本編
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就寝時間となった。審査官シフト終了。つまり烏丸との約束の時間。栞ちゃんの隣に椅子もってきて座っていたから各ブースの様子はよく見える。みんな思い思いに背伸びしたりレトルト食べたりさっさと帰ろうとしたりしている。烏丸はゆりちゃん、レイジさん、小南に挨拶して真っ直ぐこっちにやってきた。顔がほころびそうで唇がむにゃむにゃなる。思わず口元を隠すと「ナマエさんかわいい~」と栞ちゃんから言われた。どこに可愛い要素ありました?
「ナマエさん」
「う、はい」
「行きましょう」
手を差し伸べられる。周囲を見渡してこっちを見てないか確認したあとさっと手をとった。温かい。「ナマエさんとりまるくんお疲れさま~」栞ちゃんいたわ。でも栞ちゃんならセーフ。もう今日のことばれてるし。栞ちゃんにバイバイしてさっさとモニター室から出る。迅速な対応だ。完璧。そう思うのになんか視線感じた気がする。
「ラウンジ行きますか」
「あ、うちでご飯にしない?」
「ナマエさん家ですか?」
「うん。一度帰ったときシチュー作っちゃった」
「一人暮らしでよく作ろうと思いましたね」
「シチューの気分だったの。何日かシチュー生活のつもりだったから」
「じゃあご馳走になります」
そういって嬉しそうに笑う烏丸にまた唇がむにゃむにゃなった。制御が効かない。下唇を少し甘噛みする。ましになった気がする。
「噛んじゃダメですよ」
「!?」
人差し指と親指で唇を挟まれてプニッとされる。なんかこれ恥ずかしい!
「変な顔してても気にしませんから噛んじゃダメです」
「あい」
「まあ可愛い顔してただけですけど」
「げほっ!」
「いい加減慣れてください」
「じゃあ私が烏丸かっこいい連呼しても平気なの?」
「…………」
勝った。
少し誇らしげな気分になりながら基地から出る。3月半ばになっても夜は少し寒い。繋いでる手をぎゅっとしたら同じくらいの力でぎゅっとされた。視線を上げると口角を上げて微笑んでいる烏丸がいて胸があったかくなった。
直通通路の入口まできて烏丸がトリガーをかざしてくれたので中に入る。風がないので外より温かいけど手はそのまんまだった。
「千佳はいい試合の終わり方したからか意外と元気でしたね」
「うん。あとニノさんと東さんのフォローが効いたのかな。……ニノさんのは微妙かな」
「分かりにくいですからね二宮さん」
「ほんとそれ。初めて会ったときなんだこの仏頂面って思ったもん」
「よくそれで懐きましたね」
「しゃべると意外と面白かった。あと天然入ってるし」
今までツッコまなかったけど今シーズンの試合中に雪だるま作ってたからな。潜伏中で暇だからって。モニター越しにそれを見せられる方の気持ちになってほしい。普段クールで通してるんだからちゃんとキャラ設定して。
そんなことを思ってたら繋いでない方の手でほっぺたを軽く引っ張られた。なんで?
「?」
「二宮さんの話するとすーぐニコニコするんですから」
「……ヤキモチだ」
「ヤキモチです」
「すぐに焼きますね烏丸さん」
「ナマエさんも意外と……」
「うん?」
「いえ、まあそこら辺の相性はいいと思いますよ」
「どこら辺の話ですか?」
そんな話をしていたら直通通路の終わりまでやってきた。再びトリガーをかざして外に出る。寒い。
「ナマエさんの家って直通通路のすぐそこですよね」
「うん。近くていいでしょ」
「これ本部で部屋借りるのとあんまり変わらないんじゃないですか?」
「家と仕事場が一緒なのいやだったから」
「前はそうだったじゃないですか」
「旧ボーダー基地は実家だからいいの」
「そうですか……そうですね」
ふっと笑った烏丸につられて笑う。実家は実家なんです。
家について明かりをつける。……人の家の匂いって他人しか分からないけどなんか、こう、大丈夫かな。そわそわしながら手洗いうがいして冷蔵庫に入れてたシチューを出して温める。皿を出そうとしたら烏丸が食器棚から深めのお皿を出してくれていた。……なんかいいなぁ。
その光景に玉狛にいたときを思い出す。一人じゃないって感じられてほっとするみたいだ。
「美味しいチーズもらったからカプレーゼにしていい?」
「手伝いますよ。誰から貰ったんですか?」
「お隣さん。実家が酪農やってるんだって」
「へえ。性別は?」
「男の人」
「……お返しとかしたんすか?」
「いいとこのどら焼きあげた」
「今度お返しするときは一緒に行きます」
「保護者ですか?」
話してるうちにシチューも温まってカプレーゼも完成した。烏丸さんの方が手際が良かったです。
ローテーブルにお皿を並べて真正面に座る。
「いただきます」
「いただきます」
ルウ使ってるから普通に美味しい。シチューとカレーは一から作ろうとは思わない派です。
「陽太郎がもっとちっちゃいときは人参を星形にしたりしてたなぁ」
「そうなんですか?」
「うん。今はけっこうなんでも食べるけど人参嫌いだったんだよ。離乳食のときはモリモリ食べてたくせに」
「それは覚えてないからでしょ」
「味覚ってすぐにかわるもん?」
「さあ?」
そんな会話をしていたときだった。私のスマホが音を奏で始めた。これは電話だな。誰だこんな夜遅くに。烏丸に断りを入れてバッグからスマホを取り出す。ゼミの先輩だった。……なぜ?
