒ってるの風間さん……」
静かにナマエに圧力をかける風間に「歳をとってからの聴力の低下は著しいんだよ!? こないだ事務のおじいちゃんに落とし物のボストンバックないか聞いたら事務室の鉛筆削りくれたんだよ!? いらねえ!」と謎の言い訳を始めた。ナマエの話に太刀川は腹を抱えて笑い、風間は「少しは空気を読むことを覚えろ」と目を細めている。そして菊地原はというと、
「……………っ、」
顔を俯かせて自分の髪で顔を隠した。こんな間抜けな顔、見せられるものじゃない。不覚だ。こんな馬鹿な人の言葉にこんなに翻弄されるなんて。顔が熱くて仕方ない。なんなのこのポジティブ馬鹿。そう毒づくがやはり顔色と顔の緩みは戻りそうになかった。
──仲間を助けられるいいサイドエフェクト。風間並みに真っ直ぐで、少し馬鹿っぽい言葉は予想以上に菊地原の心を動かした。
「まーそういうわけだからさっさと正隊員なってね、風間さんの有望株」
「……………は……、です」
「ん? なんて」
「………菊地原です、…………山原さん」
(げ、菊地原)
(その顔アホっぽいですよ山原さん。というかげってなんですか)
(今おまえに来られると困る、)
(ナマエー! てめ、俺の小説に落書きしやがって! ガキかてめーはッ!)
(私じゃないもんねー)
(……山原さん嘘ついてますよ諏訪さん)
(菊地原このやろ! おぼえとけ!)
(俺のセリフだごらぁ! )
(…………うるさいな、いっつもいっつも)
「おー有望株。席ねーならここ空いてるぞー」
「嫌なら別の席で食べろ菊地原。確実に飯が不味くなるぞ」
「…………失礼します」
菊地原は顔を歪めながら風間の前の席に座った。食堂の四人掛けのテーブル。昼時とあって空いている一人席はない。空いているのはこういった四人掛けの席くらいだ。ボーダーに入隊したばかりなのもあって知り合いはほぼいない。まだ顔馴染みのほうがマシだと思うことにした。風間さんだけだったら良かったのに……とうどんを啜りつつ横の人物と斜め前の人物にちらりと視線をやった。
「不老不死のクラゲもいるんだって」
「へー見た目脆そうだけどな」
「陸に上がったら雑魚なのにね」
「海じゃ結構最強だよな。刺されると痛てーし」
「根暗嫌がらせランキング上位には入るよねぇ」
「絶対入るなあ」
この人たち何の話してるの
そう思ったが突っ込んだら負けだと風間の視線が語っていたために口に出すことはなかった。風間の忠告が数分足らずに当たるとは思っていなかった。なにこの頭の悪そうな会話。高校生ってこんなに馬鹿なの、と菊地原は心の中で毒づいた。
馬鹿な高校生もとい太刀川とナマエは色んな意味で有名だ。入隊したばかりの菊地原が名前を知っているくらいに。前者はアタッカーのトップクラスの実力者として、後者は城戸指令の茶菓子を盗んだ、ラウンジで焼き芋パーティーした、警戒区域で打ち上げ花火した……と、兎に角ろくな噂がない。噂で済めば良かったのだが「そんなことあったねぇ。ラウンジで焼き芋はダメだったねさすがに」と懐かしそうに語るものだから手に負えない。そしてその事に太刀川も殆ど加担していたと聞いてからは絶対に関わっちゃいけない部類の人間たちだと菊地原の頭に刻み込まれた。……そう、刻み込まれたのだが、
「有望株そんだけで足りんのか?」
「有望株ー肉食べなよ肉。じゃないと風間さんみたいになるよ」
「三食バランスよく食べて成長しても中身がおまえたちではどうしようもないだろう」
「「確かに」」
そこ納得するの。やっぱりこの人たち馬鹿だ。
味のしないうどんを食べながら毒づく菊地原。そんな菊地原へのナマエと太刀川の認識が『風間さんとこの有望株』あの風間さんが直々にスカウトしたなんてすっげーとのこと。これは太刀川が菊地原にそのまま言った言葉だ。やはり馬鹿っぽい。そんな馬鹿っぽいふたりは菊地原を見かけたら絶対に絡んでくる。迷惑極まりなかった。そして何故かそんな馬鹿二人と一緒にいる確率が高い風間。これがまた厄介で風間がいると太刀川とナマエのことを邪険にしにくいのだ。あのときの風間の言葉は胸に残っている。真っ直ぐな眼差しと共に言われた言葉を。
