番外編
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※未来の話
烏丸には好きな時間がある。その時間というのはごく稀に、様々な条件をクリアしていないと発生しない。まず第一に両者とも任務が休みであること。数年程前と違って互いに立場も変わってきた。休みが被ることも少ない。これはまあ……仕方ない。第二に烏丸が恋人の家に泊まることに許可が出たとき。この条件が少し厄介で、自分がまだ未成年であるのもあって付き合いの年数と反比例するかのように泊まった回数は少ない。押して押して押し通せば前と違い烏丸の意見は通るようになったが「家族との時間大事にしなよ」と珍しい顔で言われ、やんわり拒否されるのはどうしようもない。そのような顔をさせたくもない。自分の家族も勿論大切だ。でも共に一夜を過ごすのも男として引きたくない。そこで烏丸の家に連れ込み、烏丸の家族に彼女を紹介し、公認の仲とさせることで第二の条件は偶にだが許されるようになった。
そして一番厄介な第三の条件。
「鍋の材料買ってきたぞ~」
「カニ! カニいれてよカニ!」
「誰だ! イチゴ大福買ってきたのは!! 絶対入れねえぞ!!」
彼女の家に来訪者が現れないこと。一番楽な条件のはずなのに、一番頭を痛めてあるのがこれだ。宴会好き、賑やかなものが好きな彼女とその周りにいる一定数の同僚たち。隙あらば騒ぎを起こす彼女に巻き込まれているせいもあるが、どう考えても恋人である自分より一緒にいる時間が多い一定数の同僚たち。本部と支部勤務という違いだけではない何かがある。任務を終えて本部のラウンジでどんちゃん騒ぎをした後に飲み屋を二軒ハシゴ、最終的に彼女の家で闇鍋大会。皆さん仲がいいですね、相変わらず、と分かりやすい嫌みを言っても「京介の分の鍋もあるぞー」「むしろ参加しろ烏丸。まともな材料が少なすぎる」「でも酒は駄目だぜ京介」と結局嫌みも何も通じない。烏丸の気持ちが周囲に伝わっていなかったときと何も変わっていなかった。当時と違って恋人同士だというのにも関わらず。そして当の本人といえば酒を飲み過ぎたせいか部屋の端っこで早々に丸まり就寝。同じく酒に潰れた者が何の意識も意図なく彼女の隣で寝ようとするものだから無言で蹴り飛ばす(先輩含む)ことも少なくない。飲み会がなくとも彼女の家が集会場となっているのだ。ハッキリ言わずとも邪魔だ。いい加減にしろ。
……と言った様々な条件があるわけだが、昨夜は珍しく全ての条件をクリアした。そして共に一夜を過ごしたその早朝八時。穏やかな寝息をたてる恋人の顔をじっと見つめる烏丸。実は朝起きて彼女の顔をこうやって見ることは少ない。もちろん寝ている顔は見たことあるが、“朝”の寝顔というのが中々レアなのだ。前三つの条件が厳しいのが大前提だが、彼女は寝起きがいいために大抵が烏丸より早く起きている。付き合うまで知らなかった一面だった。そしてこれこそが烏丸の好きな時間だった。
「………ナマエさん」
「………………んん、」
向き合って寝る彼女の顔にぺたりと手を置くと嫌そうに眉を寄せ、もぞもぞと唸りながら動いて掛け布団に潜る。そして烏丸の胸元に額を寄せた。聞こえなくなる唸り声。布団をずらすと眉の皺が消えて静かに寝息を立てる恋人の姿があった。首元にかかる髪がくすぐったい。緩みそうになる口元を抑えて、再びちょっかいをかける。頬を指でぷにぷに押す。
「ナマエさん」
「…………う……」
僅かに唸り声を上げて瞼が震える。そしてうっすら目を開き、頭をもぞもぞさせた。烏丸の胸元に頭をやったせいで枕がなくなったのが気になるらしい。自由が効く手を布団から出してもぞもぞと手を動かすが烏丸の肩辺りを布団の上からぽすぽす叩くだけに終わった。諦めたらしい。手を烏丸の身体に置いたままの状態で再び瞼を閉じた。その寝ぼけきった恋人の様子に烏丸は音を立てないように笑った。
この何気ない朝の光景が愛おしくて仕方なかった。普段あまり甘えない恋人が、寝ぼけているときだけ見せるこの姿が好きでたまらないのだ。
「───ナマエ、」
宝物を呼ぶように、想いが零れるように名を呟く烏丸。起こそうとして呼んだのではなかったが彼女の身体に回していた手に無意識に力が入ったらしく、ゆっくりまばたきをしながら烏丸の胸元から顔を上げた。起こしてしまったことに気づいた烏丸は少し身体をずらして目を合わせた。
「ごめん、起こしましたね」
「うん……」
「寝ていいですよ」
大丈夫と言いたいのか顔を僅かに左右に揺らす。目はまだ眠そうに垂らしていたが意識はゆっくりと起きているらしい。身体に回していた手を頭に回し、耳の後ろ辺りまで往復させて撫でながら烏丸は口を開いた。
「今日は俺が朝ご飯作りますね。何がいいですか」
「たまご」
「目玉焼き、ゆで卵、玉子焼き、スクランブルエッグ……どれがいい?」
「ぜんぶ」
「それは面倒くさいから嫌だな」
寝ぼけていても食欲旺盛な彼女に喉を鳴らす。撫でていた手を頬に当てると寝ぼけていた目が柔らかく細められた。自分の目も同じようになっているだろうと自覚しつつ、僅かに離れていた顔を寄せて啄むように唇を重ねた。