「誰ですか?」
「ゼミの先輩。なんで?」
「俺に聞かれても。女の人ですか?」
「いや男」
「……スピーカーにしてください」
「えっ」
「スピーカーにしてください」
「あ、はい」
烏丸からの圧に屈して電話マークを押してスピーカーにする。すると「うえーい!」と賑やかな声がこちらに届いた。
『ナマエちゃん元気ー!?』
「先輩よりは元気じゃないです?」
『あっははははは』
これ酒に酔ってるな。周りから聞こえる雑音が宴会っぽい。てかあっちもスピーカーにしてないかこれ?
『今大学休みだからさぁナマエちゃんに会うことないから電話してみたんだぁ』
「そうなんですか」
そんなに仲良かったっけ? 過去問貸してくれたりしたけど。電話越しから「早くいえって!」「がんばれー!」「ファイトぉ!」と賑やかしの声がする。なんか応援されてるなこの先輩。と考えていたら目の前の烏丸が立ち上がってなぜか私のいるほうに回ってきた。そしてすぐ背後に座り込んでお腹に手が回り、ぴったりと引っ付いてきた。
「か、烏丸さん?」
「ナマエ、まだ電話してるのか?」
「!?」
どっから出したそのイケボ!?
びっくりしすぎて声が出せない。そんな私を後目に烏丸は話を続ける。
「早く飯食べて風呂入ろう? 今日は一緒に入る約束だろ?」
「!??」
「ずっと前から約束してたんだから拒否権はないからな。はは、顔真っ赤で可愛い」
スピーカーに向かってちゅ、とリップ音を出す烏丸。えろいんですけどこの高校一年生。なにしてるのと思いながらも石化したかのように身体が動かない。
「可愛い。俺の唯一。一番。ずっと愛してるから
ナマエ。ずっと一緒に生きていこうな」
ツーツーツー。音がして見てみると電話が切られていた。それはそうだ。女の後輩に電話をかけたらイケボボイス集が始まったのだから。そんなことを思いつつまだ身体が動かない。烏丸にくっつかれたままだ。
「油断も好きもない」
そういって私からスマホを取り上げる。
「この人と接点切れたらどうなりますか?」
「あ、ええと別に困らない、かな? 今年は別のゼミとるし」
「じゃあいいですね」
烏丸は私のスマホを操作してなにかしている。な、なにやってるんですか烏丸さん。と思っていたら先輩の登録情報のところにいってブロックをタップしていた。……ブロック!?
