番外編
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文化祭。その響きに心を高揚させながら出水は校内を歩いていた。二日後の公開を控えた校内は活気に満ちあふれている。準備期間が一番楽しいという言葉の通り生徒たちの表情は明るい。出水も他の生徒たちと似たような表情だ。出水はどちらかというとイベント事は好む質だった。そして高校生活はじめての文化祭。ぶっちゃけ楽しみで仕方ない。そんな顔で廊下の角を曲がる。
「失礼しました」
「余計なことすんなよ」
「はははっ」
「笑いだけ返すな嵐山!」
おまえらボーダーはろくな事しないからな! という声にドキッとしながら声のする方へ視線をやる。そこにいたのはボーダーの先輩である嵐山と確か三年生の国語教師だ。国語教師はなぜか苦い顔をしていた。「余計なことすんなよ!」と再び念を押して国語教師はピシャリと扉を閉めた。教室のプレートには国語準備室とかかれていた。
「嵐山さん……?」
「お、出水か。おつかれ」
「お疲れ様です」
嵐山は黒い画用紙と糊を三つ持っていた。出水がそれに視線をやっていると「先生にお借りしたんだ」といういつも通りの朗らかな笑みが返ってきた。ああ文化祭で使うのか、と思いつつ出水は嵐山と同じ方向に歩き始める。出水の目的の場所と嵐山たち三年生の教室は同じ方向だった。
「さっきの先生って」
「俺のクラスの担任だよ。一年生の授業は受け持ってないから出水たちは知らないか」
いや、知ってます。そう心の中で返す。さっきは教室から顔を出していただけだったので直ぐに思い出せなかったが、あの先生……確か権田川先生はナマエの担任でもあったはずだ。しかも三年間。「おまえまたゴン太かよ」「クラス替えに作為的なものを感じる」「苦労人だな……あの人も」「それどういう意味レイジさん」といった風に諏訪たちと話しているのを聞いたことがあったのだ。どんな人か分からないけど可哀想。それが高校入学前に出水が持った感想だった。
「嵐山さんのクラスは何するんですか?」
先ほどの権田川の警戒のしようからとんでもない出し物でもするんじゃないのか、と出水も軽く身構えていたのだが「俺たちのクラスは展示だよ」という言葉が返ってきたためにぱちりと目を瞬かせた。
「て、展示っすか?」
「ああ」
「三年で?」
「うちのクラスは部活生が多いからなぁ。忙しいやつばっかりなんだ」
特に気にしていない口調の嵐山に「そんなもの何すか……」と何となくがっかりした出水。皆が皆、文化祭を楽しみにしているわけではないら しい。当たり前といえば当たり前だが何事も全力! といったイメージがある嵐山が意外と冷めていたのがショックだったのかもしれない。それとも三年生というのはこんなものなのか。そう思いつつ参考にしようと三年生の先輩を思い浮かべる出水。「焼き芋は炭火焼きが一番だよねぇ」ああ、参考にする相手を間違えた。
「展示だけじゃ教室が勿体ないから休憩所の兼任を生徒会に頼まれてなぁ。だから今はみんなで張り切って教室の飾り付けしているよ」
「へぇ……」
飾り付けと言われて頭に浮かぶのは誕生日会などで使われる折り紙の輪っか。……最後の文化祭がこれでいいのか。そうボヤいていたらちょうど嵐山の教室へとたどり着いた。「もうだいぶ仕上がっているぞ。見ていくか?」という嵐山の誘いに気乗りしないまま教室の扉へ手をかける。スライド式の扉を横に動かした。
「山原これで大丈夫か?」
「うーん、もうちょっと傾けた方が雰囲気出るかなぁ」
そしてピシャリと音を立てて勢いよく閉めた。
「どうした出水?」
不思議そうな顔をしている嵐山へ口をパクパクさせる出水。酷い裏切りを受けた。出水はそんな心境だった。
