番外編
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二年生に上がって早々に遅刻。城戸さんに知れたら絶対に怒られるな、と思いつつ教室まで全力で走る。『B組。始業式は行きなよ』という迅のメールによって既にクラスは把握している。迅め……見えてたのに起こさなかったな。あとで迅のクラスに突撃しよう。
「じゃ、始業式まで時間あるからクラス委員でも決めるか」
よし間に合った。
こっそり後ろから入って四つん這いで進む。どうせ私の出席番号は一番後ろだ。最初の座席は最後尾って決まっている。途中、一年生のときのクラスメートたちから「おまえ何やってんの」と冷たい視線をもらったがスルー。そして全く知らない今のクラスメートたちからは戸惑いの視線をもらう。一年間よろしく。でも今は見なかったことにしてほしい。
「………あれ?」
席がない。というか後ろの席は全て埋まっている。……もしかして私のクラスここじゃなかったのか。あのエスパータイプ使えねえ。内心舌打ちしていると、突然後頭部に痛みが走った。
「っっ!?」
「始業式早々に遅刻か貴様」
「げ、ゴン太」
「権田川先生だ!!」
青筋を浮かべて真横に立っていた去年の担任。ぎりぎりと握り拳を作っているあたり、ゴン太の拳骨を食らったようだ。この暴力教師め。……え、もしかしてまたゴン太担任?
「……クラス表みてくる。私、きっと、ちがうクラスの子」
「残念ながらこのクラスの子だ。俺もまた一年間もおまえと一緒なんて嫌だよ」
「クラス編成で全力尽くした? 手ぇ抜くなよゴン太」
再び拳骨を食らった。この男はPTAなんか怖くないらしい。痛む頭を押さえながら私の席は? と聞く。ゴン太がくいっと親指で差した場所に視線を向けると、廊下側からひとつ離れた一番前の座席がぽっかりと空いていた。
「なんで一番前!? ヤ行は一番後ろって決まってんのに!」
「去年の悪行の数々の賜物だ。同じ過ちは繰り返さん」
始業式の座席は出席番号順という慣習を壊したゴン太に引きずられて席に座らされた。せめて窓側がいいと言うと「この席だったらおまえが来たらすぐに分かるからな。手間が省ける」という理不尽極まりな言葉が返ってきた。
「あいつ泣かせてやる」
「ははっまた拳骨されるぞ」
「体罰問題で賑わう世の中だと言うのになんでゴン太は野放しにされてるんだ」
「うーん、権田川先生のは愛の鞭だからじゃないか?」
「愛の鞭って言っとけば許される風習なんか滅べばいいと思う」
「ああ、確かにそれを免罪符にするのはいけないかもな」
「だよね。だいたいゴン太のすぐに手がでるのは、」
「おまえらうるせえ!!」
ゴツ、と鈍い音が私と嵐山の頭から鳴る。絶対泣かす。「ナイスだゴン太」と歓声をあげた(たぶん)一年時のクラスのやつらも泣かす。
心なしか熱がこもっている頭を押さえる。ア行で元々一番前、そして私の隣の席になった嵐山も似たような状態で「すみません」と苦笑しながらゴン太に謝っていた。暴力に屈するなよ、というと出席簿を無言でサムズアップしだしたので静かに両手を挙げた。クラス中から笑いが起きるとちょうどチャイムが鳴った。HR終了だ。
「おまえのせいでクラス委員決まらんかっただろうが!!」
「クラスにね、まとまりがあれば委員長なんていらないんだよ」
「最前線で和を乱すやつが何を言う」
徹底的に信頼がないらしい。たった一年の付き合いでこうなるとは。なんだかその期待に応えたくなったので始業式は行かないことにした。うん、どうせ似たような話しかしないよ。
始業式に向かう列から抜けて売店に足を進める。寝坊したせいで朝ご飯抜きになってしまった。同じ話を聞くより朝ご飯のほうが大事だ。もっとタメになる話すればいいのにね。
「あら、始業式はどうしたんだい?」
「私、始業式免除生だから」
「そんなの聞いたことないけどねぇ」
ほどほどにねと笑う売店のおばちゃん。ゴン太よりよっぽど話が分かる。メロンパンと飲むヨーグルトを手に取りおばちゃんに小銭を渡そうとすると、後ろから千円札を持った手がにゅっと出てきた。
「それとクッキーとコーヒーをお願いします」
後ろから現れたのは嵐山だった。左手で小銭を持つ手を押さえられる。顔を向けるとニコニコ笑っていたのでどうやら奢ってくれるらしい。お礼にポケットに入っていた飴を嵐山の学ランに突っ込んだ。
「おお、ありがとう」