「なんで!?」
「なんででも。まあもう連絡してこないと思いますけど」
「脈絡なさすぎませんか!?」
「ちゃんと繋がってるんで大丈夫です」
そう言ってスマホを私のベッドにポイッと投げた。おい、投げるな。
「はあああ」
「ため息ながい」
「本当に油断も好きもない。A級に知れ渡ったと思ったら大学とか」
「?」
「同い年がよかった」
両手が身体に回って肩口に顔をすりすりされる。再び身体が固まる。今まで一番くっついてる気がする……。
「全部俺のにしたい。笑顔も泣き顔も全部俺が理由になって、俺なしじゃ生きていけなくなればいいのに」
「烏丸……? それは……」
「醜い俺の本音です。びっくりしました?」
「いや……どっちかというとさっきの……」
「さっきの?」
『ナマエ。ずっと一緒に生きていこうな』
じんわりと熱が広がっていくのが分かる。唇を噛み締める。なんでだろう。泣きそうだ。
「ほんとに?」
「はい?」
「ずっと一緒に生きていく、って」
声がかすれる。
「ほんとうに?」
身体を一回転させられて烏丸と向き合う形になった。烏丸は一瞬目を丸くしたけどやんわりとまぶたを緩めた。
「最初に告白したときに言ったでしょ。俺の隣にいてほしい。俺と一緒に生きてほしいって。ナマエさんが俺の手を取ってくれるなら絶対に約束守ります。ずっと一緒です」
「……もういっこ」
「うん?」
「もう一個、約束して」
「なんですか?」
「私より先に死なないで」
「!」
「もう置いてかれるのやだ」
烏丸が涙でにじむ。
あのときの喪失感は二度と忘れられない。もう一度がきたらもう立てない。私の頭を占領するこの人がいなくなったら。ドキドキも不安も安心も。全部渡してくる烏丸がいなくなったら。
私が寝込んだときに泣いた迅の気持ちがやっと分かった。悲しいなんてものじゃない。身が削られるんだ。生きていくのに必要な分を持って行かれるんだ。それでも残されたもので無理やり生きて行かなくちゃいけない。それはきっと生きていても死んでいるに近い。
「……今、俺は16なので」
「?」
「今から健康を意識し始めたら長生きすると思います。長生きします。ナマエさんよりずっと長く。三つ下ですし」
「……女の方が寿命長いよ?」
「それでもです。……でも、絶対はない。ボーダーに所属してる限り。それに不意の事故もあります」
「!」
「だからちゃんと全部ナマエさんに残していきます。ナマエさんがちゃんと立っていられるように、毎日伝えていきます。悲しくなっても生きていけるように。その努力は絶対に怠りません」
「……うん。……うん」
「ナマエさん手、握って?」
震える手をゆっくりゆっくり烏丸の手に近づける。そして触れた瞬間、ぎゅっと握りしめられた。
「やっと俺のところにきてくれた」
「……遅くなりました?」
「いいえ。きてくれてありがとう」
烏丸は顔をほころばせて笑った。今までみたなかで一番綺麗な笑顔だった。
「ナマエさん、俺からも一個だけ」
「なに?」
「俺のことどう思ってるか教えて?」
首を傾げる烏丸の顔は悪戯っ子のようだ。それに笑いながら繋がられた手をにぎりかえした。
「烏丸のことが好きです」
「ナマエさん」
「う、はい」
「行きましょう」
手を差し伸べられる。周囲を見渡してこっちを見てないか確認したあとさっと手をとった。温かい。「ナマエさんとりまるくんお疲れさま~」栞ちゃんいたわ。でも栞ちゃんならセーフ。もう今日のことばれてるし。栞ちゃんにバイバイしてさっさとモニター室から出る。迅速な対応だ。完璧。そう思うのになんか視線感じた気がする。
「ラウンジ行きますか」
「あ、うちでご飯にしない?」
「ナマエさん家ですか?」
「うん。一度帰ったときシチュー作っちゃった」
「一人暮らしでよく作ろうと思いましたね」
「シチューの気分だったの。何日かシチュー生活のつもりだったから」
「じゃあご馳走になります」
そういって嬉しそうに笑う烏丸にまた唇がむにゃむにゃなった。制御が効かない。下唇を少し甘噛みする。ましになった気がする。
「噛んじゃダメですよ」
「!?」
人差し指と親指で唇を挟まれてプニッとされる。なんかこれ恥ずかしい!
「変な顔してても気にしませんから噛んじゃダメです」
「あい」
「まあ可愛い顔してただけですけど」
「げほっ!」
「いい加減慣れてください」
「じゃあ私が烏丸かっこいい連呼しても平気なの?」
「…………」
勝った。
少し誇らしげな気分になりながら基地から出る。3月半ばになっても夜は少し寒い。繋いでる手をぎゅっとしたら同じくらいの力でぎゅっとされた。視線を上げると口角を上げて微笑んでいる烏丸がいて胸があったかくなった。
直通通路の入口まできて烏丸がトリガーをかざしてくれたので中に入る。風がないので外より温かいけど手はそのまんまだった。
「千佳はいい試合の終わり方したからか意外と元気でしたね」
「うん。あとニノさんと東さんのフォローが効いたのかな。……ニノさんのは微妙かな」
「分かりにくいですからね二宮さん」
「ほんとそれ。初めて会ったときなんだこの仏頂面って思ったもん」
「よくそれで懐きましたね」
「しゃべると意外と面白かった。あと天然入ってるし」
今までツッコまなかったけど今シーズンの試合中に雪だるま作ってたからな。潜伏中で暇だからって。モニター越しにそれを見せられる方の気持ちになってほしい。普段クールで通してるんだからちゃんとキャラ設定して。
そんなことを思ってたら繋いでない方の手でほっぺたを軽く引っ張られた。なんで?