扉の先に広がっていた光景。それはろくろ首や骸骨などが天井から吊されて所々に青白い光が浮かぶ暗幕で覆われた薄暗い教室だった。そしてその中には骸骨を天井から吊らす男子生徒に対して指示を出すナマエの姿。どこからどう見てもお化け屋敷だった。「展示をやるって! 展示やるって!!」そう嵐山に向かって叫んでいると背後の扉がガラリと開いた。
「おかえり嵐山。ゴン太 糊貸してくれた?」
「ああ、貸してくれたぞ」
「どうもどうも。それで出水は何してんの」
「あれのどこが展示だよ! ただのお化け屋敷じゃねーか!」
「机や壁に物を飾るんじゃなくて天井に飾ってるだけだよ。ほらどこからどう見ても展示。博物館でもよく見る光景」
「博物館に謝れ!」
当たり前でしょ? と言わんばかりのナマエにそう突っ込み返す出水。
「ここって休憩所として使われるんだろ……いいのかよ」
「たまにはいんじゃない? スリルで」
こんな“たまに”があってたまるか。そしてこの事を生徒会役員は知っているのか。いや、知らないだろう。知っていたらこんな詐欺まがいの悪行を放っておかないだろう。そしてナマエは今からでも“休憩”の意味について辞書を引くべきだ。
「いっとくけど先に生徒会から「休憩所に使わせてください~」って頼んできたんだからね。私たちは善意で「いいですよ~」って了承しただけだよ」
「そもそも部活生が多いから楽な展示にしたんじゃないのかよ……」
「当日教室にいなくてもいいから楽じゃん」
驚いたことにこのクラスの人間たちは文化祭当日教室を放置する予定らしい。この休憩所と銘打ったただのお化け屋敷を。そしてこのクラスの担任である権田川に同情した。余計なことをするなよという簡単な伝言すら伝わっていない。ナマエと出水の横をするりと通り抜けた嵐山は「黒画用紙もらってきたぞ。権田川先生も忙しそうだったが俺たちは俺たちで頑張ろう」とクラスメイトに声援を送っている。それに「おー」とばらばらに緩い掛け声を返すクラスメイトたち。三年生って皆こんなのばっかりなの? 最後の文化祭がこれでいいの? そう力無く言うとナマエはきっぱりとした口調でこういった。
「文化祭のメインは準備と打ち上げだから」
高校の文化祭に夢を見ていた出水はよりによって自分の師匠にその夢を打ち砕かれた。
「失礼しました」
「余計なことすんなよ」
「はははっ」
「笑いだけ返すな嵐山!」
おまえらボーダーはろくな事しないからな! という声にドキッとしながら声のする方へ視線をやる。そこにいたのはボーダーの先輩である嵐山と確か三年生の国語教師だ。国語教師はなぜか苦い顔をしていた。「余計なことすんなよ!」と再び念を押して国語教師はピシャリと扉を閉めた。教室のプレートには国語準備室とかかれていた。
「嵐山さん……?」
「お、出水か。おつかれ」
「お疲れ様です」
嵐山は黒い画用紙と糊を三つ持っていた。出水がそれに視線をやっていると「先生にお借りしたんだ」といういつも通りの朗らかな笑みが返ってきた。ああ文化祭で使うのか、と思いつつ出水は嵐山と同じ方向に歩き始める。出水の目的の場所と嵐山たち三年生の教室は同じ方向だった。
「さっきの先生って」
「俺のクラスの担任だよ。一年生の授業は受け持ってないから出水たちは知らないか」
いや、知ってます。そう心の中で返す。さっきは教室から顔を出していただけだったので直ぐに思い出せなかったが、あの先生……確か権田川先生はナマエの担任でもあったはずだ。しかも三年間。「おまえまたゴン太かよ」「クラス替えに作為的なものを感じる」「苦労人だな……あの人も」「それどういう意味レイジさん」といった風に諏訪たちと話しているのを聞いたことがあったのだ。どんな人か分からないけど可哀想。それが高校入学前に出水が持った感想だった。
「嵐山さんのクラスは何するんですか?」
先ほどの権田川の警戒のしようからとんでもない出し物でもするんじゃないのか、と出水も軽く身構えていたのだが「俺たちのクラスは展示だよ」という言葉が返ってきたためにぱちりと目を瞬かせた。