烏丸には好きな時間がある。その時間というのはごく稀に、様々な条件をクリアしていないと発生しない。まず第一に両者とも任務が休みであること。数年程前と違って互いに立場も変わってきた。休みが被ることも少ない。これはまあ……仕方ない。第二に烏丸が恋人の家に泊まることに許可が出たとき。この条件が少し厄介で、自分がまだ未成年であるのもあって付き合いの年数と反比例するかのように泊まった回数は少ない。押して押して押し通せば前と違い烏丸の意見は通るようになったが「家族との時間大事にしなよ」と珍しい顔で言われ、やんわり拒否されるのはどうしようもない。そのような顔をさせたくもない。自分の家族も勿論大切だ。でも共に一夜を過ごすのも男として引きたくない。そこで烏丸の家に連れ込み、烏丸の家族に彼女を紹介し、公認の仲とさせることで第二の条件は偶にだが許されるようになった。
そして一番厄介な第三の条件。
「鍋の材料買ってきたぞ~」
「カニ! カニいれてよカニ!」
「誰だ! イチゴ大福買ってきたのは!! 絶対入れねえぞ!!」
彼女の家に来訪者が現れないこと。一番楽な条件のはずなのに、一番頭を痛めてあるのがこれだ。宴会好き、賑やかなものが好きな彼女とその周りにいる一定数の同僚たち。隙あらば騒ぎを起こす彼女に巻き込まれているせいもあるが、どう考えても恋人である自分より一緒にいる時間が多い一定数の同僚たち。本部と支部勤務という違いだけではない何かがある。任務を終えて本部のラウンジでどんちゃん騒ぎをした後に飲み屋を二軒ハシゴ、最終的に彼女の家で闇鍋大会。皆さん仲がいいですね、相変わらず、と分かりやすい嫌みを言っても「京介の分の鍋もあるぞー」「むしろ参加しろ烏丸。まともな材料が少なすぎる」「でも酒は駄目だぜ京介」と結局嫌みも何も通じない。烏丸の気持ちが周囲に伝わっていなかったときと何も変わっていなかった。当時と違って恋人同士だというのにも関わらず。そして当の本人といえば酒を飲み過ぎたせいか部屋の端っこで早々に丸まり就寝。同じく酒に潰れた者が何の意識も意図なく彼女の隣で寝ようとするものだから無言で蹴り飛ばす(先輩含む)ことも少なくない。飲み会がなくとも彼女の家が集会場となっているのだ。ハッキリ言わずとも邪魔だ。いい加減にしろ。
……と言った様々な条件があるわけだが、昨夜は珍しく全ての条件をクリアした。そして共に一夜を過ごしたその早朝八時。穏やかな寝息をたてる恋人の顔をじっと見つめる烏丸。実は朝起きて彼女の顔をこうやって見ることは少ない。もちろん寝ている顔は見たことあるが、“朝”の寝顔というのが中々レアなのだ。前三つの条件が厳しいのが大前提だが、彼女は寝起きがいいために大抵が烏丸より早く起きている。付き合うまで知らなかった一面だった。そしてこれこそが烏丸の好きな時間だった。
「………ナマエさん」
「………………んん、」
向き合って寝る彼女の顔にぺたりと手を置くと嫌そうに眉を寄せ、もぞもぞと唸りながら動いて掛け布団に潜る。そして烏丸の胸元に額を寄せた。聞こえなくなる唸り声。布団をずらすと眉の皺が消えて静かに寝息を立てる恋人の姿があった。首元にかかる髪がくすぐったい。緩みそうになる口元を抑えて、再びちょっかいをかける。頬を指でぷにぷに押す。
「ナマエさん」
「…………う……」
僅かに唸り声を上げて瞼が震える。そしてうっすら目を開き、頭をもぞもぞさせた。烏丸の胸元に頭をやったせいで枕がなくなったのが気になるらしい。自由が効く手を布団から出してもぞもぞと手を動かすが烏丸の肩辺りを布団の上からぽすぽす叩くだけに終わった。諦めたらしい。手を烏丸の身体に置いたままの状態で再び瞼を閉じた。その寝ぼけきった恋人の様子に烏丸は音を立てないように笑った。
この何気ない朝の光景が愛おしくて仕方なかった。普段あまり甘えない恋人が、寝ぼけているときだけ見せるこの姿が好きでたまらないのだ。
「───ナマエ、」
宝物を呼ぶように、想いが零れるように名を呟く烏丸。起こそうとして呼んだのではなかったが彼女の身体に回していた手に無意識に力が入ったらしく、ゆっくりまばたきをしながら烏丸の胸元から顔を上げた。起こしてしまったことに気づいた烏丸は少し身体をずらして目を合わせた。
「ごめん、起こしましたね」
「うん……」
「寝ていいですよ」
大丈夫と言いたいのか顔を僅かに左右に揺らす。目はまだ眠そうに垂らしていたが意識はゆっくりと起きているらしい。身体に回していた手を頭に回し、耳の後ろ辺りまで往復させて撫でながら烏丸は口を開いた。
「今日は俺が朝ご飯作りますね。何がいいですか」
「たまご」
「目玉焼き、ゆで卵、玉子焼き、スクランブルエッグ……どれがいい?」
「ぜんぶ」
「それは面倒くさいから嫌だな」
寝ぼけていても食欲旺盛な彼女に喉を鳴らす。撫でていた手を頬に当てると寝ぼけていた目が柔らかく細められた。自分の目も同じようになっているだろうと自覚しつつ、僅かに離れていた顔を寄せて啄むように唇を重ねた。