「こちらこそありがとー」
教室は施錠されたので空いている教室に行くことにした。優等生どうしたの? と聞くと「任務なんだ。途中で始業式を抜けると迷惑だろう?」と真面目な返答が返ってきてなけなしの良心が痛んだ。
別棟四階にあるPCルーム、トイレを進んで突き当たりの教室。旧生徒会室は今は使われていないため休憩室に使われている。主に私に。ポケットから細い金属の棒を取り出し、錠に突き刺してガチャガチャする。しばらくしてガチャ、と開く音がした。この教室だけ異様に古く、鍵が錠前になっているため開けるのは簡単だった。堂々と入る私に「いいのか……?」と不安そうな顔をする嵐山。ここで全く良心が痛まない辺り、私は嵐山には一生なれないなと思った。
「始業式って何時に終わるの?」
「今日は退任式と表彰式と着任式もあるから昼までだな」
「表彰式……? あれ……なんかゴン太に言われたような……まぁ大丈夫か」
放置されたソファーにだらんと寄っ掛かりながらボヤく。嵐山曰わくうちの学年の先生で余所の学校に行く人はいないらしい。誰かゴン太を引き取ってください。暴力教師だから難しいかなぁ。そう思いつつ買ってもらったメロンパンをかじる。美味しい。クッキーもいるか? と嵐山が袋を向けてきたので遠慮なくもらった。美味しい。
「ははっ、俺の弟と同じ食べ方だぞ」
「うるさい」
というか嵐山の弟って小学生じゃなかったっけ。嵐山を無言で睨むと「おかわりか?」と毒気のない笑顔を向けてきた。……もういいや。ソファーにごろんと横になって天井を見上げる。汚かった。
「何時に学校でるのー?」
「10時半には出ようかな」
「がんばれー」
「ああ、ありがとう。あとスカート見えるぞ」
「ごめんー」
カーディガンを脱いで膝にかけた。ちょうどいい気温のせいか眠気がすごい。ソファーの肘置きに頭を乗せてウトウトしだした私を見た嵐山は学ランを脱いで渡してくれた。
「ありがとうー……」
「出るときに起こすから寝てていいぞ。夜間任務お疲れ様」
「おー……」
嵐山の言葉に甘えて瞼を閉じようとしたときだった。ピンポンパンポーンと放送時の音が軽快に流れる。しかしその次に流れたものは軽快という言葉には程遠かった。
《二年B組 山原ナマエ。五分以内に体育館に来い》
ブチィ! と切られた放送。怒りを抑えようとしてギリギリ抑えられてないゴン太の声。ああ……と力なくソファーに顔を埋める私に嵐山は、ははっといつものように笑った。
「呼び出されたら行かないとなぁ」
「大人しく始業式しとけよゴン太……」
「ここからだったらギリギリだぞ」
「……行ってきます」
「行ってらっしゃい」
がんばってなと朗らかに笑う嵐山。私も任務って言っとけば良かった。
ちなみに始業式中に呼び出した理由は、一年生のときに出した麻薬撲滅運動のコンクール作品(俳句)が優秀賞をとったからだった。三十秒で作った俳句を全校生徒の前で読み上げられるという羞恥プレイ。そして始業式が終わるまで一番後ろで正座。やっぱり帰ればよかった。
(だから始業式は行きなよって言ったんだよ。そしたらダメージ少なくて済んだのに)
(もっとちゃんと伝えろよ! 高二の黒歴史だわあれ)
(いやもっと色々やらかしてるでしょ)
(……嵐山さんと二人だったんすか)
(ちょっとだけね。まーちょくちょくあそこでサボってたけど)
(あの休憩室よかったよなぁ)
(あ、鍵あげよっか? 休憩室の)
(いりません)
「じゃ、始業式まで時間あるからクラス委員でも決めるか」
よし間に合った。
こっそり後ろから入って四つん這いで進む。どうせ私の出席番号は一番後ろだ。最初の座席は最後尾って決まっている。途中、一年生のときのクラスメートたちから「おまえ何やってんの」と冷たい視線をもらったがスルー。そして全く知らない今のクラスメートたちからは戸惑いの視線をもらう。一年間よろしく。でも今は見なかったことにしてほしい。
「………あれ?」
席がない。というか後ろの席は全て埋まっている。……もしかして私のクラスここじゃなかったのか。あのエスパータイプ使えねえ。内心舌打ちしていると、突然後頭部に痛みが走った。
「っっ!?」
「始業式早々に遅刻か貴様」
「げ、ゴン太」
「権田川先生だ!!」
青筋を浮かべて真横に立っていた去年の担任。ぎりぎりと握り拳を作っているあたり、ゴン太の拳骨を食らったようだ。この暴力教師め。……え、もしかしてまたゴン太担任?