「?」
「二宮さんの話するとすーぐニコニコするんですから」
「……ヤキモチだ」
「ヤキモチです」
「すぐに焼きますね烏丸さん」
「ナマエさんも意外と……」
「うん?」
「いえ、まあそこら辺の相性はいいと思いますよ」
「どこら辺の話ですか?」
そんな話をしていたら直通通路の終わりまでやってきた。再びトリガーをかざして外に出る。寒い。
「ナマエさんの家って直通通路のすぐそこですよね」
「うん。近くていいでしょ」
「これ本部で部屋借りるのとあんまり変わらないんじゃないですか?」
「家と仕事場が一緒なのいやだったから」
「前はそうだったじゃないですか」
「旧ボーダー基地は実家だからいいの」
「そうですか……そうですね」
ふっと笑った烏丸につられて笑う。実家は実家なんです。
家について明かりをつける。……人の家の匂いって他人しか分からないけどなんか、こう、大丈夫かな。そわそわしながら手洗いうがいして冷蔵庫に入れてたシチューを出して温める。皿を出そうとしたら烏丸が食器棚から深めのお皿を出してくれていた。……なんかいいなぁ。
その光景に玉狛にいたときを思い出す。一人じゃないって感じられてほっとするみたいだ。
「美味しいチーズもらったからカプレーゼにしていい?」
「手伝いますよ。誰から貰ったんですか?」
「お隣さん。実家が酪農やってるんだって」
「へえ。性別は?」
「男の人」
「……お返しとかしたんすか?」
「いいとこのどら焼きあげた」
「今度お返しするときは一緒に行きます」
「保護者ですか?」
話してるうちにシチューも温まってカプレーゼも完成した。烏丸さんの方が手際が良かったです。
ローテーブルにお皿を並べて真正面に座る。
「いただきます」
「いただきます」
ルウ使ってるから普通に美味しい。シチューとカレーは一から作ろうとは思わない派です。
「陽太郎がもっとちっちゃいときは人参を星形にしたりしてたなぁ」
「そうなんですか?」
「うん。今はけっこうなんでも食べるけど人参嫌いだったんだよ。離乳食のときはモリモリ食べてたくせに」
「それは覚えてないからでしょ」
「味覚ってすぐにかわるもん?」
「さあ?」
そんな会話をしていたときだった。私のスマホが音を奏で始めた。これは電話だな。誰だこんな夜遅くに。烏丸に断りを入れてバッグからスマホを取り出す。ゼミの先輩だった。……なぜ?
「誰ですか?」
「ゼミの先輩。なんで?」
「俺に聞かれても。女の人ですか?」
「いや男」
「……スピーカーにしてください」
「えっ」
「スピーカーにしてください」
「あ、はい」
烏丸からの圧に屈して電話マークを押してスピーカーにする。すると「うえーい!」と賑やかな声がこちらに届いた。
『ナマエちゃん元気ー!?』
「先輩よりは元気じゃないです?」
『あっははははは』
これ酒に酔ってるな。周りから聞こえる雑音が宴会っぽい。てかあっちもスピーカーにしてないかこれ?
『今大学休みだからさぁナマエちゃんに会うことないから電話してみたんだぁ』
「そうなんですか」
そんなに仲良かったっけ? 過去問貸してくれたりしたけど。電話越しから「早くいえって!」「がんばれー!」「ファイトぉ!」と賑やかしの声がする。なんか応援されてるなこの先輩。と考えていたら目の前の烏丸が立ち上がってなぜか私のいるほうに回ってきた。そしてすぐ背後に座り込んでお腹に手が回り、ぴったりと引っ付いてきた。
「か、烏丸さん?」
「ナマエ、まだ電話してるのか?」
「!?」
どっから出したそのイケボ!?