「て、展示っすか?」
「ああ」
「三年で?」
「うちのクラスは部活生が多いからなぁ。忙しいやつばっかりなんだ」
特に気にしていない口調の嵐山に「そんなもの何すか……」と何となくがっかりした出水。皆が皆、文化祭を楽しみにしているわけではないら しい。当たり前といえば当たり前だが何事も全力! といったイメージがある嵐山が意外と冷めていたのがショックだったのかもしれない。それとも三年生というのはこんなものなのか。そう思いつつ参考にしようと三年生の先輩を思い浮かべる出水。「焼き芋は炭火焼きが一番だよねぇ」ああ、参考にする相手を間違えた。
「展示だけじゃ教室が勿体ないから休憩所の兼任を生徒会に頼まれてなぁ。だから今はみんなで張り切って教室の飾り付けしているよ」
「へぇ……」
飾り付けと言われて頭に浮かぶのは誕生日会などで使われる折り紙の輪っか。……最後の文化祭がこれでいいのか。そうボヤいていたらちょうど嵐山の教室へとたどり着いた。「もうだいぶ仕上がっているぞ。見ていくか?」という嵐山の誘いに気乗りしないまま教室の扉へ手をかける。スライド式の扉を横に動かした。
「山原これで大丈夫か?」
「うーん、もうちょっと傾けた方が雰囲気出るかなぁ」
そしてピシャリと音を立てて勢いよく閉めた。
「どうした出水?」
不思議そうな顔をしている嵐山へ口をパクパクさせる出水。酷い裏切りを受けた。出水はそんな心境だった。
扉の先に広がっていた光景。それはろくろ首や骸骨などが天井から吊されて所々に青白い光が浮かぶ暗幕で覆われた薄暗い教室だった。そしてその中には骸骨を天井から吊らす男子生徒に対して指示を出すナマエの姿。どこからどう見てもお化け屋敷だった。「展示をやるって! 展示やるって!!」そう嵐山に向かって叫んでいると背後の扉がガラリと開いた。
「おかえり嵐山。ゴン太 糊貸してくれた?」
「ああ、貸してくれたぞ」
「どうもどうも。それで出水は何してんの」
「あれのどこが展示だよ! ただのお化け屋敷じゃねーか!」
「机や壁に物を飾るんじゃなくて天井に飾ってるだけだよ。ほらどこからどう見ても展示。博物館でもよく見る光景」
「博物館に謝れ!」
当たり前でしょ? と言わんばかりのナマエにそう突っ込み返す出水。
「ここって休憩所として使われるんだろ……いいのかよ」
「たまにはいんじゃない? スリルで」
こんな“たまに”があってたまるか。そしてこの事を生徒会役員は知っているのか。いや、知らないだろう。知っていたらこんな詐欺まがいの悪行を放っておかないだろう。そしてナマエは今からでも“休憩”の意味について辞書を引くべきだ。
「いっとくけど先に生徒会から「休憩所に使わせてください~」って頼んできたんだからね。私たちは善意で「いいですよ~」って了承しただけだよ」
「そもそも部活生が多いから楽な展示にしたんじゃないのかよ……」
「当日教室にいなくてもいいから楽じゃん」
驚いたことにこのクラスの人間たちは文化祭当日教室を放置する予定らしい。この休憩所と銘打ったただのお化け屋敷を。そしてこのクラスの担任である権田川に同情した。余計なことをするなよという簡単な伝言すら伝わっていない。ナマエと出水の横をするりと通り抜けた嵐山は「黒画用紙もらってきたぞ。権田川先生も忙しそうだったが俺たちは俺たちで頑張ろう」とクラスメイトに声援を送っている。それに「おー」とばらばらに緩い掛け声を返すクラスメイトたち。三年生って皆こんなのばっかりなの? 最後の文化祭がこれでいいの? そう力無く言うとナマエはきっぱりとした口調でこういった。
「文化祭のメインは準備と打ち上げだから」
高校の文化祭に夢を見ていた出水はよりによって自分の師匠にその夢を打ち砕かれた。