「……クラス表みてくる。私、きっと、ちがうクラスの子」
「残念ながらこのクラスの子だ。俺もまた一年間もおまえと一緒なんて嫌だよ」
「クラス編成で全力尽くした? 手ぇ抜くなよゴン太」
再び拳骨を食らった。この男はPTAなんか怖くないらしい。痛む頭を押さえながら私の席は? と聞く。ゴン太がくいっと親指で差した場所に視線を向けると、廊下側からひとつ離れた一番前の座席がぽっかりと空いていた。
「なんで一番前!? ヤ行は一番後ろって決まってんのに!」
「去年の悪行の数々の賜物だ。同じ過ちは繰り返さん」
始業式の座席は出席番号順という慣習を壊したゴン太に引きずられて席に座らされた。せめて窓側がいいと言うと「この席だったらおまえが来たらすぐに分かるからな。手間が省ける」という理不尽極まりな言葉が返ってきた。
「あいつ泣かせてやる」
「ははっまた拳骨されるぞ」
「体罰問題で賑わう世の中だと言うのになんでゴン太は野放しにされてるんだ」
「うーん、権田川先生のは愛の鞭だからじゃないか?」
「愛の鞭って言っとけば許される風習なんか滅べばいいと思う」
「ああ、確かにそれを免罪符にするのはいけないかもな」
「だよね。だいたいゴン太のすぐに手がでるのは、」
「おまえらうるせえ!!」
ゴツ、と鈍い音が私と嵐山の頭から鳴る。絶対泣かす。「ナイスだゴン太」と歓声をあげた(たぶん)一年時のクラスのやつらも泣かす。
心なしか熱がこもっている頭を押さえる。ア行で元々一番前、そして私の隣の席になった嵐山も似たような状態で「すみません」と苦笑しながらゴン太に謝っていた。暴力に屈するなよ、というと出席簿を無言でサムズアップしだしたので静かに両手を挙げた。クラス中から笑いが起きるとちょうどチャイムが鳴った。HR終了だ。
「おまえのせいでクラス委員決まらんかっただろうが!!」
「クラスにね、まとまりがあれば委員長なんていらないんだよ」
「最前線で和を乱すやつが何を言う」
徹底的に信頼がないらしい。たった一年の付き合いでこうなるとは。なんだかその期待に応えたくなったので始業式は行かないことにした。うん、どうせ似たような話しかしないよ。
始業式に向かう列から抜けて売店に足を進める。寝坊したせいで朝ご飯抜きになってしまった。同じ話を聞くより朝ご飯のほうが大事だ。もっとタメになる話すればいいのにね。
「あら、始業式はどうしたんだい?」
「私、始業式免除生だから」
「そんなの聞いたことないけどねぇ」
ほどほどにねと笑う売店のおばちゃん。ゴン太よりよっぽど話が分かる。メロンパンと飲むヨーグルトを手に取りおばちゃんに小銭を渡そうとすると、後ろから千円札を持った手がにゅっと出てきた。
「それとクッキーとコーヒーをお願いします」
後ろから現れたのは嵐山だった。左手で小銭を持つ手を押さえられる。顔を向けるとニコニコ笑っていたのでどうやら奢ってくれるらしい。お礼にポケットに入っていた飴を嵐山の学ランに突っ込んだ。
「おお、ありがとう」
「こちらこそありがとー」
教室は施錠されたので空いている教室に行くことにした。優等生どうしたの? と聞くと「任務なんだ。途中で始業式を抜けると迷惑だろう?」と真面目な返答が返ってきてなけなしの良心が痛んだ。