びっくりしすぎて声が出せない。そんな私を後目に烏丸は話を続ける。
「早く飯食べて風呂入ろう? 今日は一緒に入る約束だろ?」
「!??」
「ずっと前から約束してたんだから拒否権はないからな。はは、顔真っ赤で可愛い」
スピーカーに向かってちゅ、とリップ音を出す烏丸。えろいんですけどこの高校一年生。なにしてるのと思いながらも石化したかのように身体が動かない。
「可愛い。俺の唯一。一番。ずっと愛してるから
ナマエ。ずっと一緒に生きていこうな」
ツーツーツー。音がして見てみると電話が切られていた。それはそうだ。女の後輩に電話をかけたらイケボボイス集が始まったのだから。そんなことを思いつつまだ身体が動かない。烏丸にくっつかれたままだ。
「油断も好きもない」
そういって私からスマホを取り上げる。
「この人と接点切れたらどうなりますか?」
「あ、ええと別に困らない、かな? 今年は別のゼミとるし」
「じゃあいいですね」
烏丸は私のスマホを操作してなにかしている。な、なにやってるんですか烏丸さん。と思っていたら先輩の登録情報のところにいってブロックをタップしていた。……ブロック!?
「なんで!?」
「なんででも。まあもう連絡してこないと思いますけど」
「脈絡なさすぎませんか!?」
「ちゃんと繋がってるんで大丈夫です」
そう言ってスマホを私のベッドにポイッと投げた。おい、投げるな。
「はあああ」
「ため息ながい」
「本当に油断も好きもない。A級に知れ渡ったと思ったら大学とか」
「?」
「同い年がよかった」
両手が身体に回って肩口に顔をすりすりされる。再び身体が固まる。今まで一番くっついてる気がする……。
「全部俺のにしたい。笑顔も泣き顔も全部俺が理由になって、俺なしじゃ生きていけなくなればいいのに」
「烏丸……? それは……」
「醜い俺の本音です。びっくりしました?」
「いや……どっちかというとさっきの……」
「さっきの?」
『ナマエ。ずっと一緒に生きていこうな』
じんわりと熱が広がっていくのが分かる。唇を噛み締める。なんでだろう。泣きそうだ。
「ほんとに?」
「はい?」
「ずっと一緒に生きていく、って」
声がかすれる。
「ほんとうに?」
身体を一回転させられて烏丸と向き合う形になった。烏丸は一瞬目を丸くしたけどやんわりとまぶたを緩めた。
「最初に告白したときに言ったでしょ。俺の隣にいてほしい。俺と一緒に生きてほしいって。ナマエさんが俺の手を取ってくれるなら絶対に約束守ります。ずっと一緒です」
「……もういっこ」
「うん?」
「もう一個、約束して」
「なんですか?」
「私より先に死なないで」
「!」
「もう置いてかれるのやだ」
烏丸が涙でにじむ。
あのときの喪失感は二度と忘れられない。もう一度がきたらもう立てない。私の頭を占領するこの人がいなくなったら。ドキドキも不安も安心も。全部渡してくる烏丸がいなくなったら。
私が寝込んだときに泣いた迅の気持ちがやっと分かった。悲しいなんてものじゃない。身が削られるんだ。生きていくのに必要な分を持って行かれるんだ。それでも残されたもので無理やり生きて行かなくちゃいけない。それはきっと生きていても死んでいるに近い。
「……今、俺は16なので」
「?」
「今から健康を意識し始めたら長生きすると思います。長生きします。ナマエさんよりずっと長く。三つ下ですし」
「……女の方が寿命長いよ?」
「それでもです。……でも、絶対はない。ボーダーに所属してる限り。それに不意の事故もあります」
「!」
「だからちゃんと全部ナマエさんに残していきます。ナマエさんがちゃんと立っていられるように、毎日伝えていきます。悲しくなっても生きていけるように。その努力は絶対に怠りません」
「……うん。……うん」
「ナマエさん手、握って?」
震える手をゆっくりゆっくり烏丸の手に近づける。そして触れた瞬間、ぎゅっと握りしめられた。
「やっと俺のところにきてくれた」
「……遅くなりました?」
「いいえ。きてくれてありがとう」
烏丸は顔をほころばせて笑った。今までみたなかで一番綺麗な笑顔だった。
「ナマエさん、俺からも一個だけ」
「なに?」
「俺のことどう思ってるか教えて?」
首を傾げる烏丸の顔は悪戯っ子のようだ。それに笑いながら繋がられた手をにぎりかえした。
「烏丸のことが好きです」