「……おい、菊地原のやつC級のくせに太刀川さんたちと飯食ってるぜ」
……残っていてもこのように馬鹿な事を影でグチグチ言う奴は減らないのだが。同じ馬鹿なら太刀川とナマエの方が100倍マシだった。
「風間さんも何であんな奴スカウトしたんだろうな。あんな使えねーサイドエフェクトで」
「太刀川さんもよく話にいってるみたいだしよ」
「山原さんは………よくわからねーけど」
「………暇なんじゃね?」
寄っていた眉が自然と元に戻るのが分かった。そして隣で牛丼を頬張るナマエへ視線をやる。
「ん? お肉ほしい?」
「…………………」
悩みなさそうこの人。感想はそれだけだった。……何か気が抜けた。菊地原の陰口を言っていた連中も「この間山原さんと任務だったんだけどバンダーの餌にされかけた……」「……おまえ何したの」「してねーよ! 『なんかムカつく後ろ姿だったからつい。ごめんね』とかめちゃくちゃ理不尽な理由だった!」「あの人本能で生きてるからな……」「本能でオレ殺されかけたの!?」とナマエの話で盛り上がっている。……アホらしい。菊地原は重くため息をついた。
「ため息つくと疲れるよ有望株」
「別に……関係ないでしょ」
「関係あるわ。さっさとB級上がって私を助けてもらわないと」
「………………は?」
唐突なナマエの言葉に菊地原は顔ごとナマエへ向けた。だが当の本人は菊地原の視線を気にすることなく茶を啜っている。
「…………どういう意味ですか」
仕方なくそう尋ねるとナマエは菊地原にちらりと視線を向けて口を開いた。
「だって風間さんの有望株なんでしょ? どーせさっさとA級行くだろうし、弱いB級隊員の私を助けてもらおうかなって」
「……あの使えないサイドエフェクトで本気でそう言ってるんですか」
刺々しい口調になっているのを自覚しつつ菊地原は吐き捨てるようにそう言った。最初に自分のサイドエフェクトを認めてくれた風間の前でこんな事を言うのは僅かに心が痛んだが、言わずにはいられなかった。『使えないサイドエフェクト』これが周りの評価だ。
「は? 仲間助けられるいいサイドエフェクトじゃん」
何言ってんのおまえ、と怪訝そうな顔を隠すことなくナマエはそう言った。菊地原はナマエの言葉に思わず目を見開いたがナマエは気づいていない。そしてそのまま再び口を開いた。
「耳がいいって最強じゃない? 相手が何してくるか音で分かるし。危ないときすぐ分かるじゃん。ねえ太刀川さん」
「ん、そうだな。聞こえるだけでも全然違うし助かる」
「老後の心配もいらないよね。それだけ耳良かったら」
「………山原……」
「えっなんで怒ってるの風間さん……」
静かにナマエに圧力をかける風間に「歳をとってからの聴力の低下は著しいんだよ!? こないだ事務のおじいちゃんに落とし物のボストンバックないか聞いたら事務室の鉛筆削りくれたんだよ!? いらねえ!」と謎の言い訳を始めた。ナマエの話に太刀川は腹を抱えて笑い、風間は「少しは空気を読むことを覚えろ」と目を細めている。そして菊地原はというと、
「……………っ、」
顔を俯かせて自分の髪で顔を隠した。こんな間抜けな顔、見せられるものじゃない。不覚だ。こんな馬鹿な人の言葉にこんなに翻弄されるなんて。顔が熱くて仕方ない。なんなのこのポジティブ馬鹿。そう毒づくがやはり顔色と顔の緩みは戻りそうになかった。
──仲間を助けられるいいサイドエフェクト。風間並みに真っ直ぐで、少し馬鹿っぽい言葉は予想以上に菊地原の心を動かした。
「まーそういうわけだからさっさと正隊員なってね、風間さんの有望株」
「……………は……、です」
「ん? なんて」
「………菊地原です、…………山原さん」
(げ、菊地原)
(その顔アホっぽいですよ山原さん。というかげってなんですか)
(今おまえに来られると困る、)
(ナマエー! てめ、俺の小説に落書きしやがって! ガキかてめーはッ!)
(私じゃないもんねー)
(……山原さん嘘ついてますよ諏訪さん)
(菊地原このやろ! おぼえとけ!)
(俺のセリフだごらぁ! )
(…………うるさいな、いっつもいっつも)