別棟四階にあるPCルーム、トイレを進んで突き当たりの教室。旧生徒会室は今は使われていないため休憩室に使われている。主に私に。ポケットから細い金属の棒を取り出し、錠に突き刺してガチャガチャする。しばらくしてガチャ、と開く音がした。この教室だけ異様に古く、鍵が錠前になっているため開けるのは簡単だった。堂々と入る私に「いいのか……?」と不安そうな顔をする嵐山。ここで全く良心が痛まない辺り、私は嵐山には一生なれないなと思った。
「始業式って何時に終わるの?」
「今日は退任式と表彰式と着任式もあるから昼までだな」
「表彰式……? あれ……なんかゴン太に言われたような……まぁ大丈夫か」
放置されたソファーにだらんと寄っ掛かりながらボヤく。嵐山曰わくうちの学年の先生で余所の学校に行く人はいないらしい。誰かゴン太を引き取ってください。暴力教師だから難しいかなぁ。そう思いつつ買ってもらったメロンパンをかじる。美味しい。クッキーもいるか? と嵐山が袋を向けてきたので遠慮なくもらった。美味しい。
「ははっ、俺の弟と同じ食べ方だぞ」
「うるさい」
というか嵐山の弟って小学生じゃなかったっけ。嵐山を無言で睨むと「おかわりか?」と毒気のない笑顔を向けてきた。……もういいや。ソファーにごろんと横になって天井を見上げる。汚かった。
「何時に学校でるのー?」
「10時半には出ようかな」
「がんばれー」
「ああ、ありがとう。あとスカート見えるぞ」
「ごめんー」
カーディガンを脱いで膝にかけた。ちょうどいい気温のせいか眠気がすごい。ソファーの肘置きに頭を乗せてウトウトしだした私を見た嵐山は学ランを脱いで渡してくれた。
「ありがとうー……」
「出るときに起こすから寝てていいぞ。夜間任務お疲れ様」
「おー……」
嵐山の言葉に甘えて瞼を閉じようとしたときだった。ピンポンパンポーンと放送時の音が軽快に流れる。しかしその次に流れたものは軽快という言葉には程遠かった。
《二年B組 山原ナマエ。五分以内に体育館に来い》
ブチィ! と切られた放送。怒りを抑えようとしてギリギリ抑えられてないゴン太の声。ああ……と力なくソファーに顔を埋める私に嵐山は、ははっといつものように笑った。
「呼び出されたら行かないとなぁ」
「大人しく始業式しとけよゴン太……」
「ここからだったらギリギリだぞ」
「……行ってきます」
「行ってらっしゃい」
がんばってなと朗らかに笑う嵐山。私も任務って言っとけば良かった。
ちなみに始業式中に呼び出した理由は、一年生のときに出した麻薬撲滅運動のコンクール作品(俳句)が優秀賞をとったからだった。三十秒で作った俳句を全校生徒の前で読み上げられるという羞恥プレイ。そして始業式が終わるまで一番後ろで正座。やっぱり帰ればよかった。
(だから始業式は行きなよって言ったんだよ。そしたらダメージ少なくて済んだのに)
(もっとちゃんと伝えろよ! 高二の黒歴史だわあれ)
(いやもっと色々やらかしてるでしょ)
(……嵐山さんと二人だったんすか)
(ちょっとだけね。まーちょくちょくあそこでサボってたけど)
(あの休憩室よかったよなぁ)
(あ、鍵あげよっか? 休憩室の)
(いりません)